9.言葉・文字・評価 

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■言葉の選択の迷い
 この章は言葉という単位の選び方を述べる.
 言葉はたくさんあるので,言葉の選択の指針もたくさんある.作文をしていて,言葉を選択する時に的確に迷うという水準に達するのが第一歩である.迷った時に本書や辞書などの手引を確かめて,実践しながら覚えていけばよい.

10.1 辞書
■辞書の種類
 辞書は言葉を並べて,それぞれの読み方や意味を定義する文書である.似た言葉には辞典,字書,字典,事典,用語集がある.
 辞書も文書の一種なので,読者がいるし著者もいる.
■辞書の構成
 辞書のそれぞれの言葉の説明は一般の文章の文段に相当する.数行の文段の中に次のような項目が詰まっている.

  見出し語,語構成,アクセント,読み,文法的性質,

  語義,解説,用例,熟語,関連語,図

 どうたく[銅鐸]弥生時代の青銅器。偏平な釣り鐘形で、祭器または楽器といわれる。近畿地方を中心に西日本に出土。高さ約20〜140cm。(集英社国語辞典,1993)

 語義は定義の話題文で始まり,いくつかの補足文が続く.体言止めにすることがある.

 

 文章を書く実務の参照本を作文手引などと呼ぶ.多くの辞書は作文手引としても使うことができる.以下に,ある辞書の付録の項目の一部を示す.
  アクセントと発音,常用漢字表,学年別漢字配当表,現代仮名遣い,送り仮名
  外来語の表記,助数詞一覧,度量衡換算表,ABC略語集,漢字表,活用表
10.2 助詞と接続詞
 助詞や接続詞はいろいろある.文を簡潔にする助詞や接続詞を選ぶ.
主体の助詞「は」と「が」
 主語は素直に選ぶ.

○ 「AはBである」「AがBする」という文は簡潔である.

× 「Aについて」などと修飾句にすると文は複雑になる.

反対の「が」と無意味な「が」
 逆のことを述べる節に接続する「〜が,〜」は,あいまいな「〜が,〜」と区別が付きにくい.

△ 反対の「〜が」も「〜である.しかし〜」や「〜である.〜」を併用して,使う頻度を減らそう.

× 無意味な「〜が」は絶対に使わないようにする. 例:吾輩は猫であるが,名前はまだない.

■目的の助詞「を」
 目的語は素直に選ぶ.

○ 「AはBをCする」という文は簡潔である.

× 「Bについて」などと修飾句にすると文は複雑になる.

× 述語になるものを目的語にする「を」は避ける. 例: ×制度の変更を行う. ○制度を変える.

■所有の助詞「の」

○ 「AのB」と書くと簡潔である.

× 「Aに属するB」などと複文にすると複雑になる.

× 「AのBのCのD」と「の」を3回以上繰り返すのは避ける.

■動作の方向の助詞「へ」

○ ある方向への動作を示す助詞「へ」は「A市へ行く」「Bへエサをやる」などの文に使う.

■多用途の助詞「に」
 助詞「に」は非常に多くのことに使える.対象,行為の主体,場所,手段などである.ほかの助詞では適切でない残りの場合にだけ使おう.言葉選びに無関心な人は,多用途の言葉である「に」を使いがちである.

× 助詞「に」も「A市に行く」「Bにエサをやる」などと同じ意味に使える.

  しかし「に」は用途が多いので,方向には「へ」を使う.

■多用途の助詞「で」
 助詞「で」もいろいろな用途があるので制限して使うべきだ.これは場所,時点,原因,手段などを意味する.「体育館で遊ぶ」「ナイフで切る」のように先行する言葉で助詞「で」の意味が予測できるなら使ってよい.そうでないなら「〜において」「〜によって」など意味を区別しやすい言葉を使う.

× ハンバーグステーキよろしいですか. (日本の三流の食堂)
△ ハンバーグステーキですね. (日本の二流の食堂)
○ ハンバーグステーキ. (外国の一流〜三流の食堂)

■役立ちの句「ため」

○ 良い目的とそれを達成する手段を結ぶときは,「〜のために〜する」と書く.「ため」には「ためになる」のように役に立つ意味がある.

■原因の助詞「ので」
 原因と結果を結ぶときは,「〜ので〜である」と書く.「ので」は悪い原因にも使う.「ため」を使えるときには識別しやすいように「ので」は避ける.

○ 教育を改善するために教員育成センターを作る.
× 教育を改善するので教育育成センターを作る.
○ 教育が下手だったので生徒の成績が悪かった.
× 教育が下手だったために生徒の成績が悪かった.

 プロ野球スポーツ選手が取材に答える時などに変な「〜んで」が流行している.

○ 野球教室は今後も喜んで引き受けます.教えることは自分の勉強にもなります.
× 教えることは自分の勉強にもなるんで,野球教室は今後も喜んで引き受けたいと思います.

 会話の時にも結論・総論の話題文でいったん区切るべきだ.野球教室を引き受けたい第一の理由は子供たちを上手にしたいことである.自分の勉強になることは第二の理由だから補足文にするのが妥当だ.流行によって考えもなしに「〜んで」で始めてしまうのだろう.そもそも「んで」はちゃんとした日本語ではない.正式の表現は「ので」である.

