短歌の基本知識の整理

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平成22年11月記
 今まで短歌というものには一切興味はありませんでした。「沼津近郊」のページで千本浜や香貫山に若山牧水の歌碑があり、牧水について調べてみました。若山牧水の歌のなかに酒を詠んだものがあり、内容は自分にもおおいに思い当たることで理解できます。それを57577という短いフレーズで的確に表現しており感動したのが第一の動機です。
私のホームページは多数の写真を載せていますが、それは記録を目的にしたものから感動した場面、景色など色々あります。その時々に短歌を一首載せれたらよりそのときの印象が鮮明に残らないかなと思ったのが第二の動機です。
短歌の部類は中学、高校で学んだ記憶がありますが、それ以来で、短歌の知識がありません。とりあえず短歌を作るに当たりどんな知識が必要か調べました。いろいろのHPを検索して知識を抜粋しました。

||構成||本質・作り方||一夜漬け 歴史的かなづかひ入門||修辞技法||短歌の文法||俳句の基本||短歌の観賞||

構成

若山 牧水の一首

白玉の(初句) 歯にしみとほる(二句) 秋の夜の(三句) 酒は静かに(四句) 飲むべかりけり (結句)
白玉の歯にしみとほる秋の夜の(上の句) 酒は静かに飲むべかりけり(下の句)

基本は5・7・5・7・7の5句{初めより一句(初句)、二句、、、、五句(結句)}31音の韻律で構成され、一首、二首と呼ぶ
始めの575を上の句残りの77を下の句という
基本の5・7・5・7・7文字より外れたものに「字余り(じあまり)」「字足らず(じたらず)」がある
文字の数え方
小さな「っ」のような濁音(だくおん)はこれだけで1文字。
「ー」のような伸ばす長音も一文字と数えます。
「ょ」「ゃ」のような蜀音(しょくおん)は前の文字と1対で1文字になる
(た行の小文字はそれだけで1文字。それ以外の小文字は前の文字と1対で1文字と覚える)

調べ(リズム)
短歌は詩であり歌でもあるということは散文ではなく韻文
短歌は「意味」だけでなく「調べ(リズム)」について意識して詠む
韻文は、音の調子がリズミカルになるように、決まった順番にならべることです。この「韻文」には大きく分けて2つの種類があります。
 1)「5音」と「7音」でそろえるというもの(=音数律)。
 2)最初か最後の音をそろえるもの(=押韻)
のに2つに分けることができます。

参考

日本の詩歌はアクセントを基本にしていないで,もっぱら言葉の発せられる音の数によって韻律がつくられた。すなわち音数律と呼ばれるものがそれである。音の長さとは,その音が発せられるに要する時間である。すなわち語の長短が時間の長短を示す。したがって音数の規則正しい長短関係が,韻律感をつくるのである。古来の日本詩歌はおおむね短・長,あるいは長・短の形をとり,それが7音と5音との関係をもって1句をつくった。長歌がおおむね57であり,今様が75であり,短歌は,長歌の2句反復で意味を切り,そのあとに最後の7音を反復したものである。この原型が万葉時代には守られていたが,中古から5751句と,771句とに2分された。これは754句の今様体がその後の和讃や多くの民謡体歌謡に発展したことが,最初の5音を最初の発声音として離して発声したため,歌唱の形式が変化し,第3句目5音で意味を切ることになった。《古今集》以後の短歌はそれである。普通われわれは音脚の単位を1音として計算し,5音は1音ずつ5個集まってなった音としてあやしまないが,日本語の自然な発声は2音と3音が単位なのである。語は意味で切れるとともに発声上の調子で切れる。ここに微弱ながらアクセントが働くのである。〈葉桜(はざくら)〉という音は,意味としては〈は・ざくら〉であるが,発声の上では〈はざ・くら〉となる。それは〈ざza〉に微弱ながらアクセントがあるため(高さ,強さとも)そのような発声になる。しかし〈言葉〉とか〈薬〉とかいう語はひとつづきの3音で〈こと・ば〉とも〈くす・り〉とも切ることができない。〈花が咲く〉という言葉は〈はなが・さく〉の32の結合である。だから日本詩歌においても音数律の基本は23であり,それを音脚の単位として,いっさいの韻律はその複合関係によってつくられるということができる。
五・七調  2・3,2・2・3| 3・2,3・2・2| 2.3.2
七・五調  3・2,3・2・2,2・3| 2・3・2,2・2・3
意味の切れている部分
初句切れ、三句切れは七五調といい女性的な特徴を持つ(やさしい、優雅、なめらか)古今集
二句/四句切れは五七調といい男性的な特徴を持つ(素朴、雄大、力強い)万葉集


文語と口語

「文語(ぶんご)」とは文字通り文章を書くときなどに使う、書き言葉のこと。
文章を書くときの書き言葉「文語」に対して、日常はなすときに用いる言葉を「口語(こうご)」と言う。

「旧仮名と新仮名」について

「旧仮名遣い(きゅうかなづかい)」とは、平安時代以来用いられてきた仮名遣いのことで、「歴史的仮名遣い(れきしてきかなづかい)」ともいいます。
たとえば新仮名遣いでの「おうぎ(扇)」のことを旧仮名遣いでは「あふぎ」、「ちょうちょう(喋喋)」のことを「てふてふ」などと書き表します。
「現代仮名遣い」は現代語をかなで書き表す場合の基準で、主として口語に適用される。
現代歌壇では一首の歌の中での文語と口語の混同はほぼ許容されていますが、旧仮名遣いと新仮名遣いの混同は一切認められていない。
文語、口語、旧仮名「歴史的かなずかい」、新仮名 この辺がわかりにくいので、再度調べる。

仮名遣い
日本語の仮名で文字を綴る時の決まり。現代かなづかいで書くときでさえ、発音通りにそのまま綴ればいいという訳ではない。例えば、同じ伸ばすエ段の音でも、「先生」は「せんせえ」でなく「せんせい」と綴り、「姉さん」は「ねいさん」でなく「ねえさん」と綴るが、これは一つ一つの単語によって、どちらの仮名で綴るのか決まっているからであるし、助詞の「ワ」「エ」「オ」を「は」「へ」「を」と書くのも、その決まりゆえである。
歴史的かなづかひ
平安時代中期以前の文献において、単語がどのように綴られていたかを基にした仮名遣い。約千年もの間、仮名遣いは平安期のものを基本とし発音だけを流動的に変えるのが国語の伝統であった。藤原定家(ていか)(1162〜1241)は当時混乱していた仮名遣いを、文献研究によりまとめて規範を確立し、後に契沖(1640〜1701)は定家の誤りを正し、それは現代まで使われ続けた歴史的かなづかひの規範となった。(藤原定家のかなづかひを「定家かなづかひ」と呼ぶこともある。)

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短歌の本質

生老病死の人事 人事詠

春夏秋冬の自然 自然詠

短歌のテーマは毎日の生活の中にある

その日常に目を配る

  短歌は私性(一人称)の詩ゆえに自分を見つめる

  自分自身を客観的に第三者の目で見る

 歌や絵になるテーマを見つけ出す

短歌を詠むことで自己の存在証明を

歌の対象としての分類

万葉以来短歌は自然に触れ、生活の場で、また社会の流れの中にあって、人間の心の在り様を表現したものであり、すべてが抒情であるとも言える。しかし、短歌の世界では対象の捉え方を、
叙景歌(自然の風景等を詠んだ歌)、
叙事歌(事実をありのままに述べた歌)、
抒情歌(感情、感動を述べ表した歌)という分け方をしてきた。
便宜上直接的に短歌の対象となった事柄を捉えて、何々詠という呼び方をしている。

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短歌の作り方

諸々の情報の抜粋(某HPより)

ただの詞と歌の詞の違い (本居宣長

詩歌でない)普通の文章は、思うところをこまごまと言い続けて、条理は詳しく通じますけれども、やはり言うに言われぬ感情や心情のおもむきは、歌でなくては述べがたいのであります。その言うに言われぬ情趣の深いところが歌に表現されるのは何故かと言いますと、歌は言語表現に文(あや)――特別な曲折や変化をつけるからであります。その(あや)によって、限りない「あはれ」も表れるのであります。さてその歌というものは、普通の文章のように物事の内容を詳細に述べるものではなく、またその言葉に深い意義道理が籠っているものでもありません。ただ心に深く感じたところをふと口に出したまでのことですけれども、その中に際限もなく奧深い情趣を持つのです。それは歌の表現に文(あや)がある故であります。

(あや)あるとは、詞のよくととのひそろひて、乱れぬことなり。大方五言か七言にととのひたるが、古今雅俗にわたりて、ほどよきなり」とも言っており、五音と七音からなる音数律を「文(あや)」の要素と考えていたようです。

  1.  物の表面に現れたさまざまな形や模様。特に、線が斜めに交わった模様。

  1.  特に苦心した、文中の言い回し。含みのある表現や微妙なニュアンス。「言葉の―」

  1.  表面的には見えないが、たどると見えてくる社会や世の中の入り組んだ仕組み。裏表。「人生の―」

  1.  (綾)いろいろな模様を織り出した絹織物。あやおり。あやおりもの。

歌は調べなり (香川景樹

おしなべて、人の心が物に感ずれば、かならず声が発せられるのであります。感動した時には、その声は長くなります。その長いのを歌とし、長くするのを歌うというのであります。後世、メロディーをつけて歌うのばかりを本当の歌と心得ているのは、本末転倒したものであります。つまるところ、歎きの声を歌というのであります。極言すれば、「あ!」と言ったり、「や!」と言ったりするのも、歌以外のものでありません。まだ文(あや)はないと言いましても、聞く人の心を動かすのは、ひとえにその声の調べによるのであります。今ここで調べというのは、決して拵え整えた音調のことではありません。自然と湧き出てくる声、同じ「あ!」と言い、「や!」と言っても、喜びの声は喜びの感情が出、悲しみの声は悲しみの感情が出るといった具合に、他人の耳には区別できるものであります。それを当面調べと言うのであります。

賀茂真淵「万葉集が、学ぶべき唯一の歌風
古学を学ぶうちに古代精神は万葉の和歌に現れて居り、和歌を正しく理解する必要を説く。和歌の頂点は新古今集であると言った時代において万葉集は学ぶ出来唯一の歌風と言った。万葉の「ますらおぶり」を中心とする万葉論を展開した。

小沢蘆庵「ただごと歌」
「実景」、「実情」で知的な心を加えない。心を捨て「詞」は平語。

香川景樹「調べ論
歌は「心」+「詞」+「調」
無き歌は詠むべし、調べなき歌は詠むべからず。最上の歌とは最上の感動を言ったものだ。最上の感動とは端的の感動だ。端的の感動とは第一印象。第一印象をそのままに生き生きと表現するのがすなわち調べである。「詞」は世と共に移り変わって行くが人の心に染むるものは「調べ」だけである。「誠」真心があれば「調」は直ちに得られる。

以後、正岡子規の短歌の近代短歌につながる歌論歌詠に与えふる書

歌を学ぶ際の心得

和歌には師なし(藤原定家

古歌が、言葉が、新しいすぐれた歌への唯一の導き手

歌はみづから悟るものなり (藤原定家

「歌を修業する道のりは、読書や見聞を広めればよいというものではない。おのれの心から湧き起こり、自ら悟るものである」

稽古の必要 (藤原為家

和歌をよむことは、必ずしも学問で得た知識によってでなく、ただ心の中から起こることだと(先達は)申したけれども、昔の書物から習うことなくしては、堪能の評価を得ることは難しい。

歌の詞について

詞の用捨 (伝藤原定家

和歌においての重大事は、詞の選び方――どれを用い、どれを捨てるか――ということでありましょう。

用うべき詞 (藤原為家

ぜひとも古歌にあるような詞を使うべきです。但し、聞き良いような詞は、それ以前に歌によまれた例が無くても、使って悪いはずはありません。名手の歌の中にはそうした例が多いのです。また、古い歌集にあるからと言って、今は誰もよまないような言葉を並べたりしたら、物笑いになるのが落ちです。

歌語について (佐佐木信綱

余り歌語などと言つて、窮屈がる事も無い。又殊更に新語や俗語を入れるにも及ばぬ。ただ歌らしいと云ふところを忘れずに心がけて、自由に語を用ゐればよい。而して特に平生注意して多くの語を記憶し、語彙を豊かにしておき、その時に臨んで、それに相応した語を自由自在に駆使し得る様にならねばならぬ。殊に従来の語のうちにも、印象の明らかな語を選んで用ゐるやうにしたい。其の為には多くの古語の精確な意義と、用例とに通ずる必要がある。而して之等は多く読み多く作つて居るうちに注意さへして居れば自得されて来る。

良い歌とは

歌は声調によって良くも悪くもなる (藤原俊成

歌はただ、口に出して読んだり詠じたりしてみると、何となく優美に聞えたり、情趣深く聞えたりすることがあるものです。そもそも「詠歌」と言うように、声調によって、良くも悪くも聞えるものなのです。

心は新しきを (藤原定家

(ことば)は長い年月使われてきた詞を慕い、内容・情趣は今までにない新しさを求め、及びがたい理想の姿を願って、寛平以前の歌(注:古今集のよみ人しらず歌や、遍昭・業平・小町など六歌仙時代の歌を指すと思われる)を手本とすれば、おのずから良い歌が出来ないわけがありましょうか。

心と詞 (伝藤原定家

心と詞とを兼ね備えているようなのを良い歌と申すべきでしょう。心と詞の二つは、鳥の左右の翼のような関係のはずだと存じます。ただ、心・詞の二つを兼ねているのが理想であることは言うまでもありませんが、心が欠けて詞の巧みな歌よりは、心があって詞のつたない歌の方がましでしょう。

良い歌とは心の深い歌である 同上

十躰(幽玄躰・事可然躰・麗躰・有心躰・長高躰・見躰・面白躰・有一節躰・濃躰)の中では、どの躰にしても、有心躰よりすぐれて和歌の本質を具えている躰はないと存じます。この躰を会得するのは大変難しいのであります。あれこれと考えを巡らしていては、さらさら詠みおおせるものではありません。よくよく心を澄まして、一つの境地に没入してこそ、まれに詠めることはあります。ですから、良い歌と申しますのは、どの歌にしても、心の深い歌のみをそう申すようであります。しかしまた、あまりに深く心を入れようとして、ひねり過ぎれば、「いりほがのいりくり歌」と言って、まとまりのない、わけの分からない歌になり、これは心の無い歌よりもさらに見苦しいものであります。この境をわきまえることがたいへん大事なことであります。重々よくよく考慮しなければなりません。

実際の歌の作り方

まず心を澄ます (伝藤原定家

歌においては、まず心を澄ます(純化し、集中させる)ことは、一つのならわしです。自分の心に日頃好ましく思われた詩でも歌でもあれば、それを念頭に置いて、その力を借りて歌を詠むのが宜しい。

正しい姿勢で詠む 同上

かりそめにも座を正しくせずして詠んではなりません。

初句は最後に決める 同上

歌の最初の五文字は、全体を深く考えて、後で置くのが宜しいのです。

歌は初句から順に作るものではない (阿仏尼)

歌を創るときに、最初の五文字から順によみ下そうなどとは、もとより考えてはなりません。そうでなく、昔からの習わしとして常日頃承っておりましたのは、まず下の七七の句をよく思念して整えます。そのあと、第二句から考えめぐらします。さてそのあとで、最初の五文字を、全体のバランスに適うように、よくよく考えて定めるのがよろしいとのことでした。上句から順々に詠んでゆくうちに、末が弱くなることがありますので、そのための用心と思われます。

題詠について

題詠のすすめ (佐佐木信綱)

古来の歌題は、長い間の歌人の経験の間に、自ら取捨選択されて成立つて来たものである。此意味で言へば、古来の歌題は決して無視することが出来ない。殊に初学者はまづそれから入るのが適当である。(中略)
初学者が入門の為には、まづ四季の題から詠むのがよい。四季の風物に関した歌は、平素誰しもが見聞する事で詠み易い。次には雑の題を詠むがよい。(中略)
初学の人は、まづ花とか、月とかいふ、普通の題に就いて、あくまで自由に詠むのがよい。

題詠上の心得 (伝藤原定家

題の字を上下の句に分ける問題ですが、一字題(「花」「紅葉」など一語から成る題)の場合は、その語を常に下句に表すべきであります。二字や三字以上の題(「荻風」「故郷花」「水郷春望」のように二語以上を結び付けた題。結題に同じ)の場合は、各語を上下の句に振り分けて置くべきです。結題の各語を一箇所(上句か下句のどちらか一つ)にまとめて置くのは最も忌むべきかと思われます。古くて秀逸な歌の中にも、そのような例があることはありますが、手本に用いるべきではありません。くれぐれもあってはならないことであります。ただしまた、非常によく出来ている歌については、初句に題の語が置かれていても、例外として許されると伺っております。

【補足】例えば「紅葉」という一語からなる題を出された場合、「紅葉」の語は下句に置くのが望ましいとされています。これは、通常下句に山場が来るという短歌の形式が要請することであり、理にかなった教えだと思われます。また「故郷花」のような題の場合は、「故郷」を表す語と「花」を表す語を上下の句に振り分けるのが良いとされています。例えば千載集の平忠度の「故郷花」を題にした名歌「さざ浪や志賀の都はあれにしを昔ながらの山ざくらかな」のように。しかし実際にはこうした教えに違反する秀歌が多いことも事実です。定家自身、例えば千載集に見える「時雨」一字題の歌で「時雨れつる真屋の軒端のほどなきにやがてさしいる月のかげかな」と題の字を初句に置いており、こうした例は枚挙に暇がありません。さほど気にする必要はないでしょうが、心の片隅には留めておいたほうが良いかもしれません。

類想を避けよ (佐佐木信綱

元来歌は二千年来詠み来つたので、其間におのづから類想といふものが出来て居て、花の歌なら白雲とまがへるとか、梅ならば暗夜に香をとめて探るとか、歳暮ならば何にもしない間に年の暮れたのが惜しいとか、きつと慣例のやうに言つて居る。初学者が歌を詠むに就いても、斯ういふ弊に落ちることは、初めから警戒せねばならぬ。類想ばかりを詠んで居ると終つひにそのうちを出る事が出来なくなつて、所謂陳腐な月並の歌ばかりを作るやうになる。何も初めが大切である。少し困難でも、初めからその考で、古来の類想に陥らないやうに、何でも自分が真に感じた事を歌ふやうにせねばならぬ。

短歌の観賞/歌論

色々な歌人の歌を見るにつけてどのような点に注意をしてゆけばよいか、ランダムに取り上げました。
このことは歌を詠むのにも参考になりはしないか。

与謝野晶子 人生に何が残り候やと考ゑればはかなきものながら歌の類に候べし

おびただしく生まれる短歌の中で後世に残ってゆくのはごく僅かであろうが人の心の琴線に触れ得る芸術家は素晴らしい、羨ましいと思う

歌はどうして作る。じっと観、じっと愛し、じっと抱きしめて作る。なにを。真実を。

西行

歌は即ち如来(仏)の真の姿なり、されば一首詠んでは一体の仏像を彫り上げる思い、秘密の真言を唱える思いだ」。

「和歌はうるはしく詠むべきなり。古今集の風体を本として詠むべし。中にも雑の部を常に見るべし。但し古今にも受けられぬ体の歌少々あり。古今の歌なればとてその体をば詠むべからず。心にも付けて優におぼえん其の風体の風理を詠むべし」

