5.竜巻の風エネルギーは台風より大きい

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 物の重量やエネルギーは次のような性質を持つ。

手に持った野球のボールのような固体の静止重量は、その重量そのものである。ボールは地球の自転とともに移動しているが、持っている手も一緒なので静止しているのと同じである。

投手が投げた野球のボールのような固体の運動エネルギーは、速度の二乗に比例する。

風や水流のように連続して移動する気体や液体の流体エネルギーは、速度の3乗に比例する。

 最大風速が時速62km以上の低気圧を台風と呼ぶ。風速が時速62kmの時に単位面積にあたる風のエネルギーを1とした場合の、より上位の区分の台風又は竜巻の、速度の3乗に比例する流体エネルギーの倍数を表に示す。台風は洋上の最大風速ではなく、陸地の最大風速を掲載する。

最大風速による台風の区分

最大風速による竜巻の区分

エネルギー比率

時速 62km以上 弱い台風

エネルギー1倍

時速118km以上 強い台風

時速117km以上 並みの竜巻

(2012年 筑西市~桜川市ルート)

 

エネルギー7倍

 

時速157km以上 非常に強い台風

(1945年 枕崎台風、時速184km)

(1959年 伊勢湾台風、時速163km)

エネルギー16倍

時速181km以上 相当な竜巻

(2012年 真岡市~茂木町ルート)

エネルギー25倍

時速194km以上 猛烈に強い台風

(1961年 第二室戸台風 推定時速304km)

 

エネルギー31倍

時速254km以上 猛烈な竜巻

(2012年 常総市~つくば市ルート)

エネルギー69倍

 

時速333km以上 深刻な竜巻

エネルギー155倍

時速419km~512km 信じがたい竜巻

(米国の竜巻の史上最速の記録)

エネルギー308倍

過去の記録や今後のために設定された区分によれば、おおむね竜巻の方が台風よりも、単位面積にあたる風のエネルギーは大きい。

日本の記録では第二室戸台風の最大風速は推定時速約304kmである。新幹線並みの速度である。竜巻の風速を記録するのは困難であるが、つくば市ルート竜巻は時速300km前後と推定される。

台風や竜巻の区分が1ランク上がると、単位面積にあたる風のエネルギーは数倍になる。

◇1立方メートルの空気の重さはカモメぐらい
 空気の重さは大気の中では測定困難だが、1リットルで約1.3gである。1円アルミ硬貨の1gに近い。1立方メートルなら1.3kgである。1立方メートルの風があたる時の衝撃は、1円アルミ硬貨の1300円分や体重が1.3kgのセグロカモメが衝突した時の衝撃とほぼ同じである。

 静止重量の例は次のとおりである。

手に持った野球のボールの重さ。例えば硬式球は約145g。

運ぶために頭に載せた水の入ったポリタンク。例えば10リットルなら10kg。

ジャッキアップされた自動車の重量。例えば1390kg。

 普段は重さを感じない空気の重さを、自動車の重さと比べてみよう。

 タクシー(クラウン コンフォート)の車体重量は1390kg、前面投影面積は約2.6平方メートル

 1390kgの空気の体積=1390kg÷1.3kg/立方メートル=1069立方メートル

 1面の面積が自動車と同じ2.6平方メートルの直方体の空気の長さ=1069÷2.6=411メートル

 もしもそのようなの直方体の空気の風船があれば、自動車と空気の重さは同じである。411メートルというのは新幹線の16両編成の404メートルに近い。
◇空気の固まりの運動エネルギー

 運動エネルギーは「質量×速度の二乗÷2」であり、速度の二乗に比例して大きくなる。運動エネルギーの例は次のとおりである。

野球の投球や打球。投球は例えば時速160km。打球は例えば時速250km。

理科の実験で段ボール箱の空気砲(エアバズーカ)から発射するひとかたまりの空気。

走行している自動車。ブレーキをかけて止まるまでに要する距離は、速度のほぼ二乗に比例する。

 空気のエネルギーはイメージしにくいので、面積2.6平方メートルで長さ411メートルの直方体の空気の風船が、特急列車や新幹線列車のように目の前を通り過ぎる時間でイメージしてみよう。

 強い台風の時速を150kmとすると秒速は42メートル。

  長さ411メートルの空気の固まりが通過する時間=9.8秒 (在来線特急並み)

 猛烈な竜巻の風速が時速300kmとすると秒速は83メートル。

  長さ411メートルの空気の固まりが通過する時間=4.9秒 (新幹線並み)

 通過する列車に相当する空気の風船が、タクシーの前面に当たれば、タクシーと同じ重量のものが衝突したのに相当する(空気の風船の前面面積はタクシーと同じとする)。

◇風の流体エネルギー

 風や流水のように連続的に通過する流体エネルギーは「密度×断面積×速度の3乗÷2」である。流体エネルギーの例は次のとおりである。

ジェット機の噴射。離陸から着陸まで灯油の燃焼ガスを噴射し続ける。

津波。津波は普通の波とは違い、高潮が低い所へ流れいくので川の流れに近い。

 ジャンボ旅客機777-300が1回の飛行で可能な総噴射量は次のとおりである。

  機体の容量は約1400立方メートル。積載燃料は灯油約170立方メートル。

  燃焼して気化すると約110倍の約19000立方メートル。これは機体容量の約13倍である。

 777-300の総重量は約340トン、航続距離約11000km、巡航速度は時速約1000kmである。この性能を持続させるのが、灯油と酸素による気化物の噴射速度の3乗に比例する風のエネルギーである。

 まともな木造家屋や自動車は、風速150kmの台風や地震の揺れでは倒壊したり転倒したりしない。これが木造家屋や自動車の安全な設計・製造の成果である。

 まともな木造家屋や自動車も、風速300kmの猛烈な竜巻では倒壊したり、転倒したりする。これが速度の3乗に比例する8倍の仕事なのである。
◇典型的な津波の流体エネルギーは竜巻の1.3倍
 参考までに津波の流体エネルギーを理解しておこう。

 津波は波長の極めて長い平坦な波である。遠洋での波の伝搬速度は時速360kmぐらいである。

 陸地より高い津波が陸地へ到達すると、波の上下動の形が伝搬するのではなくて、水が移動する形で陸地へ流れ下る。その流速は時速約36kmで、狭い道路の自動車並みである。流速は竜巻よりも遅いが、比重は海水の方がはるかに重い。

  津波対竜巻の流体エネルギーの比は次のように、津波が約3割増しである。

    (1.024÷0.0013)×(時速36kg÷時速300kg)の3乗=約1.3倍

 地震の揺れでは倒壊しない木造家屋が、津波によって簡単に倒壊する。台風では転倒しない自動車が、津波によって翻弄される。 

 破壊力は「津波>竜巻>台風・地震」という順序である。竜巻や津波の破壊力は、大人が子供の感想文のように描写するまでもない。子供が習っている理科の知識があれば、津波や竜巻の破壊力は自明なのである。

 

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