■当初から耐久力の余裕不足=ボルト設計施工に問題=笹子トンネル事故・国交省調査(時事通信、2013.5.28)
中央自動車道上り線の笹子トンネル(山梨県)で2012年12月、9人が死亡した天井板崩落事故で、天井板のつり金具を支えるアンカーボルトの設計や施工に問題があり、設計荷重に対して3〜4倍の余裕を持たせたとされていた耐久力が、実際には当初から不足していた可能性のあることが27日、分かった。国土交通省が調査報告書の骨子案をまとめ、28日午後に開催される有識者調査・検討委員会に提出する。 |
この記事は事故調査・検討委員会会議後の公表内容を、事前に受け取って会議開催前に報道したものである。国土交通省はこの公表が大ニュースになることを想定していたのではないか。 | |
この記事の見出しには「死亡」の語句が入っていない。マスコミでは死亡事故という認識が風化しているのか。 | |
国交省の委員会の報告骨子資料は、責任窓口ともいえる中日本高速道路の社名だけ明記し、ほかの社名は明記していない。米国のボストントンネル事故調査のように、部分責任を負う会社も明記すべきであった。 |
■笹子トンネル事故 換気の風圧でボルトに負荷か(NHK、5.28)
中央自動車道の笹子トンネルの事故で、崩落した天井板などを固定していたボルトには換気による風圧で設計時の想定の2倍以上の力がかかっていたとみられることが、国の事故調査委員会の分析で新たに分かりました。調査委員会は28日、設計や施工、それに点検の不備などが重なって事故が起きたとする報告書の骨子を公表する方針です。 |
これは委員会の説明内容をかなり忠実に伝えた報道である。忠実ではあるが、報道機関側の責任追及取材が欲しかった。 | |
設計の問題は新たにに分かったことではない。3月の第3回会議の資料で公表済みであった。こういう表現は、5月までマスコミが事故調査・検討委員会のリリース情報を、ウオッチしていなかったことの表れである。 |
■第5回トンネル天井の落下事故に関する調査・検討委員会公開資料(2013.5.28)
この日の会議の直前に報告骨子が発表されることがマスコミへ知らされていた。この会議の配布資料は今までの会議の総集編であり、このあと文章形式にまとめたものが最終報告書になると予想される。 |
(多数の天井板の落下は)落下区間の中央部が起点となり、両側に落下が広がったことが、可能性の一つとして推定される。 |
非構造物である天井板同士を連結していた設計が、落下範囲を広げた根本原因と思われるが、それには触れていない。天井板を撤去する方向に決まった結果か。 | |
天井板同士を、連結していなければ死者は保冷車の一人だったと推測されるので、この報告骨子の結論は物足りない。捜査・告訴のためには更なる言及が必要である。再発防止策の検討という目的が強かったのか。 |
落下区間の状況
(委員会の公表資料のトンネルの図に、筆者がつぶされたワゴン車と脱出できたセダンの写真を追加した。) |
車線の幅は3.5mであり、通常の車線の幅の2倍である。追越し車線を走行中だったNHK甲府局の後藤記者のセダンは全幅が車線幅の約半分の約170cm、全高が約140cmと推定される。 | |
セダンは、落下した天井板で左上後部が凹んだ状態で、東京方面出口へ脱出できた。追越し車線に落下した天井板の傾斜が45度程度だったのが不幸中の幸いだった。 | |
走行車線のワゴン車は天井板によって全高の半分未満に押しつぶされた。床下の燃料タンク又は燃料パイプが破損して火災になったと推定される。 |
抜けずに残った天頂部接着系ボルトの変形、抜け落ちたボルトの孔内における傷の状況〜、事故区間東京側から1番から12番のCT鋼部と13番から23番のCT鋼部の間で、ボルトの変形の向きや孔内における傷の向きが逆転していた。 |
設計不備、施工バラツキ、点検もれなどが原因で落下したのは、落下起点の天井板だけである。その落下速度は通常の引張試験の想定速度の2倍であれば、速度エネルギーは4倍になって、隣接する天井板を容易に引っ張り落す。 | |
