序章
第一章
 夢の記憶
第二章
まほろばの少女
第三章
 月光菩薩
第四章
 平蜘蛛
第五章
 護法の峰
第六章
 火の蛍
第七章
 怨恨の龍
第八章
 鬼のおくり火
終章
集英社コバルト文庫
著者…桑原水菜先生
絵 …東城和実先生
1991年12月10日第1刷発行
定価420円
252p カラー有り
表紙…高耶さん
帯コピー…『殺気!怨将の念から少女を護れ。』

納多直刃…当時6歳
     幼稚園年長組
─まほろばのりゅうじん─
+++++ 感想 +++++
さーて、今回は《奈良編》5巻です!ミラージュ最後の良心と呼ばれる巻です!(笑)
しかしこの巻から既に直江の独白が本格的に始まり、直江名台詞のオンパレードに!
奈良編冒頭は高耶さんと千秋のコンビネーションで始まります。いやぁ、この頃がなつかしいねぇ。千秋にいいように遊ばれて口ゲンカしあう二人!すぐムキになる高耶さん!ホントに懐かしすぎて涙でるよ……(泣)。
今の成長して大人になった高耶さんじゃあ、こういう会話にはならないんだろうな。でも、もっと余裕のある時にだったら……そして相手が千秋や綾子ねーさんだったら、高耶さんもきっとかつてのように若者らしい会話を交わしてくれるんでしょうね。
あ、直江はもう一生無理。え?どうしてって?決まってるじゃない。こういう会話じゃなくて愛し合う者同士の会話になるから(笑)。

そして第二章「月光菩薩」は、私が初期健全ミラージュの中でも指折りに好きなシーンですね。
この場面では再び美奈子のことが語られています。小説というのは、嘘がたくさん書かれていると思う。変な意味じゃなくって。特に独白シーンでは、他の相手の意見が取り入れられないのだから、その人の意見が全てになる。でも、その人が本当に正しいことを言っているのかはわからない。相手を「この人はこうだ」と批評する意見だけでなく、自分で思っていることさえも、後から考えれば偽りであることもある。本当は心の底では違う意見だけど、あえてそう思い込もうとしていたり、本当のことを思い出せずにいたり……。
ここの場面の直江の独白シーンも少しそうかもしれない。特に景虎様の気持ちに対する直江の意見は、根本的にすれ違いがある。いや、すべてが違うとは言わない。確かに景虎様は被害者だった。直江の三十年前の行動に、信頼を裏切られたと傷ついたかもしれない。
けれどその後に、高耶さん本人が、自分は完全なる被害者などではなく、むしろ己こそが一番の加害者だった。そう語っている。だけど直江はその事実を知らない。だからひたすら景虎様への罪の意識に悩まされ、許しをこおうとしている。
そう、三十年間という長い年月を罪の意識に苛まれ続けていた直江は、苦しみと後悔のあまり真実を忘れていた。直江は、本当は景虎様の水面下に隠された真の意図に気付いていたのです。
三十年前、二人の仲は険悪で、これまで築き上げてきた主従関係の破滅も余儀なくされていた。関係の破滅はすなわち直江との離別。景虎様がこの四百年間で何よりも望んだことは、いかにして直江を己から離れさせないか。いかにして永遠に直江を己に縛り付けておくか、だった。そのための最大限の努力をして、それゆえに、直江の心を知りながら、そしてその想いに応えられるだけの愛を自らも抱きながら、決してその想いを受け入れることは無く、直江の劣等感や憎しみを煽り立て、そしてついには、直江に己に対する一生逃れがたい大きな罪を負わせることによって、直江を永遠に呪縛したのです。
もちろんそれは無意識の行動で。でも無意識だからこそ、景虎様の本当に切実な思いがそこにあったのだと思う。決して直江を放してはならないと。なぜなら、彼にとって直江を失うこと以上に怖いものなど他に何もなかったから。直江がもし自分の愛を手に入れれば、必ず情熱が冷めて興味を失う時が訪れてしまうと、そう思いこんで、それゆえに絶対に直江の想いを受け入れてはならないと誓っていたんですね。。
直江はちゃんと、その景虎様の思いと意図を知っていたんです。覇者の魔鏡でもそう語っている。初めて読んだ時は直江の言っている意味が全然分からなかったけど、景虎様の気持ちを知った今なら心底理解できる。
だから、景虎様の心が一生、自分の手に入らないということを……直江は知っていたんですね。
景虎様が自分を愛していることは知っていたけれど、景虎様が失うことを恐れる限り、その想いが通じ合うことは……おそらく一生無いと。
だからこそ、その愛をいともたやすく手に入れることができる美奈子が憎かった。
でも、私は思うんですが、たとえ景虎様が美奈子に向ける愛を直江が得たとしても、直江はきっと満足できなかったと思うんです。
それは、景虎様が美奈子に向ける愛と直江に向ける愛とでは、まったく次元の違うものだったから。直江が本当に欲しいのは、景虎様が四百年直江信綱という男に囚われ続けてきた、その愛なのだから。それはあたかも、景虎様が直江に、優しい包み込むような思いよりも、醜いまでの独占欲に塗れた激しい愛を求めているように。
直江は5巻の時点では、景虎様の狡さをまだ思い出せていないようです。いま目の前にいる高耶さんにはそれが無いから。けれどこの狡さは直江を独占したいと願う強い情念から派生したものなのだから、この時点での高耶さんにそれが見えないのは当然というもの。そして高耶さんにそれが芽生えるのも時間の問題なのですね。
……ただ、一つだけ言いたいことは、直江が「美奈子は自分と同じだけの深い思いを、同じ人間に抱いていた」と言っていますが、信長さえもひるませるような、世界を滅ぼすほどの愛を一人の人間に抱き続けていられるような人間は、世界中探してもあなたしかいないんだよ、直江。

