第4章 ヘリコプターの事故
(1)2010年7月25日に埼玉県の山中で、沢登りの滑落者を救援しようとした防災ヘリコプターが墜落し、7名の乗員中5名が殉職した。このような場合は、犠牲とか被害死とは区別して、殉職と表現すべきである。
(2)「自分自身の下向き気流に巻き込まれたか」「右岸の木が折れている」などの分析があるが、根本的な原因とは思われない。隊員を吊り下ろし中に移動したのが異常である。
(3)航空法の規定がはっきりしない。「飛行中は機体の周囲及び下の地表まで150メートルの距離があること」「高さ60メートル以上の建造物には航空障害灯をつけること」などとある。
(4)今回の事故機のホイスト(吊り上げ)ケーブルは90メートルしかない。どうやら救難のための空中停止は、航空法の「飛行」の条文の範囲外のようだ。木の高さが30メートルと仮定すれば、残りの距離は60メートルである。
(5)ヘリコプターの上昇、下降、及び前進速度の変更は、回転数ではなく回転翼の傾きを変えることによって行う。回転数は自動機構が一定に保つ。
(6)周囲の空気の変化などで、ヘリコプターが、意図しない下降をした場合、操縦士は回転翼の傾きを上昇に変更する。微妙な操作なので、やり過ぎると抵抗が強くなり、回転数を回復するのに時間がかかる。やり過ぎてバタバタという音がしたのではないか。
(7)今回の事故機は下降の回復が困難で真下の木に接触する恐れを感じ、隊員を吊り下げ中なのを承知で、木のない場所へ移動しようとしたのではない。その後、ケーブルが木にひっかかったか、上昇不足で回転翼が木に触れたかして墜落したのではないか。基本的には停止高度と木との間隔が少な過ぎたという操縦ミスと、空中停止を規定していない航空法の欠陥が原因のように思える。
(8)固定翼機や自動車は、いざと言う場合には、アクセルを踏んで、エンジンへ送り込む燃料の量を増やして、回転数を上げて加速する。ヘリコプターにはそれができない。
(9)ヘリコプターは、自動車などのエンジン回転数の10分の1程度の低回転数であり、回転数は自動機構によって一定に保つ。操縦士は原則として回転数には関与しない。
回転翼(プロペラ)の反動で、本体が逆に回転しようとする。そうならないように、尾部のテイルロータで調整している。回転翼の回転数が変わるようにすると、タイムラグがあるので、テイルロータの調整が難しい。 | |
回転翼は固定翼機のプロペラより長いので遠心力が強い。平常の回転数が遅い上に、回転数が限界を10%超える程度で、遠心力により簡単に故障する。そうならないように操縦士には原則として回転数の制御はさせないのである。 |
(10)滑落した女性は蘇生処置をされたが死亡した。第2章で述べた水没による窒息が死因だろうと思われる。河原の石の部分に落ちた方が出血しても生存した可能性がある。
(11)自衛隊及び海上保安庁の隊員は、危険を省みずに仕事する職業である。しかし、警察、消防署などは、危険があれば仕事を断念する、と規定された職業である。