10.第4回事故調査委員会と天井撤去通達

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■第4回トンネル天井の落下事故に関する調査・検討委員会の公表資料(2013.3.27)

 天井のコンクリート壁の強度には問題がない。吊り下げ金具の金属ボルト部分には問題がない。事故原因の着目部分は、金属ボルトの回りの接着剤部分に絞り込んでよい。吊り下げ鋼材が介在することによるボルトへの荷重の影響などについて、さらに検討すべきだ。
 建設時の体制 設計監督:日本道路公団高速道路東京建設局
           設計受注:潟pシフィックコンサルタント(1972年〜)
           施工管理:東京第二建設局笹子工事区、潟pシフィックコンサルタンツ
           施工受注:大成建設梶A(一次下請け)建設ファスナー梶i現潟Pー・エフ・シー)

構造設計対象の構造物(吊り金具、吊り鋼材、側壁の受台)と対象外の非構造物(天井板)を区別する表現が、配布資料や議事要旨には見られない。その結果として、非構造物同士の干渉や非構造物から構造物への干渉の検討が欠ける恐れがある。

民営化後は、中日本高速道路は旧日本道路公団の事業を引き継いだことになる。

ボストン・トンネル事故の裁定が本件にも当てはまるとすれば、これらの複数の会社も賠償の支払い者になり得る。

「建設コンサルタント」「パシフィックコンサルタンツ」(wikipedia) 

 昭和34年1月、建設省事務次官通達によって、〜いわゆる「設計・施工分離の原則」が明確化され、設計業務(調査、計画、設計)を行う国内の建設コンサルタントの確立に向かうことになった。この背景には昭和32年5月に成立した技術士法があった。この技術士制度は〜欧米諸国の土木技術界に精通していた白石多士良と宗城の兄弟や平山復二郎らが、〜導き出されたとされる。
 1951年9月には、白石宗城、アントニン・レイモンド、およびエリック・フロアの均等出資によるPacific Consultants Inc.をアメリカに登記し、体制を整え始めた。1954年日米合弁会社を解散し、日本法人パシフィックコンサルタンツ株式会社を設立。

 

 アンカーボルトの埋め込み長が、特記仕様書は152.19mm、設計図は130mmと矛盾。
 接着系アンカーのカタログ諸元は、引張耐力N/mm2

N(ニュートン)には速度の要因が含まれる。しかし、建設業界では静かに引っ張る力を想定しているだけのようであり、衝撃が繰り返される力は想像していなかったようだ。

 (2006年の米国ボストントンネル事故の2007年の対処策)ボストントンネル事故の主原因は持続引張荷重に対して抵抗性能のない速硬型エポキシ樹脂の接着系アンカーであり、今後これらの製品を使用しないように呼びかけた。(次の文は2008年の変更)
 長期間のクリープ性能の認証過程が認められるまで、接着系アンカーを使用しないこと。

この調査によって、国交省がボストントンネル事故の2007年・2008年の対処策を導入せずに今日に至ったことを、事故調査・検討委員会を通じて認めたといえる。

したがって、この事故調査・検討委員会は事務局である国土交通省に対して遠慮のない見解を述べたといえる。再発防止のためには当然であろう。

 設計面では、CT鋼を介して天井板を吊るす構造では、極めて点検しづらい特性である。

マスコミは従来「近接目視点検をしてもボルト内部は見えない」と述べていた。正確にはボルト内部が見える必要はなく、ボルトが浮いているかどうかが見えれば点検は可能である。しかし、近接目視点検をしても、アンカーボルトの頭の六角の部分が見えるだけである。それ以外は鋼板が覆っているので見えない。技術以前の素朴な問題だったのである。

マスコミは「近接目視点検にはハシゴが必要なので、何kmもハシゴで点検するのは時間的に無理」とも述べていた。そういうことは現場や当局の判断を引用すべきである。近接目視点検には支障があるが、打音試験は有効と報告されている。

事故調査・検討委員会では、点検よりも設計・施工の責任が大きいと判断した結果、天井板方式をやめる方向になったのではないか。

 矢野明義他の学会報告によれば「静的荷重に対する耐力の50%以上の荷重が持続すると、最終的には抜け落ちてしまう」

安全係数3倍で設計しても、施工のバラツキで2倍の箇所が生じると、抜け落ちる。

 松崎育弘ほかの学会報告によれば、200万回引張疲労耐力は、静的耐力の約65%である。

荷重が持続するよりも、荷重が加わったり加わらなかったりする変化の繰り返しの方が劣化しやすい。

繰返荷重の原因は二つある。

− 車両通過時の風圧で、35年間で700万回程度の繰返荷重が吊り具へ加わる。
− 換気設備の運転・停止は、35年間で20万回程度の繰返荷重が加わる。

■速度に敏感な荷重

〔技術計算〕ボルト・スクリュープラグ・ノックピンの強度(jp.misumi-ec.comより引用)

静的引張荷重を1とした時の安全係数
  静荷重の安全係数3、
  繰返荷重の安全係数5、
  衝撃荷重の安全係数12
(筆者注:流体・連続体荷重の安全係数24) 

衝撃荷重なら、安全係数3どおりに施工が徹底しても、簡単に抜け落ちる。

水流や竜巻や連接天井板などの流体・連続体荷重は、速度の3乗に比例するので、速度2倍でエネルギーは8倍になり、安全係数は24となる。

(「第三の荷重『衝撃力』(日経アーキテクチャ、2011.8.10号) 

 固定荷重、積載荷重、〜東日本大震災では、誰も注目してこなかった 「第3の荷重」が原発建屋を次々に吹き飛ばし、建物を押し流した。衝撃荷重は〜いったん牙をむけば、その社会的影響ははかりしれない。 

安全係数の5や12や24の構造物は実在するので、技術的・費用的に格別に難しいというわけではない。東日本大震災でも鉄筋コンクリートの建物は津波でも倒壊しなかったものが多かった。

自動車の足回りもジャンポ旅客機のジェットエンジンも、巨大な荷重を継続的に受け止めているが、設計・施工・点検によって十分に安全である。笹子トンネルの設計・施工・点検はどこまで荷重や安全係数を認識していただろうか。

■トンネル内の天井板等の第三者被害防止対策について(国土交通省通達)(2013.3.29)

 接着系ボルトで固定された既存の天井板については、〜可能な限り撤去されたい。
 常時引張り力を受ける接着系ボルトで固定されたその他の吊り重量構造物や施設について把握し、対応について検討されたい。

吊り下げられた物は非構造物なのに、用語の混乱が見られる。

 事故調査・検討委員会や国土交通省からは、このように保守点検に限らない全体的な責任を認めるような情報が次々と公表された。しかし、2013年1月頃から笹子トンネル天井落下事故の責任を追求する報道記事はめっきりと少なくなった。

マスコミの限られた労力で、次々と発生する出来事を取材するのが大変なことは分かる。しかし、国土交通省や山梨県警本部に対しては、常時取材できるマスコミの労力があるはずだ。

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