11.第5回事故調:設計不備を含む報告骨子

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■当初から耐久力の余裕不足=ボルト設計施工に問題=笹子トンネル事故・国交省調査(時事通信、2013.5.28)

 中央自動車道上り線の笹子トンネル(山梨県)で2012年12月、9人が死亡した天井板崩落事故で、天井板のつり金具を支えるアンカーボルトの設計や施工に問題があり、設計荷重に対して3〜4倍の余裕を持たせたとされていた耐久力が、実際には当初から不足していた可能性のあることが27日、分かった。国土交通省が調査報告書の骨子案をまとめ、28日午後に開催される有識者調査・検討委員会に提出する。
 事故原因はこのほか、ボルト接着剤の劣化や中日本高速道路(名古屋市)の点検が不十分だったことなどの複合的要因が考えられるという。
 国交省や関係者によると、笹子トンネルでは、トンネル最上部のコンクリートに開けた穴に、接着剤などの入ったカプセルを挿入した上で、ボルトを押し込んで接着させていたとされる。設計上、1本のボルトにかかる荷重は約1.2トンで、耐久力には3〜4倍の余裕があるとされていた。
 しかし国交省の調査で、施工の仕様書と完成図でボルト穴の深さが約2センチずれていたことが判明。実際に56カ所を調べた結果、9〜20.5センチとばらつきがあり、接着剤が十分に拡散されていないものもあった。同省はこれらの影響もあり、特に負荷のかかる天井が高い場所の一部で、完成当初から耐久力の余裕分が不足していた可能性があるとしている。

この記事は事故調査・検討委員会会議後の公表内容を、事前に受け取って会議開催前に報道したものである。国土交通省はこの公表が大ニュースになることを想定していたのではないか。

この記事の見出しには「死亡」の語句が入っていない。マスコミでは死亡事故という認識が風化しているのか。

国交省の委員会の報告骨子資料は、責任窓口ともいえる中日本高速道路の社名だけ明記し、ほかの社名は明記していない。米国のボストントンネル事故調査のように、部分責任を負う会社も明記すべきであった。

■笹子トンネル事故 換気の風圧でボルトに負荷か(NHK、5.28)

 中央自動車道の笹子トンネルの事故で、崩落した天井板などを固定していたボルトには換気による風圧で設計時の想定の2倍以上の力がかかっていたとみられることが、国の事故調査委員会の分析で新たに分かりました。調査委員会は28日、設計や施工、それに点検の不備などが重なって事故が起きたとする報告書の骨子を公表する方針です。
 中央自動車道の笹子トンネルでは去年12月、換気のために取り付けられていた天井板が崩落して9人が死亡する事故があり、その後、天井板や金具をつり下げていた接着剤で固定するタイプのボルトが数多く抜け落ちているのが見つかりました。
国の事故調査委員会が分析したところ、換気によって天井付近に生じる風圧で現場付近のボルトにかかっていた力は、設計時に想定された力の最大2.5倍程度だったとみられることが新たに分かりました
 これは設計上、ボルトにかかる力が均等になっておらず、天井板の上を左右に仕切る「隔壁板」という板にかかる風圧が十分考慮されていなかったとみられるためだということです。
 さらに車両が通過する際に生じる風圧もボルトに影響を与えた可能性があり、その回数は、トンネル開通以降の35年間でおよそ700万回に上ると推計しています。
 調査委員会のこれまでの調査では、ボルトの接着剤が劣化して強度が落ちていたことや、トンネルを管理する中日本高速道路がボルト部分の詳細な点検を10年余り行っていなかったことなどが分かっています。調査委員会は、天井板やボルトの設計や施工、それに点検の不備など、複数の要因が重なって事故が起きたとする報告書の骨子をまとめ、28日、公表する方針です。

