■構文図と文
構文図は文を構成する言葉・句・節の文法的なつながりの図である.構文図は文を扱う思考や学習の手段である.
飛行機 |
→ |
→ |
○飛行機は速く飛ぶ. | |
飛ぶ | △速く飛行機は飛ぶ. | |||
速く | ×飛ぶ速く飛行機は. |
この図は「飛ぶ」という語句には「飛行機は」と「速く」のそれぞれがつながることを図示している.
構文図に対して,右側に示した文は一次元の文字列なので次の性質を持つ.
・「飛ぶ」には二つの言葉がつながるので,「飛行機は」を離すしかない.
・「飛行機は」と「速く」は続ける必要がないのに続いてしまう.
・飛行機の性質を表す文として第二の文は最適ではない.△印で表す.
・第三の文は構文を素直に表していない.よくないので×印で表す.
略記法によれば,主語,目的語,補語,述語は水平線で結ぶ.形容詞や副詞などの修飾語は下に書いて斜め線で結ぶ. | |
複文の節は係る語句へ点線で結ぶ. | |
米国の中学校の英語科目では次の左側の図を使うが,ここでは右側の図を使うことにする.
重文の節は先頭同士を点線で結ぶ.
9.1 主語
■主語の選択
文は原則として主語で始める.書こうとする素材から主語を選んで,「〜は」「〜が」などと素直に表現する.「〜には」「〜に関しては」などとぼかさない.
次は数量の限定の文の例である.
これは文の意味は同じで主語が違う.どちらも悪くない文であり,それぞれが長所を持っている.
複数の述語を列挙するときには,その種類を予告する主語を使うことがある.
二番目の文は,三つの述語の種類を予告する語句を増やした.これなら文が少し長くなっても無駄ではない.
■文の選択規則
作文の目標の一つは効果的な文章を書くことである.文を書くときには,短い案から考え始めて,短くてしかも明確な案を採用する.
検討順序 | 短さ | 明確さ | |
↓ | ◎ | △ | 自動車は走り,曲がり,止まる. |
↓ | ○ | ○ | 自動車の機能は,走る,曲がる,止まるである. |
↓ | △ | ○ | 自動車には,走る,曲がる,止まるという機能がある. |
↓ | × | △ | 自動車に関しては,走る,曲がる,止まるという機能がある. |
9.2 目的語
目的語は原則として文の中央部に置く.書こうとする素材の目的語を選んで素直に表現する.
詳しくは主語も目的語も述語へつながる.文には二つの代案がある.
@私は人事制度を説明する
A人事制度を私は説明する
しかし構文図ではこの関係は省略して,前述の箱の最初の文のように一直線で表す.
目的語の部分が長くなる場合は,主語を後にしてもよい.
@私は実力主義の人事制度を説明する.
A実力主義の人事制度を私は説明する.
人事制度の主な話題を必ずしも含まない場合には次のようにする.
「〜について」は柔らかいので乱用しやすい.できれば「〜を」にしよう.
本質的に範囲がはっきりしない場合には次のようにぼかす.
「関連」という言葉は柔らかいので安易に使いやすい.関連は関係よりも間接的なつながりを意味するので,ぼやかしすぎになる.
9.3 述語
文の最後は述語あるいは「補語+述語」である.書こうとする素材の述語を選んで素直に表現する.
「減らす」と「削減する」は同義語であり,「削減する」は「名詞+する」である.原則として「減る」などのもともとの動詞を選ぶ.ただし,「削減」がキーワードや見出しなどになる重要な用語なら「削減する」を選ぶ.
述語の代案はほかにもたくさんある.
これらは本来の述語を目的語にし,本来の目的語を修飾語にしているのでよくない.「図る」は「しようとする」と同じ意味であり,行動を表していない.特に「費用の削減を図った」は,過去における計画の意味なのですっきりしない.
「図る」の例に限らず,確実に実現することは行動の表現にする.
←ハヤチネウスユキソウ |
客観的な事実またはそれに近いことは,伝聞ではなく断言にする.
9.4 形容詞
■主語の形容詞
形容詞・形容句・形容節が主語を修飾してもよい.これらを置く場所にはあまり代案がなく,主語の直前に置く.
■目的語の形容詞
形容詞・形容句・形容節が目的語を修飾してもよい.これらを置く場所にはあまり代案がなく,目的語の直前に置く.
目的語に形容詞がつくと,主語と述語が遠く離れる.
主語は述語から離れても,読者にあまり負担をかけない.もともと主語と述語は離れることが多いからである.
■形容詞と形容詞
主語と目的語のそれぞれを形容詞などが修飾する場合がある.これらを置く場所にはあまり代案がない.それぞれの修飾語は係る語句の直前に置く.
このように修飾語は枝葉である.主要素である主語・目的語・述語の幹に枝葉をつけると考えれば,文を書く過程がすっきりする.
9.5 副詞
■述語の副詞
副詞が述語を修飾してもよい.副詞は述語から離れてもよいので,置く場所には代案が多い.原則として修飾する述語の直前に置く.
○人事制度を急いで変える
△急いで人事制度を変える
著者は副詞の方を重視する恐れがある.特に「急に」や「強く」などの強調のための副詞は重視しがちだ.
○議会は予算案を早急に可決すべきだ.