啄木

啄木の歌には万人が自分のふるさとへの思いを託せる普遍性がある

立派な歌を読む気がないから、飾らない言葉で何げない出来事や心の動きを詠うことが出来た。青春の文学だった短歌を、働く人々の日常の心の動きをすくい取るものへ広げ、100年後の今に続く短歌のスタンダードを作った

青春、病気、貧乏、望郷、都会の孤独、社会変革の意識、家族といった近代日本の、そして現代に続く重要な主題が全部入っている

短歌観賞のポイント

短歌鑑賞の実際
大切なことは「いつ」「どこで」「どういう状況で」「なぜ」作ったのかを想像し、なるべく具体的にイメージしながら、作者の感動の中心を読み取り、あたかも自分が体験したかのように実感することです。それには声に出して読み、リズムや音を味わいながらイメージするのがよいと思います。
 以上の鑑賞上の注意点を与謝野晶子の次の短歌で確認してみましょう。

   その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな

@ 句切れ 体言止めが目印になり、初句切れです。初句を強調したことになります。

A
字余り 「六七五七七」で初句が字余りです。リズムが乱れ、結果的に強調されます。

B
かかり受け 初句を別にすると省略も倒置もなく、「櫛にながるる黒髪の」と「おごりの春の」とがそれぞれ結句の「うつくしきかな」にかかっていって、まとまっています。

C
止め 結句は「かな」で助詞止めになっていて、詠嘆を表しています。Bのかかり受けと合わせて考えると結句の「うつくしきかな」が歌の中心であることが分かります。さらに、字余りや句切れのことを合わせて考えると、初句と結句に歌の中心があるといえるでしょう。

D
反復 初句の母音の配列を調べると「その子二十」ですから「オオオアアア」になっています。声に出して読むと「二十」が強く、大きく強調されているような感じを受けないでしょうか。
 「アエイオウ」の順で発音してみると分かりますが、口の開き方が大小になっていきます。それに従って音の印象は大きくはっきりした「ア」からだんだん小さくこもった印象の「ウ」へと変わっていくのが分かると思います。このように考えると「アウ」は「明暗」「強弱」という印象があるといえるでしょう。ただし、このような印象はあくまでも比較して相対的にいえることであって、「『ア』が絶対的に明るい」とか「『ウ』が多い歌は必ず弱い」とかいえるわけではありません。
 「二十」が仮に明るく、強く、大きく強調されているような印象があったとしても、それは「その子」のあとにあるからです。「オオオ」と閉じぎみの口で三音発音したあとに、急に目一杯口を開いて「アアア」と「ア」音を三回連続させるからです。その対比がそのような印象与えるのです。さらに、そのあとすぐに「櫛にながるる」で「ク」と一気に口を小さくすることも「二十」を印象づけるのに役立っているといえるでしょう。
 初句と結句が強調されていますが、そのなかでも「二十」が特に大事な語句であることがわかると思います。つまり、この歌は「その子」が美しいことを詠んだ歌ですが、たんに女性の美しさを詠んだものではありません。その美しさは二十才という年齢の時の女性の輝きを詠んだものなのです。
 そのほかの反復を調べると「の」が多いことに気づきます。さらに母音を調べると「オ」音は実に九回も出てきます。三十二音のうちの九音が、それも第四句(二十五音目)までに集中して繰り返し出てきます。これは何かを表現したものでしょうか。おそらく黒髪が「ながるる」様子を象徴したものでしょう。「オ」音の反復が長い髪をとかしているように感じられませんでしょうか。
 それはともかく、「の」や「オ」音の反復は本当に意図されたものでしょうか。偶然ではないのでしょうか。これは偶然ではありません。そもそも三十二音しかないのですから、作者は細心の注意を払って言葉や音を選びます。また、この歌の場合「ながるる黒髪の」の「の」は「の」であるために「うつくしきかな」にかかっていくのがわかりにくいのです。例えば「黒髪や」とか「黒髪よ」とかいうように切ってしまったほうがはるかに意味はわかりやすいと思います。そのわかりやすさを犠牲にしても、きっと作者は全体の流れを大事にして切らないようにしたのでしょう。


E
比喩象徴 「おごりの春のうつくしきかな」の「春」は実際の春という季節を示していません。二十の自分の美しさを春のイメージで象徴させたものです。二十が人生の春だと考えてもよいでしょう。
 「ながるる黒髪の」の「黒髪」は実際の髪の美しさを詠み込んだものですが、これも自分の美しさを象徴していると考えられます。髪だけが美しいと詠んだわけではないでしょう。美しさを黒髪で代表させたのでしょう。このように何かを何かに代表させた表現を特に換喩といいます。たとえば、背の高い人を「のっぽさん」などと呼び、その人自身を指し示すのと同じです。


F
イメージ この歌の中には対立するイメージが詠み込まれていません。しかし、新鮮で若々しいイメージで統一されています。例えば「ながるる黒髪」は反対の白髪ではなく黒髪なのです。それはたんに「髪」というよりも若さを強調できるでしょう。さらに「ながるる」ということで子供のように短くない髪だということを示すことで、成熟した若さだということもわかります。
 また、「おごりの春」は夏でも秋でも冬でもなく春なのです。「二十」「ながるる」「黒髪」「春」をイメージとしてとらえると、歌全体で「成熟した若々しい美しさ」を一貫して強調しているといえるでしょう。


G
文字の表記 ふつう漢字で書く「ながるる」「うつくしきかな」がひらがな表記になっています。このようなものは作者に意図があります。どちらも漢字で表記するよりも、しなやかな印象を残すのではないでしょうか。「黒髪」は画数が多く重々しいので、力強く感じられるとすれば、「その子」の美しさはしなやか、かつ、力強いものだといえるでしょう。

H
和歌との違い この歌は画期的に新しいものですが、その新しさは歌の内容にあります。まず、自分が美しいと詠んでしまったことは衝撃的でした。それも「その子」というように客観的にとらえて美しいというのですから驚きです。はっきりいって、奥ゆかしさのかけらもなくずうずうしい限りです。
 さらに、自分の部屋の中でのこと、それも髪をとかしていることを詠んだのも、衝撃的でした。化粧を電車の中でする人たちをよく見かける現代では分かりにくい感覚ですが、当時はそのような姿は絶対見せるべきものではないし、見られてもいけないものだったのです。つまり、この歌は見方によっては、下品で、恥知らずで、みっともない歌なのです。
 しかし、当時の男性はこの歌を読み、情景を想像してドキドキしたことと思います。また逆に、作者の立場になって考えると、そのような姿を歌に詠むことは大変な勇気が必要だったと思います。なぜなら、部屋で髪をとかす姿が美しいと詠むことはそれまでの美意識(何を美しいとするかということ)など、和歌の伝統や、古い道徳や慣習に反発し挑戦することを意味するからです。とにかく大胆な行為であり、画期的なことだったのです。ですからきっと女性もドキドキしたと思います。

歌の主義的検討

浪漫主義

理性偏重、合理主義などに対し感受性や主観に重きをおいた一連の運動であり、古典主義と対をなす。恋愛賛美、民族意識の高揚、中世への憧憬といった特徴をもち、近代国民国家形成を促進した。その動きは文芸・美術・音楽・演劇など様々な芸術分野に及んだ。のちに、その反動として写実主義・主観を重視する浪漫的な短歌を目指し、与謝野鉄幹らを輩出した。明治33年(1900年)、鉄幹は『明星』を創刊し、与謝野晶子を擁して浪漫主義短歌の全盛時代を築いた。明治40年代には『明星』から出た耽美派の北原白秋、自然主義的な若山牧水、社会主義的傾向を示した石川啄木らの個性が開花した。

耽美主義

道徳的であることや善であることに価値を置かずに、「美である」ことのみに価値を置き、不道徳・悪であることを理由に否定するような常識を持たない主義です。
耽美主義者は、三島由紀夫の最期を、「美しい死に方をした」と思う。

谷崎潤一郎 三島由紀夫 北原白秋

自然主義

1 哲学で、自然を唯一の実在・原理として、精神現象を含む一切の現象を自然科学の方法で説明しようとする立場。

2 倫理学で、道徳に関する事象を本能・欲望・素質など人間の自然的要素に基づいて説明する立場。

3 文学で、理想化を行わず、醜悪なものを避けず、現実をありのままに描写しようとする立場。19世紀後半、自然科学の影響のもとにフランスを中心に興ったもので、人間を社会環境や生理学的根拠に条件づけられるものとしてとらえたゾラなどが代表的。日本では明治30年代にもたらされ、島崎藤村・田山花袋・徳田秋声・正宗白鳥らが代表。→リアリズム文学

教育学で、人間の自然の性情を重んじ、その円満な発達を教育の目的とする立場。ルソーの提唱。

若山牧水 

アララギ派

(あららぎ)は日本の短歌結社誌。1903年(明治36年)に伊藤左千夫をはじめとした正岡子規門下の歌人らが集まった根岸短歌会の機関誌『馬酔木』を源流とし、1908年(明治41年)に左千夫や蕨真一郎を中心に『阿羅々木』として創刊。翌年、島木赤彦が創刊した『比牟呂』と合併し、『アララギ』と改題された。独自の歌風を確立してアララギ派を主導した島木赤彦や、自我を見つめて生命感ほとばしる歌を詠んだ斎藤茂吉が出た。『アララギ』は赤彦が編集を担当した大正期に歌壇主流と言っていい発展を遂げる

反アララギ派
ストイックな歌風を特色とするその美学と結社的束縛は一部で反発を招き、大正13年(1924年)に古泉千樫、釈迢空、石原純が新雑誌『日光』の創刊に参加して『アララギ』を離脱するなど、『アララギ』の分裂を生み出す

短歌の作り方 メモ

1.状況、ストーリーを把握(5W1H)
 単純が良い
「〜だよね」伝えたい、共感できるか
「そうなんだ」そういうことか
瞬間の感動を忘れずにメモしておく
大きい場面から小さいものへ
二つのものを組み合わせる
感情よりも事実を詠む
固有名詞を中心にすえれば個性的な歌になる
日常生活の中でうるおいを発見する
主観語 ・感情的な言葉はなるべくさける

2.短文にまとめる
3.短文を句に変換 
 幾つかの句に変換し並べ替え
 2句を1句に言い換えるには(最適化)
 他に、言い回しは無いか
4.修辞技法は使えないか
5.57調(男性的)、75調(女性的)どちらに(調子、リズムは)
6.1首にまとめる
7.推敲

其の他の情報

8.「俳句的発想」 取り合わせに不思議な力 
 (例) 船長の愛する菫(すみれ)の小鉢かな 春風引いていく町の中  船長と菫 春風と象
少動物を愛し、発想を裕に 私たちの暮らしの中において不断に美や快適さを作り出している
以上某新聞の俳句コーナーより抜粋

9.短歌を詠む上で気になる言葉

細み 
作者の心が対象にかすかに深く入り込んでとらえる、およびそれが繊細微妙に表現される句境。→寂(さび) →撓(しおり) →軽み

さび、しおり(生命の暗示) 短歌の上の細みは元来修道禁欲から生まれる辛苦の結晶ではない。ほしいままに放って置いて而も湧然として動き来リ、心を掠(かすめ)め去る瞬間の影 ・・・折口

ゆらぎ
大井 玄 詩は生と死のゆらぎのようなところにある
痴呆状態にある人を直視し、その肌をさする・・・・
先立つ者をしのび、死に向かう思いを何とか昇華させようとする手つきは触診そのものである

物理学において、ゆらぎとは、広がりまたは強度を持つ量(エネルギー・密度・電圧など)の空間的または時間的な平均値からの変動を指す。ゆらぎの大きさを表すのに用いられる二乗平均ゆらぎは、統計学における分散と同じものである。

ことのはじめは、電気的導体に電流を流すとその抵抗値が一定ではなく、不安定にゆらいでいることが80年ほど前に発見されたことによります。そのパワースペクトルが周波数fに反比例することから、「1/fゆらぎ」と名付けられました。その発生機構は未だに分かっていません。その後ろうそくの炎、そよ風、小川のせせらぎなどの様々な自然現象の中に「1/fゆらぎ」が発見されました。また、人の心拍の間隔、クラシック音楽、手作りのものなども「1/fゆらぎ」になっていることが発見されています。
   「1/fゆらぎ」は音楽でいうとラジオのノイズの「ザー」という音と、メトロノームの規則正しい音とのちょうど中間にあたり、不規則さと規則正しさがちょうどいい具合に調和している状態なのです。


擦り合わせ

近代の破局が露出した部分や点、通常の歴史を記述には浮上しない歴史を思い出させる部分に
詩の対象になる

化石燃料から原子力発電、太陽光発電 木綿や絹の製糸業から化繊にシフト
コンピュータならハード面ではクラウドや データ解析ビッグデーター
歴史上なら破局の時期
個人なら 生死や破産人との別れなど 明暗 新と旧 

自然界でも 温暖化とか 地震に津波 噴火に 絶滅危惧の生物や

擦り取り 対象物に紙をあて、擦てその形状を写すこと


たけ 調子の張った上に単調を救う曲折のあること

静けさ、温かみ、しなやかさ、美しさ、粘り強さ などがうたわれているか

情熱 表現の苦悩を積むほかに、唯一つの違った方法が、技工の障壁を突破させるであろう。古代詩に著しく現れた情熱である。その激しい律動が、表現の段階を一挙に飛躍せしめた
深い反省、静かな観照から、ひそかな内律をひき出す様にする事が、更に歌をよくし、人間としての深みを加えることになる・・・折口

短歌は調べの一本勝負(短歌が散文と違う唯一の部分)

韻文は、音の調子がリズミカルになるように、決まった順番にならべることです。この「韻文」には大きく分けて2つの種類があります。
 1)「5音」と「7音」でそろえるというもの(=音数律)。
 2)最初か最後の音をそろえるもの(=押韻)
のに2つに分けることができます。

飲んだら乗るな、乗るなら飲むな


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一夜漬け 歴史的かなづかひ入門

現代仮名遣ひを歴史的仮名遣ひに直すときの原則

教室より、抜粋

大原則

 和語の現代仮名遣ひを歴史的仮名遣ひに直すときの大まかな大原則は次の通りである。

現代仮名遣いで文章を書いてみて下さい。

その中に「わ、い、う、え、お、じ、ず」の仮名がありますか。

ない時はそのままでよいのです。

具体的にいうと、現代仮名遣いで

 「ワ」、「イ」、「ウ」、「エ」、「オ」

 「オウ」、「コウ」、「ソウ」、「トウ」、・・・

 「ジ」、「ジャ」、「ジュ」、「ジョ」、「ズ」

 と書く部分だけが歴史的仮名遣いで別の仮名になる可能性があるのです

●語頭以外の「わ、い、う、え、お」を「は、ひ、ふ、へ、ほ」とする。

●「ず」を「づ」とする。

≪語頭≫    ||わ ||い ||う ||え ||お ||

≪語頭以外≫ || || || || || ||

||ず ||

||じ ||

||長音||

 

 

≪語頭≫

語頭の「ワ」と「ウ」はすべて「わ」と「う」。

語頭の「イ」はほとんど「い」。

例外

 井  藺草  居丈高  田舎  猪 亥  威張る  ヰモリ  居る

  (「イラッシャル、イラッシタ、イラシタ、イラシテ」などは「い」でよい。由来は「入る 入らせらる」。)

  (文語「在す」は「います」。「居(ゐ)ます」とは別の語。)



語頭の「エ」はほとんど「え」。

例外

 絵  描く  ゑぐい  抉る  餌  笑み 笑む  ヱンジュ

  (「酔ウ」は「よふ」。「ゑふ」は古形。)


語頭の「オ」はほとんど「お」。

例外

 小  尾  緒  甥(をひ)  終へる  雄々(をを)しい  丘 岡  可笑しい

   犯す  拝む  荻  桶  をこがましい  ヲコゼ  長  をさをさ  幼い

   収める 納 治 修  叔父 伯父(をぢ)  惜しい  教へる  をぢさん

   ヲシドリ  雄 牡  教はる  夫  男  一昨日(をととひ)  一昨年

   少女(をとめ)  囮  踊る  斧  をののく  叔母 伯母 をばさん  ヲミナヘシ

   檻  折  折る  居る  ヲロチ  終はる  女

  「オウ」の「オ」が「あ」であるもの。

   あふぎ 扇  あふせ 逢瀬  あふみ 近江  あをみ 青海  あをめ 青梅

≪語頭以外≫

語頭以外の「ワ」は多くは「は」。

例外

 ★終助詞の「ワ」は「わ」。(係助詞「は」とは別)

   〜だわ  〜わい  〜わね  寝坊するわ忘れ物するわ  出るわ出るわ  など

  その他「わ」であるもの。

   あわ 泡  あわただしい あわてる 慌  いわう 硫黄  いわし 鰯

   うわる 植  かわく 乾 渇  くつわ 轡  くるわ 廓  くわゐ 慈姑

   ことわざ 諺  ことわる 断  こわいろ 声色  さわぐ 騒  ざわざわ

   ざわめく  しわ 皺  すわる 座  すわる 据  たわいない 他愛無

   たわむ 撓 たわわ  はにわ 埴輪  よわい 弱

語頭以外の「イ」は多くは「ひ」。

例外

★形容詞語尾の「イ」はすべて「い」。(イ音便。由来は「し」「き」)

   赤い  いい  美しい  など

★動詞の「〜ナイ、タイ、マイ、ラシイ、ミタイ、ナサイ、クダサイ」はすべて「い」。イ音便。由来は「き」「ぎ」)
動詞の「〜ナイ、〜イタ」と形容詞の「〜イ」は「い」。

例外なし

「ない」は古文風(文語)に変へると「な」「な」になります。
「書いて」「稼いだ」は「書て」「稼たり」になります。
「赤い」は「赤」「赤」になります。

行かない  行きたい  行きなさい  行くまい  行くみたい  行くらしい

   行ってください  など


★動詞命令形語尾の「〜イ」はすべて「い」。
(イ音便。由来は「よ」)

来い  せい  立てい  など

★動詞の音便形「イタ、イダ、イテ、イデ」は「い」。(イ音便。由来は「き」「ぎ」)

稼いだ  咲いたら  着いて  脱いでも  など


★助詞の「〜イ」は「い」。
(イ音便。由来は「や」「よ」)

かい  だい  わい  など


★元「や」行の動詞の「イ」は「い」。

(老いる、悔いる、報いる この三個のみ


★イ段の音を引き延ばすための拍は「い」。

 しいんと など

その他「い」であるもの。(イ音便、付加音、感動詞、や行の「い」など。 語頭以外に元々
   あ行の「い」であるものはない。)

   あいつ  あいにく 生憎  あるいは  いいえ  いっぱい  えい(掛け声)

   老い 老いらく 老いる  おい(呼びかけ)  おいしい 美味  おいて 於

   おいで  おいら 俺等  おほいに 大  かい 櫂  かいくぐる 掻潜

   かいぞへ 介添  かいだす 掻出  かいまき 掻巻  かいまみる 垣間見

   かはいい 可愛  かはいさう 可哀想  悔い  〜ください  来い  こいつ

   ここいら  〜ございます  さいなむ 苛  さいはひ 幸  ぢいさん 爺

   〜しゃい  しんまい  ずいき 芋茎  ずいと  ずいぶん  すいません

   せい 背  せいいっぱい  せいぜい  ぜんまい  そいつ  そこいら

   たいした  だいぶ 大分  たいまつ 松明  たわい 他愛  つい(うっかり)

