7.補足文

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■補足の関係
 補足文は先行する話題文や補足文を補足する.

 

 補足文は先行する文の言葉を引用して,先行する文との関係を表わすことが多い.

8.1 定義の補足文
 定義の補足文は,その文書に初めて出す言葉や先行する文に出した言葉を定義する.
 最初に,定義型でない話題文を定義の補足文が補足する文段の例を示す.

 日本の人口密度は世界でも最高の部類である.人口密度は単位面積あたりの人口である.

 定義型の話題文と定義型の補足文が直系親族の関係で続く文段を次に示す.

 旅客機は人間を運ぶ飛行機である.飛行機は空を飛ぶ輸送機器である.輸送機器は人間や物品を運ぶ機器である.

 この例は分類体系の下位の方から上位の方へ定義を続けている例である.
 言葉の定義の文を書くのには辞書や用語集を参考にするとよい.
■辞書
 辞書の各項目は言葉を示す見出し語で始まり,次に言葉の定義の文がある.必要に応じて特色を追加する補足文が更に続く.
 参考までに辞書の文段の例を示す.

 どうたく[銅鐸]弥生時代の青銅器。偏平な釣り鐘形で、祭器または楽器といわれる。近畿地方を中心に西日本に出土。高さ約20〜140cm。(集英社国語辞典,1993)

■事典
 事典は見出し語ごとに,複数の文段で意味やな内容を説明する文章である.最初が意味の定義をする文段である.あとの文段は重要なものから順に並べる.
  見出し語 意味の定義の文段
         重要な文段
          次に重要な文段
          ・・・

文中での言葉の定義

 定義の文以外の文の中でも言葉を定義することができる.

 その一つの形式は「〜<種類を表す形容句><言葉>〜」である.

 例: 地域連合ASEANの会合をマニラで開催する.

     計測方式の一種である尺貫法は現在は使われない.

  もう一つの形式は「〜<言葉><種類を表す名詞句>〜」である.

 例: ASEANという地域連合の会合をマニラで開催する.

    LINUXオペレーティングシステムを勉強する.

8.2 結果・原因の補足文
 因果関係は論証によく用いる.
■結果の補足文
 先行する話題に対して,その結果・効果・影響を述べる補足文を結果の補足文という.

 プロ野球チームの監督のほとんどは元名選手なので,統計的に以下のことが起きる.まず,優勝チームの監督は元名選手が多い.一方,元名選手の監督が2位以下で終わることはもっと多い.元名選手でなかった監督が優勝することは極めて少ない.

 

 原因から結果へ次々と補足していく直系親族の関係の文段を次に示す.

 タレントの忙しさは番組の質に影響する.準備に時間のかかるドラマ番組は敬遠される.そこでシナリオのない即興番組が増える.タレントが即興で発言するので「させていただく」などの冗長な日本語が増える.

   タレント多忙 → ドラマ番組敬遠 → 即興番組増加 → 日本語冗長

■原因の補足文
 先行する話題に対して,その原因・理由を述べる補足文を原因の補足文という.話題文で総論・結論を述べる方式の典型と言える.

 女性活性化講座はよくない.第一に差別する側をなくす役に立たない.第二に女性に限定することが性差別を容認する考えを広めてしまう.第三に活性化していない人は女性とは限らない.

 

 結果から原因へ次々と補足していく直系親族の関係の文段を次に示す.

 貴の浪の大関陥落が決まった.連続負け越しなら陥落という規則があるからである.けいこ不足が負け越しの原因である.体調不良のためにけいこを十分にできなかった.

 

8.3 類似・差異の補足文
 比較も論証によく用いる.
■類似の補足文
 比較する対象と似た点を述べる補足文を類似の補足文という.

 オートマチック変速車は特殊な手順で発進させるものではない.エンジンを始動したらギアを先に変更するのはマニュアル変速車と同じである.ギア変更の次に手ブレーキを解除するのも同じである.最後に足ブレーキを解除してアクセルを踏むのも同じである.

この発進手順をふだんから間違えている人がオートマチック変速自動車の暴走事故を起こす.

