※このお話は「A Kind of Masic」の続編です♪
Triangle:Chapter 3
大地讃頌

まだいまいち冬休み気分の抜けない1月のある朝。
前田雪野はD駅のホームであくびをかみ殺しながら電車を待っていた。
「おはよう、雪野。」
ぽんと肩をたたかれて思わず雪野がそちらに目をやると古屋静がにこやかに立っていた。
「雪野も委員会でしょ?新学期始まったばっかなのにいやになっちゃうよね。」
そう言うと静はうーんと伸びをした。
「あのさぁ、しーちゃんが朝の委員会出るなんてめずらしくない?」
14HRの委員長である静は雪野と同じようにいろいろな会議に参加しなければならない。
しかし、朝は自宅の剣道場で稽古があるということで静はいつも委員会をさぼっていたのだった。
「ん〜、西森会長が"出ろ出ろ"ってうるさいもんで。」
「あ、そうなんだ。」
生徒会長の西森航は副会長時代から出欠にうるさいことを雪野も知っていた。
「そろそろ一回顔出しとかないと家まで迎えに来ちゃいそうだから。」
「え!?」
静の言葉に雪野は目を丸くした。
「...いくら西森会長でも、そこまではしないんじゃあ...」
「いや、おれ、一学期にやられたから。」
「え〜!?」
雪野の顔はぽかんと口を開けたままかたまってしまった。
「雪野は毎回ちゃんと出てるから知らなかったと思うけど、結構やられてる人いるんだよ。」
(そう言われてみれば...)
毎回あたりまえのように(!!)会議を欠席している人たちが急に思い出したかのように姿を現すのはそういう訳だったのか、と雪野は納得した。

「そういえば、話変わるんだけど...」
M駅行きの電車の中。
雪野とならんでつり革につかまっていた静は突然そう言った。
「雪野さぁ、うちのクラスでピアノ弾ける人知らない?」
「え!? でも、わたし、しーちゃんのクラスと音楽いっしょじゃないし...」
北高では芸術科目は音楽・美術・書道の中から選択され、1年の場合は3クラスが同じ時間にそれぞれの科目に分かれて授業を受けるのである。
(つまり、13HRで音楽選択の雪野は11HRと12HRの音楽選択者とともに授業を受けるのである。)
「そっかぁ。おれ、書道選択だからそういうの全然わかんないだよねぇ。」
「でも、なんで?」
突然の静の質問に雪野は首を傾げた。
「ほら、月末に"予餞会"があるだろ。」
ちなみに、"予餞会"とはわかりやすく言えば"卒業生を送る会"で毎年1月末に行われる。(2月になると3年生が自由登校になってしまうため)
1年生の"出し物"は合唱で、二学期末にすでに曲目や指揮者、伴奏者が決めてあったのだが...。
「うちのクラスの伴奏の子、冬休みにスキーで腕骨折しちゃってね。」
「うわっ、それは...」
「で、あわてて代わりの人探してるって訳。」
深々とため息をつく静に雪野も同情せずにいられなかった。
「あ、じゃあ、しーちゃんが伴奏やったら?」
静は3歳の頃から小学校卒業までピアノを習っていたので今でもそれなりに弾けるのだ。
「だめ。おれ、指揮者だから。」
「あ、そ。」
雪野、思わず苦笑い。
(なんだかんだ言っても、しーちゃんって目立つの好きだよなぁ...)
「なに?」
「あ、別に!!」
雪野は"考えていることがバレたのでは!?"と思いながらあわてて首を振った。
「そういえば、しーちゃんちは何歌うの?」
「『さくら』の合唱バージョン。」
「って森山直太朗の?」
「ん。雪野のクラスは?」
「ZARDの『負けないで』。」
雪野の答えに思わず静はふきだしてしまった。
「...そ、それって提案したの、要?」
雪野が神妙な顔でこっくりとうなづくので静はさらに笑ってしまった。
「要くんいわく、"これから受験戦争の真っ只中に飛び込んで行く先輩たちにエールを送ろう"だって。」
「か、要らしいね...」
そう言いながら静はお腹を押さえて懸命に笑いをこらえているようだった。
雪野は予餞会の実行委員長も曲目を提出して時に同じ反応をしていたことを思い出しながらため息をついた。
(...あ、そうだ。)
そして、雪野はふとあることを思いついた。
「あのね、しーちゃん...」

そして、昼休み。
13HRの教室は机をくっつけてお弁当を食べる準備をしたり、学食に向かう人たちでざわめいていた。
「前田ちゃん。」
4時間目に使った教科書やノートを机の中に閉まっていた雪野の元にコンビニのビニール袋を手にした宮島要がやってきた。
「あ、要くん。もう学食行く?」
「う〜ん...そうしたいんだけど、天がまだ来ないんだよねぇ。いつもは4時間目が終わったらすぐに飛んでくるのに...」
「へ、へ〜。なにか、あったのかな?」
雪野はそう言いながらも心の中の"心当たり"を要に悟られないようにとひとりドキドキしていた。
するとそこへ...

「雪野!! おまえ〜!!!」

"荒馬"のような(!?)宮島天が13HRに飛び込んできたのだった。

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おまたせしました、第3部ですm(_ _)m
タイトルは合唱曲から♪(本編にもいずれ出てきます)
「小さな頃から」で予告(!?)したように"とある人物"、しょっぱなから登場です(笑)
でも、今回のお話の"影の主役"(!?)は...(あとはとても言えない^^;)。
[綾部海 2004.11.5]

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