   つい 対  ついぢ 築地  ついたち 一日  ついたて 衝立  〜について

   ついで 次  ついで 序  ついばむ 啄  〜っしゃい  どいつ

   たうてい 到底  ないがしろ 蔑  〜なさい  にいさん 兄  はい(返事)

   ひいき 贔屓  ひいでる 秀  ふい(駄目)  ふいご 鞴  へい(はい)

   ほいほい  まいにち 毎日  むいか 六日  むくい 報  やい(呼びかけ)

   やいのやいの  やいば 刃  わいわい  わっしょい

  次のものは「ゐ」です。

   あゐ 藍  あぢさゐ 紫陽花  いぬゐ 乾  くらゐ 位  〜ぐらゐ

   くれなゐ 紅  くわゐ 慈姑  しほさゐ 潮騒  しきゐ 敷居 閾

   しばゐ 芝居  せゐ(所為)  とりゐ 鳥居  ひきゐる 率  まゐる 参

   もちゐる 用  もとゐ 基

語頭以外の「ウ」は多くは「ふ」。」(「ウ」で終る動詞の「ウ」はすべて「ふ」)ですが、
   例外は次の通りです。   

例外



★形容詞の活用の「〜く」が「ウ」となったものはすべて「う」。

 おそろしう  寒う  おたか(高)う  など


 ★動詞(乞ふ、恋ふ、問ふ
 この三個のみ)の活用の「ひ」が「ウ」となったものは「う」。

乞(請)うて  恋うて  問うた  など

(文語では他の動詞でもすべて「う」。

言うて 追うて 沿うて  など


 ★動詞の推量、意志を表わす「〜ウ」はすべて「う」。
(ウ音便。由来は「む」「ん」)

行かう  笑はう  見よう  など 


 
★(文語のわ行動詞の「〜ウ」は「う」。植う、飢う、据う この三個のみ) 

(植う 植うる  飢う 飢うれば  据う 据うれど  


 
★ウ段、オ段の音を引き延ばすための拍は「う」。

 すうっと  どうれ  など

 その他「う」であるもの

  ありがたう  いわう 硫黄 (「ゆわう」は古形)  いちゃう 銀杏  いもうと 妹

   〜うる 得  おとうさん 父  おとうと 弟  おはやう  おめでたう

   かりうど 狩人  〜からう  からうじて 辛  かはいさう 可哀想

   ききゃう 桔梗  きうり 胡瓜  くろうと 玄人  かう(〜だ、いふ、する、なる)

   かうがうしい 神々  かうし 格子  こうぢ 小路  かうぢ 麹  かうぞ 楮

   かうばしい 香  かうべ 頭  かうべ 神戸  かうむる 被  かうもり 蝙蝠

   かうり 行李  ごきげんよう  ごちそうさま  さやうなら  〜ぢゅう 中

   しうと 舅  しうとめ 姑  しゃうが 生姜  しゃうがない  しゃうぶ 菖蒲

   しろうと 素人  さう(〜だ、いふ、する、なる)  〜さう(〜だ、な)

   さうざうしい 騒々  さうらふ 候  たたう 畳  〜たらう  〜だらう

   てうづ 手水  ちゃうど 丁度  てうな 手斧  〜でせう  どう 如何

   たうげ 峠  とうさん 父  どうせ  どうぞ  たうてい 到底  たうとう 到頭

   とうに(早くに)  どうも  だうりで 道理  どぢゃう 泥鰌  なかうど 仲人

   のうのう  ひうが 日向  ヘウ 豹  ふつう 普通  ぶだう 葡萄  〜はう 方

   はうき 箒  はうむる 葬  ほんたう 本当  〜ませう  めうが 茗荷

   めうと(ミョートと読む場合) 夫婦  もう(既に)  もう[または まう](更に)

   まうける 設 儲  まうす 申 (「まをす」は古形)  まうでる 詣  やう(〜だ、な)

   やうか 八日  ようこそ  やうす 様子  やうやく 漸  りんだう 竜胆

   わかうど 若人  われもかう 吾木香

  特殊なもの。

   あかほ 赤穂  あをみ 青海  あをめ 青梅

語頭以外の「エ」は多くは「へ」。

例外

★元「や」行の動詞の「エ」は「え」。(由来はや行の「え」)

 あまえる 甘  いえる 癒  おびえる 脅  おぼえる 覚  きえる 消

   きこえる 聞  こえる 越  こえる 肥  こごえる 凍  さえる 冴

   さかえる 栄  すえる 饐  そびえる 聳  たえる 絶  つひえる 費 潰

   なえる 萎  にえる 煮  はえる 生  はえる 映 栄  ひえる 冷

   ふえる 増  ほえる 吠  まみえる 見  みえる 見  もえる 燃  もえる 萌 

   もだえる 悶  以上二十七個の動詞のみ

 
★エ段の音を引き延ばすための拍は「え」。

  あれえ  せえの  など

  その他「え」であるもの。(付加音、感動詞、や行の「え」など。 語頭以外に元々あ行の「え」で
   あるものはない。)

   あえか  あまえ 甘  いいえ  いりえ 入江  〜え(人名の江、枝)

   ええ(応諾)  おびえ 脅  おぼえ 覚  きこえ 聞  こえ 肥  こごえ 凍

   こころえ(る) 心得  さえぎる 遮  さえ 冴  さかえ 栄  サザエ

   たえだえ 絶々  つひえ 費  つくえ 机  なえ 萎  にえ 煮  ぬえ 鵺

   ねえ(呼びかけ)  ねえさん 姉  はえ 栄  ひえ 稗  ひえ 冷  ふえ 笛

   へえ(はい)  みえ 見栄  もだえ 悶

  「ゑ」であるもの。

   いしずゑ 礎  うゑる 植  うゑる 飢  〜ゑ(人名の恵)  こゑ 声

   こずゑ 梢  すゑ 末  すゑる 据  つゑ 杖  ともゑ 巴  ほほゑむ 微笑

   ゆゑ 故  ゆゑん 所以

語頭以外の「オ」は多くは「ほ」。

例外

 「お」であるもの(語中のやうに見えて実は語頭であるもの。 語頭以外に元々「お」であるも のはない。)

 はおり はおる 羽織

  「を」であるもの。

   あを 青  いさを 功  うを 魚  〜を(人名の男、雄、夫)

   かをり かをる 香  かつを 鰹  さを 竿  しをらしい  しをり 栞

   しをれる 萎  たをやか  たをやめ 手弱女  たをる 手折  とを 十

   ますらを 益荒男  みを 澪  みさを 操  めをと 夫婦  やをら

  「ふ」であるもの。

   あふひ 葵  あふぐ 扇 仰  あふむく 仰向  あふる 煽

   たふす たふれる 倒

動詞の推量、意思を表わす「〜オウ」はすべて「はう」。(由来は「は行動詞未然形+む」)

会はう  言はう  買はう  などすべて

  「オウ」が「わう」であるもの。

   いわう 硫黄 (「ゆわう」は古形)

長音(「オウ、コウ、ソウ、・・・、キュウ、シュウ、チュウ、・・・、キョウ、ショウ、チョウ、・・・」)について

★動詞の推量、意思を表わす「オ段+ウ」は「あ段+う」。

いはう 言  いかう 行  しなう 死  すまう 住  たたう 立  ちらう 散

(ただし「ヨウ」であるものはそのまま「よう」。)。(由来は「あ段+む」)

   しよう  みよう 見  あけよう 開  など

動詞の推量、意思を表わす「〜オウ」はすべて「はう」。(由来は「は行動詞未然形+む」)

会はう  言はう  買はう  などすべて


★語幹がア段で終る形容詞の「〜く」の変化「〜ウ」は「あ段+う」。

★それ以外にも「オ段+ウ」が「あ段+う、ふ」であるものがある。

「オウ」の「オ」が「あ」であるもの。

   あふぎ 扇  あふせ 逢瀬  あふみ 近江

   (特殊なもの あをみ 青海  あをめ 青梅)

  「オウ」の「オ」が「わ」であるもの。

   いわう 硫黄 (「ゆわう」は古形)

  「コウ」の「コ」が「か」であるもの。

   (特殊なもの あかほ 赤穂)  かう(〜だ、いふ、する、なる)  かうがうしい 神々

   かうし 格子  かうぢ 麹  かうぞ 楮  かうばしい 香  かうべ 頭

   かうべ 神戸  かうむる 被  かうもり 蝙蝠  かうり 行李  なかうど 仲人

   むかふ[または むかう](名詞) 向  わかうど 若人  われもかう 吾木香

  「ゴウ」の「ゴ」が「が」であるもの。

   まがふ 紛 みまがふ 見紛

  「ソウ」の「ソ」が「さ」であるもの。

   かはいさう 可哀想  さう(〜だ、いふ、する、なる)  〜さう(〜だ、な)

   さうざうしい 騒々  さうらふ 候

  「トウ」の「ト」が「た」であるもの。

   ありがたう  おめでたう  たたう 畳  たゆたふ 揺蕩  たうげ 峠

   たうてい 到底  たふとい たふとぶ 尊  たうとう 到頭  とほたふみ 遠江

   ふきのたう 蕗の薹  ほんたう 本当

  「ドウ」の「ド」が「だ」であるもの。

   だうりで 道理  ぶだう 葡萄  りんだう 竜胆

  「ホウ」の「ホ」が「は」であるもの。

   〜はう 方  はうき 箒  はふはふの体  はうむる 葬  はふる 放

  「モウ」の「モ」が「ま」であるもの。

   すまふ 相撲  〜たまふ 給  まうける 設 儲

   まうす 申 (「まをす」は古形)  まうでる 詣

  「ヨウ」の「ヨ」が「や」であるもの。

   おはやう  さやうなら  やう 様  やうか 八日  やうす 様子  やうやく 漸

  「ロウ」の「ロ」が「ら」であるもの。

   〜からう  からうじて 辛  さうらふ 候  〜たらう  〜だらう

  その他に★語幹がア段で終る形容詞の「〜く」の変化「〜ウ」は「あ段+う」。

   あたたかう 温  おたかう 高  つめたう 冷  など


★「ウ段の拗音+ウ」は「い段+う、ふ」。

「キュウ」の「キュ」が「き」であるもの。

   きうり 胡瓜

  「シュウ」の「シュ」が「し」であるもの。


★形容詞の「〜しく」の変化「シュウ」はすべて「しう」。(ウ音便。由来は「く」)

美しう  嬉しう  悲しう  など

   他に「しう」であるもの。

    しうと 舅  しうとめ 姑

  「ジュウ」の「ジュ」が「じ」であるもの。

   じふ 十

  「チュウ」の「チュ」が「ち」であるもの。

   〜ちふ(と言ふ)

  「ニュウ」の「ニュ」が「に」であるもの。

   はにふ 埴生

  「ヒュウ」の「ヒュ」が「ひ」であるもの。

   ひうが 日向

  「リュウ」の「リュ」が「り」であるもの。

   かりうど 狩人


★「オ段の拗音+ウ」は「え段+う、ふ」。

 「キョウ」の「キョ」が「け」であるもの。

   けふ 今日

  「ショウ」の「ショ」が「せ」であるもの。

   〜でせう  〜ませう

  「チョウ」の「チョ」が「て」であるもの。

   てふ 蝶  てうづ 手水  てふちょ てふてふ 蝶々  てうな 手斧

  「ヒョウ」の「ヒョ」が「へ」であるもの。

   ヘウ 豹  ヘウタン 瓢箪

  「ミョウ」の「ミョ」が「め」であるもの。

   めうが 茗荷  めうと 夫婦

  (「ゑふ 酔」は古形。現代語は「よふ」。)


 ★例外的に「オ段の拗音+ウ」が「あ段の拗音+う」であるものがある。

 「キョウ」の「キョ」が「きゃ」であるもの。

   ききゃう 桔梗

  「ショウ」の「ショ」が「しゃ」であるもの。

   しゃうが 生姜  しゃうがない  しゃうぶ 菖蒲

  「ジョウ」の「ジョ」が「ぢゃ」であるもの。

   どぢゃう 泥鰌

  「チョウ」の「チョ」が「ちゃ」であるもの。

   いちゃう 銀杏  ちゃうど 丁度

「ジ、ズ」について

「ジ」は多くは」「じ」。

例外

 味  鯵  あぢきない  アヂサヰ  意地  いぢいぢ  いぢめる  いぢらしい

   いぢる  氏  うぢうぢ  お爺(ぢい)さん  をぢさん  怖ぢる  舵  梶

   鍛冶  鯨  けぢめ  かうぢ(麹)  地  痔  〜路  爺(ぢい)さん

   ぢか ぢき(直)  ぢぢ(爺)  地味  シメヂ  ぢゃ ぢゃあ(では)

   〜ぢゃ(だ、では)  〜ぢゃふ(でしまふ)  〜ぢゅう(中)  重々(ぢゅうぢゅう)

   筋  たぢたぢ  たぢろぐ  築地(ついぢ)  どぢ  泥鰌(どぢゃう)  閉ぢる

   ナメクヂ  汝  ネヂ  ねぢる  恥  肘  藤  もぢもぢ  捩(もぢ)る

   紅葉  よぢる  ワラヂ

「ズ」は多くは「づ」。

例外

 ★動詞の「する」が濁ったものはすべて「ず」。

   案ずる 演ずる 感ずる 映ずる 応ずる 講ずる など

   甘んずる 疎んずる など

  ★動詞の打消しの「ズ」は「ず」。

   書かず 見ず など

 その他「ず」であるもの。

   杏子  礎(いしずゑ)  うずうず  うずくまる  数  必ず  傷  葛

   梢(こずゑ)  芋茎(ずいき)  ずいと  ずいぶん  鈴  錫  鱸  涼しい

   スズシロ  スズナ  雀  硯  ずっこける  ずっしり  ずっと  ずば抜ける

   ずばり  ずぶの  ずぶずぶ  ずぶぬれ  ずぼら  ずらす  ずらり

   ずり落ちる  ずるい  ずるずる  ずれる  ずんぐり  ずんずん  たたずむ

   鼠  筈  引きずる  ミミズ  むずむず  百舌  行きずり  柚子


覚えるべき語(シート2)

[ゐ] 井 藺草 居丈高 田舎 猪 亥 威張る ヰモリ 居る あゐ藍 あぢさゐ紫陽花 いぬゐ乾 くらゐ位 〜ぐらゐ くれなゐ紅 くわゐ慈姑 しほさゐ潮騒 しきゐ敷居 閾 しばゐ芝居 せゐ所為 とりゐ鳥居 ひきゐる率 まゐる参 もちゐる用 もとゐ基 [ゑ] 絵 描く ゑぐい 抉る 餌 笑み 笑む ヱンジュ いしずゑ礎 うゑる植 うゑる飢 〜ゑ(人名の恵) こゑ声 こずゑ梢 すゑ末 すゑる据 つゑ杖 ともゑ巴 ほほゑむ微笑 ゆゑ故 ゆゑん所以 [を] 小 尾 緒 甥(をひ) 終へる 雄々(をを)しい 丘 岡 可笑しい 犯す 拝む 荻 桶 をこがましい ヲコゼ 長 をさをさ 幼い 収める 納 治 修 叔父 伯父(をぢ) 惜しい 教へる をぢさん ヲシドリ 雄 牡 教はる 夫 男 一昨日(をととひ) 一昨年 少女(をとめ) 囮 踊る 斧 をののく 叔母 伯母 をばさん ヲミナヘシ 檻 折 折る 居る ヲロチ 終(をは)る 女 あを青 いさを功 うを魚 〜を(人名の男、雄、夫) かをり かをる香 かつを鰹 さを竿 しをらしい しをり栞 しをれる萎 たをやか たをやめ手弱女 たをる手折 とを十 ますらを益荒男 みを澪 みさを操 めをと夫婦 やをら

[わ] あわ泡 あわただしい あわてる慌 いわう硫黄 いわし鰯 うわる植 かわく乾 渇 くつわ轡 くるわ廓 くわゐ慈姑 ことわざ諺 ことわる断 こわいろ声色 さわぐ騒 ざわざわ ざわめく しわ皺 すわる座 すわる据 たわいない他愛無 たわむ撓 たわわ はにわ埴輪 よわい弱 
[い] 
あいつ あいにく生憎 あるいは いいえ いっぱい えい(掛け声) 老い おい(呼びかけ) おいしい美味 おいて於 おいで おいら俺等 おほいに大 かい櫂 かいくぐる掻潜 かいぞへ介添 かいだす掻出 かいまき掻巻 かいまみる垣間見 かはいい可愛 かはいさう可哀想 悔い 〜ください 来い こいつ ここいら 〜ございます さいなむ苛 さいはひ幸 ぢいさん爺 〜しゃい しんまい ずいき芋茎 ずいと ずいぶん せい背 せいいっぱい せいぜい ぜんまい そいつ そこいら たいした だいぶ大分 たいまつ松明 たわい他愛 つい(うっかり) つい対 ついぢ築地 ついたち一日 ついたて衝立 〜について ついで次 ついで序 ついばむ啄 〜っしゃい どいつ たうてい到底 ないがしろ蔑 〜なさい にいさん兄 はい(返事) ひいき贔屓 ひいでる秀 ふい(駄目) ふいご鞴 へい(はい) ほいほい まいにち毎日 むいか六日 むくい報 やい(呼びかけ) やいのやいの やいば刃 わいわい わっしょい 
[う] 
ありがたう いわう硫黄 いちゃう銀杏 いもうと妹 〜うる得 おとうと弟 おはやう おめでたう かりうど狩人 〜からう からうじて辛 かはいさう可哀想 ききゃう桔梗 きうり胡瓜 くろうと玄人 かう(〜だ、いふ、する、なる) かうがうしい神々 かうし格子 こうぢ小路 かうぢ麹 かうぞ楮 かうばしい香 かうべ頭 かうべ神戸 かうむる被 かうもり蝙蝠 かうり行李 ごきげんよう ごちそうさま さやうなら 〜ぢゅう中 しうと舅 しうとめ姑 しゃうが生姜 しゃうがない しゃうぶ菖蒲 しろうと素人 さう(〜だ、いふ、する、なる) 〜さう(〜だ、な) さうざうしい騒々 さうらふ候 たたう畳 〜たらう 〜だらう てうづ手水 ちゃうど丁度 てうな手斧 〜でせう どう如何 たうげ峠 とうさん父 どうせ どうぞ たうてい到底 たうとう到頭 とうに(早くに) どうも どぢゃう泥鰌 なかうど仲人 のうのう ひうが日向 ヘウ豹 ふつう普通 ぶだう葡萄 〜はう方 はうき箒 はうむる葬 ほんたう本当 〜ませう めうが茗荷 めうと(ミョートと読む場合)夫婦 もう(既に) もう[またはまう](更に) まうける設 儲 まうす申 まうでる詣 やう(〜だ、な) やうか八日 ようこそ やうす様子 やうやく漸 りんだう竜胆 わかうど若人 われもかう吾木香 
[え] 
あまえる甘 いえる癒 おびえる脅 おぼえる覚 きえる消 きこえる聞 こえる越 こえる肥 こごえる凍 さえる冴 さかえる栄 すえる饐 そびえる聳 たえる絶 つひえる費 潰 なえる萎 にえる煮 はえる生 はえる映 栄 ひえる冷 ふえる増 ほえる吠 まみえる見 みえる見 もえる燃 もえる萌 もだえる悶 あえか いいえ いりえ入江 〜え(人名の江、枝) ええ(応諾) こえ肥 こころえ(る)心得 さえぎる遮 サザエ たえだえ絶々 つくえ机 ぬえ鵺 ねえ(呼びかけ) ねえさん姉 ひえ稗 ふえ笛 へえ(はい) みえ見栄 
[お] 
はおり はおる羽織 
[ふ] あふひ葵 あふぐ扇 仰 あふむく仰向 あふる煽 たふす たふれる倒

