12.事故調査最終報告:責任追及報道休業

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■笹子トンネル事故で最終報告書…教訓も指摘(読売新聞、2013.6.18)

 山梨県の中央自動車道・笹子トンネルの事故で、国土交通省の調査検討委員会は18日、最終報告書を公表し、類似事故の再発防止策として、全国の道路管理者に点検や補修記録の保存などを求めた。
 事故原因については、天井板をつり下げるアンカーボルトの施工不良や点検の不備など、複合的な要因だったとする中間報告書の内容を踏襲した。
 同委員会は、トンネルを管理する中日本高速道路が点検や補修の記録を適切に管理していなかったことを重視。事故の教訓として、道路管理者は記録を保存し、点検結果がその後の点検や補修に生かされる仕組み作りをすべきだと指摘した。
 最終報告書を受け、中日本高速道路は「ご遺族の皆さまに深くおわび申し上げます。抜本的な組織改革案を秋までにとりまとめ、再発防止の徹底と信頼の回復に努めます」とのコメントを出した。

 「中間報告書」というものは存在しない。最終報告書は「報告書(骨子案)」という粗筋を正式に文章にした版であるから、内容を踏襲しているのは当たり前である。

5月29日の読売新聞記事は、さまざまな話題を取り上げた無難なものであったのに対して、今回は設計不備の話題を落し、記録の保存に重点を絞った。ほかの報道社に比べて特異な感じを受ける。

■笹子トンネル崩落で最終報告 直接原因の特定至らず(朝日新聞、2013.6.19)

 中央自動車道笹子トンネルの天井板崩落事故で、国土交通省の調査検討委員会は18日、事故のメカニズムをまとめた最終報告書を公表した。直接的な原因の特定には至らなかったものの、設計と施工の不備接着剤の劣化、不十分な点検など複数の要因が事故を引き起こしたと位置づけた。
 報告書によると、換気のための天井部を設計した際に、風圧を十分に考慮しなかったため、天井板を固定するボルトへの荷重が少なくとも想定の約1.6倍かかっていた。また、ボルトを埋め込む際の穴が深すぎたり、隙間があったりしたため、接着剤がボルトに十分に付いておらず、「設計施工段階から事故につながる要因を内在していた」と指摘した。
 さらに、トンネル完成から約35年という時間の経過にも着目。換気を20万回以上繰り返したことによる負荷がボルトにかかり、接着剤の強度低下や内部の亀裂が生じやすかったという。水の浸透による成分変化も生じて、劣化が進行したと推定した。〜

見出しはぼやけた表現だが、本文は設計や施工や劣化を取り上げており、重点先行の記事だといえる。

しかし、調査報告書の内容を伝達しているだけであり、責任を追求する情報がない。

■天井板崩落原因は「複合的要因」 笹子トンネル事故で国交省事故調(産経ニュース、2013.6.19 00:35) 

 山梨県の中央自動車道笹子トンネル天井板崩落事故で、国土交通省の事故調査・検討委員会は18日、天井板のつり金具を支えるボルトの一部に施工時から十分な強度がなかったことや、ボルトを固定する接着剤の劣化などの複合的な要因が崩落につながったとする最終報告書をまとめた。
 金具は最上部のコンクリート部分に穴をあけ、ボルトを埋め込む形で接着剤で固定。報告書では事故後のボルトの引き抜き試験などの結果、穴の深さがボルトよりも長く完成当時から接着剤が行き渡らず強度不足が生じていたボルトもあったと推察した。
 また、計算上は換気時の風圧でボルトに設計時の想定より約1.6倍の荷重がかかっていたことやボルトの耐久性に関する知識の不足に加え、管理する中日本高速道路が12年間にわたりボルトの状態を近くで見て確認していなかったことなど不十分な維持管理体制などもあったと批判した。

一般的な結論から専門的な細部へと説明している。朝日新聞に比べると、報告書の専門的表現に手を加えて分かりやすくしたといえるが、鋭さは減ってしまった。

■笹子トンネル、ボルトの耐久力低下し崩落招く 国交省報告書(日本経済新聞、2013/6/18 21:42)

 山梨県の中央自動車道笹子トンネルで起きた天井板崩落事故で、有識者による国土交通省の調査・検討委員会は18日、事故原因についての報告書を公表した。施工不良接着剤の劣化、換気の風圧などによってつり金具のアンカーボルトの耐久力が低下し、天井板の崩落を招いたと推定した。
 報告書によると、事故現場付近はトンネル内の他の場所より大きく重い天井板を使用。当初からボルトの穴に接着剤が行き渡らず強度が不十分だった箇所があったほか、コンクリートに含まれる水分で接着剤の劣化が進んでいた。換気による風圧も設計時の想定より大きかったとみられる。
 報告書は「事故が生じたという結果を踏まえれば、中日本高速道路会社の点検内容や維持管理体制は不十分だったと言わざるを得ない」とも指摘した。

