8.竜巻対策の困難さと可能性

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◇竜巻警報をしても避難が困難

 竜巻の寿命は12分間程度なので、観測や警報が可能だとしても、避難が間に合わない。参考文献の「2012年5月6日につくば市で発生した竜巻災害について(速報)」(防災科学技術研究所、2012.5.8)に掲載されたレーダー観測データを次に示す。

雲・雨・風の観測データ

黒の直線は竜巻被害跡

(c)2012 copyright 防災科学技術研究所

竜巻警報のイメージ

 丸印の常総市で暖気団が生育ステージを過ごし、通過中の雷雲と会って遭遇ステージに進展し、渦巻きが始まったと見られる。12時32分の観測データを元に、コンピュータ又は気象予報士が竜巻の警報を出すことに決定したのが12時34分と仮定する。

 その決定に従い、全国放送や地域の有線放送が、12時36分までに「常総市で竜巻が発生した恐れがあります。常総市中部及びつくば市北部の住民は、鉄筋コンクリート造りの建物へ速やかに避難してください」と警報を放送したと仮定する。 警報を聴いた住民が玄関を出るのが12時40分とすると、常総市では既に竜巻が発生している。

 12時40分から12時44分にかけて、つくば市の住民が鉄筋コンクリートの建物へ移動する途中に、竜巻もつくば市を移動中である。住民が建物へ着いた頃には竜巻は消滅している。

◇普通の観測点メッシュでは竜巻の識別は困難

従来の測候地点は約5キロメートル間隔だったので、半径500メートル程度の竜巻を識別できなかった。

レーダや人工衛星で観測地点を1キロメートル間隔にしても同様である。

竜巻は地表のデータだけでは識別できない。高さを含む3次元の観測点メッシュ技術が必要である。

 米国は竜巻を識別可能な3次元観測に資金を投じている。その理由は、竜巻の頻度が多く、また寿命の長い竜巻があるので、投資対効果が日本よりも高いからである。
◇建物補強はコストパフォーマンスが悪い

家屋や農業施設の強度を、台風対策の強度の2倍から4倍程度にしても、8倍のエネルギーの竜巻には耐えられない。

鉄筋コンクリートの建物は竜巻に耐えられるが、費用が木造建築の約1.5倍である。竜巻の被災確率は極めて低いので、掛け捨て保険で建て替える選択肢の方が魅力的である。

◇農地林を設ける耕地整理が穏当な対策である
 農地林(farm forest)や草地帯(greenbelt)は、次のようなさまざまな目的で設けられている。

風や吹雪を防いで、農作物やビニールハウスの倒壊や温度低下を防ぐ。

土砂の流出や侵入を防ぐ。

二酸化炭素の増加を防ぐ。植物が二酸化炭素から酸素を作って、地球温暖化を防ぐ。

土壌の栄養低下などの荒廃を防ぐ。農地林に集まる動物や落ち葉の影響により、土壌の回復力を持たせる。

焼き畑農法などによる原生林の伐採し過ぎを抑制する。これは前述の複数の目的を達成する手段である。

 以上の目的に加えて、次のような竜巻対策としての目的を加える。

農地に暖気団が生育するのを抑制する。林は日陰を作り、樹木は水分を含むので温度が上昇しにくい。

用地の温度を不均質にするので、空気の対流が起きやすく、暖気団の成長を抑制する。この目的の林は、防風林ではなくて「造風林」である。

竜巻が起きてしまった時に、ビニールハウスなどの農地自体の被害を軽減する。

 農地林には次のような問題点がある。しかし、農地林は特別扱いすることではなく、耕地整理プロジェクトに含まれる要素施策である。問題があるからとして片づけるのではなく、耕地整理における検討事項の一つとして忘れずに取り上げるべきだ。竜巻防災対策としては完璧でなくても、農地林の多目的性を評価して推進すべきであろう。

林を造成する時に費用や労力がかかるだけでなく、管理にも費用や労力がかかる。高齢化すると管理が大変である。

農地の面積が減る。ただし、農地全体における林の典型的な面積比率は、2〜5%である。

目的が完全に達成できるとは限らない。竜巻防止効果は特にそうである。

 次に実例を見てみよう。まず、防風林の必要性の少ない農地を見てみよう。

福島県会津若松市

(c)2013 copyrjght GoogleEarth

 農家や森林が混在しており、竜巻は起きにくい。

 農地の幅は1キロメートル程度

埼玉県三芳町

(c)2013 copyrjght GoogleEarth

 農家の屋敷林に農地の防風も兼ねさせている。

 農地の幅は500メートル程度

 次に意図的に作られた防風林の例を示す。

 埼玉県深谷市の自然林を残した防風林

(c)2013 copyrjght GoogleEarth

林の間隔は約240メートル

山形県酒田市のビニールハウスと防風林

(c)2013 copyrjght GoogleEarth

林の間隔は約120メートル

 深谷市及び東隣の熊谷市の過去の竜巻発生場所を次に示す。

 黄色の画鋲印と赤い直線が、過去の竜巻発生場所である。深谷市櫛引・櫛挽(くしびき)地区の農地と、熊谷市の御稜威ケ原(みいずがはら)の農地では、記録に残る竜巻は発生していない。どちらも終戦直後に満州開拓のノウハウを用いて、防風林を残したか、又は防風林を植栽した農地である。林が竜巻の誕生を阻害してくれたという私の仮説は、この程度の統計件数では立証できないが、今後の研究を期待する。

米国ノースダコタ州ペンビナ郡

(c)2013 copyrjght GoogleEarth

林の間隔は約200メートル〜800メートル

愛知県伊良湖崎の防風林

(c)2013 copyrjght GoogleEarth

林の間隔は約200メートル

 以上の例を見ると、農地の幅が1マイル(1.6km)というのは広すぎることが分かる。つくば市などの竜巻の生育地である鬼怒川流域の農地の幅は数マイルの箇所が少なくないので、暖気団を生育させることは納得できる。

 

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