■トンネル天井板落下致死事件には設計漏れの疑いがある
出典:ボストントンネル(ビッグ・ディッグ)の事故が車の婦人を殺した(Accident in Boston’s Big Dig Kills Woman in Car)(ニューヨークタイムス、July 12, 2006) この事故は、マサチューセッツ州有料高速道路公社(Massachusetts Turnpike Authority)のトップを追求しようとする、上級の選挙された役人(注:州知事)から告発され始めた。 |
日本の報道記事は特殊であるが、外国の報道記事は「当事者の発言を効果的に引用する」という歴史作文の定石を現在も踏襲している。州警察、役人、知事、法務長官、理事長の発言を引用している。先頭の二つの文は、崩落ではなく「落ちた」という言葉を用い、二つ目の文は「トップを追求しようとする」と広範な容疑を書くだけにとどめている。 | |
警察や法務長官が事故翌日の時点で、設計を含めた広範な容疑の捜査を開始していることを発言した。捜査の専門家なら当然であろう。しかし、日本の笹子トンネルの事故の場合、当事者の発言を忠実に報道記事にすることをしていないので、当局がどんな捜査を始めたのかが分からないのである。 | |
「致死事件」「殺した」「押しつぶして死なせた」という表現は、歴史資料や報道記事や証拠資料向きの忠実な描写である。死者と表現すると病気の死者と区別がつかないし、犠牲というのはイケニエから出発した古典的な表現だ。「殺された」という描写をするのは気が引けるかも知れないが、致死事件という出来事は紛れもない事実なのである。 |
■マスコミも責任者も警察も一般人も遺族も史実を積み上げる米国
(前の囲みの続き。長いので粗筋のみを紹介する。) |
事実を積み重ねた長い取材記事である。米国のマスコミは、一般論として要約することを避ける。見た情景や聴いた音声を事例(story)の形に叙述することのプロ、という原点を徹底しているように思われる。 | |
工事の難航に関してプロジェクトマネージャに言及している。これも日本では思いもよらないことではないか。 | |
21歳女性の発言「莫大な税金で作ったものが貧しい婦人を潰した」は客観的な事実である。21歳の若者が自分の感想や意見に頼らずに、マスコミや知事に負けないレベルの事実発言をしているといえる。 | |
記事の最後は、「私の妻が死んでしまいました(my wife has died)」 という簡潔だが取り返しのつかなさを表す事実の発言である。記者の創作を徹底的に避けて締めくくっているのだ。 | |
ボストントンネル事故は米国では大事件であったが、事故車は1台、死者は一人であった。落ちた時期が2秒ずれていたら、車は通過できて、潰されなかったであろう。天井板が落下しても死傷事故になる確率は低い。高速道路を安全と思うか危険と思うかは人それぞれだが、高速道路では車間距離を長く保つので、死傷事故はそういう意味では起きにくいのである。 | |
天井板が数枚だけ落下したという点は、笹子トンネル事故とは明らかに違う。笹子トンネル事故の方がボストントンネル事故より9倍ぐらい大規模な事故である。 |
■ボストントンネル天井落下致死事件の調査は点検エラーだけが問題ではないという結論
翌年公表された事故報告書は120ページである。ここには2ページの経営者要約のそのまた要点だけを示す。
高速道路事故報告書(「Highway Accident Report - Ceiling Collapse in the Interstate 90 Connector Tunnel,Boston, Massachusetts」、July 10, 2007 ◆Executive Summary(経営者要約)
本事故の捜査の結果として、国家運輸安全委員会は、連邦運輸管理局、米国全州道路交通運輸行政官協会、50州及びコロンビア特別区の運輸省、国際コード管理機関、国際コード機関評価役務社、パワー・ファスナー社、サイカ社、米国コンクリート協会、米国土木技師学会、及び米国建設受託者会へ向けて、安全勧告を作った。 |
事故調査報告書も「致命傷を負わされた」と加害者の存在を明確にする表現を守っている。 | |
