Triangle

普通、「笑顔にドキッとする→目が離せなくなる」となれば恋の始まりだろう(!?)。
しかし、前田雪野の場合なんか違っていた。
たしかに"あの時"以来宮島要に目がいってしまう。 行動が気になってしまう。
でも、別に要を見るとドキドキしてしまう、とかいうことはない。
ただ"観察"しているだけだ。

"観察"を始めてまず気がついたことは、天が休み時間のたびに雪野たち13HRの教室にやってくる、ということだった。
そのことを里美に告げたところ、「今頃気づいたの!?」と驚いた顔をされた。
"天派"の里美にとっては大歓迎らしい。
「何? ひょっとして雪野も天くんのこと...!?」
「ち、違うよ〜!!」
「まぁ、雪野が天くんに魅かれてしまうのもわかるけどねぇ。でも、わたし、たとえ雪野でも天くんはゆずれないわ!!」
「はいはい」
「だってねぇ...」
雪野のことばを無視して里美の"主張"は続いていく。
(ある意味のんきでうらやましいかも...)
実は雪野はいろいろな問題が山積みでそれどころではなかったのだ。

「前田さん、ごめん!!」
朝、遅刻ギリギリで登校した要が雪野に頭を下げた。
その日の朝、臨時の委員会会議があったのだが当然要は間に合わず雪野がひとりで出席したのだ。
「いいよ、気にしないで。」
雪野は笑って言った。

実はこの委員会も雪野の悩みのひとつだった。
この高校は"生徒の自主性を尊重する"とかなんとかで学校行事を生徒自ら企画・運営することが多い。
その実行委員を各クラス委員が兼任していてそのための会議が週2〜3回はある。
忙しくてクラブ活動もできない状態だった。

放課後。
雪野は朝のSHRで配布し大部分が回収できたと思われるアンケート用紙の枚数を数えていた。
この結果を集計し明日の会議で提出しなければいけない。
ほんとは家でやってもいいのだがどうせあと30分もすれば別の会議に出席しなければいけないのだ。
教室は人影がまばらになっていた。
「前田ちゃん」
生物室の掃除から戻ってきた要が雪野に話しかける。が、雪野無反応。
「前田ちゃん?」
「あ、ごめん、なに?」
「?」
雪野の様子を少しおかしく感じた要だが話を続けた。
「このアンケート、今日提出する分?」
「ううん、これは今日集めたやつ。」
要は雪野とふたりのときはいつのまにか"前田ちゃん"と呼ぶようになっていた。
みんなの前では"前田さん"のままなのは"要派"の子たちを気にしてのことだろう。
要も"要派"の雪野への理不尽な態度に気づいていたが下手に口出ししたら事態が悪化しそうだし雪野もそのことは承知していた。
それにしても、ただでさえ「要くんといっしょにいすぎ!!」(仕事なのに...)とやっかまれているのに"ちゃん"づけされていることを知ったら直接攻撃に出るかもしれない...。
しかし、雪野は要に"前田ちゃん"と呼ばれるのがひそかに好きだった。
「今日提出のはこれ。で、こっちが来週の文化会の分だけどとりあえずまとめておいたので目通しておいてね。」
雪野は机の中からアンケートの束をどんどん取り出し要に渡した。
「これ、全部ひとりでやってくれたの?」
目の前に山積された用紙に要は目を丸くした。
「あ、うん。」
「ほんとはおれもやらなきゃいけないのに...いつも前田ちゃんにやらせてばっかでごめんね。」
要は申し訳なさそうに言った。
「あ、でも、わたし、こういうのとっとと片づけちゃわないとなんか気持ち悪いもんで...。好きでやってるから気にしないでいいよ。」
「ん〜。でも、ムリしないでね。言ってくれればおれもいつでもやるから。」
「了解。」
雪野は作業を再開したが、要がそれをニヤニヤしながら見ているのに気づいた。
「何?」
「いや、前田ちゃんってほんとに、しっかりしてるなぁって」
「そう?」
「てきぱきしてて見てて気持ちいいよ。」
にっこり笑って言う要に雪野は苦笑い。
「ずっと母親とふたりだったからかもね。」
"ふたり『だった』"
雪野は自分で言ったことばを頭の中で繰り返していた。
「? どうかした?」
要が不思議そうにたずねる。
「ううん、別に。そろそろ会議室に行こうか。」
さっさと荷物をまとめて教室を出て行く雪野の後を要は追いかけた。

「高瀬さん」
会議が終わり教室へと戻る途中、ふたりの後ろから声をかける人物がいた。
要は自分には関係ないと思い反応しなかったが、雪野は振り向いた。
「片野先輩...」
さっきの会議にも出ていた2年の片野奈美だった。
「あ、ごめん。いまは"前田さん"だっけ?」
雪野と奈美は数分ほど話し込み、そのふたりを要は少し離れたところから見ていた。
「それじゃあ、よかったらもう一度考えてみてね。」
奈美は手を振ると二年の教室へ戻っていった。
「ごめんね、待たせちゃって。先に帰ってくれてもよかったのに...」
「別に急いでないからいいよ。」
要はいつものスマイル。
「知り合い?」
黙ったまま歩き出した雪野に要がたずねる。
「中学の合唱部の先輩。」
「合唱やってたんだ。」
「うん。で、高校でもやらないか、って誘われてて...」
「やらないの?」
「ちょっと余裕ないからって前に断ったんだけどね。」
そう言って雪野は笑ったがどこかぎこちない。
そんな雪野の様子に要も黙ってしまう。
「...」
黙ったまま隣を歩く要を雪野はちらっと見上げるが、ポーカーフェイスの要は何を考えているのかわからない。

13HRの教室にはもう誰も残っていなかった。
「...聞かないの?」
「なにを?」
「...名前のこと...」
「聞いてもいいの?」
「...」
逆に質問されて雪野はまた黙ってしまった。
しかし、これは「イエス」ととっていいだろう。
そう思った要は口を開いた。

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片野奈美さんはあまり重要なキャラではないので「キャラクター紹介」には載りません^^;(ひどい?)
[綾部海 2003.10.13]

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