 共通性を示すのによく使われる語句は次のとおりである.
   Bと同じく  Bと似て  〜の点が共通  Aは〜であり,Bも〜である
■差異の補足文
 比較する対象と違う点を述べる補足文を差異の補足文という.

 オートマチック変速車の発進手順はマニュアル変速車と全く同じというわけではない.ギア変更の前後にクラッチ操作が不要なのが便利である.前進する時のギアの名前はロウではなくドライブである.また足ブレーキを離すとアクセルを踏まなくても発進する.

 

■類似と差異の混合
 同じ文段に,類似の補足文と差異の補足文を混在させることもある.

 台風と竜巻には似た点と違う点とがある.台風も竜巻も上空の空気が重いという状態を解消しようとして起きる.どちらも気流が安定している平坦な場所で起きる.ただし,台風は海上で生れるが,竜巻は平坦な地上で起きる.発生する季節は台風は秋に集中するが,竜巻はそれほどでもない.

 

竜巻で割れたビルの窓(テキサス州フォートワース市)

■新規性と進歩性
 学術論文や特許明細書は,差異を新規性と進歩性で表わすのが定石である.新規性は定性的な新しさである.新規性の補足文は,過去の同じ種類のものと比較して新しい特色を述べる.または過去に同じ種類のものがなかったことを述べる.

 オートマチック変速車は自動車の操作性を改善する.ギアの操作なしに最適なギア比を維持することができる.

 進歩性は新しさの度合いのことである.進歩性の文は,過去の同じ種類のものと比較して差異の度合いを述べる.同じ種類のものが過去に存在しなかったなら,似た種類のものと比較する.新規性の補足文は進歩性の補足文を補足することが多い.

 旅客機にとって燃料消費量の削減は大切である.ボーイング747-400はエンジンや機体の改良によって燃料消費量を減らした.1時間あたりの燃料消費量はドラム缶58.5本分であり,ボーイング747-200に比べて10.5本分も少なくなった.

8.4 例・詳細・挿話・事実の補足文
■例の補足文
 一般的な種類(集合)に対して,それに属する実体(インスタンス)を例と言う.

 山の南東側は雪や日照の関係で崖になっていることが多い.例えば,谷川岳は南東側は有名な崖なのに北西側はなだらかな草地である.

 

■詳細の補足文
 詳細とは細かな部分や性質のことである.次のようなものがある.
   種類,部分,部品,要素,要因,性質,局面,部門,分類
 細かな部分を表す補足文の例を示す.

 協奏曲は管弦楽の一種である.一人だけが独奏を行う.第一楽章には独奏者の即興演奏カデンツァを含む.

 例:モーツァルト作曲,ピアノ協奏曲 第23番 イ長調 K.488

     ダニエル・バレンボイム指揮・ピアノ独奏,イギリス室内管弦楽団,CD(東芝EMI CE28-5160) 

    第1楽章 アレグロ     11分01秒 

    第2楽章 アダージョ     7分33秒

     このメロディーは薬師丸ひろ子,花のささやき,CD(東芝EMI CT25-5479)に流用された.

    第3楽章 アレグロ・アッサイ 7分28秒

 細かな性質を表す補足文の例を示す.

 野球は人気のある競技である.野球は9人対9人の対戦である.主な道具はボールとバットである.勝敗は9回ずつ攻撃して得点で決める.

■挿話の補足文
 挿話(エピソード)とは一般的な説明の途中に入れる具体的なできごとの説明である.

 それではステレオ録音の発明記念式典のごあいさつを申し上げます.ステレオ録音の発明によって,臨場感が格段によくなりました.指揮者フルトヴェングラーの演奏はモノラル録音のものしか聴くことができません.しかし,指揮者ワルターは80歳の時にステレオ録音の誕生に出会って,私たちに名演奏を残してくれたのです.

■事実・統計の補足文
 事実とは明確に証明できる事物である.

 ロケットを推進する物体は燃焼ガスである必要はない.ペットボトルを材料にしたロケットは圧縮空気で水を噴射することによって飛ぶ.

 統計は事実の一種であって,定量的な事実である.

 世界の主な国の輸出額を図8.1のグラフに示す.米国が順調に伸びて5千億ドルを超えて第1位である.日本は第3位で統一ドイツに追いつきそうだ.1993年は欧州各国の輸出額が減った.