これは委員会の説明内容をかなり忠実に伝えた報道である。忠実ではあるが、報道機関側の責任追及取材が欲しかった。

設計の問題は新たにに分かったことではない。3月の第3回会議の資料で公表済みであった。こういう表現は、5月までマスコミが事故調査・検討委員会のリリース情報を、ウオッチしていなかったことの表れである。

■第5回トンネル天井の落下事故に関する調査・検討委員会公開資料(2013.5.28)

この日の会議の直前に報告骨子が発表されることがマスコミへ知らされていた。この会議の配布資料は今までの会議の総集編であり、このあと文章形式にまとめたものが最終報告書になると予想される。

  (多数の天井板の落下は)落下区間の中央部が起点となり、両側に落下が広がったことが、可能性の一つとして推定される。

非構造物である天井板同士を連結していた設計が、落下範囲を広げた根本原因と思われるが、それには触れていない。天井板を撤去する方向に決まった結果か。

天井板同士を、連結していなければ死者は保冷車の一人だったと推測されるので、この報告骨子の結論は物足りない。捜査・告訴のためには更なる言及が必要である。再発防止策の検討という目的が強かったのか。

落下区間の状況

 (委員会の公表資料のトンネルの図に、筆者がつぶされたワゴン車と脱出できたセダンの写真を追加した。)

車線の幅は3.5mであり、通常の車線の幅の2倍である。追越し車線を走行中だったNHK甲府局の後藤記者のセダンは全幅が車線幅の約半分の約170cm、全高が約140cmと推定される。

セダンは、落下した天井板で左上後部が凹んだ状態で、東京方面出口へ脱出できた。追越し車線に落下した天井板の傾斜が45度程度だったのが不幸中の幸いだった。

走行車線のワゴン車は天井板によって全高の半分未満に押しつぶされた。床下の燃料タンク又は燃料パイプが破損して火災になったと推定される。

 抜けずに残った天頂部接着系ボルトの変形、抜け落ちたボルトの孔内における傷の状況〜、事故区間東京側から1番から12番のCT鋼部と13番から23番のCT鋼部の間で、ボルトの変形の向きや孔内における傷の向きが逆転していた。
 以上より〜11番目から13番目のCT鋼のいずれか、または、いくつかのが起点となり、そこから東京方向・名古屋方向の両方向に落下が広がったことが、可能性の一つとして推定される。

設計不備、施工バラツキ、点検もれなどが原因で落下したのは、落下起点の天井板だけである。その落下速度は通常の引張試験の想定速度の2倍であれば、速度エネルギーは4倍になって、隣接する天井板を容易に引っ張り落す。

引き続いて何枚もの天井板が落下することは、大勢で綱引きするような、あるいは流体荷重のような、速度の3乗に比例する荷重をもたらす。速度が2倍なら8倍のエネルギーになり、残りの個々の天井板は簡単に落下するはずだ。

資料4「ダクト断面別のアンカーボルトの設計」
 L断面のボルト反力は、設計荷重時12.2kN〜である。M及びS断面のボルト反力は、設計荷重時6.6〜7.4kNとL断面の0.5〜0.6倍と小さい。

 M、S断面では、設計の12mmボルトに対して(施工では)16mmボルトが使われており、L断面に比べて耐力に余裕があったものと思われる。同様に名古屋側L断面は、設計の16mmに対して20mmボルトが使われており、東京側L断面に比べて耐力に余裕があったものと思われる。

同じ笹子トンネルでも場所によって断面の大きさが異なる。断面の広い順に、L、M、S断面の3種類ある。最も天井板重量の重いL区間のボルトの太さは設計どおりであり、天井板重量の軽いM区間、S区間の方が設計より太いのは不思議である。

区間によっては、設計より強いボルトが施工された理由は記録にない。推測としてはM区間とS区間や名古屋側の施工監督者が、個人的に不安を感じて太いボルトに変えたのだろうか。

