序章
第一章
 水底の姫君
第二章
 血ぬられた城
第三章
 砂漠の街
第四章
 鏡からの
  メッセージ 
第五章
 赤い獣
第六章
 つつが鏡
第七章
 翼
第八章
 懐かしい海
第九章
 鏡の中の獣
集英社コバルト文庫
著者…桑原水菜先生
絵 …東城和実先生
1992年5月10日第1刷発行
定価420円
224p
表紙…高耶さん
帯コピー…『鏡の中の獣が、高耶を襲う!!』

納多直刃…当時6歳
      小学一年生
─はしゃのまきょう─
+++++ 感想 +++++
第六巻……それは私がようやく小学校に入学した頃発刊されました。(うわぁ)
いよいよ《北条編》と相成りました。この前日光に観光行ったばかりなので予習はバッチリです!

覇者の魔鏡の始まりと言えば高耶さんの水着!水着っ!!!(鼻血)
どーしてアニメでは水着着てくれなかったんですか、高耶さんっ!某N氏からクレームがついたのか!?……いえ、綾子ねーさんのシャネルのハイレグ水着も十分素敵でしたけどっ。
ちなみに以前「カルチャー・ショック?」にも書きましたが、長野県の夏休みはとても短く8月の20日前ぐらいには終わってしまうので、この巻で8月31日に皆でプールに行くのは、東京都民の由比子と神奈川県民綾子ねーさん以外、明らかなサボリです(笑)。

……とアホなことは置いといて、その問題のプールシーンの直後、千秋が高耶さんに詰め寄り、「偽善者はおまえだろ、景虎。自分だけ狂ってないような顔して。四百年生きてきて、てめぇだけまっとうな人間≠ンてぇなツラしやがって。俺たちはな、もう鬼だよ。そうだろう。四百年も生きてくるなんて正気の沙汰じゃねぇからな。狂ってんのがあたりまえなんだよ。なのに、てめぇはなんだ?苦しい?つらい?そうやって逃げて、てめぇだけ楽な場所に立って、全部その尻拭いはだれがやってる?考えたことあんのか?『知らない』?ふざけんな。知ろうともしなかったくせに。知らないフリして都合の悪いことから逃げて、無視して……。やつのことなんて、本当に真剣に考えたことがあんのか、おまえ……!」……この台詞で景虎様のすべてを語ってくれているんですね。流石は千秋。あまりにも的確すぎるぐらいに景虎様のことをよく言いえている。
それと同時に、景虎様像を捉えきれてない人にはまったくわからない言葉の羅列。この後の第二部等の景虎様の深層心理を語る場面を読んでいるからこそ、心底理解できる千秋の言葉なんですね。
それに対する高耶さんの「あいつのこと毎日、いつも、考えてる!こんなに……!」はいったいどうしましょうって感じですよねっ!一見すればどこから聞いても熱い愛の告白ですよ!
毎日毎日その人のことばかり考えていたら、もはやそれはもう愛以外の何者でもないような気もする……。

その直後、高耶さんの独白シーンで、「この先も、あくせく働いて、せいぜい利用されるだけされ、はした金のために身を削って生きるのだろう。世の中の使い捨てにしかならないのだろう。そう思って、自分の将来にも大きな期待はしていなかった。なのに。そんな消耗品を命がけで守った男がいた。」……ここの言葉はもう、胸にズンときませんか?確かに、高耶さんのような孤独な人じゃなくても、こんな風にして自分のために命がけで守ってくれる人間なんかが現れたら、本当にどうしようもなくなってしまうでしょう。
世の中に、なんのために存在しているかわからない自分を、全身全霊かけて肯定してくれる。直江が、自分に生きていてほしいと思ってくれるから、だから生きていける。それだけでも生きている価値がある。必要とされている。
私はこの台詞を読み返すたび、こんなにも激しく自分の存在を求めてくれる人がいる高耶さんが、少し、羨ましくなるのです。

66p、おもむろに橘家に電話する高耶さん。いまだったらまず携帯なんだろうけど。(苦笑)
ここでのポイントは高耶さんが、「義明さん」って呼んでるとこですね!義明さん!最初で最後ですよ!高耶さんて直江のこと一度も名前で呼んだことがないんですよね。どうしてでしょうね。晴家も長秀も勝長も、みんな名前で呼んでるのに。
よっぽど「直江」って呼び方が好きなのかな?うん、絶対そうだな。高耶さんてそういうところもの凄い発想が乙女だから(笑)。
直江が女と外泊していると聞いて、「つきあってるやつはいない、なんて言ったくせに……」と激怒する高耶さんも凄まじくかわいらしい。ってか、どうしてそこであなたが怒るんですか!?怒ってる時点でもはや自分が嫉妬に狂っていると認めているようなものでは……!?え、ちょっと違う?
いやいや……でもあの浅岡麻衣子に向ける高耶さんの嫉妬心は尋常ならざるものが……というのは後編で語りましょうか☆