[あう・あふ] あふぎ扇 あふせ逢瀬 あふみ近江 いわう硫黄 かう(〜だ、いふ、する、なる) かうがうしい神々 かうし格子 かうぢ麹 かうぞ楮 かうばしい香 かうべ頭 かうべ神戸 かうむる被 かうもり蝙蝠 かうり行李 なかうど仲人 むかふ[またはむかう](名詞)向 わかうど若人 われもかう吾木香 まがふ紛 みまがふ見紛 かはいさう可哀想 さう(〜だ、いふ、する、なる) 〜さう(〜だ、な) さうざうしい騒々 さうらふ候 ありがたう おめでたう たたう畳 たゆたふ揺蕩 たうげ峠 たうてい到底 たふとい たふとぶ尊 たうとう到頭 とほたふみ遠江 ほんたう本当 ぶだう葡萄 りんだう竜胆 〜はう方 はうき箒 はふはふの体 はうむる葬 はふる放 すまふ相撲 〜たまふ給 まうける設 儲 まうす申 まうでる詣 おはやう さやうなら やう様 やうか八日 やうす様子 やうやく漸 〜からう からうじて辛 さうらふ候 〜たらう 〜だらう (あをみ青海 あをめ青梅 あかほ赤穂)
 [いう・いふ]
 きうり胡瓜 しうと舅 しうとめ姑 じふ十 〜ちふ(と言ふ) はにふ埴生 ひうが日向 かりうど狩人 
[えう・えふ]
 けふ今日 〜でせう 〜ませう てふ蝶 てうづ手水 てふちょ てふてふ蝶々 てうな手斧 ヘウ豹 ヘウタン瓢箪 めうが茗荷 めうと夫婦 
[やう] ききゃう桔梗 しゃうが生姜 しゃうがない しゃうぶ菖蒲 どぢゃう泥鰌 いちゃう銀杏 ちゃうど丁度

[ぢ] 味 鯵 あぢきない アヂサヰ 意地 いぢいぢ いぢめる いぢらしい いぢる 氏 うぢうぢ お爺(ぢい)さん をぢさん 怖ぢる 舵 梶 鍛冶 鯨 けぢめ かうぢ(麹) 地 痔 〜路 爺(ぢい)さん ぢか ぢき(直) ぢぢ(爺) 地味 シメヂ ぢゃ ぢゃあ(では) 〜ぢゃ(だ、では) 〜ぢゃふ(でしまふ) 〜ぢゅう(中) 重々 筋 たぢたぢ たぢろぐ 築地(ついぢ) どぢ 泥鰌(どぢゃう) 閉ぢる ナメクヂ 汝 ネヂ ねぢる 恥 肘 藤 もぢもぢ 捩(もぢ)る 紅葉 よぢる ワラヂ [ず] 杏子 礎(いしずゑ) うずうず うずくまる 数 必ず 傷 葛 梢(こずゑ) 芋茎(ずいき) ずいと ずいぶん 鈴 錫 鱸 涼しい スズシロ スズナ 雀 硯 ずっこける ずっしり ずっと ずば抜ける ずばり ずぶの ずぶずぶ ずぶぬれ ずぼら ずらす ずらり ずり落ちる ずるい ずるずる ずれる ずんぐり ずんずん たたずむ 鼠 筈 引きずる ミミズ むずむず 百舌 行きずり 柚子 c 「歴史的仮名遣教室」 2003-2010

シート3.例外動詞 (シート2.より動詞のみを抽出したもの)

あふぐ 扇  あふぐ 仰  あふむく 仰向  あふる 煽  あまえる 甘  あわてる 慌

いえる 癒  いぢめる 苛  いぢる 弄  ゐる 居

うゑる(文語 うう) 植  うゑる(文語 うう) 飢  うずくまる 蹲  うわる 植  うんずる 倦

ゑがく 描  ゑぐる 抉  ゑむ 笑

おいる 老  をへる 終  をかす 犯  をがむ 拝  をさめる 治 収 修  をしむ 惜  をしへる 教  おぢる 怖  をそはる 教  をどる 踊  をののく 慄  おびえる 脅  おぼえる 覚  をる 居  をる 折  をはる 終

かいくぐる 掻潜  かいだす 掻出  かいまみる 垣間見  かをる 香  かわく 乾

きえる 消  きこえる 聞

くいる 悔

かうむる 被 蒙  こえる 越  こえる 肥  こごえる 凍  こころえる 心得  ことわる 断

さいなむ 苛  さえぎる 遮  さえる 冴  さかえる 栄  さわぐ 騒ぐ  ざわめく

しをれる 萎

すえる 饐  すゑる(文語 すう) 据  すずむ 涼  ずっこける  ずばぬける  ずらす  ずりおちる 擦落  ずる 擦 摺  ずるける  ずれる  すわる 座  すわる 据

さうらふ 候  そびえる 聳

たえる 絶  たふす 倒  たをる 手折  たふれる 倒  たぢろぐ  たたずむ 佇  たわむ 撓

つひえる 費 潰  ついばむ 啄

音読みの漢字一字に「ずる」がついた「案ずる、応ずる、・・・」などの動詞は省略しましたが、それらはすべて「〜る」です。(由来は 動詞 する
訓読みの漢字一字に「んずる」がついた「甘んずる、疎んずる、・・・」などの動詞は省略しましたが、それらはすべて「〜ん
る」です。(由来は 動詞 する

文語体や候文は、覚えなくてよい

文語体(文章向けの文体。〜たまふ、とか、〜けり、とか)や候文(そうろうぶん)(〜にて候、とかの文章。戦前はかなり一般的で手紙にもよく使われた)は、本当に必要なければ無理に書き方を覚えなくてよいのです。

その代わり、まずは私たちにもなじみ深い口語体で、歴史的かなづかひを書く練習を始めましょう。口語体で書くのに慣れてきて、もし余裕があるなら文語体とか候文にステップアップすればよいのです

字音かなづかひ(音読み漢字の歴史的かなづかひ)は、覚えなくてよい

一、「しましょう」を「しませう」と書くこと。
二、「ちょうちょう(蝶々)」を「てふてふ」と書くこと。
 この違いはどこにあるでしょうか?  答えは、一は大和言葉(和語)、二は漢字の音読みであるということです。 音読み漢字の歴史的かなづかひ(字音かなづかひ)というのは、漢字毎に読み方が違ったりと、大和言葉の歴史的かなづかひに比べると覚えるのに時間がかかるものです。現に、戦前に育った日本人も、大和言葉の歴史的かなづかひは難なくこなせても、字音かなづかひにはだいぶ苦労したという人が多いそうです。

いう(言う・云う)→いふ

現代かなづかいと歴史的かなづかひで綴りの違う言葉のうち、最も頻繁に使われる言葉です。

いる(居る)→ゐる

居るの「ゐ」

「〜テイル」を「〜てゐる」と書く。

例外なし

「いふ」に次いで頻繁に使われる言葉です。また、想像付くと思いますが、「いない」「いません」「います」は「ゐない」「ゐません」「ゐます」になります。

よう(樣)→やう

これも比較的頻繁に使われる言葉です。例えば、「このような」は「このやうな」になります。 ただし、「しよう」「來よう」「あげよう」のように、「○○しよう」の「よう」は「よう」のままで、「やう」とは書きません。「よう」か「やう」か不安なら、簡単に見分ける方法があります。漢字で「樣」と書ける「よう」だけ「やう」、です。

例)このやうな映畫(画)初めて見たワ、今度の日曜もまた來ようネ、と花子さんは太郎さんに言ったやうでした。(「やう」の部分だけは漢字だと「樣」であることに注目)

だろう→だらう 

例)きっと、「これは夢だらうか」と言ふことだらう

考える→考へる

例)「よけいな事は考へるな」といふ考へは間違ってゐる。

くらい(位)→くらゐ

ただし、漢字で「位」と書く「くらい」限定です。「暗い」は「くらい」のままなので注意。

例)どのくらゐできたかと、いちいち聞くくらゐなら、自分でやればいいのに。

用いる→用ゐる(、用ひる)

「用いる」は「用ゐる」になります。これが原則ではありますが、「用ひる」と書くのも一応許容範囲です。「用う」は「用ふ」です。

例)どの方法を用ゐても良い、用ふことを怠るくらゐなら

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修辞技法

枕詞(まくらことば)

枕詞とは和歌にみられる修辞用語のひとつで、一定の語の上にかかってある種の情緒的な色彩を添えたり、句調を整えたりするのに用いられる。
枕詞の多くの語句が五音から出来ているため、現代短歌の世界においても韻律をととのえるうえで非常に有効である。

ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ (紀 友則)

たとえばこの歌の場合は、「ひさかたの」が「光」にかかって(光を引き出して)いる枕詞です。

枕詞 被修飾語
あかねさす 日・昼・紫・照る・君
あしひきの 山・峰(を)
あづさゆみ 引く・張る・春・本・末・弦・音・かへる
あらたまの 年・月・日・夜・春・
あをによし 奈良・国内(くぬち)
いさなとり 海・浜・灘(なだ)
いはばしる 滝・垂水(たるみ)・淡海(あふみ)・近江(あふみ)
うつせみの 命・人・世・妹
くさまくら 旅・結ぶ・結ふ(ゆふ)・仮・露・たご
しきたへの 枕・衣・袖(そで)・床・家・袂
しろたへの 衣・帯・たすき・たもと・ひも・ひれ・雲・雪
そら(に)みつ 大和(やまと)
たまきはる 命・うつつ・世・わ・うち
たまくしげ 明く・開く・二(ふた)・三(み)・奥
たまづさの 使(つかひ)・妹(いも)
たまほこの 道・里
たらちねの 母・親
ちはやぶる 神・宇治
ぬばたまの 黒・髪・夜・夢・夕・暗き・今宵・寝る
ひさかたの 天(あめ)・雨・月・光・日・昼・雪・雲・霞・星・夜・桂・都・鏡
ももしきの 大宮・内
わかくさの つま(夫・妻)・新(にひ)・脚(あゆひ)・若し・思ひつく

序詞(じょことば)

あしひきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む  (柿本 人麻呂)

三句目「あしひきの山鳥の尾のしだり尾の」までが、「ながながし夜」を引き出す序詞になっています。
(この歌は初句で「あしひきの」と「山」を引き出す枕詞も同時に使っている)

序詞はよく「○○の○○、それではないが、それによく似て」と、よく訳されます。
この歌の場合ならば「山鳥の長く垂れ下がった長い長い尾、それではないが、それによく似て長い長い夜を一人で眠ることであろうかなあ」といった感じの意味になります。

掛詞(かけことば)

「ひとつの言葉にふたつの意味をかける」といったところ。
花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに  (小野小町)

小野小町のこの歌は、掛詞を使った最も有名な歌のひとつです。
この「ながめ」には「長雨」と「眺め」が、また「ふる」には「降る」と「経る」が掛けられています。

其の他の修辞技法

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短歌の文法

文法を正しく知る必要 (佐佐木信綱)

和歌は文学であるから、原則として文法を正しく守らねばならぬ。作者の無学に基づく乱暴な詞づかひや、破格な語法は、到底完全な歌に於て、許すべからざるものであるのみならず、我が国の語は、てにをはの用法が微妙なものであつて、ちょつと間違ふと大変な意味の相違を来す。例へば「ありなむ」と「あらなむ」、「まし」と「まじ」、「ず」と「じ」等、相似てそれぞれ意味が違ふのであるから、文法を明瞭に知つてゐるといふ事は、和歌を詠まむとするに、最も必要な事である。殊に動詞の活き、てにをはの意味、動詞とてにをはとのつづけ方、また係結の関係などは、十分精しく知つてゐるを要する。

文法に拘泥してもいけない 同上

文法はいやしくも文字で自分の考を発表しようとする以上は必要で、随つて和歌の上にも必要であるが、併し和歌に於いては、決して文法に拘泥してはいけない
今の文法の法則は、多くは平安朝時代の文章に存した掟である。文章が変遷すると共に、文法も変遷する。和歌は元より口語では無いから、大体に於いては古文の法則に倣ふべきであるが、併し時によれば、随分古文の法則を破つてもよい自由を有していることを忘れてはならぬ。
また和歌には美的に言ひ表すことが、第一に必要であるから、其の為には、時には正確と言ふ事をも犠牲にせねばならぬ折があるのを忘れてはならぬ。

||動詞||形容詞/形容動詞||助動詞||係り結び(系助詞)||助詞||

動詞の活用(文語編)

文章を書くときに使われる言葉を「文語」

「文語活用表」

未然形( )ず //事態が<未(いま)だ然(しか)らず>つまり、まだ実現していない状態を表す形
連用形( )たり,ぬ、て //用言(動詞・形容詞・形容動詞の総称)に連なる>という意味
終止形( )終止 //文を言い切って終わる形で、動詞の活用の基本形
連体形( )時 //体言(名詞)に連なる働きをする活用形 用言に連なる連用形とは対照的に位置づけられる
已然形( )ども //事態がすでに成立している状態を表します。最初に書いた未然形と対照的
命令形( )命令 //相手に対して行為や状態を実現させようとする文の述語として用いられる形
たとえば「行く」だと…

未然形  行(か)ず
連用形  行(き)たり
終止形  行(く)終止
連体形  行(く)時、事
已然形  行(け)ども、ど
命令形  行(け)命令

活用の仕方による動詞の種類(文語編)

||四段活用||上一段||下一段||上二段||下二段||カ変||サ変||ナ変||ラ変||

語尾が「か、き、く、く、け、け」と五十音図のカ行のア段、イ段、ウ段、エ段(かぁ、きぃ、くぅ、けぇ)の四つの段に活用するので「四段活用(この場合、カ行なのでカ行四段活用)」

語尾の母音が(a)(i)(u)(u)(e(e))の4音とつながるので、四段活用

「四段活用」     五十音図の、アイウエの四つの段に活用する。
咲く   か き く く け け  (カ行の四つの段)

活用形
未然→ 咲か(a) |ず
連用→ 咲き(i) |て
終止→ 咲く(u) |。
連体→ 咲く(u) |こと
已然→ 咲け(e) |ど
命令→ 咲け(e)  
カ行

五十音図の母音の列で言うと、ア・イ・ウ・ウ・エ・エの形式で活用する。動詞ではこのタイプが最も多い。なお《他例》の(自)は自動詞、(他)は他動詞をあらわす。(自動詞と他動詞については、自動詞と他動詞を参照されたい)

基本形 語幹 未然形
(〜ず)
連用形
(〜て)
終止形 連体形
(〜こと)
已然形
(〜ども)
命令形 他例
吹く (ふ) (あ)(自) 飽く 欺く 生く(自)※1 行く 色づく 置く 驚く 書く 潜(かづ)(自) 乾く 聞く 砕く(他)(こ)く 咲く 敷く 頻(し)く 如(し)く 堰く 背く(自) たなびく 付く/着く(自) 突く 貫く 解く(他) 届く(自) 泣く/鳴く 嘆く 抜く 引く ひらく 巻く 招く 向く(他) 焼く(他) 分く(他)※2(よ)※3
漕ぐ (こ) 仰ぐ 泳ぐ 嗅ぐ さやぐ 騒ぐ 凌ぐ 削ぐ そよぐ 継ぐ 脱ぐ(他) 揺るぐ
成す (な) (おく)らす 生(おほ)す 翳す 挿頭(かざ)す 貸す 交はす 返す/帰す 暮らす/暗す 消す 越す 差す 冷ます/覚ます/褪ます 散らす 尽くす 照らす 通す 靡かす 均す 残す 伏す(自) 増す 惑はす 委す 生(む)す 申す 渡す
待つ (ま) 打つ 託(かこ)つ 消(け)つ 毀(こぼ)つ 育つ(自) そぼつ※4(たぎ)つ/激つ 立つ(自) 経つ 絶つ/断つ/裁つ 隔つ(自) 満つ(自)※5 持つ
言ふ (い) 合ふ(自) 祝ふ 歌ふ うつろふ 思ふ 交(か)(自) 通ふ 食ふ 誘ふ 添ふ(自) 慕ふ 候ふ たぐふ(自) 伝ふ(自) とぶらふ 習ふ 匂ふ 縫ふ 這ふ 払ふ/掃ふ※6 紛ふ 惑ふ 舞ふ 結ふ 横たふ(自)※7 笑ふ
呼ぶ (よ) 浮ぶ(自) 選ぶ 叫ぶ 偲ぶ※8 すさぶ※9 飛ぶ 並ぶ(自) 結ぶ 喜ぶ
生む (う) (うづ)※10 惜しむ 押し並む 霞む 沈む(自) しぼむ(自) すさむ(自) 住む 澄む 染む(自) 頼む※11 包む つぼむ(自) 摘む 積む 富む とよむ(自) 慰む(自)(な)(自) 盗む 読む 笑む
取る (と) 当たる 天霧(あまぎ)る 誤る いろどる 至る 移る/映る/写る 送る/贈る 劣る 掛かる 駆ける 翔る 重なる 語る 変はる 帰る 刈る 狩る 借る 切る(他) 霧る 括る 燻(くす/ふす)ぶる 曇る 削る 籠る 凍る/氷る 離(さか)る 盛(さか)る 探る 囀る 去る 繁る 霑(しほ)る 知る(他)(しを)る/萎る(他) 枝折(しを)る 擦る/磨る/摩る(他) 添はる 滾(たぎ)る 奉(たてまつ)る 辿る 溜る 賜はる 足る 契る 散る 綴る 積もる 照る 成る 濁る 乗る 走る 張る 降(ふ)る 隔たる 増さる まじる 纏(まつ)はる※12 回る 盛(も)る 漏る/洩る※13 宿る 遣る 寄る 横たはる 分かる/解(わか)※14 折る(他)


※2「分く」は四段・下二段両方ある。元来は四段活用であったらしい。
※3「避(よ)く」は元来は上二段活用であるが平安時代には四段活用も。のち下二段活用となる。
※4「そぼつ(古くは「そほつ」)」は上二段にも活用する。
※5「満つ」(自動詞)は奈良・平安時代は四段活用。その後上二段にも活用する。
※6 災厄などを除き去る意味の「祓ふ」は下二段にも活用する。
※8「偲ぶ」は平安時代以後、「忍ぶ」と混同され上二段活用もされた。
※9「すさぶ」は奈良時代は上二段活用、平安以後は多く四段活用。
※10「埋む」は室町時代頃から下二段活用も見られる。
※11「(人に)期待させる」「あてにさせる」意の「頼む」は下二段活用。
※12「纏(まつ)はる」は下二段にも活用する。
※13「漏る(洩る)」は下二段にも活用する。
※14「理解できる」「判明する」などの意の「わかる」(解る・判る)は四段活用。「別(わか)る」は四段・下二段両方ある。



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「上一段活用」    五十音図のイ段で活用する。
似る   に に にる にる にれ によ  (「にぃ にぃる にぃれ にぃよ」でナ行の一つの段)
過ぎるの否定形(〜ない)を考えて、
「 上一段活用は、五十音図でいうところのイの段、つまり母音が(i)1段にしか変化しない活用をします

上一段動詞…五十音図のイ段に活用する。
          「着る」「見る」「似る」「煮る」「射る」「鋳る」「居る」「率る」「干る」など。
基本形 語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
見る みる みる みれ みよ

