せっかくだからと要は図書室で本でも読んで時間をつぶすことにした。 机が並んだ閲覧コーナーにやってきた要はよく知った顔を見つけた。 「前田さん。」 大きな机にひとりでいる雪野が問題集かなにかを熱心に読んでいた。 一応周りにほかの生徒たちも何人かいるので要は「さん」づけにしていた。 名前を呼んでも反応がなかったがもうそれに慣れていた要は雪野に近寄り肩を叩いた。 「あ、要くん。」 里美に"恋する乙女"扱いされたことで雪野はよけいに要のことを意識してしまうように感じた。 こころなしか顔が赤いような気がしてなんだか恥ずかしくなった雪野であった。 「こんな所で会うなんてめずらしいね。」 「わたしはよく来てるんだけどね。」 「あ、痛いところつかれた...。」 要は雪野の向かいに座った。 「何読んでたの?」 「里美の塾のテキスト。」 そう言って雪野は見ていた本を要に見せた。 英語の問題集だったが確かに学校で使っているものとは違っていた。 「英語と言えば、天が今日英語の補習受けてるんだ。」 「里美もそうだよ。そういえば、天くんといっしょだってよろこんでたっけ。」 成績の悪い者が強制的に参加させられるので里美は最初は文句を言っていたが天も受けてると知ったとたん態度がころっと変わった。 うかれすぎて補習を受けてる意味がないかもしれない。 「で、天くんが終わるの待ってるの?」 「うん、そう。」 雪野は「やっぱり」という顔をした。 「前田さんも今日は委員会ないよね。倉元さん待ってるの?」 「そういうわけじゃないんだけど...」 「?」 要は首を傾げたが雪野はその理由を言ってくれそうにないので話を変えることにした。 「前田さんは倉元さんと同じ塾行ってるの?」 「ううん、里美だけ。塾はお金かかるから時々里美にテキストだけ見せてもらってるの。」 雪野は里美のテキストをコピーしたもので勉強していたので要は本の方を見せてもらった。 「まだ習ってないような単語とかイディオムも出てくるんだ。」 テキストをぱらぱら見ていた要はちょっと嫌そうな顔をした。 英語は嫌いではないが特別得意というわけでもない。 「うん。学校のワークだったら教科書見ればすぐわかっちゃうけど、こっちは学校のとはちょっと違う感じの問題とかもあって結構頭使うからおもしろいんだよ。」 こういう問題を「おもしろい」という雪野の感覚を要はちょっと理解できなかったが、雪野がそれだけ英語が好きだということだろう。 (あの人にちょっと似てるかも...) 中学のときの家庭教師を思い出して要は思わず笑顔になった。 「なに?」 「ううん、なにも。 おれもつきあわせてもらってもいい、テキスト研究?」 「どうぞどうぞ。」 雪野と要はクイズを解くような感じでテキストの問題に取り組み始めた。 ふたりの意見が分かれたりすることもあって"討論"は白熱していった。 端から見たらとても仲の良いふたりを冷たい目で見つめる女生徒が少なくないことも気づかずに...。 「なんで要くんがいるの!?」 補習を終えて図書室にやってきた里美は目を丸くした。 「ん〜たまたま、かな。 補習お疲れ様。」 要は里美ににっこりと笑った。 「里美、テキストありがとう。」 まだ不思議そうな顔をして机の横に立っている里美に雪野はテキストを差し出した。 「あ、別に今日じゃなくてもいいよ。 塾あさってだから。」 「そう? じゃあもう少しコピーさせてもらおうかな。 明日返すから。」 「あのね、雪野。」 「ん?」 またテキストをやり始めようとしていた雪野は顔を上げて里美を見た。 「今日もまだ残ってくの?」 「一応そのつもりだけど。」 「もしよかったらいっしょに買い物行かない? ムリにとは言わないけど...」 「ん〜...いいよ。 じゃあ、本借りてくるからちょっと待ってて。」 そう言うと雪野は立ち上がり書庫に向かった。 あいていた席に座った里美は雪野の姿がなくなると大きくため息をついた。 「どうしたの?」 里美の様子を不思議に思った要は声をかけた。 「あ、雪野ね、最近ムリに居残りして家に帰る時間を遅くしてるみたいなの...」 「そうなの?」 どうやら委員会がある日でも図書室が閉まる時間ギリギリまでいるらしい。 その姿は"勉強熱心"というより無理矢理勉強に集中しようとしているように里美の目には映っていた。 「中学の頃は逆に授業が終わったらすぐに帰っちゃうくらいだったんだけどね...。」 そのことばを聞いて要はピンと思い当たるものがあった。 「つまり、お母さんが再婚してからああなっちゃったの?」 「知ってたの!?」 「前にちらっと聞いた。」 里美のように雪野と同じ中学出身の者はもちろんそのことを知っていたが、高校に入ってから雪野も周りの者もそれを口にしていなかったので、要が知っていたことに里美はとても驚いていた。 「それで、新しいお父さんとうまくいってないのかなぁ、とか思っちゃって...。雪野、前にお母さんのことはいろいろ話してくれたのにお父さんの話は全然聞かないもんで。」 「う〜ん、どうなんだろうね。おれもそういうことはまで聞かなかったからなぁ。」 ふたりで考え込んでいるうちに雪野が戻ってきてしまったのでこの話はお流れになった。 里美の補習が終わったということは天も帰れる状態になったということなので、要もふたりといっしょに図書室を出た。 要を探していたのかちょうど天が図書室の前にやってきた。 「なんでこんなところにいるんだよ!?」 「ちょっとやぼ用〜♪」 「はぁ!?」 "何言ってるんだこいつ?"という顔で天は要をにらむと、その隣にいた雪野に目をやった。 「?」 雪野は天ににらまれたような気がしたがその理由が思い当たらない。 (知らないうちになんかしたかな?) 雪野がちらっとそう考えているうちに天はまた要へと目線を移した。 「も〜オレ疲れたからとっとと帰ろうぜぇ!!」 「はいはい。でも、おれの荷物まだ教室だから寄ってね。」 天はあからさまに嫌そうな顔をしつつもずんずん要の教室へ向かって行った。 「じゃあ、前田さん、倉元さん、また明日。」 「またね。」 ふたりは手を振りながら天と要の背中を見送っていた。 里美はほんとは天と要もいっしょにお茶でもどうかなぁ、と思っていたのだが言い出すチャンスがなかったのでとても残念そうだった。 そして、翌日。 雪野は要派に"要注意人物"としてブラックリスト(!?)にあげられていた...。 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ どうなる雪野!? 次回新キャラ登場!!(雑誌の"コピー"っぽく^^;) [綾部海 2003.10.26] |