○ 痛いのによくがんばった.感動した.
△ 感動した.痛いのによくがんばった.
× 痛いのによくがんばったんで感動した.

 一番目の文は大相撲の表彰式の時の小泉首相の発言である.この話題の主役は小泉首相ではなくて,貴乃花であり,先頭の話題文にするのがふさわしい.二番目は重み付けがよくない.三番目の複文では主役の貴乃花が修飾節に格下げになってしまう.「んで」が首相や表彰式にふさわしくない表現であることも実感できるだろう.小泉首相以外の政治家の発言がなぜ魅力がないのかは,話題の重み付け,文段構成,文法の観点で説明できる.

■不思議な「から」

 日本の商店で支払いに大きな金額の札を出すと,不思議な「から」を話す店員がいる.

× 一万円からお預かりします. (日本の三流の店.「一万円から代金を頂戴して〜」の影響か)
△ 一万円,お預かりします. (日本の二流の店)
○ (百ドルを無言で客と自分との間に置いて証拠にする) (外国の一流〜三流の店)

10.3 言葉と量の識別

 似たような言葉を正確に区別することを識別という.デスク(机)とディスク(円盤)を混同するのは,識別の間違いの例である.
 必要もないのに区別し過ぎてもいけない.富山県の山田村役場がすべての家庭へ一台ずつコンピュータを配った.放送局の記者が「一家に一台パソコンが入ったそうですね」と質問したら,主婦が「ああコンピュータね」と答えた.主婦はメインフレームコンピュータなど知る必要がないし,一家に一台だからファミリーコンピュータであり,農林業の家庭にとっては仕事にも使うエンタープライズコンピュータである.

 

 略称には種類名を使う.コンピュータのディスクには,固い円盤のハードディスクと柔らかい円盤のフロッピーディスクがある.これらを説明する章では,最初以外はディスクと略称を使える.略称を「フロッピー」にしてはいけない.

 専門用語は意味を確かめて使う.ワールドワイドウエブを構成する電子文書の一単位をウエブページと言う.起点と終点のページをホームページと言う.
 ウエブページのことをホームページと総称するのは,野球の四つのベースをホームベースと総称するのと同じで,言葉の識別の間違いである.

 ツインドーム球場(ミネソタ州ミネアポリス市)

 外来語は安易に使わない.セキュリティという外来語は,安定性という和語と同義なので和語を使うべきである.セキュリティという外来語を使う人は,しばしば機密という狭義の言葉として誤解している.
 聞こえのよい言葉に頼らない.例えば,電子メールの送受信の手引は,著作権法,作文技法,送受信手順から,人生の指針である倫理まで含む.マナーは倫理のごく一部であって,挨拶文の書き方などの礼儀である.メールの手引のことをメールのマナーと総称するのは識別の間違いである.マナーのことしか頭に浮かばないのは減点主義の現れである.

 

■流行している誤用の例

× 犠牲者.(犠牲者は何かの代償になった人.無為に死んだなら死者と表現する方が無念さが伝わる)
× 避難民の疲労はピークに達しています.(スポーツのキャンプと違って疲労が下り坂になるはずがない)
× 電撃婚約,極秘婚約.(婚約は予告できないのが当然だし,公表しないことも多い)
× 漂流者を見ることはできません.(漂流者はいないは言い過ぎだが,漂流者は見えません,でよい)

■冗長なので多用すべきでない表現

× 〜と言っても過言ではない.
× 〜なのも事実である.
× 〜と言ってよいだろう.

■量の識別
 量は明確に表す.

一つの 「目には目を」は「一つの目には一つの目を」が正確.
一つ以上の 一つでもよいし,二つ以上でもよい.
いくつかの 二つ以上.文脈で明確な場合には,一つを含んでもよい.
〜以上 その値を含む
〜以下 その値を含む.なお99以下と100未満とは代案である.
〜未満 その値を含まない.

10.4 漢字の言葉
 常用漢字は漢字全体の部分集合であり,よく使う平易な漢字群である.
 以下につい使いがちな常用漢字でない言葉の例を五十音順に挙げる.それぞれの言葉の括弧内の表記を使うことを推奨する.

挨拶(あいさつ) 曖昧(あいまい) 敢えて(あえて) 宛て先(あて先) 如何に(いかに)
於いて(おいて) 頑張る(がんばる) 充分(十分) 進捗(進度) 宛(ずつ)
但し(ただし) 誰(だれ) 狙い(ねらい) 筈(はず) 必須(必要)
殆ど(ほとんど) 迄(まで) 見做す(見なす) 勿論(もちろん) 貰う(もらう)

 漢字は中国に由来する日本の表意文字である.常用漢字は一般の社会活動に用いる漢字集合の標準である.必要性が高いと思うなら常用漢字でない漢字を使ってもよい.
■言葉の重複
 漢字言葉には意味深いものが多い.言葉の重複間違いの例を示す.

挙式を挙げる 犯罪を犯す 従来から VTRテープ

 

和泉元彌と羽野晶紀が築地本願寺で挙式と披露宴を行った。挙式は仏式で執り行われた。挙式には約60人が出席した。[挙式:結婚式などを執り行うこと]

 以下の標準は手引書や辞書で確かめよう.

10.5 仮名遣い
 仮名で書くべき代表的な言葉を挙げる.望ましい仮名表記を括弧内に示す.