△議会は早急に予算案を可決すべきだ.
×早急に議会は予算案を可決すべきだ.
この三番目の文は副詞が述語から離れていて,いかにも不自然である.
△早急に,議会は予算案を可決すべきだ.
このように単純な文に読点が必要になるのは要注意である.単純な文なのに読点が必要なのは,構造がまずいことの警告である.
ミネソタ州議会場 |
■副詞と形容詞
主語,目的語,および述語のすべてに修飾語がつくことがある.修飾語はそれぞれが係る語句の直前に置く.
■複数の副詞
主語や目的語や述語に修飾節がつくと,一つの文が二つ以上の副詞を含むことがある.
○大量にあった燃料が急に減った.
△急に,大量にあった燃料が減った.
副詞は述語の直前に置くという原則を守るのが便利である.
9.6 文の合成
■単文
主語と述語で構成される一つの節だけの文を単文と言う.
■重文
複数の対等な文を節として接続した文を重文と言う.重文は複数の節の間の類似性や対称性などを簡潔に伝えるのに役立つ.節と節は点線で結ぶ.
○人事部は人事を担当し,教育部は教育を担当する.
○人事部は人事を担当する.教育部は教育を担当する.
この例では,重文でも単文二つでも,分かりやすさにはあまり差がない.
■複文
従属節を含む文を複文と言う.複文は多様な修飾を簡潔に表現するのに役立つ.
○高山植物は高山帯だけに分布する植物である.
△高山植物は植物の一種である.高山植物は高山帯だけに分布する.
この例では,○印の複文の方が△印の単文二つの書き方より明確である.
■文の複雑さ
文の長さや複雑さの判断基準を次に示す.
構造に関わらず,一つの文が2行を超えるなら要注意である. | |
重文を構成する節が三つ以上なら要注意である. | |
複文に含まれる従属節が二つ以上なら要注意である. | |
従属節を含む重文は要注意である.重文であって複文である場合である. |
これらの条件に合致して,理解しにくいと判断したら文の合成をやめる.
○高山帯に分布する植物である高山植物は,自然淘汰に勝ち残って生まれた.
上の文は従属節を三つを含むので要注意である.しかし,長さが1行以内であり,読んでみると許容範囲である.以下の二つの文と比べても読みにくくはない.
○高山植物は高山帯に分布する植物である.自然淘汰に勝ち残って生れた.
○高山植物は高山帯に分布する植物であり,自然淘汰に勝ち残って生れた.
9.7 主役と相手
■主役と能動態
受動態よりも能動態を選ぶ.能動態の方が簡潔だからである.
○私はウスユキソウの美しさに感動した.
△私はウスユキソウの美しさに感動させられた.
著者よりも調査結果を主役にする.
○漁業共同組合の建物は四つある.
△私は漁業共同組合に四つの建物があるのを見た.
ただし,業務改善運動などの運動報告は著者を主語にすると迫力がある.
○私は生産工程を8段階から4段階に減らした.
△生産工程は8段階から4段階に減った.
重文や複文の各節の主語は同じものに統一すると,読者が楽である.
○西風は米国行きの飛行時間を短くするが,日本行きの飛行時間を長くする.
△西風は米国行きの飛行時間を短くするが,日本行きの飛行時間は西風によって長くなる.
■反対および無意味の「が」
反対を表す「しかし」や「〜だが」を使うよりは,素直に表現する方が読みやすい.
○高山植物は礼文島などの低地にも存在する.
△礼文島は低地だが高山植物が存在する.
意味のない「〜だが」は使ってはならない.
○我が輩は猫である.名前はまだない.
×我が輩は猫であるが,名前はまだない.
■敬語
敬語は論文には使わない.挨拶や謝罪の文に簡潔なものを使う.本論には使わない.敬語は冗長なので過度な敬語は失礼になる.
読者の行動には「下さい」を使う.「いただく」は著者が主役なので読みにくい.
○いつもxx電鉄にご乗車くださいましてありがとうございます.
△いつもxx電鉄にご乗車いただきましてありがとうございます.
著者の行動には「いたす」を使う.「させていただく」は過度な敬語であり,著者の立場の文字数が多いので失礼である.
○新商品を説明いたします. (簡潔)
I would like to explain a new
product.
×新商品を説明させていただきたいと思います. (図々しい)
I think I would like to be allowed to let me explain a new product.
著者がもらうものや無理にお願いすることは「いただく」を使うことがある.
「〜だが」のていねい表現は「〜ですけれども」である.「〜ですけれども」はどんな場合にも使う必要がない.
9.8 文種句の先行させる句作文
話題の範囲を限定する制御語を予告するために,できるだけ文種を表す句を文の前の方に配置する.このように文の中の句の並べ方に注目する執筆行為を、句作文(フレーズライティング)と言う.
例: 高山植物が生存する場所には,礼文島のような低地もある.
礼文島という場所の事例に先行して、場所という一般的分類を先行させている。
例: 高山植物が生まれたわけは,自然淘汰によるものである。
詳細な原因や理由の語句に先行して,原因や理由という分類を表す語句を先行させている.
例: 日本の高山植物の種類数はエーデルワイスだけでも12種もある.
具体的な統計値を表す語句に先行して,数を表す語句を先行させている.
君島浩のISD研究室.2000.11.3.2008.1.20.