この後歌舞伎町でやさぐれて、パーメンにぎりしめ小さなうさぎのようにふるえる高耶さん……。
可愛らしすぎて涙が出てきますな。うさぎは淋しいと死んじゃうってホントですか?でもこの高耶さんを見てるとなんとなく分かるような気も……。いえ、高耶さんが本当に淋しくて淋しくて死にそうになるのは、やはり第二部からなのですけど……!「直江がいない……っ」ってね(泣)。

嗚呼……にしてもこの覇者の魔鏡のなにがイラつくかって……浅岡麻衣子でしょう。もう、もうもうもうもう、直江に高耶さんの許可なくせまってんじゃねぇええええええ!!!!!!(激怒)
橘のお母さんにまず直江の恋人と勘違いされている時点で憎しみが燃え滾りるってーのに!違うのよお母さん!あなたの息子が本当に愛する人は、翌日電話をかけてきた仰木という少年なのよ!そんな女とは比べ物にならぬほどの魂の輝きの持ち主なのよ!壮絶なまでに美しい人なのよおお!!!
しかも何より許せないのは直江が、直江がモーションかけてくる麻衣子にまんざらでもない様子なのが激しく許せないんですよ!お客さんッ!!
「景虎様への思いがなかったら」って……んじゃあ景虎様のことがなきゃ全然オッケーだったってことかい!そーかいそーかい!見損なったぜ直江!(泣)
直江には他の女になんてまったく目もくれないでほしいんだよおおお〜(大泣)。
……いえ、景虎様への想いが存在しない直江なんて、在りえるわけがないのですから、いいのですけど……。高耶さんを愛していない直江なんて、直江じゃないですし。そんな直江なら私がこれほどまでに好きになることもなかったでしょうし、ね……。(でもムカつくことには変わりない)
直江に言い寄る女というと他にミホトと藤がいますが、他はすべて大っっ嫌いなのに、何故だか藤ちゃんだけはとっても好きなんですよね〜。やはり九郎左衛門の唯一の味方だからかな。

ところで麻衣子の叔母さんは10年ほど前に義明少年に悪霊払いしてもらった時からのファンだと言いますが、……10年前って、直江18歳??コーコーセイ?制服ツメエリ?走り高跳び陸上選手???
……そうかぁ、18の修行僧直江が家まで来て悪霊の調伏してくれたのかぁ…………そりゃぁオチるわ……無理もねぇ……(大妄想中)。

覇者の魔鏡《前編》と言えば、第七章「翼」のシーンですよね。私も大好きな場面です。
ここで高耶さんが、自分のことを直江が景虎の身代わりにしているんだと、そう呟く度に「ちっがーうッ!」と叫びたくてたまりません。
こんな、こんなに弱くて愛しい存在のどこが景虎様じゃないって言うんですか。同じでしょう。そのものでしょう。景虎様と高耶さんのどこが違うっていうの。全然違わないじゃないか。
直江が愛しているのはあなたの持つその、傷つきやすくて美しい魂そのものなんだから。身代わりとかそんなの全く関係無い。あなたそのものに惹かれているのだから!
……けれどいつの間にか、高耶さんは自分を「景虎の身代わり」と言い続けるのをやめてしまいましたよね。あれほどこだわっていたのに。どうしてでしょう。全部思い出してしまったからなんでしょうか。……そういうよりは、12巻で直江が死んで、自分が景虎であるとか仰木高耶であるとか、そんな些細なことにこだわっている余裕なんて何もなくなってしまったからのような気もします……。

翼で包み込むように守り続ける直江。そんな直江を、高耶さんがどんなにいとおしく思っているかが切々と伝わってきます。そうして直江を失いたくないと涙を流す高耶さん。
どうにかして離したくないと願う高耶さん。そんな彼に、「考えるがいい……。そうやって、ずっと思いつづけなさい。いつか必ず答えは出る」
「おまえには……その者がいる。その者にはおまえがいる。失えないと知ったなら、考えつづけなさい。目を背けずにひたすら考えつづけなさい」
「その者が何を求めていても、それはおまえの存在以上のものではない。おまえがいる、ということが……きっとその者の生のすべてなのだ。信じてやることだ」
……と語りかける言葉が、本当に大好きです。どうして、どうしてこんな言葉が言えるのでしょう。氏照兄は直江を知らないはずなのに。なのにどうしてこんなにも直江の心を代弁するかのような言葉が出てくるのでしょう。そうなんだよ。直江がどんなに苦しんでも、己の醜い感情にのたうちまわるほどに苦しんでも、最後の最後に残るのは、「そばにいてほしい」と、ただそれだけのことなんだ。あなたがそこにいるだけで本当はそれだけでいいんだ。それがすべてだから。
だからその一番大切な人を失わないために、考え続けていれば、きっと答えはみちびきだされるはずなんだと。
氏照兄は、高耶さんが直江のことで苦しんでいる時に、かならずこんな風にやさしい言葉をくれている。思えば蘭奢待に侵された意識の中での氏照兄も、二人の四百年の理由を肯定して、高耶さんを励ましつづけてくれていた。
氏照兄にはもっともっと、高耶さんのそばにいてほしかった。そして支えていてほしかった。
けれどたとえ調伏されて浄化しようとも、高耶さんの心の中には、いつでもやさしい氏照兄がそこにいるんでしょうね。