予め(あらかじめ) 何れも(いずれも) 何時も(いつも) 各々(→それぞれ)
関わる(かかわる) 毎に(ごとに) 様々(→いろいろ) 宛(ずつ)
即ち(すなわち) 全て(すべて) 為(ため) 詰まり(つまり)
出来る(できる) 何処(どこ) 乃至(→又は) 尚(なお)
何故(なぜ) 等(とう→など) 難い(にくい) 他(ほか)
程(ほど) 先ず(まず) 易い(やすい) 止める(やめる)

 仮名遣いにはいくつかの話題がある.

発音と違う文字.「〜わ」という発音を「〜は」と表記するなど.

同音異字の使い分け.「ず」と「づ」など.

常用漢字の制限された読みの仮名表記.「まったく」など.

送り仮名.「行う」か「行なう」かなど.

■送り仮名
 仮名遣いの話題の一つが動詞や形容詞などの送り仮名である.迷いやすい言葉の例を以下に示す.別の送り方が許されている言葉もあるが,同じ文書や組織の中では標準を決めて統一する.

明るい 新しい 当たる 表す 現す 表れる 現れる 著しい
動かす 行う 起きる 落ちる 変える 必ず 代わり 答える
異なる 細かい 少ない 小さい 問い 並びに 向かう 分かる

 複合語の送り仮名はそれぞれの要素の送り仮名の約束に従う.以下に複合語の例を示す.先頭の表記が標準である.2番目や3番目の表記を使ってもよい.
    打ち合わせ,打合せ
    並べ替え           「並び替え」とは書かない
    申し込み,申込み,申込
10.6 文脈による仮名使用
 前後関係によって漢字と仮名を使い分ける言葉の例を挙げる.一般に漢字は具体的な表現や強調の表現に使い,仮名は概念的な表現や軽い表現に使う.

水源が有る 70Kgもある
「〜」と言う 「〜」という物
影響が及ぶ 〜および〜
事にあたる 〜すること
更に検討する 〜.さらに,〜である
命令に従う したがって,〜
学校の前の通り 以下のとおり
始める時  賛成のとき
置く所 今のところ
〜君と共に 〜するとともに
水源が無い 70Kgはない
〜又は〜 〜.または,〜
物を見る 〜してみる
〜を基に,〜を元に 〜をもとに 
重い物 会いたいものだ
成績が良い.良い商品. 〜してよい
×〜の様に 〜のように
分かる わかる

10.7 同音の類似語
 同音の言葉は,語源が同じで意味も似ていることも多い.ワードプロセッサで仮名漢字変換をする時には,以下のような場合に「迷う」習慣を付けよう.

顧客と会う 条件が合う  
幕を上げる 例を挙げる  
感情を表す 正体を現す  
同音異義 異議申立て  
物品の移動 人事の異動  
以前つきあった 依然として  
質問の回答 試験の解答  
規則の改定 教材の改訂  
作戦を変える 選手を代える 部品を替える
小数点以下 少数の人間  
知人の紹介 口座の照会  
人口密度 人工知能  
子供対象 比較対照 左右対称
適正賃金 適性試験  
いとこ同士 政党の同志  
商品の特長 商品の特徴  
機械に内蔵 動物の内臓  
乗客を乗せる 記事を載せる  
試合は初めて 試合を始めて  
早い電車 速い電車  

10.8 外来語
 外来語は外国の言葉を発音どおりに片仮名で表記したものである.
 内閣告示第2号「外来語の表記」の第1表にある片仮名表記は使ってよい.

向上する ×アップする(動詞ではない)
インタフェース(日本工業規格) インターフェース
キヤノン ×キャノン
コミュニケーション ×コミニュケーション
シミュレーション ×シュミレーション
ティーバッグ ティーバック
東京ビッグサイト ×東京ビックサイト
ビックカメラ ×ビッグカメラ
富士写真フイルム ×富士写真フィルム
ツインベッド ×ツインベット

 内閣告示第2号「外来語の表記」の第2表にある片仮名表記は使ってもよい.しかし,必要がなければそれに近い第1表の表現を使う.

第1表 第2表など  
ウインドウ ウィンドウ

ウイルス ヴィールス
ウエブページ ウェブページ
ウオーク ウォーク
クオーツ クォーツ
ソフトウエア ソフトウェア
ファジー ×ファジィ
フロッピー ×フロッピィ

10.9 言語の選択
 外国語は使わないが,英字略語は使ってもよい.これらは英単語ではなく英字の並びであり,ローマ字を修得していれば読める.英語と英字との違いである.

A4判など AI AV CATV CD DB
DM ×etc. FD JIS ×noとyes ×offとon
OS PC ×PS QM QA TOEIC
×〜VS〜 VTR ×Web WP    

■固有名詞

 種類名を書くべきなのに固有名詞を書いてはいけない.

固有名詞 種類名
ゼロックス 複写機
ファックス ファクシミリ
ポストイットカード 付せん紙
マジックインキ フェルトペン

■俗語
 くだけた言葉や専門家同士だけが使う言葉を一般の文書に使ってはいけない.

意外に ○ 意外と ×
〜などがある ○ 〜とかがある ×
欠陥 ○ バグ ×
割合に ○ 割と ×

■差別表現
 性別,人種,国籍,年齢,傷病,学習速度の遅さなど,本人の意思で変えようがないことを差別する表現を使うのは犯罪である.

