5.序章と終章 

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 文章は表題部・本文で構成され,必要なら目次・参考文献一覧・用語集・索引などが付く.本文は序章,本論のいくつかの章,そして終章で構成される.

5.1 本文の構成
 序章は「序」「概要」「はじめに」などの見出しを持つ最初の章である.

 序章は抄録と似ている.抄録はその文章を読むか読まないかを判断するための情報である.それに対して序章は本文に属する.

CD店で開封前の音楽CDの外に見える情報の役割を果たすのが抄録である.

自宅で開封した後に聴くCDの音楽の先頭部分が序章に相当する.

 終章は「まとめ」「おわりに」などの見出しを持つ最後の章である.
 序章と終章は簡潔であるべきだ.
 序章に限らず本文は粗筋を参照して書く.文段とはいくつかの文の並びである.以下は旅客機の費用についての報告書の例である.
 前の例の序章の1番目の文段は,旅客機の費用という分野へ読者を導入する.
 この例では本論は「2章 機体」から「8章 経営」までである.

 本論は全体の行数の85%以上であるべきだ.

序章 2文段 5% 4文段 10% 6文段 15%
本論の章 37文段 92% 34文段 85% 30文段 75%
終章 1文段 3% 2文段 5% 4文段 10%

  序章に歴史や問題点などの前置きを長々と書くべきでない理由を次に挙げる.

前置きは,正統的な書き出しができないことからの逃げ道になりがち

読者は本論がなかなか始まらなくて飽きる.

本論の行数が犠牲になる.

前置きに相当することは,本論の補足・論証に生かすことができる.

昔の木造飛行機(シアトル航空博物館)

 終章に結論以外の話題を書くべきではないという理由は次のとおりである.

終章が長いと本論の記憶や印象が薄れる.

今後の課題を示すのは博識のようだが,評価は本論で決まる.

今後の課題を示すのはアイデアの漏洩や特許性の喪失につながる恐れがある.

今後の課題を述べるには,ほかにもっと効果的な機会がある.

5.2 序章
■分野と現状の到達点
 文段の最初の文を話題文と言う.

 

 

 序章の1番目の文段は,分野の紹介を兼ねて,従来の先端技術(state-of-the art technique)を述べる.従来の先端技術の到達点を述べることが,今回の報告の課題を意味することになる.

 

@提示 旅客機はだれでも利用する旅行手段になった.
A定義 旅客機は人間を運ぶ飛行機である.
B局面 旅客機を飛行させるのにはいろいろな費用がかかる.
C数量・統計 東京−ハワイ間の飛行には約3千万円の費用がかかる.
D数量・統計 東京−大阪間の飛行にはドラム缶60本分の燃料を消費する.
E原因 旅客機の費用を減らすためにいろいろな工夫がされてきた.
F差異 しかし旅客機の費用は料金に比べると注目されていない.

  この中では@Aは話題文に向く.Fは補足文に向く.BからEまでの文は話題文にも補足文にも使える.

 最初の章の最初の文段の最初の文は,その文章の中で読者が最初に対面する文である.

■結論と目的
 序章の2番目の,結論と目的を述べる文段の書き方を述べる.
 話題文の後には結論の説明を補足したり,目的あるいは効用を述べたりする補足文をいくつか続ける.
 話題文または補足文は,発明・発見の段階を述べてもよい.抽象的な主題を次第に特定の範囲に限定していくのである.
 話題文および補足文の典型を例を添えて挙げる.

@定義 この報告書は旅客機の費用削減の工夫を分類して紹介する.
A提示 機体を軽くするために合金ではなく特種紙を開発した.
B提示 機体を軽くするための特種紙を試作した.
C結果 本報告によって費用削減策を体系的に理解することができる.
D結果 新しい特種紙を使うことによって機体の重量を12%軽減した.
E事実 この特種紙は同じ大きさの合金に比べて重量が60%である.
F詳細 この特種紙は強化剤の浸透と蜂の巣状の形状が特徴である.

 この中で@ABの文は話題文に向く.C〜Fの文は補足文に向く.Bの文は発明が試作段階であることを限定している.

発明や発見でない調査報告書には内容の新規性はないので,文章としての範囲や観点の新規性・独自性・特徴・効用などを書く。


5.3 終章
 終章の結論の文段は序章の「結論と目的」の文段と似ている.終章の直前は枝葉の話題だったので,読者を主題へ戻すのが終章の役割である.

 

 話題文および補足文の典型を例を添えて挙げる.