引き続いて何枚もの天井板が落下することは、大勢で綱引きするような、あるいは流体荷重のような、速度の3乗に比例する荷重をもたらす。速度が2倍なら8倍のエネルギーになり、残りの個々の天井板は簡単に落下するはずだ。 |
資料4「ダクト断面別のアンカーボルトの設計」 M、S断面では、設計の12mmボルトに対して(施工では)16mmボルトが使われており、L断面に比べて耐力に余裕があったものと思われる。同様に名古屋側L断面は、設計の16mmに対して20mmボルトが使われており、東京側L断面に比べて耐力に余裕があったものと思われる。 |
同じ笹子トンネルでも場所によって断面の大きさが異なる。断面の広い順に、L、M、S断面の3種類ある。最も天井板重量の重いL区間のボルトの太さは設計どおりであり、天井板重量の軽いM区間、S区間の方が設計より太いのは不思議である。 | |
区間によっては、設計より強いボルトが施工された理由は記録にない。推測としてはM区間とS区間や名古屋側の施工監督者が、個人的に不安を感じて太いボルトに変えたのだろうか。 | |
重量を支える構造物と、構造物に支えられるだけの非構造物の区別は、事故調査・検討委員会の資料には見られない。非構造物の天井板を廃止する方向に決めたので、区別は重要ではないと考えたのか。 |
■風圧負荷、劣化など累積=一部ボルトは耐久力不足―笹子トンネル事故・国交省検討委(時事通信、2013.5.28)
中央自動車道上り線の笹子トンネル(山梨県)で2012年12月、9人が死亡した天井板崩落事故で、国土交通省の有識者調査・検討委員会は28日、トンネル内を換気した際の風圧による負荷や、天井板のつり金具を支えるアンカーボルトに使う接着剤の劣化などが累積し、事故につながったとする調査報告書の骨子をまとめた。早ければ6月中に報告書として公表する。 |
この見出しも「死亡」という語句が抜けている。 | |
「設計施工の問題も指摘」はおまけのような表現である。表面的な原因を究明した結果、再発防止で対処すべき根本原因が設計施工にあった。この方が重大問題なのだ。 | |
ジェットファンは、気体という流体を噴射するので、速度の3乗に比例するエネルギーの反発が自分自身にもかかる。しかし、安全係数は航空機のジェットエンジン並みにすれば安全である。 | |
全体として個性的に要約したという印象を受ける記事である。二次利用するための資料としては頼りにくい。 |
■想定外の風圧が一因か…笹子トンネル事故調査報告(テレビ朝日系、5.28)
設計上、風圧を想定していなかったことがトンネル崩落の一因となったことが分かりました。 |
設計の想定不足にニュースの重点を置いている。全体としては、想定外だったから仕方ないという感じを受ける。設計の不備を批判する姿勢が見えない。 | |
「耐久性が低下」という表現はおかしい。耐久性は運用中に変化する性質ではなく、当初からの性質である。報告書骨子には「耐久性が低下」という語句は存在しない。 |
■<笹子トンネル崩落>複数の要因が重なり事故(毎日新聞、5.28)
9人が死亡した山梨県の中央自動車道笹子トンネル崩落事故で、国土交通省の事故調査・検討委員会は28日、報告書の骨子をまとめた。天井板を固定するアンカーボルトに、換気などで生じる風圧が想定の2倍以上かかっていたことや、アンカーボルト自体の埋め込み不足など、複数の要因が重なり事故を招いたと結論付けた。【安高晋】 |
見出しや第1文段は、設計責任があることをぼかしている。 | |
報告書骨子案は「中日本高速の〜点検内容や維持管理体制は不十分であったと言わざるを得ない」と書いている。それなのにこの記事は、「中日本高速道路については『点検や管理が不十分だった』と厳しく批判した」と書かれている。報告書とは似て非なる記事である。点検は管理の一部である。「厳しく」は記者の主観である。中日本高速道路の責任は、設計・施工などすべてである。 | |