重量を支える構造物と、構造物に支えられるだけの非構造物の区別は、事故調査・検討委員会の資料には見られない。非構造物の天井板を廃止する方向に決めたので、区別は重要ではないと考えたのか。

■風圧負荷、劣化など累積=一部ボルトは耐久力不足―笹子トンネル事故・国交省検討委(時事通信、2013.5.28)

 中央自動車道上り線の笹子トンネル(山梨県)で2012年12月、9人が死亡した天井板崩落事故で、国土交通省の有識者調査・検討委員会は28日、トンネル内を換気した際の風圧による負荷や、天井板のつり金具を支えるアンカーボルトに使う接着剤の劣化などが累積し、事故につながったとする調査報告書の骨子をまとめた。早ければ6月中に報告書として公表する。
 当初からボルトの一部で荷重耐久力が不足していた可能性があり、設計施工の問題も指摘再発防止策として、天井板やジェットファンなどの固定に、接着剤を用いるボルトの使用を避けることなどを提案した。

この見出しも「死亡」という語句が抜けている。

「設計施工の問題も指摘」はおまけのような表現である。表面的な原因を究明した結果、再発防止で対処すべき根本原因が設計施工にあった。この方が重大問題なのだ。

ジェットファンは、気体という流体を噴射するので、速度の3乗に比例するエネルギーの反発が自分自身にもかかる。しかし、安全係数は航空機のジェットエンジン並みにすれば安全である。

全体として個性的に要約したという印象を受ける記事である。二次利用するための資料としては頼りにくい。

■想定外の風圧が一因か…笹子トンネル事故調査報告(テレビ朝日系、5.28)

 設計上、風圧を想定していなかったことがトンネル崩落の一因となったことが分かりました。
 去年12月、中央道の笹子トンネルで天井板が落下し、9人が死亡しました。国の事故調査委員会が調べたところ、天井板の上部で換気によって生じる風圧が、設計上、想定されていなかったことが新たに分かりました。この風圧で、天井板を固定するボルトに想定を最大で2.5倍ほど上回る力が加わり、崩落につながったとみられます。また、開通してから35年がたち、車両が通過する際の風圧も加わって、ボルトなどの耐久性が低下したということです。

設計の想定不足にニュースの重点を置いている。全体としては、想定外だったから仕方ないという感じを受ける。設計の不備を批判する姿勢が見えない。

「耐久性が低下」という表現はおかしい。耐久性は運用中に変化する性質ではなく、当初からの性質である。報告書骨子には「耐久性が低下」という語句は存在しない。

■<笹子トンネル崩落>複数の要因が重なり事故(毎日新聞、5.28)

 9人が死亡した山梨県の中央自動車道笹子トンネル崩落事故で、国土交通省の事故調査・検討委員会は28日、報告書の骨子をまとめた。天井板を固定するアンカーボルトに、換気などで生じる風圧が想定の2倍以上かかっていたことや、アンカーボルト自体の埋め込み不足など、複数の要因が重なり事故を招いたと結論付けた。【安高晋】
 笹子トンネルは換気のため、天井板を取り付け上部に空間を作っている。天井板を支えるつり金具を、アンカーボルトでトンネル最上部に固定していた。
 骨子によると、換気や大型車両が起こす風圧の影響は、設計では無視されていた。だがアンカーボルトにかかっていた力は、設計時の最大2.5倍に達していたとみられる。車が通る際に繰り返しかかった風圧は、35年間で700万回に及ぶと推計した。
 設計に加え、施工にも要因があった。アンカーボルトはトンネル最上部のコンクリートに開けた穴に、接着剤で固定される。だが、事故後の引き抜き検査で強度が弱かったボルトを調べると、穴の深さがボルトより平均で約3センチ長かった。そのため接着剤が行き渡らないまま先端に残ってしまい、施工当初から強度不足のボルトがあったと推測した。
 トンネル最上部のボルトについて、近距離からの目視や打音による点検を12年間にわたって実施していなかった中日本高速道路については「点検や管理が不十分だった」厳しく批判した。

