「"ガマン"か...」 その日の夜。 たっぷりお湯の張られたバスタブに身を沈めた要はそうつぶやいた。 「考えないようにしてたんだけどなぁ...」 本人は意識していないだろうが、雪野は要の"触れられたくない部分"に容赦なく入り込んでくる。"あの夏の日"もそうだった。 "天が幸せだったらそれでいい" 要は本当にそう思っているのだが、その一方で"それだけではいやだ"と思っている自分がいるのも事実だった。 しかし、"もうひとりの自分"にしたがったら...この10年近く築いてきた天との関係に終止符を打つことになる可能性大だった。 それは要がいちばん避けたいことだった。 天が自分にあの笑顔を向けてくれなくなるなんて絶対いやだった。 そう、これは"ガマン"ではなく"妥協"なのだ。 無理矢理"こう"しているのではなく、自分で納得した上でのことなのだ。 要は自分にそう言い聞かせると、頭ごとお湯の中に潜った。 「ぷはっ!!」 すぐにお湯から顔を出した要はユニットバスの端っこに頭を乗せると、しばし白い天井を眺めていた。 「大丈夫...」 "大丈夫、おれがしっかりしていれば" 要は心の中でそうくり返すとお湯の中から脱け出した。 「天、風呂あいたぞ〜。」 スウェットの下だけはき頭からバスタオルをかぶった状態でリビングに入った要が見たものは... 「zzz」 ソファに丸くなってねむる天の姿であった。 要は"やれやれ"とため息をつくと、ソファの横にかがみこんだ。 「天、こんなところでねてると風邪ひくぞ。」 要はそう言いながら天の背中を軽く揺すった。 「う...ん...」 しかし、要の行動は天を起こすまでは行かず、天は寝返りを打つとあどけない寝顔を要に向けた。 (...やばっ!!) 不覚にもその寝顔に"ドキッ"としてしまった要は思わず手で口を押さえた。 しばし、その状態で固まる要...。 その間も天は幸せそうな顔で夢の中...。 漸くドキドキの治まった要はふぅっと息を吐いた。 「天!! 起きろ!!」 「わっ!!」 突然、要に怒鳴られた天はあわてて飛び起きた。 「な、なんだよ!?」 「"なんだよ"じゃないだろ!? とっとと風呂入って寝ろ!!」 要の一喝に天はしぶしぶ立ち上がるとリビングを後にした。 「...まったく...」 天がいなくなると要はソファに座り込み深々とため息をついた。 「せっかくがんばろうと思ったのに...」 "自分がしっかりしてれば大丈夫"と自分に言い聞かせた途端にあんな顔を見せられるとは...。 「...そろそろマジでやばいかも...」 要はまたため息をつきながらソファにどさっと寄りかかり、そのまま目を閉じた...。 「要!! 要!!」 どうやらあのままねむってしまったらしい...。 気がつけば、要の目の前にはパジャマ姿の天がいた。 「そんなかっこで寝てたら、マジ風邪引くぞ!!」 (そう言われれば、上半身は裸のままだったし髪も濡れたままだった。おまけに、寒気もするような...) 「あ、わり...」 そう言いながら要は大きなくしゃみをした。 ピピピピ...。 翌朝、天は腕を伸ばして枕元の目覚まし時計を押さえるとそのままの体勢でまたねむりにつこうとした。 (...あれ?) いつもはこうしていると要が部屋に現れて「天、また目覚まし止めて寝てただろう!!」と起こしに来るのだが...。 今日はいつまでたっても要がドアを開ける気配なし。 (あれ〜?) 変に思った天は自ら起き上がるとパジャマのまま部屋を出た。 「要?」 リビングからも台所からも返事はなかった。 普段ならダイニングテーブルの上にごはんや目玉焼きが並んでいるのに今日は姿も形もなし。 「あれ〜?」 天は首を傾げると要の部屋に向かった。 「要〜いいかげん起きないと遅刻するぞ〜!!」 いつもは自分が言われているセリフを口にしながら天が要の部屋のドアを開けると...。 「要!?」 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ またもや"いやなところ"で終わってます^^;(でも、今回は確信犯 ̄m ̄ ふふ) ちなみに、前回予告した"要のサービスショット"とは"入浴シーン&セミヌード(!?)"だったのですが、いかがだったでしょうか、お嬢様方?(笑) [綾部海 2004.3.15] |