その翌日、雪野は熱を出して学校を休んだ。 元々精神的に弱っていたところへ天の"攻撃"が決定打となったのであろう。 「今日一日寝てれば治ると思うけど...ひとりで大丈夫?」 赤い顔でベッドに横になっている雪野に母・知佐子は心配そうに言った。 「ん、大丈夫。もう行かないと、仕事、遅刻しちゃうよ。」 ぎこちなく笑う雪野に知佐子は苦笑いすると、雪野の頭をなでた。 「じゃあ、できるだけ早く帰るからね。こういうときに久志くんがいてくれるとよかったんだけど。」 義父・久志は2日前から出張で出かけていて帰るのは明日だと言っていた。 「ん〜、でも、久志くんいるとうるさいからいなくてよかったよ。ゆっくり寝られる。」 雪野の容赦ない言葉に知佐子はさらに苦笑いをした。(「でも確かにそうかも...」と思いながら...) 「それじゃあ、行ってくるね。」 「いってらっしゃい。」 知佐子はまた雪野の頭を軽くなでると部屋を出た。 雪野は知佐子が玄関を閉める音を確認すると、ぐっすり眠り込んでしまった。 「おなかすいた...。」 雪野が枕元の時計をみるともう3時近くだった。 (ひさしぶりにぐっすり寝たかも...) 何も考えずに、夢も見ずに眠ったせいかなんだか頭がすっきりしていた。 熱もだいぶ下がったようだ。 雪野はパジャマのままキッチンに行くと知佐子が作っておいてくれたおじやをあたため直した。 雪野はテーブルにおじやの入ったミニ土鍋やコップを運ぶともそもそと食べ始めた。 リビングとつながったダイニングはとても静かで、雪野が食器を使う音がカチャカチャと響いた。 本来だったら自分がいないはずのこの"昼間の静けさ"が雪野にはとても不思議なものに感じられた。 (そういえば、こんなにのんびりしたのすっごい久しぶりかも...) 雪野が中学を卒業すると母親が再婚したり、この分譲マンションに引っ越したり(ただしすごい中古)と、いろいろどたばたしていた。 高校に入ったらさらにあの調子だったし...。 雪野はおじやを食べ終わり、コップの水をひとくち飲むと、ふと目をつぶってみた。 静かだと思っていたこの空間にもいろいろな音が流れてきた。 マンションの前で遊ぶ子供たちの声、車の音、マンションのすぐそばを走る電車の音...。 「あ。」 電車の音を聞いて雪野は学校のことを思い出した。 (そういえば、今日の放課後は学年委員会があったはず...。 要くんひとりで大丈夫かな...。) せっかくの"休日"にも"仕事"のことを考えずにはいられない苦労性の雪野であった(涙)。 ピンポーン。 ふいに玄関のチャイムが鳴ったので、雪野は立ち上がった。 知佐子が帰るにはまだ早すぎる。 ひょっとして久志が予定を変更して帰って来たとか!? 雪野は恐る恐るリビングにあるドアホンの受話器を取った。 「はい...」 「あ、雪野?里美がお見舞いに来てあげたぞ〜♪」 「え、里美!? 今すぐ開けるから待ってて!!」 雪野はあわてて玄関に向かい、ドアを開けると制服姿の里美が立っていた。 「あ、なんだぁ。結構元気そうじゃん!!」 「うん、もうだいぶ良くなったの。よかったら上がって行って。今誰もいないけど...」 「じゃあ、お言葉に甘えて♪」 「わぁ...」 リビングに通された里美は思わず歓声をあげた。 「素敵なお部屋だね〜!!」 そういえば、里美がこの部屋に来るのは初めてだった。 厳密に言えば、この部屋に引っ越してからいままで雪野の友達が遊びに来たことはなかったのだが。 「そう? でも、住む前からオンボロなんだよぉ。ちょっとは改装したけど。」 雪野はテーブルにティーカップを並べると、里美に席をすすめ自分もその向かいに座った。 「あ、そうだ!! 今日の授業のノートとプリント。」 里美はそう言うと学生鞄からルーズリーフの束を取り出した。 「はい、これ。英Tは今度単語テストやるって言ってたよ。」 「わぁ、ありがとう!!」 雪野はその束を受け取るとびっしり書き込まれたルーズリーフをぱらぱらとめくった。 「あとね、要くんがよろしくって言ってたよ。」 要と言えば...今日の委員会はちゃんと出てくれたのかな、と雪野は思った。 「あ、それから伝言も。なんだかよくわかんないんだけど...」 「え?」 「え〜とね、"もう大丈夫だから明日から安心して学校に来てください"だって。」 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 題して"戦士の休息編"(!?) 雪野にはもうちょっと(!?)がんばってもらわないと... ̄m ̄ ふふ 知佐子ママ、本編では初登場です(でも、出番少ない^^;) 久志パパは今回の長編は...出番ないかも...(爆) [綾部海 2003.12.28] |