見出しや第1文段は、設計責任があることをぼかしている。

報告書骨子案は「中日本高速の〜点検内容や維持管理体制は不十分であったと言わざるを得ない」と書いている。それなのにこの記事は、「中日本高速道路については『点検や管理が不十分だった』と厳しく批判した」と書かれている。報告書とは似て非なる記事である。点検は管理の一部である。「厳しく」は記者の主観である。中日本高速道路の責任は、設計・施工などすべてである。

記事を「9人死亡」で始めて「設計に加え、施工にも要因があった」と接続する全体構成は、自主性を重んじる毎日新聞の良さを感じさせる。その一方で文章の雑さが散見されるのも毎日新聞らしい。各自が共有できる作文技術が確立するとよいのだが。、

■笹子トンネル崩落:既存検査の限界も指摘 国交省報告書(毎日新聞、5.28)

 9人が死亡した山梨県の中央自動車道笹子トンネル崩落事故で、国土交通省の事故調査・検討委員会は28日、報告書の骨子をまとめた。調査では中日本高速による不十分な点検が問題になる一方、既存の調査手法の限界も指摘された。
 国交省は笹子トンネルに残ったボルト183本を調査。ハンマーでたたいて劣化を調べる「打音検査」と、ジャッキで引っ張り強度を確認する「引き抜き検査」を実施した。
 ボルト1本にかかる荷重は約1.2トン。設計上は約3倍まで耐えられるはずだったが、引き抜き検査では16本が1.2トン未満の力で抜けた。6本は打音検査で「安全」と判定されたものだった。
 国交省は「打音検査では劣化を完全には見抜けない」と判断。笹子と同じタイプの16カ所のトンネルについて「つり天井板は撤去が望ましい」とし、引き抜き検査の実施を求めた。これまで9カ所で天井板の撤去を決めている。国交省は打音検査にも一定の効果があるとしているが、老朽化する全国の道路や橋などの総点検に向け、今後も適切な点検法の模索が続くことになる。【安高晋】

前述の記事とは一部が同じで、それを補足する位置付けの記事なのだろうか。「調査手法の限界」は、「検査手法の限界」又は「試験手法の限界」が正しい。

報告骨子の重点は、一つは吊り天井の撤去であり、もう一つは鋼材の形状によりボルトの近接目視検査より打音検査が有効ということである。報告書骨子案には「引抜き検査の実施を求めた」に相当する語句は存在しない。

■笹子トンネル事故の報告書骨子「複数の原因あった」(TBS系JNN、5.28)

 中央道・笹子トンネルでの天井板崩落事故について、有識者委員会が「天井板を吊り下げるボルトに風圧が与える影響を過小評価したことなどの複数の原因があった」とする報告書の骨子をまとめました。
 今回の骨子では、トンネル内を換気する際の風圧や車が通過する際にこれまでにおよそ720万回生じたと推定される風圧が、天井板を吊り下げる「アンカーボルト」に与える影響が過小評価され、最大で想定のおよそ2.5倍の負荷がかかっていたこと、不適切な施工により初めから強度不足の「アンカーボルト」が一定数あったと思われること、12年間にわたり打音検査などが行われていなかったこと、などの複数の要因が重なり、事故が起こったとしています。
 また、中日本高速道路の管理体制については、「不十分と言わざるを得ない」と指摘しています。

技術的な細部を述べているので、視聴者には具体的なことが伝わる一方で、設計不備・施工不良という抽象概念が残りにくい。

この記事も管理体制のところだけ中日本高速道路が明記されているので、中日本高速道路の責任が管理体制だけのように聴こえる。この問題は報道だけの問題ではなく、報告書骨子の書き方の問題にさかのぼる。