……はあ、どうも三十年前ネタは弁が熱くなりますなぁ。しょうがないですね。この辺りで直江が語ることはいずれも三十年前の罪の意識と回想が主なので。どうしても直江ファンとして語らずをえなくなるのです。
うーんでもこれはあくまであくまで私の私見なので、意見の合わない方もいるかと思われますがご勘弁くださいね。これ以後もこの調子で直江弁護型トークになると思います(笑)。
でも私は高耶さんのことも大好きなので、高耶さん語りももっともっとしていきたいです。でもそれはきっとわだつみの楊貴妃以降になるんだろうなぁ。(うぅ、思い出しただけでも涙が……)

二月堂の夕日を眺めるシーンは、本当に大好きです。下の名台詞集にもあげましたが、ひとつひとつの言葉がとてもキレイで。直江の言葉はまるで朝日に光る朝露みたい。キラキラと白い紙面の上の文字が輝いているようです。なんの変哲もない印刷字なのに。
直江の景虎様への愛は、ほんとうはこんな風にとても純粋な想いなのかもしれませんね。

そういえばp98で直江が、たとえ敵だとしても今の日本を認めたいのなら彼の残した業績の偉大さを評価しなければならない、と信長のことを語っていますが……。
あはは……言われちゃった、直江に(汗)。いや、そんなことはわかってますよ。わかってますけどね。でも嫌いなんだもん、しょうがない。どーしても無理なんです!嫌いすぎて名前聞いただけで憎しみが沸き起こっちゃうんだもの!!……それに39巻現在時点では流石に直江もそんな台詞は言えないだろうな。もちろん高耶さんもね。
だって一生無理だと思うな……、私が信長を素直に評価する日がくるだなんて。ミラージュの信長と現実の信長とは違うと言われればそれまでですが、もう細胞核のレベルで憎しみの感情が刻みこまれてしまってるので、その名を聞いただけで無意識のうちに拒否反応を起してしまう。赤だし味噌汁見ただけで寒気がしてしまう。尾張弁聞いただけで鳥肌立ってしまう。(ちなみにウチの父親は尾張出身)……もうダメ!ああ嫌い!無理なもんは無理!いーもんどーせ私子供だもん!(←しかしこの台詞はもうあと1年と2ヶ月しか使えないぞ……)