「耐久力が低下」という表現は日本語としておかしく、最終報告書にはない表現である。

日本経済新聞の報告書骨子の時の記事に比べると「設計」という語句がなくなった。

■ボルト耐久力不足指摘=笹子事故で報告書―国交省検討委(時事通信社、(2013.6.18.23:40) 

 中央自動車道上り線の笹子トンネル(山梨県)で2012年12月、9人が死亡した天井板崩落事故で、国土交通省の有識者調査・検討委員会は18日、事故調査報告書を公表した。完成当初から天井板のつり金具を支えるアンカーボルトの一部で、荷重耐久力が不足していた可能性などを指摘した。
 報告書によると、ボルトはトンネル天頂部に開けた穴に接着剤で固定。事故後の抽出調査で、穴の深さが平均15.7センチだったのに、ボルトは平均12.9センチしか差し込まれていなかった。このため、隙間ができて接着剤が浸透していないものがあり、完成当初から耐久力不足を招いたとみられる。
 また、換気時に起こる風の影響が十分考慮されておらず、シミュレーションでは設計値の少なくとも約1.6倍の負荷がかかっていた。
 これらに加え、開通から約35年間で風圧による繰り返し荷重や水分などによって接着剤の強度が低下したり、中日本高速道路(名古屋市)の点検が不十分だったりしたことにも言及。検討委は「複数の要因が累積した結果、事故に至った」としている。

第1文段で「死亡」の語句を入れているのは妥当である。

報道が重視しなかった報告書の内容項目

 最終報告書の内容の中で、あまり報道されなかった話題は次のとおりである。

調査・検討委員会が実施する調査は、〜事故の責任の所在を明らかにすることを目的に行うものではない

東京側から11番目から13番目のCT鋼のいずれか、または、いくつかが起点となり、そこから東京方向・名古屋方向の両方向に落下が広がったことが、落下時の挙動の可能性として推定される。

近接点検(近接目視、打音及び触診)を確実に実施し、引抜強度を喪失したボルトを捕捉することは、適切な措置を取るために有効であることを確認した。(筆者注:近接目視点検は鋼板がじゃまになって、やりにくいことがある。打音は期待できる。)

隣り合う天井板が 1 枚の隔壁板を介して連結されていたことで、約140mの区間にわたり連続して落下したと推定される。

道路管理者が設計施工基準を持たない新しい材料、製品、構造部材等の採用にあたっては、その破壊形態、抵抗特性や長期耐久性などの性能が確認された範囲で、かつ明示された使用条件の範囲で用い、その採用を行う箇所、部位を慎重に選択するべきある。

部材の一部の損傷等が原因となって構造系の崩壊などの致命的な状態に至る可能性の回避に配慮した設計とすべき。

構造物並びに添架物や設備、照明、標識等付属物等の設計基準等においても、その改訂に合わせて反映されるべきである。

引張り試験等の載荷試験によることなく強度を推定できる非破壊検査手法の技術開発が望まれる。

本事故は、通常の供用状態下において、道路構造物が原因となり、多くの死亡者・負傷者が生じた我が国において例を見ない重大な事故であり、二度とこの様な事故が発生しないよう、本報告の趣旨を踏まえ、各道路管理者が直ちに再発防止策を講じることを期待するとともに、点検要領の整備、設計基準の改訂及び新技術の開発などが着実に進められることを望む。

この最終報告書は、責任を追求する裁定報告書ではない。それがゆえに国交省にしてはおおむねいさぎよい見解をまとめることができた。全体像は天井板連結問題などを除けばかなり明確にされた。

一方で、この最終報告書は警察・検察・報道機関にとっては、責任追及や賠償裁定の重要な手掛かりになる。その割には報道取材が物足りない。

刑事訴訟、民事訴訟などで責任を追求する場合には、本件のような大規模・複雑なテーマは立証に手間取ることが予想されるが、被告が責任を認めずに賠償金を認めて訴訟期間を短縮することはありえる。

「多くの死亡者が生じた例を見ない重大な事故」の原因は「落下が広がった」ことであり、その原因は「天井板が〜連結されていた」ことと推定されている。これは責任追及の傍証になる。

報告書では原則として天井板の「落下」と表現しているのに、「崩壊などの致命的(字義は致死的)」とも表現している。鋭い表現として注目すべきである。

設計基準等の責任者や起案者は国や学協会である。

「多くの死亡者が生じた例を見ない重大な事故」であるからには、少なくとも賠償はそれなりのものであるべきだろう。

しかし、報道記事は報告書骨子の公表の時よりも、「厳しく」などの作文が減り、穏やかな表現にまとまってしまった。裁判が始まるまで一次休業ということなのか。報道機関の取材管理がどうなっているか、私のような部外者が知るのは困難である。多人数の死亡事故であっても、事故発生と裁判開始との間は報道が減るのが普通なのだろうか。

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