ハンセン病とは
 「らい(癩)病」という病名には、古くからの偏見などが付きまとっていることから、ノルウェーのハンセン氏によって「らい菌」が発見されましたので、「ハンセン病」という呼び方が一般的になっています。
 ハンセン病は「らい菌」によって起こるもので、症状は軽いが、長く続く慢性的な細菌感染症です。ハンセン病では、主に末梢神経と皮膚が侵されて、一見して外見に、結節などの明らかな変化を来たす皮膚病の特徴と、身体障害である知覚マヒや視覚障害などを引き起こす、神経病の特徴などに加えて、負傷などによる2次的な障害が加わります。こうした2次的な障害が起こるのは、知覚が鈍くなっているために、手や足に傷を負ったり、火傷をした時に、気づくのが遅れ、怪我の状態が酷くなるまで治療せずに放置されたりすることがあったためです。

 ハンセン病は、主として、こうした2次的な障害による外見上の醜さから、古くから特殊な病気として取り扱われ、患者とその家族は多くの偏見と差別を受けてきました。
 らい菌は、結核菌と同じ抗酸菌の仲間に分類されていますが、らい菌の培養は難しく、人工培地での培養には未だに成功していません。また、人以外の動物にらい菌を感染させて、ハンセン病を起こさせることが長い間できなかったため、研究もあまり進展しませんでしたが、南米産アルマジロが利用可能であることが分かってから、研究が進みました。

昭和13年ごろの長島愛生園での明石海人
しかし、自然界の何処に「らい菌」が存在するのか、土壌中に存在するという説もありますし、小動物が宿主となっているという説もあり、正確なことは今でも分かっていません。  「らい菌が」人から人へ感染することは事実と考えられていますが、人以外の感染源については、そもそも存在するのか否かということも含めて、まだ明らかになっていません。 このように、らい菌については、不明の点も多々ありますが、幸いなことに、特効薬も発見され、今日では治療法が確立し、早期発見と早期治療により、比較的容易に完治することができる病気となっています。
感染と発病について
 ハンセン病では、らい菌の感染とハンセン病の発病とを厳密に区別して考えることが重要です。らい菌の毒性は極めて弱く、ほとんどの人に対して病原性を持たないため、人の体内に「らい菌」が侵入し、感染が成立しても、発病することは極めてまれです。特に成人が「らい菌」に感染した場合には、らい菌に対する免疫機能が先天的に不十分な人がこぐまれに発病する以外は、発病することはありません。

 感染経路としては最近では、未治療患者の鼻粘膜・鼻汁に存在する菌が排出され、気道を経て感染する経路を重視する考え方が主流となりつつあります。
 らい菌は感染しにくい菌の一つですが、感染の成立には、特に未治療の多菌型患者(感染源)との接触期間、体内に侵入した「らい菌」の量などが深く関係していると考えられています。

 発病するのは、ハンセン病にかかりやすい性質を有する人が、らい菌に感染するのです。ハンセン病にかかりやすい性質は、らい菌に対する免疫系の異常と深い関わりがあります。ただし、これは免疫力が高いか低いか、強いか弱いかといったこととは関係がありません。同じような健康状態で、同じような生活をしていた人でも、発病する人と、発病しない人がいるのです。

 このため、らい菌が発見されるまでは、ハンセン病は特定の家系の人が発病する病気、遺伝する病気という誤解を生み、患者のみならず、その家族・親族に対する根強い偏見や差別がありました。
 ハンセン病の発生率は社会経済状態の向上に伴って減少し、先進国においてハンセン病は既に終息しているか、終焉にむかっています。日本でも、ここ数年の新規患者登録数は年間でわずか10名程度であり、これらの人々も新たな感染者というよりは、過去に感染していた人が新たに発見されたものと思われます。
 しかし、現在でも、インドなど南アジア地域を中心とした発展途上国には多数のハンセン病患者がいて
医療、生活その他の援助を必要としています。

治療について

 1943年(昭和18)に、スルフォン剤の一種であるプロミンの有効性が報告され、ハンセン病の本格的な薬物療法が始まりました。昭和20〜30年代は主にプロミンの改良型のダプソンによる単剤療法が行われました。
昭和40年代の後半には結核の治療薬であるリファンピシンが「らい菌」にも強い殺菌作用があることが明らかになりました。

 1981年(昭和56)にWHOが「プロミン、リファンピシン、ダプソン、クロファジミン」などの多剤併用療法を提唱してからは、多剤併用療法が主流となり。多剤併用療法は卓越した治療効果を持ち、再発率も低く、経過中の急性症状(らい反応と呼ばれている、患者に多大な苦痛と後遺症をもたらすもの)の少なさ、治療期間の短縮などの点で画期的な療法です。また、数日間の服用で、らい菌は感染力を失います。

 今では、ハンセン病は早期発見と早期治療により、障害を残すことなく短期間で完治する病気です。また、不幸にして発見が遅れ、障害を残した場合でも、医学の進歩で形成手術を含む、リハビリテーションにより、その障害は最小限に食い止めることが出来るようになりました。
 

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