1.事故第1日:7人不明か

ホーム 上へ 進む

■トンネル崩落事故、7人不明か 2人けが 山梨の中央道(朝日新聞、2012.12.2 14:54)

 2日午前8時ごろ、山梨県大月市と甲州市にまたがる中央自動車道上り線の笹子トンネルで崩落事故が起きた。消防庁災害対策室によると、少なくとも2人がけがをし、7人が行方不明とみられるという。東山梨消防本部によると、複数の車が巻き込まれ、火災も発生したが鎮火した模様。県警などが確認を急いでいる。 中日本高速道路によると、笹子トンネルは全長約4.7キロ。崩落は甲州市側から3.2キロ付近で、コンクリート製の厚さ8センチの天井板(縦1.2メートル、横5メートル)が50〜60メートルにわたって崩れ落ちたという。

 これが事故直後の報道である。

歴史資料の原則の一つに「発言の効果的な引用」というものがある。出来事の当事者の発言を忠実に文章にすることが、歴史や記事や警察の証拠資料の原典である。資料の忠実性は、このウエブページのような二次利用のためにも重要である。

「崩落事故」「鎮火した模様」「確認を急いでいる」「崩れ落ちた」は、当事者の発言内容ならカギ括弧で括って引用した形にして欲しい。記者が思いついたことは書かないか、又は明確に区別して書くべきである。

天井板が何十メートル分も落下したのだから、一カ所の問題で落ちたとは思えない。天井板の一カ所が落下して、後は落下速度の二乗に比例する運動エネルギーで次々と落下したことが、この事故早々の記事からでも推測できる。

「崩れる」というのは山や建物が分解しながら高さを失う意味であり、天井板がほとんど連結したまま落ちてきた本事故には当てはまらない。

■「笹子トンネル(中央自動車道)」(wikipedia)

1975年 - 完成。施工は大成建設と大林組の共同企業体
1977年12月20日 - 供用開始
2005年10月1日 - 日本道路公団民営化、中日本高速道路株式会社に継承
2012年12月2日 - 上り線の東京寄りの場所で、天井が崩落する事故が発生。同日通行止めに。詳細は「笹子トンネル天井板落下事故」を参照。
2012年12月3日 - 上り線崩落事故を受けて、下り線トンネルの緊急点検を実施。
2012年12月9日 - 下り線トンネルで天井板のボルトやナットに緩みが見つかる。同日に下り線トトンネルの天井板を、台車を使って取り除く工事を開始。
2012年12月29日 - 下り線トンネルを対面通行化、仮復旧。
2013年2月8日 - 上り線トンネルが完全復旧、対面通行解除。

笹子トンネルは民営化より28年前に運用され始めたことが分かる。

事故後の点検で問題がなければ、下り線トンネルを用いる仮復旧は短時日でできたと思われる。

■「日本道路公団」と「中日本高速道路」 (wikipedia)

 (日本道路公団は)1956年4月16日に日本道路公団法に基づき設立された。公団の資本金は全額国が出資した。
 〜2004年6月に道路関係四公団民営化関係四法(〜)が可決・成立され、民営化が決定した。
 2005年10月1日の日本道路公団分割民営化に伴い、同公団の業務のうち、施設の管理運営建設については、東日本高速道路・中日本高速道路・西日本高速道路に、保有施設及び債務は他の道路関係四公団とともに独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構に分割・譲渡された。これら会社・機構の発足とともに当公団は解散した。

管理運営とは、文脈からみると完成後の業務を意味している。

建設も中日本高速道路の業務であるがそれは民営化後の建設の場合である。民営化時の既設の道路の建設の責任は、日本道路公団にあるが、解散したのであるから、既設の道路の建設当時の責任は、中日本高速道路が継承したと考えられる。

管理運営とは道路完成後の狭義の管理を意味するのであり、「安全管理」とは建設時を含む広義の管理を意味するものとして、厳密に区別しなければならない。

 中日本高速道路株式会社は、高速道路株式会社法により設立された特殊会社(NEXCO3社のうちの一つ)である。略称はNEXCO中日本。中日本地域の高速道路、自動車専用道路などを管理運営する。
2005年10月1日設立。
 道路関係四公団の民営化方式として採用された上下分離方式において、道路施設の管理運営(いわゆる上の部分)を業務とする。道路施設の保有を目的に設立される独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構から、道路施設を借り受ける形態をとる。高速道路等の新規建設も事業内容に含まれるが、完成した道路は機構が(建設債務も含めて)保有することになる。

 この資料は最初の文段(パラグラフ)では、管理運営だけが業務であると要約している。しかし、高速道路等の新規建設は、住民の関心が高く、国会でも議論される話題なので、高速道路会社の主要な業務の一つに入れるべきである。

道路施設に関して保有者にも何らかの責任があるだろうが、既設の建設に関する主たる責任者は中日本高速道路であろう。

■建物の屋根や天井が落ちない理由
 「身近な自然と科学」というウエブサイトは、「古代遺跡の柱が残っているのに、天井(注:又は屋根)が落ちている理由」を、次のように説明している。

 柱の間に石の天井を載せると、載せた石は自分の重さで中央部分が下に垂れ下がる。すると、一番垂れ下がった部分の下部は左右方向に引っ張られる。 

 石は、引っ張られる方向の力には弱いので、亀裂が入り、そのことによって天井はなお垂れ下がり余計に亀裂が大きくなって、最後には天井が落ちてしまう。

 石造りの建物で天井が落ちないようにするには、石が弱い引っ張られる力を、石が強い圧縮方向に変えるような造り方をすれば良い訳だ。そこで、アーチ型構造に石を組むと天井部分の自重が石を圧縮する方向に分散されて石の弱点が補われる。

