要はそう言っていたそうだが、雪野は何が"もう大丈夫"なのかまったくわからなかった。 学校を休んだ翌日。 すっかり熱のひいた雪野は朝一の会議のために急いで学校に向かった。 おとといまでは学校に行くのがとても憂鬱だった雪野だが、昨日の休養で頭の中身がネガティブからポジティブに変わり、「も〜矢でも鉄砲でも持って来い!!」とまで思うようになっていた。 (実際に矢や鉄砲が出てきたら警察沙汰になってしまうが...) 「あれ?」 自分の下駄箱を開けた雪野はなんだか拍子抜けした気分になった。 ここ最近は毎日、雪野の上履きにはなんらかの"細工"がしてあった。 しかし、今日、そこにあるのはどうみても普通の上履きだった。 かかとの部分にちゃんと"前田"とあり、別の誰かのものでもなさそうだ。 「ま、いいか。」 例のいやがらせをあまり気にしないことにした雪野はその上履きを履いて教室へ向かった。 「あ、やっぱり来ちゃった?」 13HRの教室に入ってきた雪野を見た要はちょっとあわてた様子だった。 「やっぱ昨夜のうちに連絡しとけばよかったかなぁ。」 「え、何を?」 深々とため息をつく要に雪野は首を傾げた。 「"朝の会議はおれひとりでも大丈夫だから、学校に来られるようならゆっくり来て下さいね"って。」 要の言葉に雪野は「あ」という顔になった。 「ほんとにもう大丈夫?無理してない?」 「うん、一日寝たらもうすっかり治っちゃった。」 要の問いに雪野は笑顔で答えた。 「そういえば、昨日の"伝言"、どういう意味?」 "朝の会議"が終わり会議室から教室へ戻る途中、雪野は要にたずねた。 「今日は昇降口とか教室で変なことなかった?」 「うん、別に...」 雪野は自分の質問に答えない要に首を傾げながらもそう答えた。 「よしよし...やっぱり効果あったなぁ...」 満足気にうなずきながらそうつぶやく要に雪野はさらに「?」となったが...。 「ひょっとして、要くん...何かした...?」 すると要はいたずらっぽくにやっと笑った。 「いやね、"例のこと"でおれは手を出すなって言われてたけどさすがに黙っていられなくなってね、手塚さんに...」 「やめさせてもらうように頼んだの!?」 「ううん、それじゃやっぱり逆効果だからね...」 「じゃあどうしたの!?」 要は早く先が聴きたくてたまらない様子の雪野に思わず笑みがこぼれた。 「手塚さんに"みんな"におれが"あること"を言ってたって伝えて欲しいって頼んだの。」 「"あること"?」 「"おれはなにごとにも正々堂々と立ち向かう女の子が好きだなぁ"って」 「それは...」 陰でこそこそ雪野に攻撃していた要派の子にとっては"痛恨の一撃"なのではないだろうか...。 ただ「やめてほしい」と言われるよりそっちの方がよっぽど"きく"だろう。 そう思った雪野はしばしあっけにとられていた。 「それで...今日はなんにもなかったんだぁ...」 「まぁ、あと前田ちゃんが昨日休んだのも相乗効果だったんじゃないかな?」 "いままで無遅刻無欠席だった雪野が突然休んだのは自分のせい!?" そう思った生徒はひとりやふたりではなかったらしい。 「って、あれ? 要くん、いつ手塚さんにそれ頼んだの?」 「おとといの夜、電話で。 早めに手を打っといた方がいいかなぁ、と思うことがあったもんで...」 「で、昨日みんなにその"噂"が広まったと...」 「いや、たぶん"目当ての相手"にはおとといのうちに伝わったんじゃないかな。手塚さんも"大体の目星はついてる"って言ってたし。」 それを聞いた雪野ははーっとため息をついた。 「なんか、要くんも光希さんもすごいかも...」 「え、なんで?」 「だって、わたしは正面きってなんとかする方法しか考えられなかったのに―どれも無理だと思ったけど―ふたりとも裏というか、横からの攻撃(!?)思いつくなんて...」 「それだけ姑息なだけだよ。」 さらに「すごい」を連発する雪野にさらっと要は言った。(光希が聞いたら確実に殴られそうだが...) 「あ、そういえば、前田ちゃん、おととい、教室で天と会ったでしょ?」 「え!?」 突然の要の言葉に雪野は思わずかたまってしまった。 「あいつ、なんか失礼なことしなかった?」 「べ、別に...な、なんにも、なかったよ...」 どう見ても不自然な雪野の様子に要は顔をしかめた。 「ほんとに?」 「う、うん、ほんとに...あ、里美、昨日ありがとね〜!!」 要はさらに問い詰めようとしたがタイミング良く(悪く?)ちょうどふたりは教室に着いてしまい、雪野は里美のもとへ行ってしまった。 (やっぱりなにかあったな...) そう思いつつも今は確かめる術のない要は自分の席へ向かった。 その後、要の目論見通り、雪野へのいやがらせはまったくなくなった。 しかし、雪野はふたたび天の攻撃を受けないように、要とは必要以上親しくしないことにした。 そして、当の天は"あの日"以来、雪野と出会うと逃げるように視線をそらすのだった。 雪野としては"本来、そういう態度はとるのはこちらでは?"と思いつつも、天と顔を合わせずらいことは確かだったので特に何も言わずにいた。 そして、季節はいつのまにか夏服の似合う頃になっていた。 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ やっと夏です...^^; もうちょっとで「1」につながりますのでもうしばらくお待ち下さいm(_ _)m [綾部海 2004.1.10] |