×おばさん社員 社員
×男の生きがい 生きがい
×啓蒙 啓発
×秘書の女の子 秘書,社員など
×サラリーマン 会社員,職員
×掃除のおじさん 清掃員
×ヤンキー 米国人
×スチュワーデス 客室乗務員
×特殊児童 学習の遅い児童
×バカチョン〜 簡易〜
×ビジネスマン 会社員など
×ブラインドタッチ タッチタイピング
×OL,BG 会社員など

 例や図解に用いる人物は,性別,人種,国籍,年齢などが偏ってはいけない.

■病気表現
 病気でないことを病気と表現してはいけない.自分の意思に関わらずに病気にかかった人が不快に思うからだ.また,勉強して成績を上げた人も不快に感じるからである.

×音痴 音感不良
×コンピュータアレルギー コンピュータ恐怖
×高所恐怖症 高所恐怖
×対人恐怖症 対人恐怖

 

第11章 文字

 文字は文章の最小単位である.基本的な文字は平仮名文字,片仮名文字,漢字,数字,英字である.そのほかに使ってもよい特殊記号とその呼称を挙げる.特殊記号を多彩に使うことは避ける.

まる コロン 「 」  鍵括弧
てん 連続符号 ( ) 丸括弧 
ピリオド ・・・ 3点リーダ +−×÷ 四則演算子
コンマ  下線 米印
・と● 中点・黒丸 斜線 繰返し符号

11.1 読点
 読点は必要に応じて,節や句を区切る.また,表題や見出しは読点で区切ってはならない.「と」や「および」を使う.
 読点には日本式と英字式があり,一つの文章ではどちらか一方を使う.

  読点 読み
日本式 てん
英字式 コンマ

■重文の接続詞の前
 重文の節同士を接続詞でつなぐときは,次の節が始まることを明らかにするために読点で区切る.節をつなぐ接続詞や接続句には「そして」「しかし」「または」「一方」「それに対して」などがある.一方,接続詞なしでつなぐ節同士は読点で区切らない.また,重文全体が短い場合も読点は省略してよい.
 例: 電車には線路が必要だし踏み切りも必要である.
    電車には線路が必要であり,そして踏み切りも必要である.
■複文の前置きの節の後
 複文の主たる節の前に従属節があるときは,主たる節の始まりを明らかにするために読点で区切る.従属節が途中にある場合は読点は不要である.
 例: 狭い日本は地上が過密なので,旅客機は米国などとは違う利点がある.
    日本の旅客機は狭い地上が過密なので米国などとは違う利点がある.
■係り先があいまいな修飾語
 読点を入れないと修飾語の係り先があいまいなときは,読点で区切るのではなく修飾語の位置を係り先の直前へ移す.
 例: ×思ったより,注意深い人が製品を速く作った.
    ○注意深い人が製品を思ったより速く作った.
■三つ以上の語句の区切り
 三つ以上の語・句・節が続くときは,「および」「または」を一つで済ませるために読点で区切る.この場合,最後の語句の前にも読点を入れて,「および」「または」と重複させる.
 例: 自動車の機能は走る,曲がる,および止まるである.
    ホテルのベッドは,シングル,ダブル,またはツインである.
■連続する漢字・仮名の区切り
 漢字の言葉同士や仮名の言葉同士が続いて区切りが不明なときは読点で区切る.例えば,別の言葉に取られる場合や同じ仮名文字が続く場合である.
 例: 私は仕事で疲れたので,できるだけ栄養のあるものを食べる.
    人事異動は従来,年度始めの時にだけ実施してきた.
11.2 句点・ピリオド
■句点
 句点は文の終わりを示す.句点には日本式と英字式があり,一つの文章ではどちらか一方を使う.英字式は外国語の文を含む文章に向く.

  句点 読み
日本式 。  まる
英字式 ピリオド

 区切り記号は二つ連続させないという原則により,鍵括弧の最後には句点を書かない.また,箇条書きや表の体言止めの文は句点を書かなくてもよい.
 例: 「こんにちは」
■章節番号の区切り
 見出しの章番号と節番号はピリオドで区切る.
 例: 3.4 粗筋の標準
 章番号の後はピリオドで区切るか,または空白で区切る.
 例: 3.設計
     3 設計
 一方,括弧付き項番や丸付き項番の後にはピリオドは付けない.区切り記号は連続させないという原則があるからだ.
 例: (1)作文と倫理  ○
     (1).作文と倫理 ×
■小数点
 数値の小数点はピリオドで表す.
 例: 3.14159
■年月日の区切り
 年月日の表記法の一つが,年数と月数と日数の間をピリオドで区切る方法である.
 例: 2001.4.1  西暦2001年4月1日を表す
■外国語の略記の最後
 外国語の言葉が略記であることは,最後にピリオドを付けて表す.日本語の文章でも参考文献一覧には外国語で文献情報を書くことがある.文献情報に使う略記は次のとおりである.なお,外来語や固有名詞の略記であるATMやNHKなどにはピリオドは使わない.
 例: D.Hacker      人名のファースト名やミドル名の略記

