「前田さんいますか?」 図書室での一件(!?)の翌日、13Rの教室に雪野をたずねてとある3年生がやってきた。 手塚光希と名乗った彼女はショートカットにすらっとした体形で雪野でも見とれてしまうくらいの美人だった。 確か生徒会の役員で雪野も委員会で何度か見かけたことがあった。 「宮島要のことで話があるんだけど、昼休みいい?」 「は、はい。」 「じゃあ、昼休みに音楽室横のレッスン室に来てほしいんだけど...わかる?」 「はい、わかります」 「それじゃ、よろしくね。」 光希が立ち去ると教室全体に広まっていた緊張感が一気に解けた。 「雪野大丈夫?」 いままで離れて雪野と光希のやりとりを聞いていた里美がかけよってきた。 「え?なにが?」 「"なに"って手塚さんって要派の会長なんだよ!! これっていわゆる"呼び出し"でしょ!!」 「会長!? 手塚さんが!?」 雪野から見ると光希はそういう"ミーハーなもの"には興味がなさそうに見えたので意外だった。 「なんでも手塚さんって要くんたちと中学がいっしょで結構親しいかららしいよ。」 「そうなんだ、ってなんでわたしが呼び出されなきゃいけないの!?」 「たぶんきのう図書室でふたりで仲良く勉強してたからじゃない?」 「"仲良く"って別に...!!」 雪野はなんでそんなことを文句言われなきゃいけないのか、と思ったが、同時に、そういう理屈が通らない相手であることも理解していた。 「そういえばレッスン室って防音だよねぇ。中で何があっても外にはわからない...。」 「なにこわいこと言ってるの!?」 雪野の頭の中ではTVやマンガで見た"呼び出し"のシーンがかけめぐっていた。 集団に囲まれて殴る蹴る...、なんてことはまさかない、とは言えないのだろうか...。 「まぁ、無事に帰ってこれるのを祈ってるわ。」 里美はとんでもないことを言いながら両手を合わせた。 まさに"他人事"である。 言い返す気力もなくなった雪野は要の姿を探して教室を見回したが見つからなかった。 考えてみたら、要に相談してもどうしようもない。 いくら要と光希が親しいからって、要に間に入ってもらったりしたら"要派"の神経をさらに逆撫でしてしまうだろう...。 結局、雪野は要には何も告げずに光希と会うことにした。 音楽室は入口が二重になっている。 (防音のためなのだろうが暑いときは音楽室の窓を全開にして合唱や音楽鑑賞をやったりするのであまり効果はないように思われる) ひとつめの入口とふたつめの入口の間にレッスン室と音楽準備室への入口があった。 雪野がドアを開けずにレッスン室の中をのぞくとすでに来ていた光希がピアノを弾いていた。 ここはしっかりと防音されているため何の曲を弾いているのかはわからなかったが。 雪野がドアにはまったガラスを軽く叩くとそれに気がついた光希が立ち上がりドアを開けた。 レッスン室の中はグランドピアノがスペースのほとんどを占めており、光希がまたピアノの前に座ると雪野はピアノの横に立った。 「手塚さんって合唱部の部長さんですよね?」 「私はどっちかと言えば歌よりも伴奏ばっかりなんだけどね。ほんとは別の子が部長だったんだけど受験のため退部するっていうもんで押しつけられちゃったの。」 「大変ですねぇ。」 「ん。でももうちょっとで2年に引継ぎだから。」 「音大行くんですか?」 「一応、そのつもり。」 にっこり笑った光希はポロンとピアノの鍵盤をいじりながら話を続けた。 「そういえば、前田さんも中学の時は合唱部だったんでしょ? 片野さんが絶対入部させるって言ってたわよ。」 委員会で会うたびに入部をすすめる片野奈美を思い出し雪野は困ったように笑った。 「わたしは時間とか余裕がないもんで...」 「歌うのきらい?」 「...好きですけど...」 「それじゃあ、余裕ができたときに考えてみて。ね?」 「はい...」 光希の極上の笑顔にそう答えるしかない雪野だった。 「で、そろそろ本題に入りたいんだけど...」 光希はにっこりと笑った。 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 光希は女子高だったら確実に下級生にもてそうなタイプかも...(←!?) あ、でも今も(共学でも)そうかも^^; (意味不明なコメントですみませんm(__)m) [綾部海 2003.11.2] |