9.ニ泊目露営

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 吹雪の中で比較的平らな地面を見つけたので、縦穴を掘って露営することになった。炊事したが食料に十分に火を通すことができず、十分な食事はできなかった。

■1月24日
 身体の疲労と寒さとは知らず知らず眠りを催すの恐れあるより、午前2時一同は出発に決し前進したり。
 暁を待って田茂木野に向かい退却し始めたり。この時は近来希有の大吹雪にして、一寸先は黒白も分かぬほどなれば、非常なる困難を極め、進退することあたわぬ。またまた止むを得ず同夜同所において露営せざるべからざるに至れり。〜この夜続々凍死者あり。
 前露営地に引き帰らんとせしも、遂に目的地に達するあたわざるのみか、駒込川のあたりに出たり。前夜の露営地とは異なり、木なく、ために焚火するをえず。〜賽の河原の付近40メートルばかり北の山に露営することと決せし。

 山口少佐が露営を決定したが、雪穴や衣服に問題があり、睡魔に襲われて凍死する恐れがあると判断した。そこで、露営を中止して行軍を再開することに変えた。集団で穴居してじっとしていれば死ななかったという意見が後から出たが、現場の状況はその方がリスクが高かったのである。状況対応のリーダシップである。

 神成大尉が進退を指揮しないのは、大隊全体の進退は大隊長の山口少佐の責任だからである。行軍を再開すると先頭で指揮するのは神成大尉である。当然の分業なのである。山口少佐が強引に大隊を引っ張り回しているのではない。必要なら部下から反論を出すべきなのだが、既にリスクのある状況なので、部下には有力な代案がなかった。

 夜が明けると、山口少佐はついに退却を決定した。責任者は津川中佐であるが、大隊の進退は大隊長が専決すれば、連隊長が事後承認するのが普通である。複数の大隊をたばねる連隊長に許可を得るのは、時間が許さないことが多いからである。雪中行軍を1日経験したので、ある程度の研究成果が得られたという理由もある。

 新田次郎の小説は、山田少佐が甘い考えで独断的に決定しながら、次々と気まぐれで変更していると創作した。

 夏期の道路を横切る鳴沢という谷間の付近で、体力の限界に達して昏倒する兵士が続出した。ついに凍死、遭難の開始である。方位磁石が凍結して東西南北が分からない。帰り道が分からず、1泊目の露営地へ戻ろうとしても見つからない。1泊目の露営地より劣悪な山腹に露営した。方位磁石が凍結するということも、研究成果の一つである。

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