5.事故第3日:第1回調査・検討委員会

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■笹子トンネル崩落事故9人死亡 つり下げ式天井板全国に49本(スポーツニッポン、2012.12.4 06:00)

 夜を徹した必死の救助作業も実を結ばなかった。天井板が崩落した中央自動車道笹子トンネル事故は3日、9人が遺体で見つかる大惨事に。中日本高速道路はこの日、事故の原因が老朽化にあると認めた。また国土交通省は、笹子トンネルと同じつり下げ式天井板のトンネルが全国の有料道路と国道に計49本あり、築30年以上のトンネルが359本あることを明らかにした。 
 山梨県警は3日、レンタカーのワゴン車から5人の遺体、別の乗用車内で3人の遺体を確認。冷凍冷蔵トラック内で1人が死亡しており、死者は9人となった。県警と東山梨消防本部は、他に巻き込まれた車両はないとみている。
 中日本高速道路は3日午前の会見で、トンネル本体の天井と天井板を支えるつり金具とをつなぐ直径1.6センチ、長さ23センチのボルトがコンクリートから抜けている箇所があったとして、ボルトやつり金具のさび、天井のコンクリート部の経年劣化などの可能性を挙げた。
 また笹子トンネルは1977年開通以降、天井部の改修工事を実施していなかったことも判明。ボルト交換の記録もなく中日本高速道路は老朽化が原因と認めた。引き続き原因究明を進める。
 県警は、老朽化への有効な対策が講じられていなかった疑いもあるとして、大月署に捜査本部を設置。業務上過失致死傷容疑で、近く中日本高速道路などを家宅捜索する方針を固めた。
 前例のない「連鎖落下」はなぜ起きたのか。天井板を支えていたつり金具は1.2メートル間隔でトンネル本体上部に固定。金具の間には換気用の空間を縦に仕切る隔壁があり、その上下には細長い鋼板が固定され、つり金具で重みを支えていた。連鎖の原因の一つは、鋼板と隔壁、天井板が固定され、一体となったこの構造にある。1本のつり金具が何らかの理由で脱け落ちたときには、長さ6メートルの鋼板につながった天井板10枚と隔壁5枚(計約20トン)が落ちる危険性が一気に高まることになる。加えて、中日本高速道路の関係者は「ボルトが地下水などの影響で腐食した可能性がある」と指摘しており、増幅した荷重を支えきれなくなり、隣のボルトも次々に外れていった可能性がある。〜

     

見出しは「つり下げ天井板全国に49本」となっているが、「トンネル」が抜けている。

遺体や死亡という言葉では、天井板が落下したことによって不法の死に至ったという意味が通じない。

後日の事故調査・検討委員会の報告では、ポルトのさびの問題はなく、コンクリート部も問題はなかった。

複数の天井板同士を連結したという設計についても、だれの発言なのかを明記すべきである。設計不備の疑いがある。

第5文段の県警の「〜の疑いもある」は、警察の発言を忠実に引用しているとは思えない。もっと広い疑いを持っていたのではないか。

天井板が隔壁と鋼板で固定されていたことや運動エネルギーの可能性を指摘したのは鋭い。ただし、落ちたのは10枚分ではなく、約130メートル分であることが判明している。この点についての言及が欠けている。

■ケンセツ的視点:二次部材で人が死んだ、重い天井板崩落(ケンプラッツ、2012.12.4)

 中央自動車道の笹子トンネルで天井板が落下して9人が亡くなった。土木技術者にとってこの事故は非常に重い。指摘される「老朽化」の問題に加え、天井板という二次部材(非構造部材)が「凶器」になったからだ。
 東日本大震災で建物の吊り天井が落下して死者を出したことと同じことが、インフラでも起こったと言える。しかも、地震などの自然災害によらずだ。 
 インフラの老朽化問題は叫ばれて久しい。1999年に起こった山陽新幹線のトンネルのコンクリート剥落、海岸沿いのコンクリート橋の塩害、鋼製の橋の腐食など、問題は分かっている。課題は、補修や更新の財源が足りないことだ。
 これまでインフラの管理者が老朽化で問題にしていたのは、トンネルならば覆工コンクリートや床版などの構造上、重要な部位だ。橋も同様で、橋桁や橋脚といった構造部材だ。つまり、今回の事故原因となった天井板のような二次部材については、あまり重要視していなかった
 2010年に開通後間もない首都高速中央環状線山手トンネルで、打ち込みピンで吊っていた重さ1.6tの案内看板が落下した事故があったが、幸い人や車両への被害はなかった。この事故を、吊り天井などの二次部材の安全性に結びつける議論にはならなかった。

