教育学部のモデルカリキュラム作りが推奨されている。教育学部の強みは自分たちが自分たちの主題の手本を示すことができる点にある。したがってカリキュラムだけと言わずに、シラバス、教育方略、学習指導要領、教科書、教室、教育道具、教員演技を含めて、あらゆることのモデルを作るとよい。教育学部モデル教育という主題で、いろいろなアイデアを述べる。
■現状の問題点
教育学全体について、ほかの学部と内容以外の印象の差異が大きくかつ、その差異が何なのかつかみどころのない印象がある。この違和感を次のように分解してみよう。
教育教養学と言えるような歴史物語が、教育原理・教育方法学などの科目や多くの科目の内容として登場する。知識や態度の高度さや幅広さを育成する反面、一般則としての内容は薄い。 | |
現代課題や体験型の科目や教育内容が多い。歴史物語につながる現代物語と言えるものであり、現実の生のデータを扱える反面、部分的な事例であるだけに、一般則としての内容は薄い。 | |
前述の傾向が、理科教育法・数学教育法・体育教育法・図工教育法などには少なく、他の科目では顕著なので、教育学全体としての統一性や説得性に欠ける。 | |
成人である学生に対して、子供の教育の仕方を教えるわけであるが、子供の認知や行動に焦点があてられており、教員になる大人の認知や作業が明確になっていない。この点は、幼児教育学の課程を眺めると顕著である。 |
これらの問題は日米の差ではなく、米国でもガニエ流の教育工学以外の学校教育学は、日本と似た状態にある。オクラホマ州の学者協会の報告書が次のように指摘している。
教育学部のシラバスには、研究、体験、歴史、振り返りなどが異常に多い。 | |
教育学は内容が水準が低く、異常に単位がとりやすい。 |
制度的にも教育学には変わった点がある。
教職課程とそれ以外の課程が分かれている。例えば、弁護士、検事、裁判官など、目的とする職種が明確な法学部でも、それらへの就職をめざす課程と研究者を目指す課程とを分けてはいない。このことは都道府県単位の教員採用制度が影響を与えており、例えば偏差値が高い旧帝国大学の教育学部から、教職向けの教育大学を分離する時の理由付けが関係していると思われる。 |
結論としては、次のような改善策が有効であると思える。
教育教養学や体験型の教育内容・教育方略の利点は認めるものの、その比率や学年配分などに合理性を追求する。例えば、一般則の科目や一般則のシラバスの比率を増やす必要があるであろう。また、結論として一般則を述べて、その補足として歴史物語を用いるような連携手段についても、ほかの学部に見習うべきであろう。 | |
ガニエ流の教育工学との比較検討をして、合理性を検討する。 |
「第4の道を創る会」が自家出版した「日本の再生」(青木武一監修)において、筆者が執筆した関連記事 |
次世代大学教育研究会において、筆者が発表したスライド。 |
次世代大学教育研究会において、筆者が発表したスライド。教育学部以外の改革の提言も含む。 |
■課程一覧
課程一覧を書くにあたって、教育専門家として手本を示す。教員育成センターの手伝いのもとに、ぴかぴかに磨き上げる。
課程定義に用いた分析資料を閲覧できるようにする。
■講座概要記述・シラバス
講座概要記述・シラバスを書くにあたって、教育専門家として手本を示す。教員育成センターの手伝いのもとに、ぴかぴかに磨き上げる。
シラバスを教育学のどの理論、判断基準、手法で設計したのかの資料を閲覧できるようにする。
■早期実習体験
就職先と予想される学校を訪問して施設案内(オリエンテーション)及び実習体験をする。
能力向上は目標としない。感覚、体感を得ることに集中する。専門家意識を強めることも能力向上に相当するので目標とはしない。まして教育の知識・技量を上げることは目標にしない。いやなストレスへの抵抗力を増すことも意図しない。「学校は大変なところだ。強い意志が必要である」などということは気にさせない。
施設を離れた準備や振り返りに時間をかけるよりは、施設にいる時間、体験をする時間を大切にする。
右脳を使って、いやでも記憶や身体に残るという効果を期待する。
■心理学入門
教育学部の全科目に使われる優れた心理学群を網羅したA5判400ページぐらいの分厚い教科書を作る。
歴史談義はしない。その理論を使う科目にとって必要十分な内容にする。
■教育原理
教育学部の全科目に使われる基本用語及び教育理論を網羅したA5判400ページぐらいの分厚い教科書を作る。
歴史談義はしない。その理論を使う科目にとって必要十分な内容にする。
教育、学習領域、能力、個性などの基本用語は明確・簡潔に定義する。
心理学入門及び教育原理に取り上げる理論として、サンジェゴ州立大学教育工学百科事典やビッグドッグISDページの「訓練の歴史」に登場する理論を盛り込む候補にする。いくつかを例示する。
フレデリック・テイラー、ベンジャミン・ブルーム、カークパトリック、バンデュラ、メイガー、ガニエ、ケラー、ノールズ、ガードナー、ウォルター・ディック、山本五十六、佐藤隆博 |
■教職入門
教員の仕事に限定せず、課程法規、標準指導要領、教科書執筆を含む作業の全体を、教育体系開発ISDなどを柱として説明する。法規類は一連の工程の流れを支えるものとして意味深く教える。A5判400ページぐらいの部厚い教科書を作る。
教育原理及び教職入門については、ガニエの著作をおおいに参考にする。
「学校は大変なところだ。強い意志が必要である」などということは強調しない。ストレス抵抗力は大切ではあるが、淡々と科学的・技術的に教える。
■統合課程
応用科目と各種理論上級科目と教養科目は最も関係の深いまとまりごとに教授室群を設定し、できるだけ近い時期に一連の科目シリーズとして実施する。1年は教養科目、2年は理論・入門科目、3年は応用科目というまとまりの課程や教授室群にはしない。まとまりの例を挙げる。
応用科目 | 理論科目 | 教養科目 |
教育法規 | 社会心理学 | 社会学 |
教育分析学(目標記述) | ブルーム・ガニエの学習領域分類学 | 文学 |