■笹子トンネル事故 換気による風圧でボルトに想定以上の負荷(FNN、5.28)産経系

 山梨県の中央道・笹子トンネルの事故で、国の事故調査委員会は28日、崩落した天井板を支えるボルトに、換気による風圧で、設計時の想定の2倍以上の負荷がかかっていたなどとする報告書の骨子をとりまとめた。
 笹子トンネルでは、天井板が崩落し、現場には天井板のつり金具を固定するボルトが数多く抜け落ちていたことがわかっている
 その後の国の事故調査委員会の調べで、設計当時、換気の際の風圧について十分に考慮されておらず、ボルトに想定されていた2倍以上の負荷がかかっていたことがわかった。
 また、車両が通過する際に生じる風圧も、開通以降35年間で、およそ700万回繰り返しボルトにかかり、緩みにつながったとみられるという。
 報告書では、ほかにも今回の事故原因について、トンネルが完成した時点でボルトの接着剤が全体にいきわたらず、強度が弱い状態になっていたことや、NEXCO中日本の点検が不十分で、12年間、間近での目視や打音点検を行っていなかったことなどを挙げ、複合的なものだったとしている。

「抜け落ちたことがわかっている」は中日本高速道路の取材によるものであり、事故調査・検討委員会の各回会議の公表資料をウオッチしていれば、ほかのこともわかっていることであった。

各社の記事の中では、委員会の言いたいことをかなり適切に伝えている記事といえる。

委員会の言いたいことは伝えたが、視聴者にはだれの責任者かがあいまいであり、マスコミとしての批判表現は皆無である。

■笹子事故、風圧で想定の2・5倍負荷「事故は複合的要因」(産経新聞、5.28)

 山梨県の中央自動車道笹子トンネル天井板崩落事故で、国土交通省の事故調査・検討委員会は28日、設計時に天井板のつり金具を支えるボルトに換気の際などの風圧の影響が考慮されず想定を超える負荷がかかっていたことなどを指摘する報告書骨子をまとめた。
 骨子では、こうした設計時の不備に加え、ボルトを固定する接着剤の劣化や耐久性の知識の欠如、中日本高速道路(名古屋市)の不十分な点検や維持管理体制など、複合的な要因が事故につながったとした。
 骨子によると、笹子トンネルは金具でつり下げた天井板で上部に空間をつくり、その空間を隔壁で左右に分けて2本の換気ダクトとしている。金具は最上部のコンクリート部分に穴をあけてボルトを埋め込む形で接着剤で固定され、隔壁にも接続している。
 隔壁が換気の風圧を受ける際にボルトが引っ張られることが判明し、最大で想定の約2.5倍の負荷がかかっていた。しかし、設計段階ではこの風圧を考慮していなかったという。換気設備の運転・停止は開通から35年間で約21万回繰り返されていたとしている。

全体構成は、重要なことから細部へと並んでいて好ましい。しかし、責任問題は不明である。

■ボルトに設計の想定上回る負荷(日本経済新聞、2013.5.28)

 山梨県の中央自動車道笹子トンネルで起きた天井板崩落事故で、換気による風圧が天井板やボルトに与える影響を十分考慮した設計になっていなかったことが28日、国土交通省への取材でわかった。風圧により設計で想定した2倍以上の負荷がボルトにかかっていたとみられる。同省は同日午後に開かれる有識者による調査・検討委員会に調査結果を提出する
 国交省によると、同トンネル設計時、天井板を支えるボルトは1本あたり最大で1.2トンの荷重がかかることを想定していた。だが、換気によって天井付近で風圧が強まり、国交省のシミュレーションでは、天井板を支えるボルトなどに、設計時に想定した2倍以上の力がかかっていた可能性のあることが判明した。加えて、笹子トンネルを車両が通過する際の風圧も長期間、ボルトや天井板に負荷をかけ、耐久性の低下につながったとみられる。ボルトは想定した最大の荷重の3〜4倍に耐えられるよう設計されていたが、接着剤が十分についていなかったことや、経年劣化によって耐久力が低下。予想以上に換気時の風圧が強かったこともあり、天井板が崩落した可能性がある。