          W.Strunk,Jr.     同じ家系の同姓名の年下の方の意味

     W.Booch, et al.  ラテン語のet alii(そしてほかのもの)の略記
11.3 中点
■連続する見出し言葉
 中点は表題や見出しの三つ以上連続する言葉の区切りに使う.二つなら「と」や「および」を使う.普通の文なら三つ以上の連続には読点を使うが,表題や見出しには読点は使えない.
 例: 第2章 主翼と尾翼 ○
    第2章 主翼・尾翼 ×
    第3章 座席・調理室・コクピット    ○
    第3章 座席,調理室,およびコクピット ×
■係りの範囲
 中点は読点や「と」「および」「または」の代わりに使える.連続する言葉の係りの範囲を明らかにするのに中点を使う.「と」や「および」の方が読み方が明確なので,中点は必要がないときは使わない.
 例: 旅客機の種類および構造を説明する. ○
    旅客機の種類・構造を説明する.   × (読みにくい)
    旅客機の種類・構造の一部を説明する.   ○
    旅客機の種類および構造の一部を説明する. ×(係りがあいまい)
  なお,平仮名混じりの言葉には中点は使えない.見出しも同様である.
 例: 申込み・住所の変更・取り消しの方法を説明する.

■箇条書きの行頭
 箇条書きの補足文の行頭の記号の代表が中点である.大きめの丸印でもよい.英字文書ではキーボードの関係でハイフン「−」がよく使われていた.
 例: ・青のランプは「進め」を表す.
 例: ●青のランプは「進め」を表す.
11.4 各種の特殊記号
■コロン「:」
 コロンは例,備考,注などの見出しと本文を区切るのに使う.コロンの後には空白を置いても置かなくてもよい.一つの文章の中では統一する.
 例: 例: 旅客機の種類・構造の一部を説明する.
    備考: 米国ではコロンは節の区切りにも使う.
    注: 価格には工事費は含んでいない.
 時刻や時間の時・分・秒の数値はコロンで区切る.年月日と時・分・秒の間はピリオドで区切る.

 例: 2:17:53       2時17分53秒または2時間17分53秒を表す
 例: 2001.4.1.2:17:53
 対比する数字はコロンで区切る.比率や試合得点などである.
 例: 水素,酸素,窒素の割合は7:2:1であった.
 例: アルゼンチン対チュニジア 3:0
■連続符号「〜」と「・・・」
 範囲を表す二つの言葉は連続符号でつなぐ.ただし「から」「まで」を使う方が読みやすいので,連続符号は狭い表の中などに向いている.
 例: 東京〜博多
 例: 1〜100
 文字列を省略した部分は連続符号で表す.
 例: 我が輩は猫である.〜
 英字式の三点リーダである「...」や「・・・」を使ってもよい.三点リーダは構文則の繰返しの意味によく使う.
 例: <個人アドレス>@<部門アドレス.>・・・<組織種類>
■下線「あいうえお
 下線は強調や指摘をする文字列の下に書く.強調を表すにはゴシック文字にするなどのほかの方法もある.強調は読みやすさや美しさをそこなう面もあるので普通は使わない.
■斜線「/」
 分数を1行で表す簡易表現では,分子と分母を斜線で区切る.言葉だけで表すこともできる.
 例: 1/6  「6分の1」とも書ける
 単位当たりの数量を表すには,数量と単位を斜線で区切る.言葉だけで表すこともできる.
 例: 160km/時  「時速160km」とも書ける
■鍵括弧「」
 会話の一つの話は鍵括弧の対ではさむ.引用文も鍵括弧の対ではさむ.
 例: 「切手は売っていますか」「はい,ございます」
 例: 阿刀田高は「私の小説作法の第一歩はアイデアの発見から,と言っても過言ではない」と述べている.
 参考文献の書名は鍵括弧の対ではさむ.書名が鍵括弧を含むこともあるので,二重鍵括弧の対ではさむ方式もある.鍵括弧を使わない方式もある.
 例: 阿刀田高:「アイデアを捜せ」,文藝春秋,1996.
    野口悠紀雄:『「超」整理法』12版,中公新書,1994.
■丸括弧()
 文の中に含める備考や図表番号は丸括弧の対ではさむ.丸括弧を使うことはできるだけ避ける.2階層になった文は自然には読めないからである.できれば備考を書かないか,または独立の文にする.
 例: 印刷・製本用の目次ファイルを生成する(図3.4).
■四則演算子「+−×÷」
 四則演算子,等号,不等号,および論理記号などの学術記号は必要に応じて使ってもよい.「×」を「*」で代用し,「÷」を「/」で代用するのは避ける.
 例: 面積=底辺×高さ÷2
■米印「※」
 備考および注の文の行頭に米印を書いてもよい.これは「備考:」や「注:」で始めるより簡潔である.本文や図表の中に米印を書いて,備考や注があることを示すこともある.
 例: 10畳用エアコンディショナー 定価 98000円(※)
    ※価格には工事費を含んでいない.
■繰返し符号「々」
 同じ漢字が続く言葉は二番目の漢字を繰返し符号「々」で表す.ただし会社名などの固有名詞は漢字を続けることがある.
 例: 徐々 段々 堂々 日々
■そのほかの記号
 そのほかの記号は普通の言葉へ代えることを考えて控え目に使う.普通の表現との対比を例で示す.
 例: ¥10,000   10,000円
     50%     50パーセント
11.5 書体
■字体と文字集合
 字体は字の形である。
 例: あ い う え お 阿 以 宇 衣 於