     (図8.1)

 統計の補足文は単独の数値を説明するものでもよい.

 世界で一番輸出額が多いのは米国である.1994年の米国の輸出額は約5千億ドルである.

8.5 列挙の補足文
 先行する話題に対して,その要素を説明する補足文を並べるのを,列挙の補足文という.
■一覧信号と列挙子
 一連の補足文の間にある順番などの関係を示す句を一覧信号と言う.一覧信号の典型は「第一に」「第二に」「第三に」である.

 旅客機の操縦計器はいろいろある.第一に速度計がある.第二に高度計がある.第三に上昇中か下降中かを表す昇降計がある.

 一連の補足文が共通して取り上げる内容の種類を表す句を列挙子と言う.一般的な列挙子は詳細の補足文と同じで次のようなものである.
   種類,部分,部品,要素,要因,性質,局面,部門,分類 

 旅客機はいろいろな要素で構成される.全体の中心の要素は胴体である.次に大きな要素は主翼である.そのほかの要素は尾翼である.

 具体的な列挙子もある.多くの言葉は分類名でもあるので列挙子になりえる.

 旅客機の操縦計器にはいろいろある.第一の計器は速度計である.第二の計器は高度計である.第三の計器は昇降計である.

操縦席模型による操縦訓練(ノースウエスト社)

 そのほかの種類の補足文も列挙型を兼ねることがある.原因の列挙や結果の列挙もその例である.

 子供がテレビに向かう時間が増えたのにはいろいろな理由がある.第一の理由は子供部屋を持つ家庭が増えたことである.第二の理由はテレビが安くなったことである.第三の理由はテレビゲームが登場したことである.

■対等な列挙
 対等な列挙は,複数の補足文の間に上下関係や順序関係がない列挙である.

 生物は何種類かの栄養で生命を維持する.たんぱく質は肉になる.でんぷんはエネルギーになる.脂肪は蓄積されて後でエネルギーになる.

■降順の列挙
 降順の列挙は,補足文を数量の大きな方から,または重要と思う方から並べることである.

 航空機の電力はいろいろな目的に使われる.電力を一番多く消費する用途は調理である.二番目に多いのは照明である.三番目は映画や音楽である.

■ABC分析型の列挙
 ABC分析型の列挙は,数量や重要性の点の上位から三つ程度のグループに分けて,それぞれについて一つ補足文を書くことである.

  安売店の商品部門ごとの適正な面積は異なる.広いのは衣料部門であり,米国の婦人服売場の平均面積は約1000平方メートルである.小規模なのは特殊商品部門であり,写真用品売場の平均面積は約50平方メートルである.中間が日用品部門であり,玩具売場は平均面積が約200平方メートルである.

■過程の列挙
 過程の列挙は,いくつかの話題文を時間の順序に従って並べることである.

 食パンを陳列棚に並べるには次のようにする.段ボール箱のふたの中央をこぶしでたたく.割れ目ができたら両手を入れてふたを開く.並んだ食パンにS字型経路で値札を貼る.一行分の食パンを両手ではさんで棚へ一度に載せる.

■年表型の列挙
 年表型の列挙は,年月日や時刻の順に話題文を並べることである.

 航空機は次のように進歩した.1903年にライト兄弟が初飛行した.1969年にジャンボ機のボーイング747が初飛行した.国産では1962年にターボプロップ機YS-11が初飛行した.

8.6 文段の終え方

■文段の長さ
 文段の長さは1行から9行まで,または1文から9文までが適当である.
 例えば,1ページの行数が30行だとする.文段の長さと個数の関係は次のようになる.

文段の行数 1ページの文段の個数  
15 管理困難
10
管理容易
10
15 管理困難

文段の打ち切り
 文段の長さが前述の適量を超えそうなら文段を終える.
 文段は総論や結論を述べる話題文で始まっている.後に続くのは補足文なので,どこで終えても不完全になることはない.

■文段の展開
 文段を適量で終えると説明不足だと思う場合には,粗筋にない文段を増やす.このことを文段の展開と言う.
君島浩のISD研究室.2000.11.4, 2003.6.7.[ 戻る ] [ ホーム ] [ 上へ ] [ 進む ]