■笹子トンネル事故、ボルト一部強度不足 報告書骨子(日本経済新聞、5.28)

 山梨県の中央自動車道笹子トンネルで起きた天井板崩落事故で国土交通省は28日、調査報告書の骨子を公表した。トンネル完成当初から天井板を支えるボルトの一部に十分な強度がなかったことや、接着剤の劣化などを事故原因として指摘。常に荷重がかかる部分では、接着剤による固定を避けることなどを再発防止策に盛り込んだ。6月中にも報告書をまとめる。
 骨子によると、ボルトの強度不足の原因として、接着剤がボルトを挿入する穴に十分に行き渡っていなかったと指摘。均等に荷重がかかるようボルトを配置していなかったことも耐久力の低下につながったという。
 設計面では、トンネルの換気による風圧が天井板やボルトに与える影響を十分考慮しておらず、換気設備の稼働などによる風圧がボルトに負荷をかけたとみられる。
 トンネルは場所によって天井の高さが異なり、高い場所ではサイズの大きい天井板を使用。事故現場のボルトには他の場所に比べて2倍以上の負荷がかかり、強度不足だったボルトの固定がさらに弱まったとみている。

以上の二つの記事は、企業系新聞らしく、というべきか、企業系新聞の割にはというべきか、企業への批判点をちゃんと受け止めている記事である。設計問題に重点を置いているのも立派だ。

二つ目の記事は具体的な数値を挙げていないが、うまく抽象化していると思う。

日本経済新聞の記事は文章の乱雑さが見られない。じっくりと査読できる月刊雑誌の出版で、鍛えられているからだろうか。

■笹子トンネル「管理が不十分」(NHK、5.28)

 中央自動車道の笹子トンネルで天井板が崩落した事故で、国の事故調査委員会は、原因などに関する報告書の骨子をまとめました
 設計や施工、それに点検など、複数の要因が重なって重大な事故に至ったとして、中日本高速道路の点検や維持管理の体制が不十分だったと、厳しく指摘しています。去年12月に起きた中央自動車道の笹子トンネルの事故について、国の事故調査委員会は、原因などを分析した報告書の骨子をまとめました
 それによりますと、今回の事故は、天井板や金具をつり下げていた接着剤で固定するタイプのボルトが一部で抜けたのをきっかけに、天井板がおよそ140メートルにわたって連鎖的に崩落し、重大な事故に至ったと推定されるとしています。
 事故原因はボルトの周辺に絞られるとして、設計でボルトにかかる力が十分考慮されていなかったほか、完成時からすでに接着剤の強度が不足しているボルトがあったと考えられ、接着剤の劣化などによっても強度が低下していたなどと推定し、「設計や施工の段階から事故につながる要因を内在していた」と分析しています。
 また、トンネルを管理する中日本高速道路について、打音検査などの詳細な点検を12年間にわたって行っていなかったほか、補修を記録した書類などの保存に不備があって点検や維持管理に反映できていなかったとして、「点検内容や維持管理体制が不十分だった」と厳しく指摘しています。
 事故の再発防止策として、同じタイプのボルトで天井板を固定しているトンネルでは、可能な限り天井板を撤去するのが望ましく、撤去できない場合は二重の落下防止策をとるべきだとしています。
 さらに、や道路管理者などに対して、道路建設などで新しい材料を採用する場合、耐久性などを慎重に確認するとともに、点検や補修の記録を残して維持管理に反映させる仕組みを構築すべきだと指摘しました。
 調査委員会はさらに検討を重ねて、この夏をメドに最終的な報告書をとりまとめることにしています。国の事故調査委員会の委員長を務めている今田徹東京都立大学名誉教授は「中日本高速道路は12年間、詳細な点検を行っていなかったが、点検をやっていたら、不具合に気づくチャンスがあったかもしれず、結果的に点検は不十分だった」と述べました。
 その上で、「これからの時代はインフラの維持管理を十分に考え、長期の耐久性という点を十分に検討していくことが重要だ」と指摘しています。
 中央自動車道の笹子トンネルの事故で、国の事故調査委員会が報告書の骨子をまとめたことについて、事故で亡くなった石川友梨さん(当時28)の父親で、神奈川県横須賀市の信一さんは「どうしてあんなに重たい天井板を支えるボルトを、穴を開けて接着剤でとめるというやり方で固定したのか疑問だ。プロらしからぬ処置の仕方でずっと経過してしまったように思う。これは防げた事故だと思うのでそれを思うと、ただ悔しい」と話していました。
 中央自動車道の笹子トンネルの事故をめぐっては、警察は国の事故調査委員会とは別に、現場付近の天井板を固定していたボルトを詳しく鑑定するなどして原因の解明を進めています
 捜査関係者によりますと、これまでの調べで現場に落下したボルトの大半は接着剤に覆われた状態で、接着剤が劣化して天井板などを支えきれず、崩落したのではないかとみているということです。
 笹子トンネルでは、トンネルを管理する中日本高速道路などが、ボルトやその周辺をハンマーでたたいて異常を確認する「打音検査」を、現場付近では事故が起きるまでのおよそ12年間にわたって実施していなかったということで、警察はこうした点を中心に着目して、安全管理に問題がなかったか、業務上過失致死傷の疑いで捜査しています。

