■文段
文段は一つの話題を説明するいくつかの文の並びである.段落は文段と文段との間の区切りを指す.
文段は粗筋を参照して書く.粗筋の一つの話題が一つの文段になる.
話題の総論や結論を述べる文を話題文という.先行する文を補足する文を補足文という.補足文は話題文を補足することもあるし,ほかの先行する補足文を補足することもある.
6.1 文段の構造
文段の第1の種類の構文は次のとおりである.
<話題文>[補足文]・・・
これは「文段は話題文で始まって,いくつかの補足文が続いてもよい」と読む.
交通信号は三つのランプで構成される.青のランプは「進め」を表す.赤のランプは「止まれ」を表す.黄色のランプは「注意」を表す. |
これを逆に書くと次のようになる.
交通信号の青のランプは「進め」を表す.赤のランプは「止まれ」を表す.黄色のランプは「注意」を表す.交通信号は以上の三つのランプで構成される. |
どちらが効果的というわけではないが,話題文で始めることに決めると,読んだり,書いたりする効率がよい.
ミネソタ州セントポール市の交差点 |
文段の第2の種類の構文は次のとおりである.
<総論の話題文><補足文>・・・<結論の話題文>
交通信号はいくつかのランプで構成される.青のランプは「進め」を表す.赤のランプは「止まれ」を表す.黄色のランプは「注意」を表す.交通信号は以上の三つのランプで構成される. |
総論の話題文と結論の話題文ではさむこの構文は,入学試験・学位試験・資格試験などの重大な機会にだけ用いる.日本の試験の審査員は結論先行の作文技法を知らないことが多いからである.
■文段の区切り
文段(paragraph)が二つ以上並ぶときには段落(end of
paragraph)で区切る.
<字下げ><文段><改行>
[<字下げ><文段><改行>]
・・・
6.2 媒体
文段に相当する単位にいろいろな表現媒体を選択して,一つの文章の中に混合することができる.
図あるいは図表という言葉は,前述の図,表,絵,写真の総称にも使う.
■箇条書き
箇条書きは話題文で始めて,補足文を同じ桁位置に並べたものである.
交通信号のランプには三種類ある. ・青のランプは「進め」を表す. ・赤のランプは「止まれ」を表す. ・黄色のランプは「注意」を表す. |
補足文の行頭の記号をの選び方は次のとおりである.
(1)などの数字の項番.順番に意味があるとき.
(a)などの文字の記号.順番に意味がなく,後で要素を指摘するとき.
●などの特殊記号.順番に意味がなく,後で要素を指摘しないとき.
箇条書きの各要素がまた箇条書きであるという階層構造も可能である.しかし過剰構造なのであまり勧められない.
■図表
図表には話題を表す見出しをつける.
図表は先行する文段または箇条書きによって紹介する.図表を紹介なしに用いてはいけない.
6.3 話題文と補足文の種類
この後に述べる話題文と補足文の代表的な種類を次に示す.
話題文と補足文の種類は,定義,類似,差異など一部が同じである.
第7章 話題文
■制御語
話題文は文段を代表して総論や結論を述べる文である.単純な提示や定義だけの話題文もある.そのほかの話題文は話題の範囲を限定する制御語というものを含む.以下の例では制御語の部分を下線で示す.
提示 定義 結果 原因 類似 差異 場所 時 局面 数量 混合 |
高山植物の種類は多い. 高山植物とは、主に高山帯だけに分布する植物である. 高山植物のおかげで登山にうるおいが生れる. 高山植物が生まれたわけは、自然淘汰によるものである. 高山植物のリンドウが低地のリンドウと似ている点は花の形である. 高山植物のリンドウが低地のリンドウと違う点は形が小さいことである. 高山植物が生存する場所には、礼文島のような低地もある. 高山植物の一部は氷河時代にほかの植物が衰退して勝ち残った. 高山植物にとって土壌への適応も大切である. 日本の高山植物の種類数はエーデルワイスだけでも12種もある. 尾瀬ヶ原にミズバショウの花が咲く時期は六月ごろである. |
■文種
多様な文を類似性によってまとめた分類を,文種と言う.類似性には,内容や論理性などがある.文種の中には制御語による限定も含まれ,その多くは論理性の種類を表している.多様な定義の文の集まりは,定義という文種に属すると言うことができる.このことは後で述べる補足文にも言える.
7.1 限定の程度
限定する時には制御語のほかに限定の程度も決める.話題文は一般的な主題と具体的な補足文との中間の程度の表現にする.
例えば「旅客機の費用」という主題の文章を構成する補足文は,各話題と費用との関係を具体的に述べる.
旅客機の費用 (主題) | ||
強い西風のジェット気流への対処によって燃料消費量が違う.(話題文) | ||
太平洋横断の飛行時間は行きと帰りとで1時間半も違う. (補足文) | ||
行きはジェット気流の強い航路を選ぶ. (補足文) | ||
帰りはジェット気流の弱い航路を選ぶ. (補足文) | ||
ジェット気流は場所が変わるので操縦士がその場所を探す. (補足文) |
7.2 提示・定義の話題文
提示の話題文,定義の話題文は話題を示すだけで限定はしない.
■提示の話題文
話題を提示するだけの文である.その後には詳細を述べる補足文が続いたりする.
例: 旅客機というものがある.
次の提示はその後にいろいろな種類を挙げる列挙型の補足文が続いたりする.