 字体は機能情報としての文字の差異を伝えるのに必要である。互いに字体の異なる一式の文字を文字集合と言う。

書体

 書体は字体の様式である。同じ文字でも異なる書体がある。

 例: あ い う え お 阿 以 宇 衣 於
    あ い う え お 阿 以 宇 衣 於
 五十音の「あ」「い」,漢字の「阿」「以」,アルファベットの「a」「b」などは、字体の差異によって文字の差異を伝える。「あ」と「」や「阿」と「」とはそれぞれ字体は同じだが、互いに書体が異なる。字体は機能情報を伝えるために働き、書体は雰囲気というメタ情報を伝えるために働く。文字の場合は文字が機能情報とメタ情報の両方を同時に読者へ伝える.
 例:   (1)機能情報として「安」という音や意味の種別を伝える
        (2)メタ情報としてゴシック文字で強調を伝える

 明朝体という書体は,線の端だけを太くして毛筆体の雰囲気を残した直線的な様式である.認識しやすいし上品である.文章には原則として明朝体を用いる.大きな字の見出しは明朝体でよい.
 例: コンピュータによる工作機械の制御の動向を述べる.
   第4章 生産機械とコンピュータ

 ゴシック体はすべての線が太いという様式である.小さい字でも遠くからでも見えやすい.メタ情報が目立つので機能情報は認識しにくい.普通の大きさの字の見出しやカタログの仕様表の微小な文字に用いる.
 例: 4.2 機械生産のためのシステム
   3Dサウンド機能,デジタルオーディオ出力付き,2.8cmモノラルスピーカー内蔵

 毛筆体は楷書体,行書体,および草書体の総称であり,毛筆で書いた手書き文字に忠実な様式である.文字の本来の形を伝える.美しさをかもし出す多様な曲線が認識を遅くする.年賀葉書などに用いる.
 例: 謹んで新年のご挨拶を申し上げます
 教科書体は毛筆体の楷書体に近くて,少し明朝体寄りである.文字の本来の形に近いし,少し認識しやすい.幼児の絵本や小学校低学年の教科書に用いる.
 例: アラビアという町に,アラジンというわか者がいました.
 ローマン体は明朝体と同じ主旨の英字用の様式である.英字の文は原則としてローマン体で書く.日本語の文章では参考文献一覧に必要なことがある.
 例: Many popular newspapers have online sites.
 斜体は右に少し傾けた様式である.コンピュータソフトウエアのイタリック体の機能が日本語版にも適用されて伝わった.縦にずらす毛筆体とも違い,認識もしにくいので,使ってはいけない.
 例: 第4章 生産機械とコンピュータ
     第4章 生産機械とコンピュータ (毛筆体のずらし方)
飾り文字
 影付き文字,白抜き文字などの飾り文字は,メタ情報が目立ち過ぎて機能情報が認識しにくくなるので使ってはいけない.

第12章 付録作成と評価

表題部

(目次)

本文部

付録部 参考文献一覧

     (用語集)

     (索引)

12.1 参考文献一覧
 参考文献一覧は調査した文献の一覧である.「参考文献」という見出しに続けて,文献の情報を箇条書きにする.文献ごとに,著者,表題,版数,母体の本,本の巻号数,出版社,出版時期などを書く.版数,母体の本,本の巻号数はなければ書く必要はない.
 書式の例を次に示す.学会などの文書標準に指定があれば,それに合わせる.

参考文献

(1)市川公士:コンピューターゲーム,日本経済新聞社,1993.

(2)吉田豊彦:VLIW型メディアプロセッサ,情報処理,1997年6月号. 

 参考文献に挙げてよい条件は次のとおりである.
 ・自分が確かに読んだ本を挙げる.読んでいない本はいけない.
 ・新版を読んでいない場合は,自分が読んだ古い版を挙げる.
 ・公開されている文献である.学会論文集,組織の外部向け刊行物を含む.
 参考文献の数には目安がある.参考文献の数は必ずしも重要ではないが,調査の仕方がよくないことの兆候になることがある.目安を次に示す.サーベイとは,ある分野を総合的に調査した報告書である.

一般の文章 参考文献数=文章のページ数×1
サーベイ 参考文献数=文章のページ数×5

 参考文献く次の順序に並べる.
 ・著者名の辞書順
 ・同じ著者の文献の中では表題の辞書順
 ・同じ著者・表題の文献の中では出版年の順
 参考文献一覧の正確性は特に慎重に確かめる.参考文献一覧の情報は断片的な語句の並びなので,書き間違っても後では間違いに気づきにくいからである.表題や出版時期は出典を見ながら書き,書いたらすぐに出典と照合する.
 例: (1)沢田允茂,考え方の論理,講談社学術文庫,1976.   
    (1)澤田信茂,考え方の倫理,講談社現代新書,1977. 
この例のどちらが正確かは原典と照合しない限り分からない.正確なのはこの場合は前者である.
12.2 見直しと校正
■校正記号
 原稿を試しに印刷したものを見直して評価し,問題点を見つけたら赤で改善を指示する.代表的な校正指示を次に示す.(拙著では校正指示を手書きで表示.このウエブ資料では省略)
(1)文字列を変える校正指示
  誤字ただせ(更新)   並び替え
  取り去れ(削除)    犯罪を犯す
  入れよ(挿入)     フロッピーを買う
  入れ換えよ(置換)   シュミレーション
(2)文字の属性を変える校正指示
  ゴシック体にせよ    ディスプレイ装置
  小活字にせよ      デイスプレイ装置
  大活字にせよ      キャノン
(3)桁位置を変える校正指示
  字間を詰めよ      立法は 法律を制定する
  右へ寄せよ     行政は法律に基づいて治める
  左へ寄せよ           司法は法律違反を罰する
(4)行位置を変える校正指示
  次行へ追い出せ
  前行へ追い込め
  行間を詰めよ
(5)そのほか
  校正の取り消し(イキ)
 一通りできた原稿を読んで評価して,必要なら改善することを,見直しまたはレビューと言う.見直しの類似語を挙げる.

