ある日の教室、里美の言葉に雪野は目をまるくした。 "あの日"、涙を見られたせいか要と顔を合わせずらくなっていた雪野の態度を"恋する乙女"のものだと思ったらしい。 「え、それは...。」 自分でも好きなのかそうでないのかわかっていない状態のため雪野は答えにつまってしまった。 しかし、里美はそれを「イエス」ととったようだ。 「そうか〜。やっぱ雪野には天くんより要くんの方が合うと思うわ〜!!」 一時期、雪野も天派ではないかと思っていた里美はほっとした顔で言った。 雪野は苦笑い。 (まぁ、天くんよりは要くんの方がいいかもしれないけど...) 雪野は天とろくに話したこともないので恋愛対象以前の問題なのだが、里美にとっては外見がすべてなのだ。 「でも、要くんもけっこうもてるから大変じゃないかなぁ。」 「え、もてる...?」 「うん、告白した子も何人もいるらしいよ。」 もちろんあれだけ人気があるのだからラブレターをもらったり告白されたりしてもおかしくはない。 しかし、雪野はなにか違和感を感じていた。 「告白するってことはつきあいたいってことだよね。」 「そりゃそうでしょ。」 あれ? 雪野は自分が要とつきあいたいとか告白したいとはまったく考えていないことに気がついた。 「里美はさぁ...」 「ん?」 「やっぱ天くんとつきあいたいとか思う?」 「あったりまえじゃない!!」 雪野の質問に里美は力いっぱい答えた。 「やっぱそうだよね。」 天への愛を力説しようとした里美をさらっとかわし雪野は話を完結させた。 では、雪野の想いは恋ではないのだろうか? 雪野は試しに毎日見てる母と義父のラブラブモードに自分と要をあてはめようとしたが...やっぱり想像できない...。 しかし、いつのまにか目が行ってしまうとか気がつけば要のことばかり考えている(いつのまにか)のは以前感じていた"恋"と同じだと思うのだが...。 「う〜〜〜ん...」 雪野は机に突っ伏して考え込んでしまった。 一部始終を見ていた里美はやはりこれも"恋する乙女"ゆえだろう、とほっておくことにした。 結局、答えは出なかった。 放課後。 要は社会科準備室にいる担任の杉本のところにいた。 「先生、今日の日誌〜」 「お、ごくろうさん。」 杉本は日誌の中をチェックし一言書きハンコを押すとまた要に渡した。 「じゃあ、これ職員室に戻しておいてくれ。」 「はいはい」 「要、今日は委員会は?」 「めずらしく休み。」 「じゃあ、とっとと帰れるな。」 「それがそうもいかなくて...」 「天か?」 「先生、よくわかってるね(笑)」 今日、天は英語の補習を受けているのだが要に終わるまで待ってろ、というのだ。 委員会があるときならばちょうど同じくらいに終わるのだが、今日は何をして時間をつぶそうかと要は考えていた。 「じゃあ、先生さよなら〜」 「あ、待て。」 職員室に向かおうとした要に杉本の声が追いかけてきた。 「お前、ついでにこの本図書室に返しておいてくれ。」 社会の教師である杉本らしい日本史関連の本を要に差し出した。 「なんで?」 「どうせお前ひまなんだろう? いいじゃないか。」 今ひまなのは確かだし図書室は職員室のすぐそばだったので要は仕方がないという感じで本を受け取った。 「今度からはちゃんと自分で返してくださいよ!!」 準備室を出ようとした要にさらに杉本の声が追いかけてくる。 「その本、返却期限過ぎてるから司書の小島さんに謝っといてくれ!!」 「先生ひで〜!!」 図書室にて。 杉本の期限切れの本を小島は不承不承受け取った。 「私から杉本先生にも言っておくけどあなたも今度からこういう片棒かつがされないようにしてね。」 「はい、すみません。」 要は杉本の代わりとばかりに深々と頭を下げた。 (明日絶対に杉本先生に文句言ってやる...!!) そう心に決めながら。 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ちなみに、杉本先生の専門は世界史です。 でも、学校の先生なので日本史も地理も公民も教えます。(トリビア^^;) [綾部海 2003.10.22] |