事故直後に州法務長官が「だれも逃がしはしません」と述べたが、1年後の国家運輸安全委員会の報告書も「だれも逃さなかった」という感じが確かにする。 | |
笹子トンネルの問題点は、ボストントンネルの四つの箇条書きの問題項目は、少なくとも含むだろう。多数の天井板が落下したことは、ボストントンネルとは違う点として重視されるべきだろう。 | |
Executive summary を英語のwikipediaは「sometimes known as management summary」と解説している。Executiveやmanagementはこの文脈では、重役のことだろう。多忙な経営者や管理職のための要約の意味だろう。しかし、日本のウエブ検索をすると、Exectutive summaryを事業概要」と説明している。誤解と思われる。 |
■ビッグ・ディッグ(ボストントンネル)訴訟が2800万ドルの裁定(USATODAY 2008.9.30)
ボストン(AP通信) 「ビッグ・ディッグ・トンネル天井板落下によって殺された婦人の遺族は、不法な死の訴訟で2800万ドル超で合意した」と弁護士たちがAP通信へ述べた。この裁定は、2006年7月にトンネルの一部の天井板が車に落下して殺された、ミレナ・デル・バレさんの夫と三人の成人の子供たちへ向けて、弁護士たちによって告げられた。 この訴訟の主な被告は、この巨大高速道路プロジェクトの責任を持つベッチェル/パーソンズ・ブリンカーホフ(BPB)社、モダン・コンチネンタル社、ガネット・フレミング社、及びマサチュー有料高速道路公社を含む。 ボストンに住むデル・バレさん(39)は、夫のエンジェル・デル・バレ氏と乗っていた車へ天井板が落ちて、26トンのコンクリートの下で致死的につぶされた。 国家運輸安全委員会は2007年の報告書で「悪い種類のエポキシ接着が使われた」と述べた。報告書は問責を、ビッグ・ディッグ・プロジェクト全体のマネージャであるBPB社、受託建設会社モダン・コンチネンタル社、設計社ガネット・フレミング社、及びエポキシ製品のメーカであるパワー・ファスナー社へも広げた。ガネット・フレミング社とBPB社は、エポキシ接着ボルトの潜在的なクリープ(変形)を識別するのに失敗したことが批判され、BPB社は1999年以降にボルトがクリープし始めたことの監視することに失敗したことを非難された。 「2006年のトンネル落下は、過去の行政の監督の大失敗の結果でした」と有料高速道路公社の権威者はその声明の中で述べた。「去年のビッグ・ディッグの取り締まり以来、私たちは、あの悲劇の夜を絶対に繰り返さなくする捜査計画を作って、このプロジェクトの詳細な検閲をくまなく完遂しました。私たちはデル・バレーさん家族へ終結が到来することを望みます。(裁定への合意の意味)」 |
死亡事故であることが、記事中に何度も繰り返されている。事実に語らせて、報道記者の考えは抑制している。 | |
1名死亡の事故に対して、公社やプロジェクト管理会社を含む15の被告会社による賠償が裁定された。 | |
2008年9月の外国為替は109円/ドルだったので、2800万ドルは約30億円に相当する。この金額が大きいか小さいかについての見解は司法専門家に委ねたい。自動車同士の衝突事故とは違って、トンネルは大勢の専門家がじっくりと建造及び運用をするのだから、事故を起こすのは相当な過失であるということだろうか。 | |
この記事も当事者の発言の引用を活用している。報道記者が考えを記述するよりも、責任者が「大失敗の結果でした」と発言したことの方が、史実資料として意味がある。 | |
この訴訟は、刑事告訴と仲裁方式との中間の性質を表している。被告は必ずしも責任を認めていないが、調停金を払わないと言っているわけではない。裁定に対してプロジェクト管理をしたBPB社だけが、数社を代表するかのようにコメントを述べているのも特徴を表している。 | |
accountableは日本では説明責任と誤解されているが、口頭説明とは正反対の概念である。accountableとは会計の予算書・決算書に由来する資料証拠性の意味である。法規の制定、企画書の承認、報告書の受理など、資料や署名によって立証可能である性質をaccountableという。 |