査読

第三者による見直し.特に文書を合格とするかどうかの判定.

出版物を出荷するか,論文を学会誌へ掲載するかなどの判定のため.

評価

論文,取扱説明書などの優秀作品を選ぶために,読んで採点する.

校正

印刷会社の試し刷りを著者が見直して.著者の意図どおりになっているかどうかを確かめる.

 印刷会社は著者から原稿をもらって編集して印刷用の原版を作る.この作業を製版と言う.原版で最初に印刷したものが校正刷りである.この時に印刷会社の解釈が著者の意図とずれることがある.校正は著者の間違いを直すのではなく,著者の意図に対する印刷のずれを直す作業である.
12.3 見直しの方法
■見直しの担当者と順序
 原稿には一般に1ページに3件ぐらいの割合で誤字脱字や文法違反がある.そのほかにも改善の余地が多い.見直しは次のような順序で進める.

(1)自己レビュー 筆頭の著者が自分で見直す.
(2)同僚レビュー 著者と職位が同じ人が見直す.
(3)上司レビュー 課長または助教授,部長または教授という順に見直す.

 表題部に共著者を列挙する順序が,この見直しの順序と同じである.
■工程の評価
 見直しの観点の一つは作文の工程である.分析がよいか,設計がよいか,執筆が良いかなどの観点である.
■場所別の評価
 すべての章やページをもれなく読んで,どこが悪いのかを指摘する.そうすれば著者はどこを直せばよいかが分かる.原稿を印刷したものに校正記号で赤書きする方式は,場所別の評価の一つの方法でもある.
■チェックリスト
 見直しのチェックリストあるいは評価報告用紙の例を示す.これを原稿への赤書きと併用する.四角や空欄にはチェックマークや点数を記入する.

文章チェックリスト

表題:                                 日付:
見直し者 所属:             氏名:          総合点: 
1.内容    点/20点
 □表題や抄録が定義する範囲およびその表現は適切か.
 □表題・抄録・序章が述べる分野と従来の到達点は明確か.
 □表題・抄録・序章が述べる成果と効用およびその表現は適切か.
 □終章が述べる成果と効用およびその表現は適切か.
2.構成    点/20点
 □序章・終章の量は適度か.
 □章の数,章ごとの節や文段の数,階層の深さは適度か.項番は正しいか.
 □代表的な話題を推測できる章・節の見出しになっているか.
 □目次項目の分類や順序,共通部分の扱いに違和感はないか.
3.文段    点/20点 1章 2章 3章 4章 5章 6章 7章
 □文段の行数は適度か.              
 □文段は話題文で始まるか.              
 □字下げと改行は適切か.              
 □図表と図表項番は適切か.              
4.表現    点/20点 1章 2章 3章 4章 5章 6章 7章
□文の長さは適度か.              
 □構文が簡潔か.              
 □言葉,意味定義,誤字.              
 □内容は正確かつ簡潔か.              
5.装丁・総合    点/20点
 □ページ数は適度か.ページ替えは適切か.
 □字体,字間,行間,余白は適切か.
 □索引があるなら,重要な用語がありページ番号は正しいか.
 □総合評価の補正.総合点が直感より良過ぎるなら,この5点で調整する.