安全管理と維持管理の混同など、一貫性に欠ける表現である。テレビなので推敲が不足しやすいのだろうか。

国の責任を挙げているのは適切である。

委員長や遺族の生の発言を引用している。

「厳しく」指摘しているという副詞は、毎日新聞のと同じく放送局が挿入した主観である。

遺族の「あんなに重たい天井板を支えるボルトを、穴を開けて接着剤で」という発言は、技術的過ぎる表現であるが、要するに設計への取り組み態度が悪いことを指摘していると考えたい。重い物でも安全を保つことは技術的に可能である。

事故調査・検討委員会委員長の発言や遺族の発言を引用しているのはよい。

捜査関係者・警察からの情報が、生の発言の引用の形をしていないので、警察の捜査がどんな範囲でどんな対象者でどこまで進んでいるのかが伝わらない。事故調査・検討委員会の報告骨子が公表されたので、警察の捜査の取材が物足りなく感じられる。

■施工・設計不備…複合要因で笹子トンネル崩落(読売新聞、5.29)

 山梨県の中央自動車道・笹子トンネルの事故で、国土交通省の調査検討委員会は28日、天井板をつり下げるアンカーボルトの施工不良や天井板の設計の不備など、複合的な要因が崩落につながったとする報告書をまとめた。
 ハンマーで点検箇所をたたいて反響音などで劣化具合を調べる「打音検査」ではボルトの強度を正確に把握できないとして、今後はボルトを引っ張って強度を確認する検査を行うべきだと指摘した。
 報告書を受け、国交省は全国の道路管理者に対し、トンネル内の天井板や道路標識などを固定する部分に接着剤を使用したボルトを使わないよう通知する。調査委は、今回の調査結果を踏まえた最終報告書を6月中にまとめる方針。
 アンカーボルトはトンネル天井部分の穴に接着剤入りのカプセルを挿入してボルトを固定する仕組み。強度が低かったボルト56本を調べたところ、穴の深さが平均16センチなのに対し、ボルトは平均13センチしか届いておらず、接着剤も内部に十分に行き渡っていなかった。

見出しに設計不備を掲げてはいるが、何が最も重要なのかが伝わらない。さまざまな話題を列挙したという点では無難な記事ではある。報告書骨子が設計・施工不備という書き順なのに、施工・設計不備と逆転させているあたりに、読売新聞が設計不備のことを受け止めきれていない感じを受ける。

