4.表題部 

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 文章の最初には表題部を書く.

表題部

慶応SFCのテクニカルライティング講座(2)

 君島 浩

富士通ラーニングメディア

 

抄録

この第2回の報告書は慶応義塾大学湘南藤沢校舎のテクニカルライティングについての私の教科書とクラスの最新状況を述べる.私の講座は地球標準の学校作文講座の日本語版である.教科書は随筆スタイルではなく純然たる教材のスタイルで新しく出版したものである.講座は部分的に再設計した.電子学習道具の活用の改善についても述べる.

目次 目次(ページ数の少ない文章には不要)
本文部

1.はじめに

2.講座の位置づけとクラス人数

3.講座の概要

4.教科書「日本語作文作法」

5.講座形態の改善

6.単元・章ごとの改善

7.おわりに

付録

参考文献

4.1 表題
 表題は主題を表す1行の文である.

 

 表題の配置は中央ぞろえである.配置は情報の内容ではなく,空間や時間の配り方である.

種類1: <名詞句>                                旅客機

種類2: <特色を表す形容句><種類を表す名詞句>    大型の旅客機

種類3: <種類を表す名詞句><限定を表す名詞句>    旅客機の燃料

種類4: <名詞句>と<名詞句>                    旅客機と客船

種類5: <目的語><述語の名詞句>                旅客機の操縦

 

 種類1のような単純な言葉では区別がつかない場合は,種類2のように特色を表す形容句を付ける.特色を表す形容句を二つ以上付けることもある.

 例: 表題「共有メモリを利用した高速応答型の負荷分散システム」

 

 種類3の限定の名詞句は種類を表す名詞句の部分や性質を指定する.

 種類2と種類3は区別がつかないこともある.例えば「旅客機の燃料」という表題は,航空機の学会なら種類3,燃料の学会なら種類2である.

 

 表題の最後には,調査活動の段階などや文章の種類を限定する名詞句などを付け加えることがある.
 この名詞句には,理論,実験,試作,入門,サーベイなどの例がある.ただし,研究や報告などという名詞句はつけない.

旅客機の試作

   〜の理論,実験,評価,実用,・・・  

   旅客機の研究,旅客機の開発    × 

旅客機のサーベイ

   〜の入門,概要,紹介,・・・      

   旅客機の報告              ×

4.2 著者と所属
■著者
 著者は文章を書いたか,またはレビューによって相当数の文字列の改善に貢献したレビュアーである.
 学術論文なら,著者名は所属の直前に,中央ぞろえにする.

表題

大学院生,助手,助教授,教授

xx大学

 この性質を利用すると第2章で述べた文献分析をして,ほかの会社の内部組織を推定できる.
 組織として提出する文章の場合は,所属・著者名の順にして,所属も著者名も右寄せにし,連名なら上司から部下へとという順に並べる.

表題

yy製作所

部長,課長,平社員

 共同研究者は共著者とは限らない.

■所属
 文章には責任の所在を明らかにしたり,問い合わせなどのために所属を書く.
 調査・研究と作文との間に異動した場合には,調査・研究をした時の旧所属を載せる.そして,1ページ目の欄外に注記として「現所属は〜」と書く.
4.3 抄録
■論文の抄録
 抄録はアブストラクトとも言い,文章の範囲と目的とを定義する一つの文段である.
 文段は話題文で始まり,いくつかの補足文が続いたものである.

@提示 旅客機を飛行させるにはいろいろな費用がかかる.

A差異 料金に比べて,費用のことは一般の人にあまり知られていない.

B結果 座席数の増加と費用の削減が,旅客機の料金を安くした.

C詳細 費用は,機体価格,燃料費,人件費,空港使用料などから成る.

D原因 技術の改善が座席数の増加や燃料費の削減をもたらした. 

E局面 この報告書は旅客機の費用削減の工夫を分類して述べる.  

 抄録の最終的な形を例で示す.

アブストラクト 旅客機を飛行させるにはいろいろな費用がかかる.料金に比べて,費用のことは一般の人にあまり知られていない.座席数の増加と費用の削減が,旅客機の料金を安くした.費用は,機体価格,燃料費,人件費,空港使用料などから成る.技術の改善が座席数の増加や燃料費の削減をもたらした.この報告書は旅客機の費用削減の工夫を分類して述べる.

 

 特定の話題に関心のある読者とその話題を含む文章とを縁組する手段が抄録である.


 

 

 前の例では,旅客機の費用や料金に関心を持っている人が,抄録によってこの文章の本文を読もうとする可能性がある.
 抄録を書く時の素材は,自分の発明・発見や作文の話題である.「近年,旅客機の価格低減競争が著しい」などの他人事の決まり文句や珍しい挿話に頼るべきではない.
4.4 目的と目標
 論文は主に学校や学会の文章であるが,いろいろな専門の文章にも抄録に相当する目的や範囲の記述がある.

 舵は計画や目的の象徴

 (ミネソタ州ミネトンカ湖)

 

目的 →→→→→→→ 目標1,目標2,目標3,目標4,目標5

■講座概要
 学校や会社の講座案内書はいくつかの講座の講座名・講座概要・学習目標などを載せた文章である.その中で講座概要が論文の抄録に相当する.
 講座概要は学習者を主語にして「〜を学ぶ」「〜を習得する」「〜を演習する」などの述語で終える.講座を始める時にどんな目的をめざし,講座の中でどんな活動をするのかを3行程度に簡潔に定義する.
 学習目標は講座概要より詳しい箇条書きで到達水準を定義する.学習目標は抄録に相当するものではない.目標は目的と違って,講座が終わった時にどうなるのかを「〜ができる」という述語で具体的に定義する.

■法律の目的
 法律の最初の方にある目的という名前の条項も論文の抄録に相当する.
 法律は社会の中の摩擦を裁く手段なので,ないに越したことはない.存在価値を明らかにするために目的という条文を書く.容疑者の行為にどの法律を適用するかを判断するのは高度な作業である.第一条には目的とともに範囲の簡潔な定義を書く.ただし古い法律はそうではない.

 


4.5 範囲定義
■適用範囲
 技術標準・作業標準などの最初の方にある「適用範囲」や特許明細書の最初の方にある「請求範囲」などの文段一つだけの章は論文の抄録に相当する.
 技術標準や作業標準は会社の内外の製品・部品・労働のやりとりを円滑にする.

■職務分掌
 職務分掌は個人または部門の仕事の範囲の簡潔な定義である.
 本の前書きは表紙と目次との間にあるいくつかの文段である.
 書店の客は表紙だけ見てその本を買うと決めることは少ない.
 前書きは複数の文段であってもよい.

4.6 キーワード
 表題部の最後,抄録の後にキーワード一覧を書く.
 キーワードは,表題や抄録の中の言葉および本文の中の言葉から選ぶ.
 読者の側はある話題に関心を持って,自分の蔵書や図書館などの文献の集合の中からその話題を含む部分集合を探し出す.
 例えば,ワールドワイドウェブというネットワーク上の電子文献の集合を「旅客機および燃料」というキーワードで検索すると,いくつかのウェブページという文献が見つかる.
 キーワードを用いる検索なら,探している話題を表題に含まない文献でも見つかる.
 表題,抄録,および粗筋の話題からキーワードを選ぶとよい.
君島浩のISD研究室.2000.10.13,2002.6.1.[ 戻る ] [ ホーム ] [ 上へ ] [ 進む ]