例: 飛行機にはいくつかの種類がある.
次の提示は後で述べる局面の話題文とも言える.しかし,「旅客機の費用」が一つの熟語のようである場合には単純な提示とも言える.
例: 旅客機にはいろいろな費用がかかる.
■定義の話題文
言葉の意味を定義する文も話題文として一般的過ぎるが,本書のような教科書にはよく使う.
言葉の意味を定義する文の構文は次のとおりである.
<言葉>は<特色を表す形容句><種類を表す名詞句>である.
例: 旅客機は人間を運ぶ航空機である.
種類と特色は次のような分類体系に関係している.
最後の名詞句は種類を表す言葉なので,「もの」や「こと」などの代名詞であってはならない.
例えば,オペレーティングシステムは,コンピュータの要素の中でも分かりにくい存在である.
例: オペレーティングシステムはほかのプログラムの実行を管理するプログラムである.
この定義によって初心者は,オペレーティングシステムというものが,とにかくプログラムであることが分かる.
集合の意味を強調する定義の文の構文は次のとおりである.プログラム言語の文法書などによく使う.
<言葉>は<特色を表す形容句><種類を表す名詞句>の集合である。
例: 整数型は小数部のない数の集合である.
7.3 結果・原因の話題文
■原因の話題文
原因の話題文はその話題が原因になって生じた結果を限定する文である.
例: 旅客機は外国旅行を身近なものにした.
原因→ 結果の限定
その話題が原因になって生じた結果を予告するだけの文もある.その後には結果を述べる補足文が続くのが普通である.
例: 旅客機はいろいろな影響を与えた.
原因→ 結果の限定の予告 → 結果の補足文・・・
■結果の話題文
結果の話題文はその話題が結果であって,その原因を限定する文である.
例: 旅客機の料金は市場競争で安くなった.
結果 ←原因の限定
話題のもとになった原因を予告するだけの文もある.その後には原因を述べる補足文が続くのが普通である.
例: 旅客機の料金はいくつかの理由で安くなった.
結果 ←原因の限定の予告 ← 原因の補足文・・・
7.4 類似・差異の話題文
■類似の話題文
類似の話題文は比較対象を挙げて,それと似た面に限定する文である.
例: 旅客機の利用目的は旅客鉄道と同じように人間の移動である.
似た面 比較対象 似ている内容
似ていることを提示するだけの話題文もある.
例: 旅客機は旅客鉄道と似た面がある.
■差違の話題文
差異の話題文は比較対象を挙げて,それと違う部分に限定する文である.
例: 旅客機は鉄道と違って途中の経路の建設が不要である.
比較対象 違う面 違う内容
違うことを提示するだけの話題文もある.
例: 旅客機は旅客鉄道と違う点がある.
更に,類似と差異の混合型の話題文もある.
例: 旅客機と旅客鉄道には似た点と違う点がある.
7.5 場所・時の話題文
■場所の話題文
話題の物が存在する国,地域,建物,部屋,位置などを限定する文である.
例(国) : 旅客機は米国で最も多く生産されている.
例(地域): 旅客機は沖縄県の離島の生活路線になっている.
例(部屋): 旅客機の調理室には冷蔵庫,オーブン,電子レンジなどがある.
例(位置): 旅客機は高度1万m以上の成層圏を飛ぶ.
■時の話題文
時を限定をする文である.時には,年,月,日,時刻,時間などがある.
例(年) : 旅客機YS-11は1962年に初飛行した.
例(月日): 成田空港の暫定滑走路計画が12月1日に認可された.
例(時刻): 東海道新幹線の下りの最終便は22時46分に東京駅を発車する.
例(時間): ヘリコプターの航続時間は6時間ぐらいである.
■5W1H
話題文の種類は報道記事の5W1Hという要素と似ている.
例: 函南町大土肥の県道で (where)
三十日午後十一時ごろ, (when)
道路を歩いていた男性が (who)
若者の乗用車にはねられ、 (why)
病院で手当てを受けたが (how)
約七時間後に死亡した。 (what)
(朝日新聞1999年12月2日朝刊静岡版の記事を少し変更)
■混合型の話題文
一つの話題文が二つ以上の制御語を含んでもよい.
例: 旅客機は約1週間ごとに格納庫で洗浄する.
ボーイング707が米国に登場したのは1958年である.
日本ではハヤチネウスユキソウが欧州のエーデルワイスに最も似ている.
大雪山の高山植物の特殊性は火山性土壌によって生れた.
7.6 局面・数量の話題文
■局面の話題文
局面の話題文は話題の構成要素を限定したり,性質を限定したりする文である.
例: 旅客機の電力は調理のために最も消費される.
旅客機を洗浄する作業も空気抵抗を減らして燃料消費量を減らす.
話題の構成要素には次のような例がある.
会社の機構である購買,製造,販売 | |
栄養の要素であるデンプン,タンパク質,脂肪 | |
生存の必要要件である衣,食,住 |
話題の性質には次のような例がある.
生産の性質である品質,費用,納期 | |
家庭や会社の性質である収入,支出 |
■数量の話題文
数量の話題文は量的な言葉を含めたものである.
例: インターネットの料金はそれほど高くない.
通信の性能対費用は毎年約3倍ずつ改善され続けている.
ジャンボ旅客機の価格は非常に高い.
食品のチェーン店は一店舗が人口4万人前後の商圏を担う.
君島浩のISD研究室.2000.11.3, 2008.1.20.