まゆ先生が熟睡したのを確認すると、俺は先生を起こさないようにこっそりと台所に向かった。 昨夜のうちに炊飯器にお米がセットされていたらしくご飯が炊けていたので、俺はそれで"おじや"を作ることにした。 俺の家では具合が悪いときはいつも母親がおじやを作ってくれた。 人によってはそういうときはおかゆだったりするらしいがうちはこうだった。 そういえば、先生は昨夜、雑炊を作ってくれたっけ。 ひょっとしたら先生の家は風邪をひいたら雑炊だったのかもしれない。 でも、俺は作り方がわからないのでおじやでガマンしてもらおう...。 冷蔵庫にあった卵を拝借しておじやを多めに作り、まゆ先生にとお茶碗1杯分を残し、残りは全部たいらげてしまった。 ひさしぶりに作ったわりにはうまくできたと思うが風邪のせいか味がよくわからない。 昨夜の先生の雑炊はおいしく感じたんだけどなぁ。 まゆ先生の口に合うといいけど...。 俺は空腹が満たされるとまたまゆ先生の寝室に戻った。 先生が目を覚ましたときにそばにいたかったからだ。 しかし...座っている以外にやることがない...。 俺は部屋の中をぐるっと見回した。 ベッドの横には背の低い本棚があり机とくっつていた。 机の上にはノートパソコンが置いてあったがさすがにこれをいじるのはまずいだろう...。 本棚の上には小型の電子ピアノみたいなの。 これもだめ。(ピアノ弾けないし) 俺は本棚の中身に目をやった。 塾のテキストとか英語に関する本はわかるんだけど...なんでこんなにマンガがあるんだろう...? 実はまゆ先生ってマンガ好き? 俺はそこに並んでた『ONE PIECE』の1巻を引っ張り出すとまたベッドの横に戻った。 「う...ん...」 まゆ先生の声がしたので俺はマンガから顔をあげた。 目が覚めたのかと思ったが違ったらしい。 あおむけで寝ていた先生が寝返りを打ち顔が俺の方に向いた。 その寝顔になんだか"ドキッ"としてしまい目が離せなくなってしまった。 まゆ先生の顔色は相変わらず青白かったけど表情は比較的穏やかで寝息も規則的だった。 この人はいつもこうなのだろうか? ほかに誰も帰ってこない部屋でひとりきりで泣いたり苦しんだりしてるなんて悲しすぎないか? 心の中にまた「なんで俺こんなこと考えてるんだろう?」という思いが浮かんだがもうほっておくことにした。 「ん...」 まだまゆ先生の寝顔から目が離れてなかった俺はゆっくりと目を開けた先生とばっちり目が合ってしまった!! 「...おはようございます...」 「...あれ?」 まだ夢見心地のような先生はさっきと同じことばを発した。 また俺のこと忘れちゃったのかな...? 「酒井くん、なんでここにいるの? あれ? ごはんは?」 どうやら先生が寝る前に俺が食べ物の話をしていたのを思い出したらしい。 さっきとは違う「あれ?」だったので俺はちょっとほっとした。 「先生が寝てから食べました。 あ、すみません、台所勝手にいじっちゃいました...」 「いいよ別に。それならよかった。」 まだ青い顔でちょっと弱々しく笑う先生はなんだか痛々しかったけど、その一方で「かわいいかも」とか思っている俺って...。 「おじや作ったんだけど先生も食べますか?」 「う〜ん...後でもらうね。今はまだ起き上がれそうにないから。」 そう言うと先生はまたあおむけになった。 どうしよう? 俺まだここにいてもいいのかな? それともひとりにしてあげた方がいいのかな? う〜む。 「さっき...」 「え?」 突然先生が話し始めたので俺は思わず顔をあげた。 「"まゆ"って呼ばなかった?」 そう言われれば...俺、トイレで倒れてるまゆ先生見たときにそう呼んだかもしれない...やばいかも...。 「すみません。なんか無意識にそう呼んじゃってたかも...。気をつけます。」 「別に"まゆ"って呼んでくれてもいいよ。」 先生は笑いながらそう言ってくれたが、さすがにそれはまずいだろう...。 「申し訳ありません!! もうしません!!」 俺が頭を下げるとまゆ先生はくすっと笑った。 ふたたび沈黙が訪れた。 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ まゆの部屋は一応綾部の部屋がモデルなのですが...うまく描写できない(ーー;) [綾部海 2003.10.31] |