覚えるのは「きる・いる・みる・にる・ひる」の五つの言葉だけです

基本形 未然(ず) 連用(て) 終止(。) 連体(こと) 已然(ど) 命令
煮る 煮(に) 煮(に) 煮る 煮る 煮れ 煮よ ナ行
干る 干(ひ) 干(ひ) 干る 干る 干れ 干よ ハ行
見る 見(み) 見(み) 見る 見る 見れ 見よ マ行
射る 射(い) 射(い) 射る 射る 射れ 射よ ヤ行
見る(試みる・顧みる・後ろ見る・惟[おもん]みる・鑑みる)

他にも、最後に「みる」が付く動詞、「試みる」「顧(かえり)みる」なども上一段活用 

「着る」「見る」「似る」「煮る」「射る」「鋳る」「居る」「率る」「干る」

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「下一段活用」    五十音図のエ段で活用する。
下一段はとても簡単です。なにせ下一段活用する動詞は「蹴る」ひとつのみだからです

基本形 語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
蹴る ける ける けれ けよ


蹴る   け け ける ける けれ けよ  (「けぇ けぇる けぇれ けぇよ」でカ行の一つの段)
「〜(e)ない」となるものは下二段
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「上二段活用」    五十音図のイ段とウ段で活用する。

イ・イ・ウ・ウル・ウレ・イヨの形式で活用する。終止形と連体形が異なる点、特に注意が必要。

基本形 語幹 未然形
(〜ず)
連用形
(〜て)
終止形 連体形
(〜こと)
已然形
(〜ども)
命令形 他例
尽く (つ) くる くれ きよ 生く(自) 起く 避(よ)※1
過ぐ (す) ぐる ぐれ ぎよ (な)
落つ (お) つる つれ ちよ 朽つ そぼつ※2 満つ(自)※3
閉づ (と) づる づれ ちよ (お)づ 恥づ 漬(ひ)(自)※4 紅葉(もみ)※5(よ)
恋ふ ※6 (こ) ふる ふれ ひよ (お)ふ 強(し)
帯ぶ (お) ぶる ぶれ びよ 浴ぶ 荒(あら)ぶ 神さぶ 媚ぶ 錆ぶ 忍ぶ 伸ぶ(自) 滅ぶ 侘ぶ
恨む ※7 (うら) むる むれ みよ (し)む 夢む とよむ(他)
悔ゆ (く) ゆる ゆれ いよ 老ゆ 臥(こ)ゆ 報ゆ
古る (ふ) るる るれ りよ (お)る 懲る

※1 「避(よ)く」は元来は上二段活用であるが平安時代には四段活用も。のち下二段活用となる。
※2「そぼつ(古くは「そほつ」)」は四段にも活用する。
※3「満つ」(自動詞)は奈良・平安時代は四段活用であったが、その後上二段にも活用するようになった。
※4 自動詞の「漬づ(古くは「ひつ」)」は本来四段活用であったが、平安中期頃から上二段活用に変化したという。
※5「紅葉(もみ)づ」は奈良時代には「もみつ」で四段活用。平安以後、濁音化し上二段活用に転じた。
※6「恋ふ」は室町頃から四段活用も見られる。
※7「恨む」は江戸時代には四段活用となった。

「過ぐ」、カ行上二段活用の動詞です。過ぎるの否定形(〜ない)を考えて、「過ぎ(i)ない」なので、上二段の動詞と分かります。

特徴的なところはどこかというと、特に
連体、已然の形が、四段活用動詞とは違います
少し見慣れない形、「過ぐる」、「過ぐれ」となっています。このように、上二段では、連体形と已然形が、それぞれ「uる」「uれ」となるのです。少し違和感があるかもしれませんが、くり返し唱えて定着させてしまえば大丈夫です。已然形を、現代語と同じように考えて『過ぎれど』としないよう注意して下さい。


滅ぶ   び び ぶ ぶる ぶれ びよ   (「びぃ ぶぅ ぶぅる ぶぅれ びぃよ」で、ハ行のイ段とウ段の二つの段)

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「下二段活用」    五十音図のウ段とエ段で活用する。

エ・エ・ウ・ウル・ウレ・エヨの形式で活用する。四段活用の次に多いタイプ。上二段動詞と同じく、終止形と連体形が異なるなど、口語とは活用の仕方が大きく異なるので、特に注意が必要。誤用の頻度が最も高い活用型と思われるため、語例をなるべく多く入れた。

基本形 語幹 未然形
(〜ず)
連用形
(〜て)
終止形 連体形
(〜こと)
已然形
(〜ども)
命令形 他例
(う) (得) うる うれ えよ ――
更く (ふ) くる くれ けよ 明く 生く(他) 受く 思ひ掛く 掛く 駆く 潜(かづ)(他)(く) 砕く(自)(さ)く/放く 授く 背く(他) 助く 長(た)く/闌く 手向(たむ)く 付く/着く(他) 解く(自) 届く(他) 泣く※1 ふりさく 負く 向く(他) 焼く(自)(よ)※2 分く(他)
告ぐ (つ) ぐる ぐれ げよ (あ)ぐ 掲(かか)ぐ 下(さ)ぐ 捧ぐ 妨(さまた)ぐ 投ぐ 逃ぐ 脱ぐ(自)
痩す (や) する すれ せよ (あ)す 失(う)す 負(おほ)す 寝す 馳す 伏す(他)
交ず (ま) ずる ずれ ぜよ (は)
捨つ (す) つる つれ てよ 当つ 凍(い)つ 企つ 育つ(他) 立つ(他)(つ)つ 泊(は)つ 果つ 隔つ(他) 満つ(他)
出づ (い) づる づれ でよ 奏づ 撫づ 漬(ひ)(他)(め)づ 詣(まう)
(ぬ) (寝) ぬる ぬれ ねよ (い)ぬ 重ぬ 兼ぬ 尋ぬ 訪ぬ 跳ぬ 撥ぬ 刎ぬ 委ぬ
(ふ) (経) ふる ふれ へよ 合ふ(他) 敢ふ 与ふ 訴ふ 憂ふ(愁ふ) 狼狽ふ 終(を)ふ 教ふ 衰ふ 抱ふ 数ふ 変ふ/替ふ/換ふ/代ふ 交(か)(他) 加ふ 答ふ 障(さ)ふ 備ふ 添ふ(他) たくはふ(蓄ふ・貯ふ)※3 たぐふ(他) 称ふ 仕ふ 伝ふ(他) ながらふ(永らふ・存ふ) 祓ふ 纏(まと)はる 横たふ(他)(よそ)
述ぶ (の) ぶる ぶれ べよ 浮ぶ(他) 押しなぶ 調ぶ 統(す)ぶ 食ぶ 並ぶ(他) 伸ぶ(他)
眺む (なが) むる むれ めよ (あが)む 諦む 集む 改(あらた)む 諌む 掠む 決む 浄む 極む 籠む 定む 冷む/覚む/褪む 認(したた/みと)む 沈む(他) しぼむ(他) 占む 染む(他) すさむ(他) 勧む 責む 初(そ)む 頼む※4 つぼむ(他)(と/や)む 咎む 慰む(他) 宥む 並(な)(他) 始む 秘む 求む 弱む
消ゆ (き) ゆる ゆれ えよ 甘ゆ 癒ゆ 脅ゆ 覚ゆ 思ほゆ 聞こゆ 崩(く)ゆ 凍(こご)ゆ 越ゆ 肥ゆ 冴ゆ 栄ゆ 萎(しな/な)ゆ 絶ゆ 煮ゆ 生(は)ゆ 映(は)ゆ 冷ゆ 増ゆ 吠ゆ 見ゆ 萌ゆ 燃ゆ
濡る (ぬ) るる るれ れよ (あくが/あこが)る 荒る 暴る 溢る 現(あらは)る 生(あ)る 熟る 埋もる うらぶる 遅る/後る 恐る 訪る 溺る 隠る 枯る 離(か)る 切る(自) 崩る 暮る 穢る 焦(こが)る 零(こぼ)る 壊る 寂る 時雨(しぐ)る 知る(自)(しを)る/萎る(自) 擦る/磨る/摩る(自)(たはむ/たは)る 倒(たふ)る 黄昏る 垂る 疲る 潰る 連る 流る 慣る/馴る 外る 離(はな)る 晴る 触(ふ)る 乱る 結ぼる 群る 窶る 分かる/別る 忘る 折る(自)
植う (う) うる うれ ゑよ 餓う 据う

※1「泣く」は普通四段動詞であるが、「自然と泣ける」意の場合下二段活用となる。
※2「避(よ)く」は元来は上二段活用であるが平安時代には四段活用も。のち下二段活用となる。
※3「たくはふ(蓄ふ・貯ふ)」は奈良時代には四段活用。
※4「頼む」は「(人に)期待させる」といった意味で用いるとき下二段活用。「(人を)頼みとする」などの意で用いる時は四段活用。

ア行活用する動詞は一つ、「得る」の「得(う)」しか無い。
ただ一つのア行活用「得(う)」は、「得る」→「得(e)ず」なので下二段の活用

ア行
ヤ行
ワ行

上のように、古文では「い」「え」がア行とヤ行で、「う」がア行とワ行で、かぶってしまっているのです。しかし、「ア行は得(う)だけ」ということを覚えておけば、ヤ行とワ行ではかぶっているところは無いので大丈夫。


隔(へだ)つ   て て つ つる つれ てよ  (「てぇ つぅ つぅる つぅれ てぇよ」で、タ行のウ段とエ段の二つの段)
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そして以下の「カ行変格活用」「サ行変格活用」「ナ行変格活用」「ラ行変格活用」は、上の五つに入らない変わりものの活用で「カ変」「サ変」「ナ変」「ラ変」と略して呼ばれます。

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カ行変格活用     変則的な活用をする。「来(く)」の一語しかない。

基本形
未然→ 来(こ) |ず
連用→ 来(き) |て
終止→ 来る |。
連体→ 来る |こと
已然→ 来れ |ど
命令→ 来よ


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サ行変格活用     変則的な活用をする。「為(す)」の一語しかない。
為(す)   せ し す する すれ せよ


基本形 未然(ず) 連用(て) 終止(。) 連体(こと) 已然(ど) 命令
する すれ せよ サ行
おはす おはせ おはし おはす おはする おはすれ おはせよ サ行
愛す 臆す 恋す 死す 接す 達す 発す 欲す 全うす 魅す 嘉す案ず 甘んず 映ず 応ず 感ず 興ず 献ず 生ず 命ず 論ず


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ナ行変格活用     変則的な活用をする。「死ぬ」「往(い)ぬ」の二語しかない。
ナ行変格活用する動詞は「死ぬ」と「去(い)ぬ」のみです。

基本形 未然(ず) 連用(て) 終止(。) 連体(こと) 已然(ど) 命令
死ぬ 死な 死に 死ぬ 死ぬる 死ぬれ 死ね ナ行
去ぬ 去な 去に 去ぬ 去ぬる 去ぬれ 去ね ナ行


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ラ行変格活用      

基本形 未然(ず) 連用(て) 終止(。) 連体(こと) 已然(ど) 命令
あり あら あり あり ある あれ あれ ラ行
をり をら をり をり をる をれ をれ ラ行
侍り 侍ら 侍り 侍り 侍る 侍れ 侍れ ラ行
いまそかり いまそから いまそかり いまそかり いまそかる いまそかれ いまそかれ ラ行


ラ行変格活用の動詞は「有り(あり)・居り(をり)・侍り(はべり)・いまそかり」の四つ。語尾が「〜り」になっているものがラ行変格活用
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古文動詞の変化の仕方

・「〜ない」を付けて、「〜(a)ない」になるかどうかを見、なればそのまま、ならなければ「〜ない」の前の文字を(u)音に変える。

・咲く・・・ 咲く+〜ない→咲かない、 咲か「(a)ない」となるので古文でもそのまま。
・食べる・・・ 食べる+〜ない→食べない 「(a)ない」とならないので、「べ」を(u)音、つまり「ぶ」に変えて、「たぶ」
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形容詞の活用

形容詞とは、現代語で言うと、「白い」「うつくしい」「はげしい」などの「〜い」で終わる、物や人の状態を表す言葉です。古文形容詞への変化の仕方には動詞と同様に鉄則があります。それは、「〜い」の「い」を「し」に変えて、「〜し」で言い切る、というもの。

形容詞…自立語で活用があり、性質・状態を表す単語で、述語になる単語。
     言い切りが「し」で終わる。ク活用とシク活用の2種類がある。

形容詞の活用の仕方 (ク活用・シク活用)

白い」のように「〜い」で終わり、「い」を「し」に変えるだけのものは、ク活用「うつくしい」などの「い」を取る活用はシク活用

「白し」は、未然形の「〜ば」が付いたとき「白くば」、と「く」になるのでク活用、「うつくしい」は「うつくしくば」と「しく」になるのでシク活用というのです。
「〜ず」を付けて未然形に活用させるのはカリ活用といいます。活用表を見てください。

基本形 未然(ば・ず 連用(て) 終止(。) 連体(こと) 已然(ど) 命令 活用
白し 白く(ば)
白から(ず)
白く(て)
白かり
(て)
白し(。)
白し
(。)
白き(こと)
白かる(こと)
白けれ(ど)
  
  ○
白かれ
ク活用
カリ活用
うつくし 美しく(ば)
美しから(ず)
美しく
美しかり
うつくし
うつくし
美しき
美しかる
美ししけれ
  
  ○
美しかれ
シク活用
カリ活用
寒し 寒く
寒から
寒く
寒かり
寒し
寒し
寒き
寒かる
寒けれ
  
  ○
寒かれ
ク活用
カリ活用
よし よく
よから
よく
よかり
よし
よし
よき
よかる
よけれ
  
  ○
よかれ
ク活用
カリ活用
楽し 楽しく
楽しから
楽しく
楽しかり
楽し
楽し
楽しき
楽しかる
楽しけれ
  
  ○
楽しかれ
シク活用
カリ活用
騒がし 騒がしく
騒がしから
騒がしく
騒がしかり
騒がし
騒がし
騒がしき
騒がしかる
騒がしけれ
  
  ○
騒がしかれ
シク活用
カリ活用

形容動詞

自立語で活用があり、性質・状態を表す単語で、述語になる単語。
言い切りが「なり」「たり」で終わる。ナリ活用とタリ活用の2種類がある。
ナリ活用(あはれなりの場合)
現代語では、「〜だ」で終わりますが、古文では「〜なり」で終わります。「に」「あり」のつながったものですね。現代語の「〜だ」を、そのまま「〜なり」に直すだけでいい
基本形 語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
あはれなり あはれ なら なり
なり
なる
なれ
なれ
タリ活用(の場合)
「て」「あり」がつながったものと考えます。
基本形 語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
堂々たり 堂々 たら たり
たり
たる
たれ
たれ

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助動詞

1.意味・・・その助動詞が付いた語に持たせる決まった意味のこと
2.活用・・・動詞と同じように、助動詞一つ一つに未然、連用、終止、連体、已然、命令の6つの活用形を持っています。
3.接続・・・接続というのは、助動詞に付かれる語が、その助動詞によって形を決められているのですが、その形を言います

種類

||受身、尊敬・・・||過去、完了||推量||断定||打消し||希望||
意味 助動詞 現代語訳 (例)咲くと活用
受身、尊敬、可能、自発 ・らる 〜(さ)れる 咲か
使役、尊敬 ・さす・しむ 〜させる 咲か
過去 ・けり 〜た 咲き
推量(未来) ・べし・らむ・けむ・まし・たし・めり・らし・まほし・なり 〜だろう 咲か
完了 ・ぬ 〜(して)しまう 咲き
進行(存続) たり・り 〜ている 咲きたり
断定 なり・たり 〜だ 咲くなり
比況 ごとし 〜のようだ 咲くごとし

受身の助動詞『る』には絶対に未然形の動詞が付き、過去の助動詞『き』には絶対に連用形の動詞が付くのです。

受身、尊敬、可能、自発

る らる(受身・可能・自発)

接続
「る」四段型・ラ変型・ナ変型に活用する動詞・助動詞の未然形に付く。その他の活用型の語の未然形には「らる」が付く

意味としては、受身だけに「〜(さ)れる・られる」というものが主になっています

助動詞 未然(〜ず) 連用(〜て) 終止(。) 連体(〜こと) 已然(〜ど) 命令 接続 (例)動詞と
るる るれ れよ 未然 咲かる(咲かれる)
らる られ られ らる らるる らるれ られよ 食べらる(食べられる)

接続は未然形ですから、例えば『咲く』では咲かる、『食ぶ』では食べらる、となります。
とにかく『る』『らる』の上にはどんなことがあっても未然形の動詞が付くというわけです。ちなみに、かっこの中は意味になっています。
e、e、u、uる、uれ、つまり下二段の動詞の活用と同じです。

【機能】

その動作が話し手自身の意志とかかわりなく成立することを示す。
自発。「自然と〜される」「〜しないではいられない」
秋来(き)ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかぬる

ほととぎす初声聞けばあぢきなく主(ぬし)さだまらぬ恋せらるはた

可能。「〜することができる」。自発と区別し難い場合が少なくない。
人の子の親になりてぞ我が親の思ひはいとど思ひ知らるる
受身。「〜される」
枝もなく人に折らるる女郎花根をだに残せ植ゑし我がため
花よりもはかなき身こそ朝顔の花に見
るる朝顔の花

ゆ,らゆ 自発・可能・受身

未然形
連用形
終止形 連体形
已然形
命令形 上にくる語の活用形
ゆる ゆれ えよ 未然(四段・ナ変・ラ変)
未然形
連用形
終止形 連体形
已然形
命令形 上にくる語の活用形
らゆ らえ らえ らゆ らゆる らゆれ らえよ 未然(上一・上二・下一・下二・カ変・サ変)
る、らる と同様

現代口語には「いわゆる」「あらゆる」などに化石的に残っている。

思ほ 偲は 泣か 忘らゆ「思ほゆ」は「思はゆ」からの転訛。
ほととぎすいたくな鳴きそひとり居て寐の寝
ぬに聞けば苦しも(万葉集、坂上郎女)

す さす(使役、尊敬)

使役
「す」 四段・ナ変・ラ変型に活用する動詞・助動詞の未然形に付く。それ以外の活用型の動詞・助動詞には「さす」
を用いる。他をして何かさせる、あるいは何らかの事態を引き起こさせる――いわゆる使役をあらわす。「〜せる」「〜させる」。
「さす」 四段・ナ変・ラ変活用型以外の動詞・助動詞の未然形に付く。

咲か 死な 侍ら

助動詞 未然(〜ず) 連用(〜て) 終止(。) 連体(〜こと) 已然(〜ど) 命令 接続 (例)動詞と
する すれ せよ 未然 咲かす(咲かせる)
さす させ させ さす さする さすれ させよ 食べさす(食べさせる)

使役と言うのは「〜させる」という意味。これも「る、らる」と同じように未然形接続

人もなき古りにし里にある人をめぐくや君が恋に死なする

久方の月の桂も折るばかり家の風をも吹かてしがな
尊敬
尊敬または謙譲をあらわす語と共に用いてその意を強める。「〜給ふ」「奉ら」など(尊敬表現としては最高敬語となる)。

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過去、完了の助動詞

き けり(過去、記憶想起)

助動詞 未然(〜ず) 連用(〜て) 終止(。) 連体(〜こと) 已然(〜ど) 命令 接続 (例)動詞と
(せ) しか 連用 咲きき(咲いた)
けり (けら) けり ける けれ 咲きけり(咲いた)