記事を「9人死亡」で始めて「設計に加え、施工にも要因があった」と接続する全体構成は、自主性を重んじる毎日新聞の良さを感じさせる。その一方で文章の雑さが散見されるのも毎日新聞らしい。各自が共有できる作文技術が確立するとよいのだが。、 |
■笹子トンネル崩落:既存検査の限界も指摘 国交省報告書(毎日新聞、5.28)
9人が死亡した山梨県の中央自動車道笹子トンネル崩落事故で、国土交通省の事故調査・検討委員会は28日、報告書の骨子をまとめた。調査では中日本高速による不十分な点検が問題になる一方、既存の調査手法の限界も指摘された。 |
前述の記事とは一部が同じで、それを補足する位置付けの記事なのだろうか。「調査手法の限界」は、「検査手法の限界」又は「試験手法の限界」が正しい。 | |
報告骨子の重点は、一つは吊り天井の撤去であり、もう一つは鋼材の形状によりボルトの近接目視検査より打音検査が有効ということである。報告書骨子案には「引抜き検査の実施を求めた」に相当する語句は存在しない。 |
■笹子トンネル事故の報告書骨子「複数の原因あった」(TBS系JNN、5.28)
中央道・笹子トンネルでの天井板崩落事故について、有識者委員会が「天井板を吊り下げるボルトに風圧が与える影響を過小評価したことなどの複数の原因があった」とする報告書の骨子をまとめました。 |
技術的な細部を述べているので、視聴者には具体的なことが伝わる一方で、設計不備・施工不良という抽象概念が残りにくい。 | |
この記事も管理体制のところだけ中日本高速道路が明記されているので、中日本高速道路の責任が管理体制だけのように聴こえる。この問題は報道だけの問題ではなく、報告書骨子の書き方の問題にさかのぼる。 |
■笹子トンネル事故 換気による風圧でボルトに想定以上の負荷(FNN、5.28)産経系
山梨県の中央道・笹子トンネルの事故で、国の事故調査委員会は28日、崩落した天井板を支えるボルトに、換気による風圧で、設計時の想定の2倍以上の負荷がかかっていたなどとする報告書の骨子をとりまとめた。 |
「抜け落ちたことがわかっている」は中日本高速道路の取材によるものであり、事故調査・検討委員会の各回会議の公表資料をウオッチしていれば、ほかのこともわかっていることであった。 | |
各社の記事の中では、委員会の言いたいことをかなり適切に伝えている記事といえる。 | |
委員会の言いたいことは伝えたが、視聴者にはだれの責任者かがあいまいであり、マスコミとしての批判表現は皆無である。 |
■笹子事故、風圧で想定の2・5倍負荷「事故は複合的要因」(産経新聞、5.28)
山梨県の中央自動車道笹子トンネル天井板崩落事故で、国土交通省の事故調査・検討委員会は28日、設計時に天井板のつり金具を支えるボルトに換気の際などの風圧の影響が考慮されず想定を超える負荷がかかっていたことなどを指摘する報告書骨子をまとめた。 |
全体構成は、重要なことから細部へと並んでいて好ましい。しかし、責任問題は不明である。 |
■ボルトに設計の想定上回る負荷(日本経済新聞、2013.5.28)
山梨県の中央自動車道笹子トンネルで起きた天井板崩落事故で、換気による風圧が天井板やボルトに与える影響を十分考慮した設計になっていなかったことが28日、国土交通省への取材でわかった。風圧により設計で想定した2倍以上の負荷がボルトにかかっていたとみられる。同省は同日午後に開かれる有識者による調査・検討委員会に調査結果を提出する。 |
■笹子トンネル事故、ボルト一部強度不足 報告書骨子(日本経済新聞、5.28)
山梨県の中央自動車道笹子トンネルで起きた天井板崩落事故で国土交通省は28日、調査報告書の骨子を公表した。トンネル完成当初から天井板を支えるボルトの一部に十分な強度がなかったことや、接着剤の劣化などを事故原因として指摘。常に荷重がかかる部分では、接着剤による固定を避けることなどを再発防止策に盛り込んだ。6月中にも報告書をまとめる。 |
以上の二つの記事は、企業系新聞らしく、というべきか、企業系新聞の割にはというべきか、企業への批判点をちゃんと受け止めている記事である。設計問題に重点を置いているのも立派だ。 | |
