Triangle
13

「あれ...?」
雪野が教室に入ると、なぜか要の席でねむっている天の姿があった。
雪野は別に天のことが嫌いではないのだが、天の態度から察するにどうやら天は雪野のことが嫌いらしい、と雪野は思っていた。(会うたびににらまれることが多いため)
精神的にだいぶ弱っている雪野にはあの天の視線はだいぶきつそうに思えたので、雪野は天を起こさないようにこっそりと帰る支度を始めた。
「う〜ん...」
しかし、雪野の願いもむなしく天は目をさましてしまった。人の気配で要が戻ってきたと思ったらしい。
「あれ...?」
さっき雪野が言ったのとそっくりそのままの言葉を発した、半分寝ぼけまなこの天と雪野はばっちり目があってしまった!!
「こ、こんにちは...。」
びくびくしながらあいさつする雪野を天はじっと見つめたままでいる。
いつものにらむような視線ではないがこの刺すような視線も雪野の心臓にはあまりよくなかった...。
(と、とにかく早くこの場を去らなければ...!!)
そう思った雪野はまず学生鞄を手にした。
「あ、あの、要くん、いま杉本先生のお手伝いしてるけどもうすぐ来ると思うから!! じゃあ、さ...」
「あんたさぁ。」
雪野は早口で要のことを告げ「さよなら」と退散しようとしたが、天の言葉に止められてしまった。
「え?」

「ちょっと要が優しくしてくれるからってなんか勘違いしてない?」

雪野は鞄を抱えたままかたまってしまった。
コノ人何ヲ言ッテルンダロウ...?

「要は誰にでも優しいんだよっ。それなのに、自分だけ特別だとか思ってないか?」

雪野はまるで天がよその国の言葉を話しているように思えた。
いつのまにか雪野は鞄をぎゅっと抱きしめながらうつむいていた。

「バカじゃないの!! 要がおまえなんか相手にするわけないだろ、ブス!!」

"バカ"とか"ブス"とか子供のころ男の子から言われて傷ついたりしたが、きっとこれほどではなかっただろう。
雪野は天の言葉がナイフのようにグサっと自分の身体に刺さるのを感じた。

天がなぜこんなことを言い出したのか雪野にはまったくわからなかった。
しかし、きっと雪野の態度や行動にそう思わせるなにかがあったのだろう。
そして、こんなひどい言葉を吐かせるほどこの人をいやな気持ちにさせていたのだろう。

そう思った雪野はこぼれそうになる涙をぐっとこらえるとうつむいたまま口を開いた。

「...そうだよね...ごめん、なさい...」

それだけ言うのがせいいっぱいだった。
もう涙をこらえきれそうになかった雪野はうつむいたまま教室の外へかけ出した。

「なんで..."ごめんなさい"なんだよ...。」
天はぽつりとつぶやいた。

「あ、ごめん!!」
教室から出るとすぐに下を向いたままだった雪野は誰かとぶつかってしまった。
謝る声に雪野は思わず顔を上げると、要の視線とぶつかった。
「あれ、前田ちゃん...?」
要の訝しげな顔で自分が泣いていることに気づいた雪野は何も言わずにまた走り出した。
「あっ!!」
要は一瞬雪野を追いかけようとしたが、おそらく彼女はそれを望んでいないだろう、と思い踏みとどまった。
「どうしたのかなぁ...。」
そうつぶやきながら教室に入った要はひとり呆然と立ち尽くしている天を見つけた。
「天。」
「あ...遅かったじゃねえか...」
要に声を掛けられて天は我に返った。
様子のおかしな天に要はふとある考えが浮かんだ。
「天、今さぁ、そこで前田ちゃんと会ったんだけど...」
そう言われて天はびくっとした。「やはり何かあるな」と思った要はさらに続けた。
「おまえ、なにかしなかった?」
「な、なにもしてねえよ!! 変なこと言うんじゃなねぇ!!」
天が"赤い顔してムキになって否定する"ということはほんとはなにかあったな、とつきあいの長い要は分析した。
しかし、この状態では何があったのか聞きだすことは不可能なので、要はまたの機会をうかがうことにした。
「さぁ、だいぶ遅くなっちゃったからとっとと帰ろう。今日は夕飯の買い物してかないとね。」
「お、おう。」
まだ赤い顔の天は先に行こうとする要をあわてて追いかけ、並んで下駄箱へ向かった。
要はそんな天の横顔をちらっと見た。

(自分で気づいてないんだろうなぁ。)
天が本当は泣きそうな顔をしていることを要はあえて黙っていた。

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というわけで(!?)、"例のシーン"=天の問題発言、というか"暴言炸裂"です^^;
なんでこんなに口が悪い子になっちゃんだろうねぇ...(ーー;)
女の子に"ブス"とか言っちゃダメだよ、天(;_;)(←お前が言わせたんだろう!! by天(笑))
[綾部海 2003.12.07]

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