ああそれにしても、5巻を読んでるとこのあたりから直江の心に高耶さんへの思いが鬩ぎ溢れてきているのをひしひしと感じます。特にそれはp157あたりからとても。
「いまわしい過去など、思い出さずにいられればそれに越したことはない。自分と生きてきた四百年間の記憶が、たとえ永遠に戻らなかったとしても。それを悲しいと思っても、やりきれない思いに耐えても。直江にとって大事なことは、いま景虎が自分のそばにいることだった。この四百年間と引き換えにしてもいいほど、今を大事だと思う。崩したくないと思う。」……と言っていますが、それは私が嫌です!(←っておい)だって、何も覚えてないっていうことですよ?二人で生き続けてきたあの日々も、あの苦しみも、哀しみも、嬉しかった日も、憎しみあった日々も、初めて相手を愛していることに気付いた日も、直江が四百年間向け続けてきた想いも、すべて。
そんなの耐えられない。その記憶は確かに二人が互いの思いを育んでいった道程なのだから。その日々が無くしては成り立たなかった思いなのだから。二人が一緒に生きてきたからこそ、いまの想像を絶するような強い愛がある。それをすべて無に帰して、もう一度やり直すだなんてやっぱり間違っていると思うんだ。上の言葉の直後に、「過去を乗り越える力が欲しい。来たるべきその時が、どのよな形でやってくるにしても──。それが自分たちの終わり≠ノならないように。そのむこうにあるはずの未来を……。もし信じていいのならば。」とあります。そう、過去を乗り越えずして掴める幸せなんて無い。そんなの偽物だ。あなたは四百年間ずっと闘ってきた、そして苦しんできた。逃げ出しちゃいけない。最後までその想いをつらぬいて。そうすれば必ず道は開かれるから。大丈夫、きっと、幸福になれる。こんなに苦しんできたんだもの。未来を信じて……そして勝ち取ってほしい。
それは景虎様にも言えること。いつまでも直江に甘えていてはいけないんだ。直江を本当に愛しているなら、その愛する相手の、本当の幸福を願うべき。そして直江を信じてあげてほしい。直江の思いは、そんな簡単に冷めるようなもんじゃない。永遠を可能にするほどの奇跡のような想いだから。そんな男だからこそ、あなたは、この男のことを死ぬほど愛し続けたのでしょう?欲してたまらなかったのでしょう?だから、今度はあなたが直江にやすらぎを与えてほしいんだ……。

ああ……語れば語るほどシリアシィになってしまう!何故!?それはミラージュだから。諦めよう。
次はいよいよ5.5巻ですよぉ……!もう、楽しみで楽しみで楽しみで、私は早く読みたいんですよ!!
仰木高耶(上杉景虎)
直江信綱(橘義明)
千秋修平(安田長秀)
佐々成政
塩原なぎ
赤鵺
木崎美枝子
山本
青木
主要登場人物  ♦…初登場
  あらすじ

まほろばの大和の地で、「ホイホイ火」と呼ばれる火の玉に人間が焼き殺されるという奇怪な事件が起きていた。調査のために奈良に向かった高耶と千秋は、被害者の塩原の告別式に赴き、そこで付喪神に取り付かれた少女、なぎに出会う。付喪神の正体は大和の戦国武将松永久秀が生前愛用していたという茶釜・平蜘蛛が妖怪化したものであり、ホイホイ火の怪異もこの付喪神によるものだった。
一方一足遅れて奈良入りした直江は、東大寺三月堂訪ね、そこに佇む月光菩薩に美奈子の面影を重ねて三十年前の罪に思いを馳せていた。景虎への罪の意識と愛しさとの間に苦悩する直江──。
三人は合流し、なぎに取り付く付喪神の除去のため、「志貴山の龍神」と呼ばれる者を調べ始める。それと同じくして織田の武将佐々成政がなぎの命を狙いだし、夜叉衆は再び織田との戦闘を再び開始することに。
《調伏》の力により平蜘蛛は破壊され、松永久秀の野望は上杉の手により阻まれることとなった。
第五巻 まほろばの龍神
♦名台詞集♦
第4巻チェックポイント♪

