Triangle:Chapter2


「で」
雪野と天はイトーヨーカドーのそばの大通りをふたりで歩いていた。
「なんでオレがお前とファミレス行かなきゃなんないんだ?」
「...あのね〜...」
雪野は脱力しながら天をにらんだ。
「わたしがなんのためにこんなところまで来たと思ってるの!?」
イトーヨーカドーは学校と雪野の家とのちょうど中間ぐらいに位置している。
電車通学の雪野はふだんは通過しているイトーヨーカドーに近いT駅でわざわざ途中下車してきたのだ。
それもこれも明日英語の中間テストの再試験がある天の勉強につきあうためだ。
「あ、そうか忘れてた。」
けろっと言う天に雪野またもや脱力...。
「まさか再試があること自体忘れてたとか言わないよね...?」
「それも忘れてた。」
雪野、さらに脱力。

ふたりはファミレスに着くと隅の席に陣取り、勉強を始めた。

「ち、がーう!! "I told you in the letter as I'm going to visit Australia next month."じゃあ、その文の意味、『私が来月オーストラリアに訪れる予定であるようにあなたに手紙で伝えました。』になっちゃうでしょ!!」
「え、だって、"例"だってひとつめの文に"as"つけてあんじゃん。それに、別に意味だっておかしくないぞ。」
「...あのね...正しくは"I'm going to visit Australia next month as I told you in the letter."で『あなたに手紙で伝えたように私は来月オーストラリアを訪れる予定です。』」
「? あんま変わらないんじゃねぇか?」
「........」
(ちなみに、問題は"例にならってふたつの文を1文にまとめ、日本語に直しなさい")

「調子どう?」
"勉強会"が始まって1時間ほどたった頃、要が顔を出した。
「あ、バイトお疲れさま。」
にこっと笑う雪野の向かいで天は憔悴しきって言葉もなかった。
「とりあえず、教科書の練習問題は範囲のところ終わったんだけどね...」
教えながら日本語の勉強の更なる必要性を感じたことを雪野は黙っていた(汗)
「も〜"不定詞"とか"完了形"とか小難しいこと知らなくても話せて聞ければいいんだよ!!」
実際、天はOC(会話)の成績はトップクラスなのだった(←昔取った杵柄?)。
しかし、文法やリーディング中心の英語Tは1学期から赤点続きだった。
「そんなこと言っても再試はなくなんないぞ。」
天の隣に座りながらそう言う要に天はぐうの音も出なかった(完敗)。
「ごはん食べた?」
「まだ。要くんが来てからにしようと思って。」
「...オレ、腹減って死にそ...」
要は通りかかったウェイトレスにドリンクバーを注文し、メニューを持ってきてもらった。
「あ、美紗ちゃんが天によろしくって言ってたよ。」
「げ!!」
"美紗ちゃん"とは要の実家の近所の小学6年生で、私立中学受験のため夏休みから要に家庭教師をしてもらっているのだ。
結構利発でかわいい女の子なのだが、天にとっては"小生意気なガキ"らしい(同類?)。
「"昨日、お母さんとクッキー焼いたからぜひ天ちゃんといっしょに食べてくださいね"だって。」
「...!! あのガキ、またそんな呼び方...」
「まぁまぁ、天くん、ハンバーグ来たよ。」
要のなにげない攻撃にまた一爆発しそうだった天を雪野がすかさずフォロー。
「うまそ〜♪」
天はついさっきまでの怒りなどもう飛んで行ってしまったかのようにハンバーグに専念した。
「ほほえましいねぇ。」
ぼそっとつぶやく要に雪野も思わず笑ってしまったが、天の耳には入っていないようだった。

「それにしても...」
「ん?」
「要くんってほんとに天くんのことあまやかしてるよね。」
そう言いながら、雪野はドリンクバーにいる天にちらっと目をやった。
オレンジジュースの補充が終わるのを今か今かと待っている天はまだ席に戻って来そうになかった。
「...それはよく言われる...」
実を言えば、今日の"勉強会"は要が企画したものだった。さらに、要相手では天がまじめに勉強しないだろうということを見越して英語が得意な雪野に頼んだのも要。
そして、"ひじょ〜に親しい人以外自分の家(マンション)に他人が来るのを嫌がる"天を考慮して勉強会の会場をファミレスにしたのも要だった。
(どうやら雪野はまだ"ひじょ〜に親しい人"には入ってないらしく、まだ一度も要&天のマンションの中に入ったことはなかった)
「...前に、"天くんが幸せだったらそれでいい"って言ってたよね?」
「うん。」
「でも...好きだったら...その、えっと..."いろいろ"、したくならない?」
"直接的な表現"を避けるために言葉の選択に迷った雪野はしどろもどろにそう言った。
「...なる、かもね。」
真っ赤な顔の雪野に微笑みながら要は言った。
「でね、そういうの、ほんとにガマンできるのかなぁ...と思ったりしてたの。」
「う〜ん...」
雪野の言葉に要は考え込んでしまった。
ちょうどその時、オレンジジュースを手にした天が戻ってきたのでその話はそこで終わりとなった。

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"正しくない英文"を強引に日本語にしてみたら...確かに変じゃないかも...(←でも、間違いだからね、天^^;)
ちなみに、天が解いていた問題は(なぜか)綾部の手元にあった高1の英語の教科書を参考に(^^)
次回、要のサービスショット満載!!(え!?)
[綾部海 2004.3.13]

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Photo by おしゃれ探偵