◆設計思想に問題はなかったか 
 さらに、古いトンネルではあるが、設計上の問題はなかったか。 
 アーチ状のトンネル断面上部を、車両が走行するうえで必要のない部分に天井板を設けて換気用に使うのは合理的だと言える。しかし、換気用の空間を確保するためだけに、重さ1t超(長さ約5m×幅約1.2m×厚さ80〜90mm)ものプレキャスト・コンクリート製の天井板が必要なのか。軽量気泡コンクリート(ALC)のようにもっと軽い素材はある。
 加えて、この事故は天井板が100m以上にわたって崩落したとされるが、なぜ途中で崩落が止められなかったのだろうか。100m以上にわたって同時に、吊り金具が抜け落ちたとは考えにくい。ある箇所で吊り金具が抜け、その荷重が隣の天井板に作用して連鎖的に次々と落下したと考えるのが自然だ
 実際の原因究明が待たれるが、もしも連鎖的に落下したのならば、途中途中で縁を切る構造になっていればこれほどの事故にならなかったかもしれない。事故後の救助もこれほど難航しなかった可能性もある。
 ここで述べたのはすべて結果論だ。土木分野の専門媒体の記者として、考えたことのなかった事故だ。その反省を込めて、老朽化問題の再認識に加えて、二次部材の安全性について深く考える契機にしなければならない。

これは建設専門家のミニコミである。マスコミやマスコミに出る有名人と違って的を射ている。警察もこのような捜査方針を出して欲しい。事実報道ではなくて社説に相当するが、本稿で紹介する中で最も頼りになる文章だ。

第一文段は、死亡への責任を認識し、技術者(単なる施工労働者ではないというニュアンス)の責任を認識している。

財源の確保は、プロジェクト計画や日本高速道路保有・債務返済機構や行政が明らかにできた問題である。なお、米国の高速道路の多くが無料道路である理由は地価が安いからだ、と誤解されている。米国の地価が安いのは人口密度が小さいからであり、面積当たりの税収が限られるので、米国の方が道路の建設・維持の収支が楽というわけではない。

連鎖崩壊の原因は、非構造部材(二次部材)への設計の配慮漏れであるということを、事故の第3日に明確に指摘している。

前例のない事故と言われているが、別の建物の分野では前例がある。

首都高の事例は、連鎖崩落ではない。落下事故でも死者が出るとは限らないのだ。「二次部材の安全性に結びつける議論にはならなかった」という指摘は、技術論を超えて業界の体質や価値観に問題があることを明らかにしている。

見出しの「死んだ」も、死者への責任を第一義にしていることも、パラグラフの重要順にしても、全国一般紙よりも優れているぐらいの作文技術である。

専門ミニコミだから的確な報道記事が書けた、と考えてよいとは思えない。一般マスコミは、警察や国土交通省の発言の引用に重点を置き、記者の考えを書くのを抑制することによって、専門ミニコミに対抗できる記事を書けるはずではないか。専門家でない記者は、素人考えで原因や責任者を絞り込むのではなく、原因の幅を広げて取材すべきである。

第1回トンネル天井の落下事故に関する調査・検討委員会の公表資料(2012.12.4)

議事要旨

1)トンネルの概要

 ・天井板、隔壁板・吊金具などの構造に関する議論がなされた
 ・事故前後の換気運転についての議論がなされた
2)事故の経緯
 ・事故の発生メカニズムについての議論がなされた
3)緊急点検の状況
 ・NEXCO中日本が実施した過去3回(2000年、2005年、2012年)の詳細点検の状況などについて議論がなされた
4)今後の調査の進め方
 ・点検方法について、今回は緊急点検であるが、追加の調査の可能性について議論がなされた
 ・アンカー定着部の劣化状況について、引き抜き試験などによる追加の調査が必要との議論がなされた
 ・建設時の天井部の設計の確認が必要との指摘がなされた

国交省では、事故現場からの通報書だけ「崩落事故」と表現していたが、それ以外の文書では「天井板(の)落下」と統一している。トンネル本体が崩れたような崩落よりも、天井板落下の方が適切な表現だと思う。

「建設時の天井部の設計の確認が必要との指摘がなされた」という表現は、議論がなされたというまでには至っていない意味である。この指摘によって、後日の会議で設計時の資料が提出され、単に設計を理解するだけではなく、設計・施工の不備が議論されることになった。重要な指摘だった。

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