12.4 禁則処理
■初期見直しと禁則処理
 執筆が終わったら著者は,自分で先頭から一通りゆっくり読んでみる.誤字脱字や文法違反がないことを確かめる.2回目は急いで読んでみる.円滑に読めるか,円滑に頭に入るかを確かめる.必要なら改善する.
 禁則違反も調べる.禁則とは文章の禁止事項を定めた規則である.禁則処理は普通はワードプロセッサが自動的に行ったり,印刷会社がしてくれたりする.
 行末禁則は行末で鍵括弧や丸括弧を開いてはいけないことである.もし違反しているなら,その文字を次の行頭を移す.これを追い出しと言う.
 行頭禁則は行頭で鍵括弧や丸括弧を閉じたり,句読点を打ってはいけないことである.違反ならその文字を前の行末の余白へ移す.これを追い込みと言う.
 ページ末禁則はページの最後に章節の見出しがあってはならないことである.ページ末禁則の処理はワードプロセッサではできないことがある.その場合は著者が自分で改善する.違反ならその行を次のページへ追い出す.あるいは前の文段に文を書き足して行数を多くする.
12.5 目次の見直し
 ページ数の多い本なら目次がある.本文を書いているうちに,見出しを変えたり,構成を変えたりして,最初に作った目次や粗筋と本文が合わなくなることがある.章や節を増減させると,その項番が変わる.あるいは間違って,目次や粗筋と違う見出しや項番を書いてしまうことがある.
 次のいずれかの方法で見直しをする.
 ・アウトラインプロセッサで本文から粗筋や目次を逆生成する.
 ・画面を分割して,目次と本文を照合する.
 ・目次と本文を印刷して照合する.
 ・前に目次を作っていないなら目次原稿を作る.本文から見出し行を複写してもよい.
 見直しのチェック項目は次のとおりである.前の目次の例の中の丸付き数字は,以下のチェック項目に該当する問題点である.
 @章の間の節の数のバランスや階層の深さは適当か.
 A章や節の順序は適切か.共通部分の場所は適切か.
 B項番に重複がないか.本文に章や節を追加したときに起きやすい.
 C項番に抜けはないか.本文の章や節を削除したときに起きやすい.
 D節が一つだけということがないか.節は二つ以上必要である.
 E見出しに同じものや区別しにくいものがないか.
 F見出しの用語や仮名遣いに不統一はないか.
 G見出しはどの話題を含んでいるかを推測できる総称になっているか.
 H目次と本文とが合っているか.
 I目次とは違うが,図表の項番も抜けや重複がないことも確かめる.
12.6 用語一覧
■用語の定義と使用
 専門的な用語は最初に使う箇所で意味を定義している.後の文はその用語を使うことができる.
 定義から最後の使用までの範囲を,用語の使用範囲と言う.
■用語の選択と定義のチェック
 用語集や索引を作る準備として用語一覧を作る.
 専門的な用語を選んで用語一覧を作る.
 用語選びをしながら,用語定義の見直しと改善を行う.
 ・用語の定義がもれているなら,最初に登場するところに定義文を書き足す.
 ・用語の定義があるより前に使用しているなら,定義の場所を前へ移す.
 ・2か所以上で定義しているなら,後の方のをやめるか表現を変えるかする.
■用語一覧の作成
 用語一覧をワードプロセッサやスプレッドシートで作る.順不同で並べてから辞書順に整列させる.見直しをして必要性の薄い用語を削除したり,用語の誤字脱字や不統一を直す.

 用語集に載せる用語は,用語一覧に選んだ用語の部分集合である.索引にはその残りの用語だけ載せてもよいし,用語集に載せる用語も含めてすべて載せてもよい.
12.7 用語集
 専門的な本には付録として用語集をつけるとよい.用語集はその文章に登場した専門用語の辞書である.用語集の用途は次のとおりである.
 ・一度読んで忘れかけた話題を用語の意味を見て,本文を見ずに思い出す.
 ・ほかの本の著者が用語の説明を書く時に,用語集だけを見て参考にする.
 ・用語集を作ることが用語の不統一や定義忘れを発見する手段になる.
■用語集の形式
 用語集の全体的な形式は例えば次のようにする.文を左詰めにすることもある.英字用語は別にまとめたり,発音を五十音扱いにして一緒に扱ったりする.

用語集

 

あ行

一品生産   注文に応じて一つだけを作る生産.反対語は大量生産.

オンライン   コンピュータと端末が直結している方式を意味する形容句.

か行

間接費    製品ごとの費用ではなく,製品の間で共通にかかる費用.

■用語の説明
 用語を説明する文段の長さはいろいろである.例えば,1文1行を原則にして,用語によっては2文2行ぐらいにする.
 言葉ごとの定義の書き方は以前にも述べたが,改めて説明する.

見出し語 [読み仮名や英単語]<特色を表す形容句><種類を表す名詞句>.[詳細や差異などを補う補足文]・・・

 最初の文は意味を定義する話題文である.詳細は補足文で補えばよいので,基本的なことだけを短く述べる.最後の名詞句は「もの」や「こと」などの代名詞ではなく,種類の名詞にする.
 「対話型機能」の対話型など,形容句としての用語の説明は次のようにする.

見出し語 [読み仮名や英単語]<特色を表す述語>ことを意味する形容句>.[詳細や差異などを補う補足文]・・・

 特色を表す述語は,例えば次のように「こと」へ続く.
  「〜である」ことを意味する形容句. (補語+である)
  「〜しい」ことを意味する形容句.  (形容詞)
  「〜する」ことを意味する形容句.  (動詞)
 例: 対話型 交互にやりとりすることを意味する形容句.
12.8 索引
 専門的な本には付録として索引を付けるとよい.索引は用語の辞書順の一覧であり,それぞれの用語にそれが出現するページ番号の一覧が付く.
■索引の形式
 索引の全体的な形式は例えば次のようにする.

索引

あ行

一品生産       63

オンライン       75,102

か行

間接費         129,158

■索引を作る時期
 索引は2回目の校正刷りができてから作るのが普通である.ただし,原稿の質を上げるためには,原稿ができた段階に用語一覧だけは作っておくのがよい.
■ページ番号
 ページ番号を調べて書くのは根気のいる作業である.普通はコンピュータソフトウエアで自動的に作るか,印刷会社にやってもらうかする.
君島浩のISD研究室.2000.11.4,2005.7.31.[ 戻る ] [ ホーム ] [ 上へ ]