7.事故第10日:ボストン教訓の反映不明

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■トンネル崩落:中日本高速、米事故後も対応取らず(毎日新聞、2012.12.11 14:30)

 9人が死亡した山梨県大月市の中央自動車道・笹子トンネル事故で、米国の高速道路で06年に極めて似たトンネルの天井板崩落事故が起き、独立行政法人が08年に作成した調査文書で事故原因などを国や高速道路各社に伝えていたことが分かった。国や中日本高速道路も事故を把握していたことを認めているが、具体的な対応は取らなかったとみられる。専門家は「緊急点検などの対処をすべきだった」と批判している。
 天井板を巡っては、中日本高速道路が本州と九州を結ぶ関門国道トンネルで07年に起きた損傷事故の経緯を論文で把握しながら対策を取らなかったことが既に判明しており、道路管理者としての責任が厳しく問われそうだ。
 米国の事故は06年7月、マサチューセッツ州ボストンの高速道路のつり天井式トンネル(93年建設)で発生。最上部のコンクリート内壁からつった鋼材で支える天井板(1枚約2トン)10枚が落下。走行中の車が押しつぶされ、夫婦が死傷した。米運輸安全委は07年に事故報告書を公表。原因は、内壁に穴を開けて流し込んだ樹脂接着剤で留めたアンカーボルトが天井板の重みに耐えられず次第に抜けたためとし、施工不良や点検不備を指摘した
 一方、民営化した旧日本道路公団の債務などを引き継いだ独立行政法人「日本高速道路保有・債務返済機構」は、欧米の高速道路事情をまとめた調査報告書を08年4月に作成。その中で事故概要や現地の新聞記事などを紹介し、接着剤に問題があったという記述を引用していた。同機構によると、報告書は国土交通省や高速道路各社にも送付したという。
 国交省高速道路課の担当者は「米国の事例は個々の職員は知っていたはずだが、省内で情報共有されたかは不明」、中日本の広報担当者は「(同機構の)報告書はホームページでも公開されており、技術部門は把握していた」とするが、その後に調査や点検が行われた記録はないという。
 笹子トンネルも、最上部の内壁に穴を開けて樹脂接着剤でボルトを留めていた。現場では脱落したボルトが見つかり、捜査関係者によると多くは接着剤が付着した状態だった。ボルトを差し込む深さは130ミリで、06年の米国の事例(深さ127ミリ)とほぼ同じだった。笹子トンネルは77年開通。中日本によると当時「つり天井式で接着剤を使うのは一般的だった」という。【山口香織】

記者がこのような学術サーベイのような記事を書き、それを編成者が採用するというのは、記者の自主性を重んじる毎日新聞ならではのことである。

しかし、前述の12月7日の記事のように、専門家や調査委員会の見解が明らかになってきたので、調査委員会や警察のプレスリリースの引用を中心にする方が記事としては効果的だ。「厳しく」問われそうだと記者の主観や予想を述べるのは根拠が乏しい。当局に取材して「厳しく問う」という発言を引き出すか、又は記者が当事者を取材して責任を「厳しく」問うべきである。

米運輸安全委の2007年の報告書の経営者要約では、設計者の理解不足、吊り具の完成前試験、点検法規の不適切さ、仕上げ物の国家標準の不在を指摘している。「施工不良や点検不備を指摘した」とした記事は、部分的引用であり、正統的ではない。

日本高速道路保有・債務返済機構の報告書は、設計の不備や完成前試験のことも紹介している。「接着剤に問題があった」と要約した表現はいかがなものか。

この記事は、よい資料に眼を付けたのだが、資料の理解が不十分であった。

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