連用形接続する助動詞です。
現代語訳としては過去なので「〜た」です。、「き」は体験過去、「けり」は伝聞過去、となっています。つまりは書いた人、筆者が

直接体験したことであったら「き」を、間接的な体験であったら「けり」を使う、ということです

動詞(カ変・サ変動詞を除く)・助動詞の連用形に付く。

「き」 
記憶にあること、回想されたことであるとの判断をあらわす。実際に経験した身近な過去を言う場合が多い
天の原ふりさけみれば春日なる三笠の山に出で月かも
特殊な用法
 未然形「せ」+接続助詞「ば」。「もし〜だったならば」と仮定条件をつくるが、現実にはあり得ない(現実とは正反対の)事態を仮定することが多い。普通、推量の助動詞「まし」と共に用いられる。
世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし

○の部分は無いという意味です。

「けり」
事態を振り返って認識していること、すなわち反省的認識をあらわす。助動詞「き」(前項)と比較した場合、「き」が過去に認識したことについて、事態は斯く斯くであったと今回想していることを示すのに対し、「けり」は過去・現在を問わず、事態をかえりみて、それが斯く斯くである(であった)と今認識していることをあらわす。
過去のことについては「昔は〜だったものだ」「今にして思えば〜だった」との詠嘆的回顧になることが多く(1)、現在のことについては「〜しているのだった」「〜していることよ」といった発見・気づきなどをあらわすことが多い(2)。
(1)逢ひみてののちの心にくらぶれば昔は物を思はざりけり
(2)田子の浦ゆ打ち出でて見れば真白にぞ不尽の高嶺に雪は降りける

けるかも 「けり」の連体形が詠嘆の助詞「かも」と結び付いたもの。認識に伴う強い詠嘆をあらわす。「〜したのだなあ」。

けるかな 「けり」の連体形が詠嘆の助詞「かな」と結び付いたもの。意味は「けるかも」に同じく、認識に伴う強い詠嘆をあらわす

つ ぬ(完了)

助動詞 未然(〜ず) 連用(〜て) 終止(。) 連体(〜こと) 已然(〜ど) 命令 接続 (例)動詞と
つる つれ てよ 連用 咲きつ(咲いてしまった)
ぬる ぬれ 咲きね(咲いてしまった)


1.完了というのは「〜してしまった、〜してしまう」等の意味です。接続は「つ・ぬ」とも連用形です。

「つ」は作為的・人為的な意味の動詞に用いられる傾向があり、「ぬ」は非作為的・自然推移的な意味の動詞に用いられる傾向があった。
折りつれば袖こそにほへ梅の花ありとやここに鶯の鳴
ひむがしの野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶき(万葉集、柿本人麻呂)
2.
将来(仮定)の事柄
について、その動作を既定の事実であるかのように見なして言う場合にも用いられる。
信濃なる千曲の川のさざれ石も君し踏みば玉と拾はむ

3.すでに終ってしまったことを過失と見なし、そのことで後悔したり、自分を――あるいはそれを行なった他者を――責める気持を含めて言うこともある。
今来むと言ひしばかりに長月の有明の月を待ち出でつる

【助動詞との結合例】
まし 完了の助動詞「つ」の未然形「て」+仮想の助動詞「まし」。「〜しただろうに」「〜しておけばよかった」などの意。下に「を」「もの」「ものを」を伴うことが多い。
秋風の吹くにつけてもとはぬかな荻の葉ならば音はしてまし
 完了の助動詞「つ」の未然形「て」+推量の助動詞「む」。「(きっと)〜してしまおう」「(きっと)〜だろう」の意
住みわびぬ今は限りと山里につま木こるべき宿もとめてむ

まし 完了の助動詞「ぬ」の未然形「な」+仮想の助動詞「まし」。「(きっと)〜しただろう」「〜してしまえばよかっやすらはで寝なましものをさ夜更けてかたぶくまでの月を見しかなた」などの意。下に「を」「もの」「ものを」を伴うことが多い
やすらはで寝なましものをさ夜更けてかたぶくまでの月を見しかな

 完了の助動詞「ぬ」の未然形「な」+推量の助動詞「む」。「〜してしまうだろう」「(きっと)〜だろう」「〜してしまおう」「〜できるだろう」などの意。
行きて負ふかなしみぞここ鳥髪(とりかみ)に雪降るさらば明日も降りなむ

けり 完了の助動詞「ぬ」の連用形「に」+回想の助動詞「けり」。「〜してしまった」「〜したのだなあ」などの意
らむ 完了の助動詞「ぬ」+推量の助動詞「らむ」。「(今頃)〜しているだろう」「(今頃)〜してしまっただろう」などの意
雪のうちに春は来にけり鶯の氷れる涙いまやとくらむ

らし 完了の助動詞「ぬ」+推量の助動詞「らし」。「〜したらしい」の意
さ夜中と夜は更けぬらし雁が音の聞こゆる空を月渡る見ゆ


たり り(進行・存続)

接続

たり 完了存続の意味をもち、ラ変型の活用で、活用語の連用形に、つく。
基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形 活用の型
たり たら たり たり たる たれ たれ ラ変型
完了存続の意味をもち、ラ変型の活用でサ変動詞の未然形、四段動詞の命令形につく。
基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形 活用の型
ラ変型
咲け 行け 恋せ 死せ 
咲きたり 見たり 出でたり 来(き)たり 為(し)たり


1.動作が既に完了したとの判断をあらわす。「〜した」。
別れては昨日今日こそへだてつれ千世しも経たる心ちのみする
2.動作が完了し、なお継続しているとの判断をあらわす。「〜している」、「〜してある」。
春過ぎて夏来るらし白たへの衣乾したり天の香具山
3.「つ」「ぬ」と同じく、将来の事態につき、既定の事実であるかのように仮想して言う場合にも用いられる
あしひきの山桜花日並べてかく咲きたらばいと恋ひめやも

進行、存続と言うのは「〜している」等の現在進行している、という意味。しかし「たり・り」には上のような完了の意味もあり、区別はどちらの意味が適当かを考えなくてはなりません
動作が継続しているとの判断をあらわす。

恋ひ死なむ後は何せむ生け日のためこそ妹を見まく欲りすれ(万葉集、大伴百代)


動作が完了し、なおその状態が続いているとの判断をあらわす
奧山の岩がき沼に木の葉落ちて沈め心人しるらめや(金槐和歌集、源実朝)

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推量の助動

推量というのは未来、予測のことで、「〜だろう」と訳す

助動詞 未然(〜ず) 連用(〜て) 終止(。) 連体(〜こと) 已然(〜ど) 命令 活用 接続 (例)動詞と 助動詞の意味
四段 未然 咲かむ(さくだろう) 推量
むず むず むずる むずれ サ変 咲かむず(咲こうとしているだろう) 推量・意志
けむ けむ けむ けめ 四段 連用 咲きけむ(咲いていただろう) 過去推量
らむ らむ らむ らむ 四段 終止 咲くらむ(咲いているだろう) 現在推量
めり めり めり める めれ ラ変 咲くめり(私が見た所、咲くだろう) 推量(主観)
らし らし らし らし 無変化 咲くらし(咲くらしい) 推定

推量の助動詞の多くは未然、連用、命令形がありません。2段に分かれているものは二つの活用があると言うことです。
「む」未来、推量 
1、まだ起らない事を想像し「〜だろう」と推量する。接続は未然形。自身の行為についても、他者の行為についても言う。
あしびきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜を独りかも寝
2、話し手自身の能動的な行為に関する場合、「〜しよう」「〜したい」との話し手の意志・希望をあらわす。
瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はとぞ思ふ
3、将来起るだろうと推量される事柄を扱う文において、動詞に「む」を付けてその行為が仮定のことであると示す。
ともしびの明石大門に入ら日や榜ぎ別れなむ家のあたり見ず
4、あり」などラ行変格活用の用言に続く場合、「らむ」と同じ現在推量・原因推量の意を表すことがある。例えば、「あら」「居(を)ら」はそれぞれ「あるらむ」「居るらむ」と同じ意味になる場合があるのである。これは助動詞「らむ」がそもそも「あら-む」から来た語であるため、「あら-む」で「ある-らむ」の意を代用し得たものと思われる(「居(を)り」は「ゐ(坐)あり」からの転と推測される)。
こもりくの泊瀬の山の山の際(ま)にいさよふ雲は妹にかもあら

助動詞が続く場合、必ず「む」は最後に来る。「む」のあとに他の助動詞が付くことはない
 完了の助動詞「つ」の未然形「て」と結び付く。「(きっと)〜してしまおう」「(きっと)〜だろう」の意。
住みわびぬ今は限りと山里につま木こるべき宿もとめてむ
 完了の助動詞「ぬ」の未然形「な」と結び付く。「〜してしまうだろう」「(きっと)〜だろう」「〜してしまおう」「〜できるだろう」などの意。
この世にし楽しくあらば来む世には虫に鳥にも我はなりなむ

「むず」未来、推量「〜しようとしている」「〜しよう」「〜だろう」「〜すればよい」などの意。接続は未然形

「けむ」過去推量 過去の事態を推量する場合に用いられる。
1、過去に起った事態を「〜したのだろう」と想像する。動詞・助動詞の連用形に付く。
ますらをの靫(ゆき)取り負ひて出でて行けば別れを惜しみ嘆きけむ
2、過去になされた行為の原因・理由・場所などについて、「(〜だから)〜したのだろう」、「(なぜ/どこに/誰が…)〜したのだろう」などと推測する。
神風の伊勢の国にもあらましを何しか来けむ君もあらなくに
3、伝え聞いた過去の行為に思いを馳せて言う。「〜したという」「〜したそうだ」。
勝鹿の真間の入江に打ち靡く玉藻刈りけむ手児名し思ほゆ

けむ 完了の助動詞「つ」の連用形「て」と結び付く。「〜しただろう」「〜してしまっただろう」の意。
我がためとたなばたつめのその宿に織る白栲は織りてけむかも

けむ 完了の助動詞「ぬ」の連用形「に」と結び付く。「〜しただろう」「〜してしまっただろう」の意。
百済野の萩の古枝に春待つと居りし鶯鳴きにけむ


「らむ」現在推量原因推量 
1、現在起っている事態を「今〜しているだろう」と想像する。接続は終止形
袖ひちてむすびし水の氷れるを春立つけふの風やとくらむ
2、動作の行なわれる原因・理由・場所などについて、「(〜だから)〜なのだろう」、「(なぜ/どこに/誰が…)〜なのだろう」などと推測する。
久方の月の桂も秋はなほ紅葉すればや照りまさるらむ
3、伝え聞いた行為につき「〜するという」と婉曲に言いなす。
いにしへに恋ふらむ鳥は霍公鳥けだしや鳴きし我が思へるごと
らむ 完了の助動詞「つ」の終止形と結び付く。「〜してしまうだろう」「〜したのだろう」「(今頃)〜しているだろう」などの意。
思ひつつぬればや人の見えつらむ夢と知りせばさめざらましを

らむ 完了の助動詞「ぬ」の終止形と結び付く。「(今頃)〜しているだろう」「(今頃)〜してしまっただろう」などの意。
暮ると明くと目かれぬ物を梅の花いつの人まにうつろひぬらむ


「めり」 
1、視覚による推量判断で、「〜のように見える」の意。動詞・助動詞の終止形に付く
龍田河紅葉乱れてながるめり渡らば錦中やたえなむ

「らし」
1、現在推量
 客観的な事実を受け入れての推定判断をあらわす。「〜らしい」「〜に違いない」。接続は終止形
春過ぎて夏来るらし白たへの衣乾したり天の香具山
らし 過去の助動詞「けり」の連体形「ける」と結び付いた「けるらし」の約。「〜したらしい」の意。詠嘆の助詞「も」を付けた「けらしも」の形で用いられることが多い。この場合、「〜したのだなあ」といった詠嘆の意にも用いられた。
桜花咲きにけらしもあしひきの山のかひより見ゆる白雲らし 完了の助動詞「ぬ」の終止形と結び付く。「〜したらしい」「〜してしまったらしい」。
千鳥鳴く佐保の川霧たちぬらし山の木の葉も色変はりゆく


「まし」 反実仮想の助動詞と呼ばれる。話し手の仮想の中で、現実にはあり得ないようなことを望んだり、事実と反対のことを想像したりする場合に用いられる。多くの場合、「〜ましかば(ませば)」あるいは「〜せば」などの条件節を伴う。未然形に接続
「べし」当然、推量、可能、意思 「こうなるのが当然、必然である」という話し手の判断をあらわす。終止形(ラ変は連体形)
「じ」打消し推量 「そうなることはあるまい」という話し手の推量判断をあらわす。推量の助動詞「む」の否定にあたる。まだ起らない事を想像し「〜しないだろう」と推量する。自身の行為についても、他者の行為についても言う。話し手自身の能動的な行為に関する場合、「〜するまい」との話し手の否定的意志をあらわす。また二人称(あるいは呼びかける対象)の行為に関する場合、「〜してはいけない」という禁止をあらわす。動詞・助動詞の未然形に付く。
「まじ」 打消し推量 「そうなることはあり得ない」という話し手の判断をあらわす。推量の助動詞「べし」の否定にあたる。動詞(ラ変動詞以外)・助動詞の終止形に付く。ラ変動詞では連体形に付く。
「なり」推定、伝聞 視覚に基づいた判断をあらわす「めり」に対し、視覚以外の感覚に基づいた判断をあらわすのが「なり」である。動詞・助動詞の終止形に付く。


なり  (伝聞、推定) 

未然形
連用形
終止形 連体形
已然形
命令形 上にくる語の活用形
なり なり なり なる なれ 終止形(ラ変は連体形も)
【接続】

視覚に基づいた判断をあらわす「めり」に対し、視覚以外の感覚に基づいた判断をあらわすのが「なり」である。はじめは聴覚に関する事柄に限られたが、のち、触覚・嗅覚・第六感など、視覚以外の感覚に関する事柄へと用途を広げたものと思われる。

聴覚によって判断していることをあらわす。「〜すると聞く」「〜するのが聞こえる」「(聞くところによると)〜するようだ」。
人はこず風に木の葉は散りはてて夜な夜な虫は声よわるなり
伝聞(人の噂など)によって推量判断していることをあらわす。「〜らしい」「〜しているそうだ」。
我が庵は都のたつみしかぞすむ世をうぢ山と人はいふなり
視覚以外の感覚に基づいて判断していること
をあらわす。
み吉野の山の白雪つもるらし古里さむくなりまさるなり

ごとし(比況)

他のものごとと同一であることを示す。「〜と同じだ」。「〜の通りだ」。比況と言うのは、他のものとあるものを比べて、同じようなものであるということを言います。つまり、「〜のようだ」と訳すことが出来ます。比較するわけです。比喩といってもいいかもしれません。活用語の連体形、助詞「が」「の」に付く。

助動詞 未然(〜ず) 連用(〜て) 終止(。) 連体(〜こと) 已然(〜ど) 命令 接続 活用
ごとし ごとく ごとく ごとし ごとき 連体 形容詞
[戻る]
指定、断定

なり、たり(指定、断定)

助動詞 未然(〜ず) 連用(〜て) 終止(。) 連体(〜こと) 已然(〜ど) 命令 接続 活用
なり なら なり
なり なる なれ なれ 体言
連体形
ナリ活用
たり たら たり
たり たる たれ たれ 体言 タリ活用
なり 断定存在の意味をもち、形容動詞ナリ活用型の活用で、体言、活用語の連体形、
 副詞・助詞につく。
基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形 活用の型
なり なら なり
なり なる なれ なれ 形容動詞ナリ活用型

(1)断定…[〜だ・〜である]
なり 道長が家より帝・后立ち給ふべきものならば、この矢あたれ(大鏡・道長伝)
 (道長の家から帝や后がお立ちなさるはずのものならば、この矢、当たってくれ)
 
[未然]
父はなほ人て、母なん藤原なりける。(伊勢物語・一〇段)
 (父は普通の身分の人であったが、母は藤原出身の人であった。)
 
[連用]
あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり [終止]
年九つばかりなる男の童、年よりはをさなくぞある。(土佐日記・一月二二日)
 (9才ぐらいの男の子で、年よりは子供ぽく見えるのがいる。)
 
[連体]
日ぐらしの鳴く夕暮ぞうかりけるいつもつきせぬ思ひなれども [已然]
なるらし/らし 連体形「なる」+推量の助動詞「らし」。「〜であるらしい」。
住む人もあるかなきかの宿ならし葦間の月のもるにまかせて
なりけり 連用形「なり」+過去の助動詞「けり」。「〜であったよ」「〜なのだなあ」などの意。詠嘆を籠める場合が多い。
ももしきや古き軒端のしのぶにもなほあまりある昔なりけり
(2)存在…[〜にいる・〜にある]
なり 御前なる獅子・狛犬背きて、後さまに立ちたりければ(徒然草・二三六段)
 (御前にある獅子と狛犬がお互いに背を向けて後ろ向きに立っていたので)
[連体]
たり 断定の意味をもち、形容動詞タリ活用型の活用で、体言につく。
基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形 活用の型
たり たら たり
たり たる たれ たれ 形容動詞タリ活用型

(1)断定…[〜だ・〜である]
たり 下として上にさかふこと、豈[あに]人臣の礼たらんや(平家物語・法印問答)
 (家臣として主上にそむくことは、家臣の礼であろうか)
 
[未然]
しかるを忠盛備前守たりし時(平家物語・殿上闇討)
 (さて、忠盛が備前守であった時)
 
[連用]
かの隆海律師の魚つりの童ありけるとき(今昔物語・一五−二)
 (あの隆海律師が魚つりを仕事する子供であったとき)
 
[連用]
よしやふれ花の父母たる雨ならば枝に恵の色ぞひらけん
 
[連体]
たれども臣たれども、だかひにこころざし深く隔つる思ひのなきは(十訓抄・五)
 (君主であるけれども、家臣であるけれども、お互いに志が深く隔たりを感じないものであれば)
[已然]

※「たり」の識別
・連用形+「たり」→完了の助動詞「たり」の連用形
 竹生島へ参りたりけり。(古今著聞集・一六−二五) (竹生島に参詣したということだ。)

・体言+「たり」→断定の助動詞「たり」の連用形
 清盛公、未だ安芸守たりしとき、(平家物語・鱸) (清盛公がまだ安芸守であったときに)

・形容動詞(タリ活用)の活用語尾
 舟のうへは平々たり(平家物語・水嶋合戦) (舟の上は平らである)
[戻る]

打消の助動詞(ず ざり じ まじ)