「打音検査では強度を正確に把握できない」「引っ張って強度を確認する検査を行べきだと指摘した」というのは、報告書骨子には見つからない。

国交省は、接着系ボルトで固定された既存の天井板については、可能な限り撤去することを3月に通知済みである。

■トンネル事故再発防止へ報告書骨子(NHK、5.29)

 中央自動車道笹子トンネルの天井板崩落事故で、国の事故調査委員会は28日、再発防止策を示した報告書の骨子をまとめ、点検や補修の記録を保存して維持管理に反映させるなど、被害防止のための取り組みを提言しました。
 去年12月、笹子トンネルの天井板が崩落して9人が死亡した事故について、国の事故調査委員会は28日、設計や施工、それに点検の複数の問題が重なって重大な事故に至ったとする報告書の骨子をまとめました。
 この中で事故の再発防止策が示され、笹子トンネルの天井板をつり下げていた接着剤を使うタイプのボルトは、ほかのトンネルなどで天井板や換気用のファン、案内標識などをつり下げる際にも原則として使用すべきでない初めて指摘しました。
 また、笹子トンネルで設計や補修などに関する過去の記録が十分に残っていなかったことを受けて、被害を防ぐために今後は設計や施工、点検、補修の各段階で、図面や不具合などの記録を保存し、その後の維持管理に反映させる仕組みを作るべきだと提言しています。
 さらに、国や自治体、道路会社などが不具合に関する情報を共有し、設計や点検などの基準の見直しを着実に進める必要があるとしています。
 事故調査委員会の委員長を務めている今田徹東京都立大学名誉教授は、「これからの時代はインフラの維持管理を考えて長期の耐久性という点を十分に検討していくことが重要だ」と話しています。
 最終的な報告書は、早ければ来月にもまとまる見込みで、国土交通省は、今後の道路の維持管理に反映させることにしています。

これも何が最も重要なのか伝わらないが、何回も維持管理を取り上げている。こういう一点集中はNHKの風土なのだろうか。

「初めて指摘した」のはもっと前の通知である。

国の責任を挙げているのは適切である。

■中央道トンネル崩落:損賠訴訟初弁論、7月29日に決定(毎日新聞山梨版、2013.5.29)

 昨年12月、9人が犠牲になった中央自動車道・笹子トンネル崩落事故を巡り、ワゴン車で通過中に死亡した男女5人の両親10人が中日本高速道路(名古屋市)などを相手取り、横浜地裁に起こした損害賠償請求訴訟の第1回口頭弁論が、7月29日に決まった。
 訴状で遺族側は、2006年に米国で起きた同様の事故が高速各社に報告され、2009年には笹子トンネルで天井板撤去計画もあったことなどから、「中日本高速は老朽化や改修の必要性を認識しており、事故を予見できた」と主張している。
 事故を巡っては、遺族が今年2月、中日本高速と子会社のトップら4人を刑事告訴し、山梨県警が業務上過失致死傷容疑で捜査を進めている。【飯田憲】 

遺族側の主張は、事故調査・検討委員会の報告骨子の公表より前のものだろうか。

損害賠償を求める訴訟は、訴訟の対象や証拠性について刑事訴訟よりは柔軟に対応できると思われる。

報告骨子を受けて、警察・検察による刑事訴訟の手続きも速やかに進んで欲しい。

■解説
 年間の交通事故死者数は、約4000人である。高速道路では約400人である。1日あたり1人ちょっとだ。高速道路は交差点がなく、車間距離を空けるので、物が落ちても、前方が渋滞停車をしていても、あまり危険ではないのである。一度に9人を「殺した」事故は、感情論ではなく客観的にも稀有な大事件である。米国のボストントンネル事故では1人死亡でもそれなりの賠償金が裁定された。

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