2010. 7.31-3 メンタルヘルス教育

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第3章 精神健康教育の矮小化

(1)精神健康(メンタルヘルス)教育が矮小化している。社会的な教育であったものが、個人的な教育に陥っている。テリー伊藤の言う「半径5メートル人間関係」である。

私が受けた教育

(1980年頃)

うつ病や統合失調症(旧分裂症)の障害者雇用促進

社員に症状があったら、専門家による診療を勧める。

適材を見極めて適所に配置する。

勤続が困難な社員には、専門家が職場復帰の訓練を試みる。

生計を立てることの危機を教え、勤続するよう教育する。

最近の教育

うつ病に起因する自殺という労働災害の削減対策

上司の不用意な発言などの、職場のストレスを減らす。

ストレスに負けそうな社員に、説得ではなく傾聴の態度で接する。

ストレスを考え過ぎないような考え方をもたせる。


(2)前回に三つの流行教育が、専門家相手から素人相手に変質していることを指摘したが、この場合も、精神専門家や管理職専門家の内容から、素人水準の内容へ変質している。
(3)私がこの調査を思いたったのは、精神健康教育にアスペルガー症を加えるべきだと思ったからである。
(4)働かなければ金を稼げない。金がなければ食事ができず、食事をしなければ死ぬ。働くことに重度の困難さがある人は、生活保護や授産所などの政策で助ける。
(5)働くことに軽度の困難さがある人は、障害者雇用促進の政策で助ける。授産所を含めて、各組織が収益を確保しつつ、社会全体で雇用機会を確保するという施策である。
(6)私は富士通で教育を受けたおかげで、妄想を訴える社員が統合失調症であることを発見し、専門家に相談することができた。雇用を継続することにした。また、職場以外でも躁うつ病、アスペルガー症、似非宗教信者などに、偏見を持たずに接して、積極的に介助するようになった。


(7)職場で出会う症状の上位は、うつ症、統合失調症、アスペルガー症、心身症(人前で膝が震えるなど)、脅迫症(潔癖症など)、依存症(煙草・酒依存症)などがある。病気以外の問題社員には、睡眠不足、家族不和、借金、怠業、反抗、副業などがある。
(8)アスペルガー症は、前にも紹介したように、本人が困ることもあるが、他人が困ることが多い。嫌な社員として見過ごされるので精神健康教育で知らせたい。脳神経の物理的・化学的な病気ではなく、薬剤治療が困難なので、周囲の理解が大切である。
(9)傾聴は大切な方法であるが、それは一部に過ぎない。傾聴と説得の両方が必要である。富士通の報告では、軽度のうつ症や統合失調症の社員は、薬剤で症状が軽減され、勤続をするのだが、職場復帰訓練の状態から脱せずに解雇ぎりぎりの社員も少なくない。勤続が最良の選択肢であり、職場復帰するように教育することに専門家は苦労する。
(10)禁煙や禁酒を考えると分かるが、医者の働きかけ(介入)は傾聴ではない。「患者教育」という。
(11)精神健康教育は、富士通の教育を参考にして、到達目標を考え直すべきだ。


(12)最近、私は筑波大学附属病院の職員としてメンタルヘルス教育を受講した。すばらしい講師であったが、うつ症だけが精神病ではないわけで、的はずれな教育だと評価した。講師が悪いのではなく、講座の定義が悪いのである。
(13)そこでメンタルヘルス講座の標準を調べたところ、講師が悪いのではないことが判明した。次に厚生労働省でメンタルヘルス政策を策定する審議会の議事録を調べた。
(14)まず、審議会の事務局が障害者雇用の部門ではなく、労働安全の部門であることが分かった。だから精神病全般や雇用政策ではなく、労働災害としての自殺にだけ注目しているのである。縦割り行政であるが、障害者雇用部門と共催にすればよいのにと思う。
(15)6回の会議の後半になってから、委員として精神病医が出席するようになった。精神病医はうつ症に限定しないで、精神病全体を扱うべきだと提言した。後半になって根本方針への異議が出たわけであるし、事務局の職務分掌外でもある。議論の結果、精神病医の方が提言を撤回した。その代わり精神病全体を扱っているかのような文言を削除せよ、と逆の方向への提言をして了承された。政策の狭さにあきれた精神病医が、それならもっと狭くせよと言ったのである。気持ちは分かる。


(16)富士通式のメンタルヘルス講座であれば、新たに指摘されたアスペルガー症なども教えることができ、誤解による摩擦を減らすことができ、人事管理へ反映できる。IT業界ではアスペルガー症の人の採用・勤続に取り組む会社が出てきている。富士通始めIT業界はなぜか先進的である。精神症の発症が多いという理由だけではなく、人文科学や社会科学に関心を持つ幅広い考え方があるからではないか。

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