ず 打消

未然形
連用形
終止形 連体形
已然形
命令形 接続

(に)
未然形
【接続】
その事実がないという話し手の判断をあらわす。
夕されば小倉の山に鳴く鹿は今宵は鳴か寝ねにけらしも
【助動詞との結合例】
けり
連用形「ず」+過去の助動詞「けり」。「〜しないのであった」「〜しないのだなあ」。万葉集に見え、平安時代には「ざりけり」に取って代わられるが、後世の万葉調歌人が復活させ、近代以降の歌人にも用いられた。
もだ居りて賢しらするは酒飲みて酔泣するになほ及かずけり
助詞との結合例】
か/かも 連体形「ぬ」、疑問の助詞「か」、詠嘆の助詞「も」。願望を表す。「〜しないものか」「〜しないかなあ」の意。
我が命も常にあらぬか昔見し象の小川を行きて見むため
かも 連体形「ぬ」+詠嘆の助詞「かも」。打消の詠嘆。
み熊野の浦の浜木綿百重なす心は思へどただに逢はぬかも
 終止形「ず」+詠嘆の助詞「も」。打消の詠嘆。
眉のごと雲居に見ゆる阿波の山懸けて榜ぐ舟泊り知らずも
 未然形「ず」+接続助詞「は」。仮想・将来のことについて言う。(1)「〜しないで」「〜するよりは」。(2)「もし〜しないならば」。(1)の用法は主に万葉集に見られる。(2)の用法は、後世「ずば」と濁っても用いられる。
(1)験なき物を思はずは一坏の濁れる酒を飲むべくあるらし
 已然形「ね」+接続助詞「ば」。仮想・将来の条件節をつくる「ずは」に対し、確定した事実を述べる条件節をつくる。上代においては順接・逆接両方に用いられたが、平安時代以後は順接のみとなる。(1)順接「〜しないので」。(2)逆接「〜しないのに」。
(1)世の中を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば
【特殊な用法】
なく 連体形の「ぬ」に「あく」を加えて名詞化する、いわゆる「ク語法」。和歌では動詞に付けて助詞「に」を添え、「飽かなくに」「思はなくに」などと遣うことが多い。
安積山影さへ見ゆる山の井の浅き心を吾が思はなく

ざり 打消

未然形
連用形
終止形 連体形
已然形
命令形 接続
ざり ざら ざり (ざり) ざる ざれ ざれ 未然形
【接続】
形容詞、助動詞「べし」などに付く場合は、動詞「あり」を介して付く。
悲しからざる(悲しく―あら―ざる)
【機能】
【来歴】

助動詞「ず」に動詞「あり」が付いたもの。現代口語でも「言わざるを得ない」などといった形で残っている。

【特殊な用法】
補足】

じ 打消推量

※人称と「む」「じ」
助動詞「む」の打消しが「じ」であり、人称によって、次のように区別される。
1人称 意志 打消しの意志
2人称 適当・勧誘
3人称 推量 打消しの推量
未然形
連用形
終止形 連体形
已然形
命令形 接続
未然形
【接続】
【機能】

「そうなることはあるまい」という話し手の推量判断をあらわす。推量の助動詞「む」の否定にあたる。

夜をこめて鳥のそら音ははかるともよに逢坂の関はゆるさ

話し手自身の能動的な行為に関する場合、「〜するまい」との話し手の否定的意志をあらわす。また二人称(あるいは呼びかける対象)の行為に関する場合、「〜してはいけない」という禁止をあらわす。
おほかたは月をもめでこれぞこのつもれば人の老いとなるもの

べし

当然・推量・可能・意志

未然形
連用形
終止形 連体形
已然形
命令形 上にくる語の活用形
べし べく べし べき べけれ 終止形(ラ変は連体形)

「こうなるのが当然、必然である」という話し手の判断をあらわす。

  1. 当然・義務・命令。(1)「〜するのがよい」。(2)「〜するはずである」。(3)「〜しなければならない」。

    験なき物を思はずは一坏の濁れる酒を飲むべくあるらし

2.必然・運命。「〜することになる」。

年たけてまた越ゆべしと思ひきや命なりけりさやの中山

3.確実な推量、強い確信。「きっと〜するだろう」「〜するに違いない」。

4.話し手の能動的な行為の場合、強い意志・決意を表す。「必ず〜しよう」「するつもりだ」。

5.可能。「〜することができそうだ」。

見わたせば比良の高根に雪消えて若菜つむべく野はなりにけり

べし 完了の助動詞「ぬ」+推量の助動詞「べし」。「(きっと)〜してしまうだろう」の意。
いつまでか野辺に心のあくがれむ花し散らずは千世も経ぬべし

べし 完了の助動詞「つ」の終止形と結び付く。確信を以て予想する心。「〜してしまいそうだ」「(きっと)〜するだろう」「〜できそうだ」「〜にちがいない」「〜してしまおう」などの意。

あはれにもみさをにもゆる蛍かな声たてつべきこの世と思へば(千載集、源俊頼)


まじ 打消推量

まじ 打消しの推量打消しの意志打消しの当然不適当・禁止不可能の意味をもち、
 形容詞シク活用型の活用で、活用語の終止形、ラ変型活用語の連体形につく。
基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形 活用の型
まじ (まじく)
まじから
まじく
まじかり
まじ
まじき
まじかる
まじけれ
形容詞シク活用型
※「む」「べし」「じ」「まじ」の関係
「む」 −打消し→ 「じ」 (未然形につく)

強調

強調
「べし」 −打消し→ 「まじ」 (終止形につく)
【接続】
【機能】

まし

まし 反実仮想ためらいの意志推量の意味をもち、特殊型の活用で、活用語の未然形につく。
基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形 活用の型
まし (ませ)
ましか
まし まし ましか 特殊型

(1)反実仮想…[もし〜としたら〜だろう]
話し手の仮想の中で、現実にはあり得ないようなことを望んだり、事実と反対のことを想像したりする場合に用いられる。多くの場合、「〜ましかば(ませば)」あるいは「〜せば」などの条件節を伴う。
1、現実には起り得ないことを仮に想像する。「(もし〜だったら)〜するだろう」。
世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
2、実際に起った事実とは反対のことを仮想する。(1)「(もし〜だったら)〜しただろうに」。(2)「〜したらよかったのに」。
我が背子と二人見ませばいくばくかこの降る雪の嬉しからまし
見る人もなき山里の桜花ほかの散りなむ後ぞ咲かまし
咲かまし 恋ひまし 燃えまし 来(こ)まし 為(せ)まし

まし これほどの詩を作りたらましかば、名をあげてまし。(十訓抄・一〇−三)
 (これ(和歌と同じくらい)ほどの漢詩を作っていたならば、評判を上げていただろう。)
 
[未然]
この風いましばしやまざりしかば、潮上りて残る所なからまし(源氏物語・明石)
 (この風がもう少し止まずに吹いていたならば、高潮にのまれて残らず流されていただろう。)
 
[終止]
わが身一つならば、安らかならましを、(更級日記)
 (自分の身が一つであれば、不安がないのであろうが、)
 
[連体]
そのききつらむところにて、ことこそは、詠まましか(枕草子・九九段)
 (その(ほととぎすの声を)聞いたと言う場所で、すばやく歌を詠めばよかっただろうに。)
[已然]
(2)ためらいの意志…[〜うかしら・できれば〜したい]
まし これになにを書かまし(枕草子・三一九段)
 (これに何を書こうかしら。)
 
[終止]
賀茂河にや落ち入りなましなど思へども、(宇治拾遺物語・六−六)
 (できれば加茂川に飛び込んで死んでしまいたいと思うけれど、)
[連体]
※ためらいの意志の形
ためらいの意志・希望を表す場合、「や」「か」「いかに」「なに」などの疑問の語を伴う。

(3)推量…[〜だろう]
まし うららかに言ひきかせたらんは、おとなしくきこえなまし(徒然草・二三四段)
 (隠し立てなく言い聞かせたならば、穏やかに聞こえただろう。)
 
[終止]
かならずさるさまにてぞおはせまし(源氏物語・宿木)
 ((姫君が生きておられたら)きっとそういう尼姿でいらっしゃったであろう。)
[連体]
希求(希望)
まほし
まほし 希望の意味をもち、形容詞シク活用型の活用で、活用語の未然形につく。
基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形 活用の型
まほし (まほしく)
まほしから
まほしく
まへしかり
まほし
まほしき
まほしかる
まほしけれ
形容詞シク活用型

1.話し手の「〜したい」という願望をあらわす
散り散らず聞かまほしきを故郷の花見て帰る人も逢はなむ
たし(希望)
たし 希望の意味をもち、形容詞ク活用型の活用で、活用語の連用形につく。
基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形 活用の型
たし (たく)
たから
たく
たかり
たし
たき
たかる
たけれ
形容詞ク活用型

知りたし 見たし 食べたし 来られたし 行かしめたし
「〜したい」という願望をあらわす。
おほならばかもかもせむを畏みと振りたき袖を忍びてあるかも
現代口語の願望の助動詞「たい」に繋がっている

助詞

助詞は、常に他の語の下に付き、語と語、あるいは文と文とを関係づけたり、文末に置かれて叙述をまとめたりする働きをする語です。助動詞と違うのは、活用変化がないこと、そして副詞などの下にも付くことです

||連体助詞||格助詞||副助詞||終助詞||間投助詞||接続助詞||係助詞||

連体助詞

連体助詞は、体言と体言を関係づける助詞である。連体格助詞とも言う。語と語の関係をあらわすという意味では格助詞の一種である

が 連体助詞

人称代名詞や人を指す名詞を承けて、後に来る語がその人に属するものであることを示す

身 汝(な)名 君代 (いも俤 母手 誰(た)

動物や植物の名を承けて、後に来る語がそれに属するものであることを示す

枝 萩花 尾花末の露 雁音 浅茅原 小松

「〜が上」「〜が下」のように、体言に付いて、そのものを中心として見たときの位置関係を示す。活用語の連体形に付く例が多く見られる。
我が背子は仮廬作らす草なくは小松下の草を刈らさね

体言に付いて、後に来る形式名詞「ほど」「こと(ごと)」「から」「むた」などの内容を示す。
まにまに 「〜の成行きのままに」「〜の思いのままに」程の意。「まにまに」とも遣う。

体言と体言を繋いで地名を作る

佐渡島 弓月嶽 青根峰 野島崎 雑司
の 連体助詞

体言と体言を繋げ、前の語の内容を後の語に付け加えることで、後の語の内容を限定するはたらきをもつ。例えば「吉野の山」の「の」は、「吉野」という場所を指定することで「山」を限定するはたらきをするのである

比喩をあらわす用法。「の」を「のような」の意味で遣う

命はかなきものを朝夕に生きたるかぎりあひ見てしがな

逆に後の語が前の語の比喩となる用法。逆に言えば、前の語が後の語の実体であることを示す。例えば下記引用歌の「涙の川」は「涙であるところの川」、すなわち「川のように流れる涙」を意味する。他に「涙の雨」(雨のように降る涙)、「花の雲」(雲のような花)など。

形容詞の語幹または終止形と体言をつなげる用法。(1)ク活用の形容詞の場合「遠(とほ)のみかど」等のように語幹に付き、シク活用の形容詞の場合「あやしの住み家」等のように終止形に付く形となる。

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格助詞

格助詞は、体言または体言に準ずる語に付き(例外もあり)、その語あるいはその文節が、あとに続く語あるいは文節とどのような関係にあるかを示す。

 格助詞 主格

体言に付いて、それが主語であることを示す。主として我・君・人・妹(いも)など人称代名詞及び人を指す名詞を承ける(それ以外の語は普通「の」で承ける)。

 格助詞 主格・修飾格

体言に付いて、それが主語であることを示す。「が」と異なるのは、従属節や疑問文・詠嘆文のみならず、終止形で言い切る文の主語ともなる点である。また「が」が主として人を指す語を承けるのに対し、「の」は語を選ばずに承ける。

体言に付いて、それ以前の語句を、あとに続く用言の比喩・例として提示する。和歌の序詞の技法はこれにあたる。「のように」の意。
あしびきの山鳥の尾のしだり尾長々し夜を独りかも寝む

 格助詞 目的格・対象格・修飾格

動作や心情などの対象であることを示す
待つと君が濡れけむ足引の山のしづくにならましものを

離れて行く対象移動する場所持続する時間などを示す
咲きまじる花をわけとや白雲の山はなれて立ちのぼるらん
曇りなき青海の原飛ぶ鳥のかげさへしるく照れる夏かな
ひさかたの雨の降る日ただ独り山辺に居ればいふせかりけり

 格助詞 修飾格

体言に付いて、動作の(1)目標地点や(2)方向を示す。名詞「辺(へ)」を起源とする。現代口語と用法はほぼ共通する

ゆく雁のつばさにことづてよ雲のうはがきかき絶えずして

 格助詞 修飾格

引用であることを示す。「言ふ」「聞く」「思ふ」などと遣う
よき人の良しよく見てよし言ひし吉野よく見よ良き人よく見

動機・理由を示す。活用語の終止形に付く
むささびは木ぬれ求むあしひきの山のさつをに逢ひにけるかも

体言に付いて、「〜として」の意、「〜と同じように、〜のごとく」の意、あるいは変化の結果を示す。指定の助動詞「たり」の連用形に相当する用法。
沖つ波来寄る荒磯をしきたへの枕まきて寝せる君かも
泣く涙雨降らなん渡り川水まさりなばかへりくるがに
古里なりにし奈良の都にも色は変はらず花は咲きけり

体言に付いて、動作・作用の相手協同者を示す
あしひきの山の椎柴折り焚きて君語らむ大和言の葉

より(ゆり・ゆ・よ) 格助詞 修飾格

「ゆり」「ゆ」「よ」はいずれも奈良時代以前に見られ(「ゆ」は「よ」の母音交替形)、用法は「より」にほぼ同じである

体言に付いて、動作の起点となる場所を示す。「〜から」「〜より」。
葦北の野坂の浦船出して水島に行かむ波立つなゆめ

体言に付いて、動作の起点となる時を示す。「見しより」「見つるより」など、過去・完了の助動詞の連体形に付く例が多く見られる。
うたたねに恋しき人を見てしより夢てふ物はたのみそめてき

体言に付いて、動作が行なわれる経由地を示す。「〜から」「〜を通って」「〜を通して」。
桜花さきにけらしもあしひきの山の峡より見ゆる白雲

体言に付き、比較の基準を示す。活用語の連体形に付く例が多く見られる
秋山の木の下隠り行く水の我こそ益さめ思ほすより

体言に付き、動作の手段・方法を示す。活用語の連体形に付く例も見られる
山科の木幡の山を馬はあれど徒歩(かち)より吾が来し汝を思ひかねて

体言に付き、「ほか」「また」などと共に用いて限定を示す
よりまた知る人もなき恋を涙せきあへずもらしつるかな

動詞の連体形に付いて、「〜するとすぐ」「〜するやいなや」の意をあらわす
にほふより春は暮れゆく山吹の花こそ花のなかにつらけれ

から 格助詞 修飾格

体言に付いて、動作の起点となる場所・時を示す
浪の花沖から咲きて散り来めり水の春とは風やなるらむ

体言に付いて、動作の経由地を示す
月夜よみ妹に逢はむと直道(ただち)から我は来つれど夜ぞ更けにける

動詞の連体形に付いて、「〜するとすぐ」「〜するや否や」「〜だけでもう」といった意味をあらわす
惜しむから恋しきものを白雲の立ちなむ後はなに心ちせむ

体言に付いて、原因・理由などを示す。「〜ゆえ」「〜によって」「〜のせいで」などの意
恋草を力車に七車積みて恋ふらく我が心から

して 格助詞 修飾格

サ変動詞「為(す)」の連用形「し」に接続助詞「て」が付いたものと言う

主に使役の助動詞と共に用い、命令を受けてそのことをする人を指す。
たまさかにまことやすると君ならぬ人して世をも知らせてしかな

行う人の数などをあらわす。
二人して結びし紐を一人して我は解きみじ直に逢ふまでは

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副助詞

副助詞とは、種々の語に付き、その語と一体となって副詞としての働きをする助詞である。

だに 副助詞

種々の語を承け、それを最低限・最小限のものごととして提示する。室町時代に「さへ」に取って代わられるが、歌語としてはその後も使われ続け、近代に至る

否定・反語と呼応して、「〜すら(ない)」の意
石瀬野に秋萩しのぎ馬並めて小鷹狩だにせずや別れむ

推量・仮定と呼応して、「〜ですらも」「〜だって」の意
恋しけく日長きものを逢ふべかる宵だに君が来まさざるらむ

「せめて〜だけでも」の意。願望・命令などと呼応することが多い
三輪山をしかも隠すか雲だにも心あらなも隠さふべしや

「〜さえも」「〜までも」の意。
大かたの秋の空だに侘しきに物思ひそふる君にもあるかな

すら 副助詞

体言または体言に準ずる語を承け、それを最低限の例、あるいは極端な例として提示する

「〜でさえも」の意
かくしつつ遊び飲みこそ草木すら春は咲きつつ秋は散りぬる

「〜までも」の意
あぶり干す人もあれやも家人の春雨すらを間使ひにする

さへ 副助詞

体言や活用語の連体形、副詞などを承け、それが現状にさらに添加されることを示す。語源は動詞の「添へ」。

「〜までも」「その上〜まで」の意。
水無月の土さへ裂けて照る日にも我が袖干めや君に逢はずして

「〜だけでも」の意。意志・推量や仮定をあらわす句の中に用いる。
さへあらば見つべき身のはてを忍ばむ人のなきぞかなしき

のみ 副助詞

種々の語に付き、そのことだけに限定する意をあらわす。「〜だけ」「〜ばかり」強調の意ともなる。語源は「の身」で、「それ以外の何物でもない」ことを示すのが原義。
忘れては打ち嘆かるる夕かな我のみ知りて過ぐる月日を

ばかり 副助詞

語源は動詞「計る」。この程度であると見積もる意。体言や動詞・副詞など様々な語に付く。用法によって接続する活用語の活用形が異なるので注意が必要。

「〜ほど」の意味。おおよその度合・時・場所などをあらわす。活用語の場合、終止形に付く。
命あらば逢ふよもあらん世の中になど死ぬばかりおもふ心ぞ

否定表現を伴ってそれ以上はないという限定をあらわす。「〜ばかり〜なし」の形を取り、「〜ほど〜はない」の意に用いることが多い。活用語の場合、連体形に付く
かぞふれば年の残りもなかりけり老いぬるばかり悲しきはなし

「〜だけ」と範囲を限定する。主に平安時代以降に見られる用法。活用語の場合、連体形に付く
わが恋はゆくへもしらず果てもなし逢ふを限りと思ふばかり

まで 副助詞

体言または活用語の連体形を承け、それが事態や動作の辿り着く到達点であることを示す。時についても場所についても言う

到達点を示す。「まで」
天飛ぶや鳥にもがもや都まで送り申して飛び帰るもの

程度をあらわす。「〜ほど」「〜ほどまで」の意。
わが宿は道もなきまで荒れにけりつれなき人を待つとせしまに

し 副助詞
機能
種々の語を承け、それを強く指示して強調する。時代が下るにつれて用例が限定されるようになり、現代口語には「定め」「果てない」などに化石的に残るのみである。

大君は神にませば真木の立つ荒山中に海を成すかも

葦辺ゆく鴨の羽がひに霜降りて寒き夕へは大和思ほゆ

【助詞との結合例】

「しも」のほかにも「ぞ」「か」「こそ」など係助詞と結合して用いられることが多かった。
橘の花散る里のほととぎす片恋しつつ鳴く日しぞ多き

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終助詞

終助詞は、文や句の終りに用いて、疑問・詠嘆・禁止・願望などの意をあらわす助詞である

「か」「や」「ぞ」「は」「も」は係助詞として分けてあります。係り結び参照

よ 終助詞 強調

「や」と同じく元来は掛け声に由来する語であろうか。のち間投助詞としてはたらくようになり、文末にも用いられるようになった。意を強めるはたらきをする。

聞き手に対し、同意を求めたり念を押したりする気持をあらわす。のち、詠嘆的な用法にも使われる。現代口語で「〜だよ」などと言う時の「よ」、女言葉の「〜よ」に繋がっている。
今は吾は死なむ我が背生けりとも我に依るべしと言ふと言はなくに