二つ目の記事は具体的な数値を挙げていないが、うまく抽象化していると思う。 | |
日本経済新聞の記事は文章の乱雑さが見られない。じっくりと査読できる月刊雑誌の出版で、鍛えられているからだろうか。 |
■笹子トンネル「管理が不十分」(NHK、5.28)
中央自動車道の笹子トンネルで天井板が崩落した事故で、国の事故調査委員会は、原因などに関する報告書の骨子をまとめました。 |
安全管理と維持管理の混同など、一貫性に欠ける表現である。テレビなので推敲が不足しやすいのだろうか。 | |
国の責任を挙げているのは適切である。 | |
委員長や遺族の生の発言を引用している。 | |
「厳しく」指摘しているという副詞は、毎日新聞のと同じく放送局が挿入した主観である。 | |
遺族の「あんなに重たい天井板を支えるボルトを、穴を開けて接着剤で」という発言は、技術的過ぎる表現であるが、要するに設計への取り組み態度が悪いことを指摘していると考えたい。重い物でも安全を保つことは技術的に可能である。 | |
事故調査・検討委員会委員長の発言や遺族の発言を引用しているのはよい。 | |
捜査関係者・警察からの情報が、生の発言の引用の形をしていないので、警察の捜査がどんな範囲でどんな対象者でどこまで進んでいるのかが伝わらない。事故調査・検討委員会の報告骨子が公表されたので、警察の捜査の取材が物足りなく感じられる。 |
■施工・設計不備…複合要因で笹子トンネル崩落(読売新聞、5.29)
山梨県の中央自動車道・笹子トンネルの事故で、国土交通省の調査検討委員会は28日、天井板をつり下げるアンカーボルトの施工不良や天井板の設計の不備など、複合的な要因が崩落につながったとする報告書をまとめた。 |
見出しに設計不備を掲げてはいるが、何が最も重要なのかが伝わらない。さまざまな話題を列挙したという点では無難な記事ではある。報告書骨子が設計・施工不備という書き順なのに、施工・設計不備と逆転させているあたりに、読売新聞が設計不備のことを受け止めきれていない感じを受ける。 | |
「打音検査では強度を正確に把握できない」「引っ張って強度を確認する検査を行べきだと指摘した」というのは、報告書骨子には見つからない。 | |
国交省は、接着系ボルトで固定された既存の天井板については、可能な限り撤去することを3月に通知済みである。 |
■トンネル事故再発防止へ報告書骨子(NHK、5.29)
中央自動車道笹子トンネルの天井板崩落事故で、国の事故調査委員会は28日、再発防止策を示した報告書の骨子をまとめ、点検や補修の記録を保存して維持管理に反映させるなど、被害防止のための取り組みを提言しました。 |
これも何が最も重要なのか伝わらないが、何回も維持管理を取り上げている。こういう一点集中はNHKの風土なのだろうか。 | |
「初めて指摘した」のはもっと前の通知である。 | |
国の責任を挙げているのは適切である。 |
■中央道トンネル崩落:損賠訴訟初弁論、7月29日に決定(毎日新聞山梨版、2013.5.29)
昨年12月、9人が犠牲になった中央自動車道・笹子トンネル崩落事故を巡り、ワゴン車で通過中に死亡した男女5人の両親10人が中日本高速道路(名古屋市)などを相手取り、横浜地裁に起こした損害賠償請求訴訟の第1回口頭弁論が、7月29日に決まった。 |
遺族側の主張は、事故調査・検討委員会の報告骨子の公表より前のものだろうか。 | |
損害賠償を求める訴訟は、訴訟の対象や証拠性について刑事訴訟よりは柔軟に対応できると思われる。 | |
報告骨子を受けて、警察・検察による刑事訴訟の手続きも速やかに進んで欲しい。 |
■解説
年間の交通事故死者数は、約4000人である。高速道路では約400人である。1日あたり1人ちょっとだ。高速道路は交差点がなく、車間距離を空けるので、物が落ちても、前方が渋滞停車をしていても、あまり危険ではないのである。一度に9人を「殺した」事故は、感情論ではなく客観的にも稀有な大事件である。米国のボストントンネル事故では1人死亡でもそれなりの賠償金が裁定された。