・時期はおそらくお盆あたり
・千秋の寝起きは悪い
・橘義明は7歳の時、直江としての意識が回復する
・闇戦国勃発は直江が21歳の時
・直江の今回のレンタカーはプレセア
・高耶さんは『信長の野望』をおそらく上杉でプレイしている
・千秋の持つ小刀は昔の小さな神社の御神刀
・剣の護法童子初登場
・5巻の経過はおよそ4日間

・泣いた回数
高耶さん…0回 計1回
直江  …0回 計0回
・相手を抱きしめた回数
高耶さん…0回 計0回 
直江  …0回 計1回
・自分からキスした回数
高耶さん…0回 計0回
直江  …0回 計0回
・愛してると相手に言った回数
高耶さん…0回 計0回
直江  …0回 計0回

「おまえがここにいるのは、かならず何かの意味があるからだ」(橘父)p71
↑自殺未遂を繰り返す幼き頃の直江に、父が語った言葉。直江はそんなの嘘だと思ったけれど、お父さんの言葉は確かに、間違いではなかった。ありがとう、直江をひきとめてくれて。力づけてくれて。

「ここに。あなたがいてほしいと。はるかな残照にむかって祈りたくなる。涙を流すことも忘れて、ただ祈りたい。この空は……。あなたをいとおしいと思う気持ちに、よく似ている。」(直江)p86
↑5巻最大の名台詞ですね!とても美しく、大好きなシーンです。直江が景虎様へ向ける気持ちって、とてもキレイな想いなんですね。まるで夏の日の赤い落日に染まる空のように……。

「あなたは、やさしい人ですね」(直江)p147
↑この直江の言葉、ずっと後で高耶さんの回想シーンにも出てきますよね。それはその時語りましょう。

「たとえもし、すべての人があなたを見捨てたとしても、私はあなたのそばにいます。いつまでも……」(直江)p154
↑直江はこの言葉を、高耶さんの身体が鬼八の毒に犯された時も、その後にもずっと言い続けていました。いつまでも、直江の居場所は高耶さんのそばなんですね。

「……ゆるして……ください……」「……私を……こばまないで──……」(直江)p159
↑もう一つの大名台詞。直江はこの時高耶さんにキスをしたのでしょうか…?でも、直江には男らしくちゃんと目覚めている時にファーストキスを奪ってほしい!のでしてない派!

「刹那の幸福でもいい。朝がくると知っていても。せめて夜明けまで。この胸の中にいてほしい。あなた、という、たったひとつの……。私の、命──……。」(直江)p160
↑私の命ですよっ!後々高耶さんも直江のことを、「オレの命」と語っていました。二人は互いが互いを己の命と見なしているんですね。

「でも、私だったら、はじめから自殺なんかさせません」「ばか。例えだ、例え。わかってんだよ、おめーだったら、そーなる前に全員《調伏》しちゃうんだろーよなぁあ?」(直江、千秋)p192
↑高耶さんの「自分にはこの人しかしないって思う相手が自殺したら、そう差し向けた奴らを憎と思うだろう?」に対する直江の反応。でも実際、20巻で高耶さんは自殺に追い込まれてしまうんです。その時の直江の絶望は、いかほどだったろう…。その後の台詞、「おまえってけっこう、熱くなるタイプなの?」…これからこの男の熱さをこれでもかというほど知ることになるんですよ。高耶さん。

「俺が首つっこむ話じゃねぇ……か」「でも……」「おまえら二人、放っておけねぇよな……」(千秋)p239
↑あんた……どこまでイイヒトなの!千秋っ!(泣)いつまでも二人を助けてあげてください……。