 これによってトンネル本体の天頂部(アーチ型の部分)が落ちないわけは分かった。落ちない天頂部がトンネルの天井板を吊り下げているのである。トンネルの両側の壁の突起も天井板を支えているが、主な支え役は屋根である。

 木造の建物では、水平方向の梁や桁が柱に支えられつつ、構造物全体を補強する役割を持つ。

天井板は梁や桁に支えられる。井桁の形なので天井と名付けられた。

天井の木材は、軽いので垂れ下がりにくく、引っ張られる力に強いので壊れにくい。

 トンネルの天井板は重いのであるが、いくら重くても落ちないようにすることはできる。シャンデリアには数トンのものもある。今回の事故で天井板が落ちた理由は重いからだとはいえない。

■構造物と非構造物の区別

 構造物

 ドームやアーチの重さは、部材自身や柱や土台が支える。

 支える力を発揮する部材や全体を構造物という。

非構造物

 シャンデリアは屋根裏から吊るされており、見るからに何かを支える力は発揮していない。

 シャンデリアや天井のように何かを支える役目のない部材や全体を、非構造物と言う。

 非構造物は、資料によっては二次部材や仕上げ物ともいう。

非構造物とは、要素の組合せ具合が、一言で説明できないような自由さを持った物のことである。

構造設計という言葉があるように、非構造物は力学設計の対象外である。

■設計することと設計しないこと

参考文献:「構造設計の流れ」、http://www1.ttcn.ne.jp/arc-structure/flow.htm

構造計画

大筋の設計方式を選択又は創案する。

荷重算定

(1)トンネル上の岩石土や建造物自身の荷重と重力を想定する。

(2)地震などの運動エネルギーを想定する。速度の二乗に比例する。

(3)台風などの流体エネルギーを想定する。速度の3乗に比例する。

二次部材設計

天井板などの非構造物の寸法を設計する。強度計算ではなく、どれだけ空間を要するかを知るためである。

それ自体が重力や地震の揺れなどに耐える太さがあるだけでよい。

主枠設計

構造物を設計する。

想定した荷重の持続的力や地震、台風などの一時的な力に耐えるようにする。

地震時の構造物及び非構造物の変形や衝突を考慮する。

基礎設計

地盤を調査して、基礎部分を設計する。

耐震設計

全体を設計した後に、地震に対する建築基準を上回っていることを最終的に確かめる。

(部材調達)

一時的強度及び持続的強度の条件に合う部材を調達する。

「地震時の構造物及び非構造物の変形や衝突を考慮する」は最近通告され始めたばかりである。笹子トンネルはそういう知見がない時代の建設物なので、設計が問題であるなら「設計エラー」ではなく「設計漏れ」という表現になる。

二次部材の落下は、無人倉庫などでは許容する建築も可能だが、人が使う体育館やトンネルなどでは、落下を許容しない設計が必要である。

通常の建造物は台風や地震などは想定するが、猛烈な竜巻、津波、爆発などは想定しない。防潮堤などは別である。

■建物や道路の非構造物の落下事故は過去にあった

屋内プール天井崩落事故は「複数の不具合が原因」、仙台市が報告書(日経アーキテクチュア、(2005.10.26)
 仙台市が設置したスポパーク松森事故対策検討委員会は10月11日、調査報告書を公表した。8月16日の宮城県沖を震源とする地震で起きた屋内プールの天井が崩落した原因について、斜め方向の振れ止め材が設置されていなかったことなど、複数の要因が複合して天井が落下したと結論付けた。
報告書によると、検討委員会が9月8日に天井上部の調査を実施した。斜め方向の振れ止めが設置されていないことや、壁に野縁や野縁受けが衝突した痕が39ヵ所あることなどを確認。「天井に大きな横揺れが生じて壁と衝突した」と認定した。
 また、(1)吊りボルトの多くが傾斜して設置されている(2)野縁と野縁受けが直交していない(3)野縁受けに不連続な部分がある(4)天井の段差部への補強が不足している――ことなど、耐震性の低下を招く要素が複数あったと指摘した。さらに、東北大学災害制御研究センターの源栄正人教授が主張する屋根の上下動が天井落下に影響を与えたとの意見にも触れ、「建物の構造の特殊性から上下動の影響があったことも想定される」と言及した。
 施工体制についても問題を指摘した。検討委員会が9月2日に事業者の松森PFIなどにヒアリングしたところ、設計や工事の各段階で、計画、点検、確認がおろそかにされチェック機能が働かなかったことが改めて浮き彫りになった。

この記事は、運用後の点検だけが問題ではなく、設計や施工も問題であることを指摘している。

静止重量だけではなく、非構造物と構造物の衝突の運動エネルギーを少し問題にしている。

源栄教授の主張は個人的意見にとどめられたような書き方である。委員会は多くの天井板が落ちた原因を究明しなかった。自動車専門家は速度への関心が高いが、静止する家屋や道路の専門家は、速度への関心が薄いのではないか。

多くの天井板が落下したのは、天井板同士の干渉による運動エネルギーが原因だと思われる。

[ ホーム ] [ 上へ ] [ 進む ]