さあ……次はいよいよ中編です。今回は高耶さんのことを語っていきましたが、次回はもちろん直江中心となります!ってか語らずにはいられないでしょう!!あの巻は!!(泣)
仰木高耶(上杉景虎)
直江信綱(橘義明)
門脇綾子(柿崎晴家)
千秋修平(安田長秀)
高坂弾正
北条氏照
風魔小太郎
片倉小十郎景綱
成田譲
浅岡麻衣子
浅岡慎也
森野紗織
武田由比子
主要登場人物  ♦…初登場
  あらすじ

魚津での直江との一件以来、高耶の心は明らかに荒んでいた。
練馬城跡に位置する遊園地で、豊島一族の調伏を行いに東京へ赴いた高耶は、荒む心のまま新宿の街をうろつき、一人の男に出会う。
男の名は北条氏照……上杉景虎にとっての四百年前の実兄であった。
包むような優しさを見せる氏照に、高耶は己の胸の中に鬱屈と蓄積した言葉を吐き出すように訴える。直江が何を求めるのか……どうすればあの優しさを失わずにすむか……。涙を流しながら、切実に思う。
一方の直江は日光にいた。浅岡麻衣子の依頼をきっかけに、日光の地で霊獣・つつがに喰らわれた人々の魂を救うために、東照宮から盗まれたつつが鏡の在り処を高坂、片倉らと共に探る。
調査を進めるうちに、今回の一連の事件が北条の手によるものだと発覚する。そして氏照の手によりつつが鏡に魂を封じ込まれてしまった高耶は、直江の元に鏡を通して思念を伝えてきたのであった……。
♦名台詞集♦
第6巻チェックポイント♪

・時期は8月28日から
・直江の煙草はパーラメント
・橘家は真言宗光厳寺
・ダークグリーンのウィンダム初登場
・直江がつつがに襲われたのは「ぬ」のカーブ
・6巻の経過はおよそ5日間

・泣いた回数
高耶さん…2回 計4
直江  …0回 計1回
・相手を抱きしめた回数
高耶さん…0回 計0回 
直江  …0回 計2回
・自分からキスした回数
高耶さん…0回 計0回
直江  …2回 計2回
・愛してると相手に言った回数
高耶さん…0回 計0回
直江  …0回 計0回

「答えを出さなきゃならねーのは、景虎のほうだ。今度こそ、やつは逃げちゃいけねーんだよ。逃げないで答えを出さなきゃならないんだ」「たとえ、それで何もかも終わっちまってもな」(千秋)p72
↑何もかもが終わってしまうことを恐れ続けていた景虎様は、決して答えを出そうとはしなかった……。その代償が四百年を経たいま、払われようとしているんですね。

「おまえたち、あれから何があった」「景虎から逃れるのか」「終わりにするつもりなのか」(高坂)p142
↑たきつけたのは自分のくせに、直江を何度も心配する高坂。高坂はきっと、直江に苦しみから逃げてほしくないんだろうな……。

「オレを全部からかばうんだよ」「翼、だ。大きな鳥の翼。それで、包み込むみたいに守る」(高耶さん)p162
↑孤独な盾で在り続けた高耶さんが、直江という翼に守られる……。高耶さんにとって、直江が唯一なんですね……。

「オレはもうこんなに弱くなってる!あいつがオレを守るから、もうこんなに弱くなった!見捨てられんのが怖くて、いなくなるのが怖くて……!」(高耶さん)p163
↑そんなに見捨てられるのが怖いのなら、受け入れてあげてよ!今度は直江を癒してあげてよ!

「考えるがいい……。そうやって、ずっと思いつづけなさい。いつか必ず答えは出る」「おまえには……その者がいる。その者にはおまえがいる。失えないと知ったなら、考えつづけなさい。目を背けずにひたすら考えつづけなさい」(氏照)p166
↑6巻最大の名台詞ですね。この台詞だけでもう、氏照兄が大好きになりました。

「その者が何を求めていても、それはおまえの存在以上のものではない。おまえがいる、ということが……きっとその者の生のすべてなのだ。信じてやることだ」(氏照)p166
↑そうなんだよ!高耶さんはもっと直江を信じていいんだよ!直江の愛を、信じても。

「なにウダウダこだわってんのよ。景虎が好きなんでしょ!誰よりも好きなんでしょ!かなえられないなんて嘘よ!あんたは!もう二度と離しちゃ駄目よ!一分一秒だって、たくさんそばにいなさいよ!」(綾子)p207
↑読者の心をこれほどまでに代弁してくれた台詞。そうだよ!ただそばにいられるだけでも、本当は十分しあわせなことなんだよ……!

第六巻 覇者の魔鏡《前編》