命令・勧誘・願望・禁止の表現と結び付き、その意を強める。動詞「す」の命令形「せよ」の「よ」、「見る」の命令形「見よ」の「よ」なども、元来は同じものである。
身はとめつ心はおくる山ざくら風のたよりに思ひおこせ

かし 終助詞 強調

文末に置いて、相手に対し念を押す気持、あるいは話し手が自分自身に対し念を押す気持をあらわす。種々の語に付くが、活用語では終止形または命令形に付く。詠嘆の助詞「か」と強めの助詞「し」との複合した助詞。
いかにせむしづが園生の奧の竹かきこもるとも世の中ぞかし

は 終助詞 詠嘆

「はも」 「はや」 「やは」 「かは」などのように、「は」は他の助詞と共に文末に置かれて詠嘆の意をあらわすことがある。平安時代には単独でも詠嘆の終助詞として使われたが、和歌での用例は少ない
さねさし相模の小野に燃ゆる火の火中に立ちて問ひし君

も 終助詞 詠嘆

主として活用語の終止形に付き、詠嘆をあらわす。上述の「かも」「はも」などの「も」も詠嘆の終助詞である。
春の野に霞たなびきうら悲しこの夕かげに鴬鳴く

を 終助詞 詠嘆

文末に置いて詠嘆をあらわす。反実仮想の助動詞「まし」と結び付く「ましを」、形式名詞「もの」と結び付く「ものを」の形で用いられることが多い。体言か活用語の連体形に付く。
かくばかり恋ひつつあらずは高山の磐根しまきて死なましもの

ものを 終助詞 詠嘆

形式名詞「もの」と助詞「を」が結び付いたもので、元来は接続助詞であったが、文末に置いて詠嘆をあらわすようにもなった。事態を噛み締めるように詠嘆する場合や、後に含みを残して終わる場合などによく用いられる。助動詞「まし」「けり」などに続くことが多い。活用語の連体形に付く。
夕まぐれ秋のけしきになるままに袖より露は置きけるものを

ね 終助詞 希望

活用語の未然形に接続し、 話しかける相手に対し「〜してほしい」という希望の意をあらわす。前項の助詞「な」の2とほぼ同じ意味になるが、「ね」は親愛・尊敬の助動詞「す」あるいは尊敬の助動詞「たまふ」と共に用いられることが多い点に特徴がある。平安時代以降はほとんど用例を見ないが、近世の万葉調歌人が復活させた。

我が主の御霊(みたま)賜ひて春さらば奈良の都に召上げ賜は

禁止をあらわす助詞「な」「そ」と共に「な〜そね」の形で用い、話しかける相手に対して「〜してくれるな」と願う意をあらわす。
奥山の菅の葉しのぎ降る雪の消(け)なば惜しけむ雨な降りそ

完了の助動詞「ぬ」の命令形「ね」と紛らわしいが、助詞の「ね」は未然形接続、助動詞の「ね」は連用形接続である。

な 終助詞 禁止

活用語の終止形に付いて、「〜するな」と禁止する意をあらわす。現代口語に継承されている。
こちふかば匂ひおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘る

そ 終助詞 禁止

動詞の連用形(カ変・サ変では未然形「こ」「せ」)に付き、禁止の意をあらわす。終助詞「な」よりも丁寧な、あるいは婉曲な言い方になる。「〜してくれるな」「〜なさるな」。
きりぎりすいたく鳴き秋の夜のながき思ひは我ぞまされる

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間投助詞

間投助詞は、文中の語の下に投入され、語勢を加えたり、語調を整えたり、あるいは詠嘆の意を添えたりする助詞である。

や 間投助詞

体言に付いて呼びかけの対象であることを示す
我妹子我を忘らすないそのかみ袖ふる川の絶えむと思へや

詠嘆の意をあらわす
谷風にとくる氷のひまごとにうち出づる波春の初花

語勢を加えたり、語調を整えたりする。
来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼く藻塩の身もこがれつつ

主として場所を示す名詞に付いて詠嘆を添える
武蔵野ゆけども秋の果てぞなきいかなる風か末に吹くらん

を 間投助詞

活用語の連用形や助詞に付いて、意を強める
君が往きけ長くなりぬ山たづの迎へ行かむ待つには待たじ

 間投助詞

体言に付き、それが呼びかけの対象であることを示す。
玉の緒絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする

体言に付き、それが感動の対象であることを示す
吹きしをり野分をならす夕立の風の上なる雲木の葉

相手に対し、同意を求めたり念を押したりする気持をあらわす。のち、詠嘆的な用法にも使われる。
あら玉の年の経ぬれば今しはとゆめ我が背子我が名のらすな

な 間投助詞

語句の切れ目に付き、念を押す気持詠嘆をあらわす。普通、活用語の終止形に付くが、命令形に付くこともあり、また係り結びに続く場合連体形・已然形に付くこともある。
さびしさに堪へたる人のまたもあれ庵ならべむ冬の山里

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接続助詞

接続助詞は、その前の文・節を、あとに来る文・節に接続すると共に、両者の関係を示す助詞である。もとより倒置文の場合は文末に置かれることになる。

ば 接続助詞 仮定条件・既定条件

未然形に接続し、順接の仮定条件を示す。「(もし)〜ならば」。
未立ち別れいなばの山の峰におふるまつとし聞か今かへり来む

已然形に接続し、既定条件、あるいは原因・理由を示す。「すでに〜だから」「〜ので」。
吹くからに秋の草木のしほるれむべ山風を嵐といふらむ

已然形に接続し、事件の継起の先後関係を示す。「〜すると」「〜していると」。
熟田津に船乗りせむと月待て潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな

打消の文脈で用い、逆接をあらわす。「〜のに」。
天の河浅瀬白浪たどりつつ渡り果てね明けぞしにける

とも 接続助詞 逆接仮定条件

動詞・助動詞の終止形に付いて、逆接の仮定条件を示す。「たとえ〜しても」。
花の色は霞にこめて見せずとも香をだにぬすめ春の山風

形容詞(および形容詞型活用語)の場合は連用形に付く。
教へおく事たがはずは行末の道とほくとも跡はまどはじ

ど・ども 接続助詞 逆接既定条件

活用語の已然形を承け、逆接の既定条件を示す。「〜けれど」「〜けれども」「〜であっても」などの意。「ど」と「ども」は意味としては全く同じで、その違いは現代口語の「けれど」と「けれども」の違いのようなものである。
秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる

が 接続助詞 逆接

活用語の連体形を承け、逆接条件を示す。「〜ところが」「〜けれども」の意

菊をこそ花の限りと思ひし垣根の梅ぞ冬さきにける

に 接続助詞 順接・逆接

活用語の連体形を承け、前後の文脈によって逆接・順接いずれにもなる。

順接条件を示す。「〜につけて」などの意。
霍公鳥いたくな鳴きそ独り居て寝の寝らえぬ聞けば苦しも

逆接条件を示す。「〜のに」。
庭の面はまだかわかぬ夕立の空さりげなくすめる月かな

を 接続助詞 順接・逆接

活用語の連体形、あるいは体言などに付き、順接あるいは逆接の条件をあらわす。和歌では逆接に用いられる方が遥かに多い。

順接条件を示す。「〜のだから」「〜ので」。
君により言の繁き故郷の明日香の川にみそぎしにゆく

逆接条件を示す。「〜のに」。
夏の夜はまだ宵ながら明けぬる雲のいづこに月宿るらむ

て 接続助詞 継起・並列など

活用語の連用形を承けて、その動作・状態がそこで一旦区切れることをあらわす。継起・並列・逆接など、さまざまな意味合いで用いられるが、「て」それ自体にそうした意味作用があるというより、前後の文脈からそのように判断されるということである。
春過ぎ夏来るらし白たへの衣乾したり天の香具山

して 接続助詞 状態

形容詞の連用形、打消の助動詞「ず」、格助詞「に」「と」などを承け、「(状態が)〜であって」「〜の状態で」などの意をあらわす。語源はサ変動詞「す」の連用形「し」と接続助詞「て」が結び付いたものというが、一説に「し」を指定の働きをする語とも。

老いらくの命のあまり長くして君にふたたび別れぬるかな
もろともに苔の下には朽ちずして埋もれぬ名を見るぞかなしき
月やあらぬ春やむかしの春ならぬ我が身ひとつはもとの身にして

で 接続助詞 打消接続

動詞の未然形に付いて打消の意をあらわし、後の語句に続けるはたらきをする。「〜ないで」「〜ずに」。

難波潟みじかき葦のふしのまも逢はこの世をすぐしてよとや

つつ 接続助詞 反復・継続

動詞の連用形に付き、その動作・作用が反復・継続される意をあらわす。「何度も〜して」「ずっと〜して」「〜し続けて」「〜しながら

同じ動作が反復される意をあらわす。「繰り返し〜して」「そのたびに〜して」。
春花のうつろふまでに相見ねば月日よみつつ妹待つらむぞ

動作が継続されている意をあらわす。「ずっと〜して」「〜し続けて」。
君がため春の野にいでて若菜つむ我が衣手に雪は降りつつ

ながら 接続助詞 維持・逆接

体言、副詞、活用語の連用形などに付く。元来は連体助詞「な」と形式名詞「から」が結び付いたもので、体言に付いて副詞句を作るのが最も古い用法であったろうという

そのままの状態を維持することをあらわす。「〜したままで」「〜ながら」。
針袋帯び続けながら里ごとに照らさひ歩けど人もとがめず

逆接の意をあらわす。「〜ものの」「〜ではあるが」「〜けれども」。

明けぬれば暮るるものとは知りながらなほ恨めしき朝ぼらけかな

も 接続助詞 逆接

活用語の連体形を承けて、譲歩の気持から逆接の意をあらわす。「〜ても」。「〜のに」。

来むと言ふ来ぬ時あるを来じと言ふを来むとは待たじ来じと言ふものを

ものの 接続助詞 逆接

活用語の連体形を承けて、逆接の意をあらわす。「〜のであるが」。「〜ものながら」。平安時代以後に見られる。

鳴く声も聞こえぬものの悲しきは忍びに燃ゆる蛍なりけり

ものから 接続助詞 逆接

活用語の連体形を承けて、逆接の意をあらわす。「〜ではあるが」「〜ものの」。

ふるさとにあらぬものから我がために人の心の荒れてみゆらむ

ものゆゑ 接続助詞 順接・逆接・理由

活用語の連体形を承け、順接・逆接両方の意をあらわす。「ものゆゑに」とも遣う。

理由・原因をあらわす。「〜ので」「〜のだから」。
我が故に思ひな痩せそ秋風の吹かむその月逢はむものゆゑ

逆接の意をあらわす。「〜ものなのに」。
秋ならで逢ふことかたき女郎花天の川原に生ひぬものゆゑ

ものを 接続助詞 順接・逆接

活用語の連体形を承ける。逆接をあらわすことが多いが、順接をあらわすこともある。

逆接。「〜のであるが」「〜であるのに」。
春の野に若菜つまむと来しものを散りかふ花に道はまどひぬ

順接。「〜のだから」。
来むと言ふも来ぬ時あるを来じと言ふを来むとは待たじ来じと言ふものを

からに 接続助詞 理由・原因など

活用語の連体形を承け、「〜だけで」といった意、あるいは「〜と共に」「〜と同時に」といった意をあらわす。形式名詞「から」に格助詞「に」が付いて出来た複合語であるが、接続助詞としてはたらく

「〜だけで」「〜ばかりに」
わびしさを同じ心と聞くからに我が身をすてて君ぞかなしき

「〜と同時に」「〜やいなや」
明けぬとて今はの心つくからになど言ひ知らぬ思ひ添ふらむ

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係助詞

係助詞(かかりじょし/けいじょし)は、種々の語に付き、その語に意味を添えると共に、文の終止にまで影響を及ぼす助詞である。いわゆる「係り結び」を形成し、ぞ・なむ・や・かは連体形で、こそは已然形で、は・もは終止形で結ぶことを要求する。

は 係助詞

種々の語を承け、それを話題として提示して、それについての説明・叙述を導くはたらきをする。「は」を承けて結ぶ活用語は通常終止形をとるとされるが、命令形をとったり、連用形で中断したり、体言で言いさしたりと、実際は様々な形をとる。
なお、現代口語では、既知の(古い)情報を「は」で、未知の(新しい)情報を「が」で示すというように、「は」と「が」が対(つい)をなしているが、文語では既知の確実な情報を「は」で、未知の不確実な情報を「も」で示すというように、「は」と「も」が対をなしている

葦辺ゆく鴨の羽がひに霜降りて寒き夕へ大和し思ほゆ
古里となりにし奈良の都にも色はかはらず花咲きけり

も 係助詞

種々の語を承け、それを取り立てて提示し、それについての説明・叙述を導くはたらきをするという点で「は」と共通する。しかし、「は」が確実な、選択された限定的な対象としてその語を示すのに対し、「も」は不確実な対象として、あるいはそれ一つとは限定されない対象として示すはたらきをする。そこから、一つの事柄に別の事柄を付加したり、物事を列挙したり、他の事柄を言外に暗示したりする使い方もなされる。
文末には願望・打消・推量などの表現が来ることが多い。「も」を承けて結ぶ活用語は、通常は「は」と同じく終止形をとる

人はいさ心しらず古里は花ぞ昔の香ににほひける
熟田津に船乗りせむと月待てば潮かなひぬ今は漕ぎ出でな

ぞ なむ や か こそ の系助詞は係り結びを参照

係り結び(係助詞)

係り結びというのは、動詞などの前後について意味をもたせる品詞です。
助詞の一種なのですが係り結びをするため係助詞と呼ばれています。

係助詞 文意
花咲く +ぞ → 強調:花ぞ咲く 花は咲く(強い)
   水流る +なむ→ 強調:水なむ流るる 水は流れる(強い)
   朝起く +や → 疑問:朝や起くる 朝は起きるのか
花咲く +か 疑問:花咲くか 花は咲くのか
   夜明く +こそ→ 強調:夜こそ明くれ 夜は明ける(強い)

「ぞ、なむ、や、か」は連体形で結び、「こそ」だけ已然形で結びます


「ぞ、なむ」
結びは連体形で、強調の意を表します。
「ぞ」の方が「なむ」よりもやや強く、「なむ」は柔らかい表現として会話や手紙文などによく使われた
「や、か」
結びは連体形、疑問、反語の意味です。反語と言うのは、「花は咲くのか」と言いながら、「花は咲かない」という意味になる

「こそ」
これだけ結びは已然形。意味は強調です。
強調の意味は、「ぞ、なむ」よりも強くなります。

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俳句の基本知識

俳句の切れ・切れ字

切れ


@言い切った終止感
秋風や模様のちがふ皿二つ    原 石鼎
ただ「秋風や」とだけ言って、あとは読者の想像力に委ねている。このことが重要である。俳句という短い詩形は、読者の想像力を喚起することによって、豊かな表現を作りだすのである

 A言い終えていない余情
猪も抱れて萩のひと夜哉     高尾(二代)
「哉」(かな)という「切字」が句を言いとどめ、終止感を際立たせて表現を引き締めている。と同時に、「萩のひと夜」に対する万感の思いをそこに封じ込めてもいる。

 B展開の意外性
 月朧川に鉄臭横たわる      河合凱夫
この、十分に言い尽くされていない表現から、感覚や感情や意味を自分なりに構成していくことになるのだが、読者の読みが、作者の意図や作品の言葉からまったく自由なわけではない。読者の読みは、自由の幅を与えられながらも、作者の言葉によって巧妙にある方向に誘導されていく。それが、俳句の切れの力である。
切れ字
 「切れ」の直前に置かれた単語を「切れ字」と言います。
 つまり、句中や句末において、表現を断ち切り、その直後に余情を生み出す語が切れ字です
 句中に切れ字がある場合、切れ字の直後に「間」が生まれ、その「間」が情趣を醸し出します
 句末に切れ字がある場合、切れ字の直後に余韻が広がります。

切れ字の代表格 〜や・かな・けり〜
どのような語の後ろに「や」を付けられるか?
切れ字の「や」は、体言(名詞・代名詞)、活用語(動詞・形容詞・形容動詞・助動詞)の終止形・連体形・命令形、助詞など、様々な語の後ろに付けることが可能です。
俳句のどこに「や」を置くべきか?
俳句の様々な場所に置くことが可能です。
切れ字「や」を用いて得られる効果
その直後に俳句の切れ目を作り、間(ま)を生み出します。
 そして、その間からは言外の情趣が醸し出され、読者の頭の中で広がります
「かな」 〜代表的な俳句の切れ字
古句には「かな」を漢字で「」と表記している作品が多い
俳句のどこに「かな」を置くべきか?
「かな」は句末、すなわち一句の一番最後に置くのが原則です。
 「かな」という切字を用いると、切れの直後に余韻が生まれ、その余韻はすぐさま大きく膨れ上がります。
どのような語の後ろに「かな」を付けられるか?
「かな」は名詞、または活用語(動詞・形容詞・形容動詞・助動詞)の連体形の後ろに置きます。
 俳句においては、特に名詞に付くことが圧倒的に多い
切れ字「かな」を用いて得られる効果
余韻を醸し出し、それを大きく、かつ、やんわりと膨らませます。
けり」 〜代表的な俳句の切れ字
どのような語の後ろに「けり」を付けられるか?
動詞、形容詞、形容動詞、助動詞の連用形の後ろに置きます(接続します)。
切れ字「けり」のある俳句の味わい方
 「けり」は、それまで気付かずにいたことに「ハッ!」と気付いたときの感慨を表現する助動詞
俳句のどこに「けり」を置くべきか?
一句の途中に意味上の「切れ」のない例
心からしなのの雪に降られけり 
上五と中七以下の間に意味上の「切れ」がある例
赤とんぼ筑波に雲もなかりけり 
中七の最後に「けり」を置き座語に名詞を据えた例
島々に灯をともしけり春の海

季・季重ね・季違い(一つの俳句に一つの季語)

俳句は季語を入れて作るものですが、一句に入れる季語の数は一つまでにしておくのが良いとされています。
俳句を握り寿司とするならば、季語はネタにあたる最も重要な句の構成要素ですから、むやみやたらに重ねて握ると、食べる側(鑑賞する側)は、どのネタ(季語)に味覚を集中させたらよいのか、わからなくなってしまうからです

しかしながら、季重ね・季違いの俳句が全てが悪いかというと、実はそうではありません。
 一家に遊女もねたり萩と月 (芭蕉)
、「萩」と「月」という二つの秋の季語が互いを補い合って、なんとも言われぬ良い雰囲気を醸し出しています。

其の他


 短く言って、あとは黙る
長い詩では、言い換えたり、反復したり、譬えたり、否定したりして言葉を接ぎ足し、読み手をその作品の世界に引きずり込んでいく。詩人の才能とは、一般にそのような言葉を次から次へ生み出せる能力だと思われている。それは、教典や聖書を書き上げたいにしえの宗教家の能力に連なる才能である。俳人は、ひとこと言って、あとは黙る。
俳句は、他のあらゆる文学形式を向こうに回す独自性を持った唯一の表現形式だということになる。俳句は、他のすべての文学形式と根本のところで異なる性質を持っている。そこに俳句の存在意義があり、俳句が世界に広がっていく理由がある。俳句は、そのひとことに賭ける。ただしそれは、考え抜かれ、研ぎ澄まされたひとことである

凝縮
金剛の露ひとつぶや石の上         川端茅舎
「省略」は重要である。しかし、それは俳句の目的ではない。省略は、「凝縮」のための手段である。余計なことを言わずに、重複した部分を削ぎ取ることによって、一句の密度を最大に増やす。それが「凝縮」ということである。



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