@定義 この報告書は旅客機の費用削減の工夫を分類して紹介した.
A提示 機体を軽くするために合金ではなく特種紙を開発した.
B結果 この報告書により費用削減策を体系的に理解できたであろう.
C詳細 この特種紙は強化剤の浸透と蜂の巣状の形状が特徴である.
D事実 この特種紙は同じ大きさの合金に比べて重量が60%に減った.
E結果 新しい特種紙を使うことによって機体の重量を12%軽減した. 

 序章の結論と終章の結論は読者の観点が少し違う.

序章

特種紙によって機体全体の重量を12%軽減した.

終章

特種紙を使う部分は合金に比べて重量が60%に減った.
特種紙は強化剤の浸透と蜂の巣状の形状が特徴である.

5.4 見出し
 章の見出しの形式には次のようにいろいろな種類がある.

料金

1.序

8.4 料金

1 序

8−4 料金

第1章 序

8.4節 

 これを構文則として定義すると次のようになる.
   [<項番><区切り>]<見出し><強制改行>
 項番は順序関係や階層関係を表す.
 項番はあまり必要ではない.
 少なくとも2階層目の節番号は8ページ以下の文章には必要ない.
 見出しは粗筋の話題名や分類名か,またはそれを洗練した文字列である.
5.5 配置とメタ情報
■配置
 物体や情報の空間的な位置関係を配置と言う.

旋盤加工の適応制御

堂々として目立つ

 

旋盤加工の適応制御 実用的で目立つ

 

旋盤加工の適応制御

控え目

 

空間設計(JR東日本研修所の運転席写真) 空間設計(白河市南湖公園の日本庭園)

今まで学んだ話題や本書の体裁には,次のような配置が見られる.

表題・著者・所属などの中央ぞろえ

社内文書での所属・著者の右寄せ

抄録や序章の見出しの左寄せ

文段の最初の字下げと文段の最後の段落・章の見出しの後の強制改行

章と章の間の空白行や改ページ

ページの上下左右の余白・行間隔と行の中の文字間隔

■配置の定石
 本書のそれぞれの章で述べたように,文章の構造のどんな所でどんな配置をするかは定石が決まっている.
 更に「配置の最小限の原則」というものがある.
 「配置の最小限の原則」のいくつかを以下に述べる.

文段の途中でページの端に達しても強制改行は不要である.

ただし,文段が空白行などで孤立している時は,字下げはしない.

区切り記号は二つ連続させない.

区切りの前に句点は不要. ×「こんにちは。」 → ○「こんにちは」

区切りの間に読点は不要. ×「あら」,「やあ」 → ○「あら」「やあ」

見出しの区切りは一つに.  ×(1).序章 → ○(1)序章

■配置の調整
 配置を決めたり変えたりすることを配置の調整と言う.配置の調整の時期にはいくつかの種類がある.

執筆時調整: 文章を書いている途中に,著者が自分で行う調整

印刷時調整: プリンタで印刷する時や出版社が受け取った時に行う調整.

閲覧時調整: コンピュータの閲覧ツールで見る時に読者が行う調整.

 印刷会社が関与しない場合には著者が配置の調整を行う.
 ワードプロセッサオペレータは手書きの文章を見て,まとめてワードプロセッサに入力して,その後にまとめて配置の調整をする.

■メタ情報
 文字列以外の情報のことを,隠れた情報という意味でメタ情報と言う.

 それに対して文字列として伝える本来の情報のことを機能情報と言う.
 ゴシック文字などの書体や字の色は,一つの字が機能情報であるとともに,メタ情報も持っていることになる.
 配置や書体や色などの各種の性質を属性と言う.スクリプト言語はメタ情報の属性を指定する文字列の集合である.
 例: 以下のオペラの脚本の中で括弧内はト書きである.

   (かすかにモヤがかかった声で)「すっかり春の息吹が」
   (少し元気を取り戻し)「私は生きるの! ああうれしい!」

 例: 以下の不等号の間はHTMLと言うウェブページ用スクリプト言語の文

 <TITLE>旋盤加工の適応制御</TITLE>

 言語はある文法に従う文の全体集合なので,この1行はHTMLという言語で書かれた文の一つである.
 スクリプト言語の特徴は機能情報もメタ情報も文字列という同じ性質のデータだということである.

君島浩のISD研究室.2000.10.28, 2003.8.19.[ 戻る ] [ ホーム ] [ 上へ ] [ 進む ]