<まま呼息の発見>

管楽器演奏の呼吸に関する考察
質疑応答編

第10回


さて、今日は、ある方からのレポートをご紹介します。埼玉県与野東中学校ジャズバンド部で顧問をしておられる中山先生からのお便りです(一部要約)。

<中山先生からのメール>

私は一応、大学でトランペット(クラッシック)を専攻し、今はご存じのように中学のジャズバンドのディレクターとして管楽器奏者も指導しており、教える立場もあるので、自分なりの理論を整理してきてはいます。ここ数年、私は「如何に自然体で呼吸するか」を考えていますが、ここではそのことについて、私の考えを述べてみたいと思います。

考察を読みながら自分の呼吸法を観察してみると、私はゴードンのチェストアップに近いことを考え、実際に楽器を吹くときにやっているようです。ただし私の場合はチェストアップは常にキープしていますが、腹部は「ふくまま→ふくまま」で、

>>「わき腹を張る」とか「ベルトを押すような感じ」で
>> 息(呼気)を支える

という意識も持っています。管楽器を実際に演奏する場合に、吸気から呼気は一連の動作とならなくてはなりませんが、演奏に使うのは呼気で、吸気はそのための準備であるという違いがあります。

吸気:演奏に必要なエネルギーを体内に蓄えることを目的とする。効率的に、多くの空気を取り入れることが重要である。
呼気:演奏に必要なエネルギーをコントロールすることで、楽器による表現をコントロールする。
スピード、量などの微妙なコントロールを効果的に行なえることが重要である。

(実験1)まず、次のような実験をしてみて下さい。

  1. 普通に立ち、肺にある空気を静かに吐き出します。
  2. すべて吐き出したと感じたら、「あ〜」と声を出しながらさらに吐き出してみます。
  3. 「あ〜」が声にならないくらいになっても絞り出します。(この時、上半身が縮まり、肩、胸、みぞおちのあたりが力んでくるでしょう。さらに絞っていくと、頭も垂れ、顔は苦しい表情に。握り拳を強く握るくらいにまでがんばってみましょう。)
  4. もうこれ以上は何も出ない、となったら、そのまま息を止め、心の中で10数えます。(苦しい。)
  5. 「‥‥8・9・10」はい、リラックスしてください。
    (もちろん、息も吸っていいですよ)

最後にリラックスしたときに、「たくさん息を吸おう」などと思わなくても自然と体に結構たくさんの空気が流れ込んで来ると思います。(その時「チェストアップ」になりませんか?)

(考察1)

実験の3、4のように体を縮め緊張させている状態では、かりにそのまま息を吸っても多くの空気を取り込むことはできません。しかし、5で緊張を解いたときに、空気は体の中に流れ込んできます。リラックスすることで、自然と息は体に流れ込んで来ます。

(実験2)次の二つの姿勢で、深呼吸をし、観察します。

  1. 胸の前で腕をクロスし肩を抱え、頭を下げて、体は折り曲げて小さくします。
  2. ゴードンのいう「チェストアップ」の姿勢。
>>両手を斜め下に垂らし、手のひらを前に向け、両腕と
>>肩を後ろに反らす。

当然のことながら、より多くの空気を取り込めるのは2の場合でしょう。

(考察2)

この時の体の状態の最大の違いは、肋骨の拡がり具合にあります。肋骨は肋間筋と一緒になって蛇腹状になっていて、拡げたり閉じたりすることができます。体内に空気を取り入れると拡がり、出すと縮むのが自然です。

(結論)

上記2つの考察から、次の結論が導かれます。「吸気において、リラックスと肋骨を拡げることは重要である。」

(具体論)

それではリラックスすること、肋骨を拡げることのために、具体的にどのようにしたらよいか、です。

  1. リラックスについて
    1. 強く吸う、たくさん吸う、すばやく吸う等の意識を持たない。
    2. 姿勢(フォーム)を作る。→上半身のリラックスのためには、下半身の安定が不可欠。
  2. 肋骨を拡げるについて
    1. 肩を後ろに少し反らす→肋骨の前の部分が拡がる(ゴードンの言うように手のひらを前に向けることでより効果的になる)
    2. 肘と体の間に拳1つほどの隙間を空ける→腕が肋骨を押さえつけることを防ぐ(ゴードンの表現では「両手を斜め下に垂らし」という部分)

<黒坂のコメント>

中山先生は、音楽の専門教育を受けられていること、経験が豊富であること、現場での指導をしておられることなどから、非常に実践的でわかりやすいメソッドを披露していただきました。さすがに実践家の理論は説得力があります。