「先生。」 「なに?」 俺が沈黙を破るとまゆ先生は顔だけ俺の方に向けた。 「今日も、ここ、泊まってもいいですか...?」 「どうして?」 「いや、先生、こんな状態じゃあほっとけないし、それに...」 「"家に帰りたくないから"?」 本当の理由をあっさりと言い当てられて俺は黙ってしまった。 でも、先生のことが心配だっていうのも本当だぞ。うん。 先生はにっこりと笑った。 「なんで帰りたくないの?きのうも思ったんだけど。」 「...親父と進路のことでもめてまして...。」 「進路?そういえば、酒井くんは考古学者になるんだよね?」 「え!?」 確かに"考古学者になる"というのは俺の昔からの夢だった。 でも、なんでまゆ先生がそれを知ってるんだ? 「1年の最初の授業で"自己紹介"書いてもらったでしょ。」 そういえば、白い紙が配られて名前とか趣味とか好きなこと書け、って言われたような...気がしないでもない...。 「そのとき、酒井くん、"ぼくは考古学者になります!!"って書いてあって...将来のことしっかりと書いてる子ってほかにいなかったし、"高校入ったばかりなのにこういうこと考えててすごいなぁ"って思ったから覚えてたの。」 そうか、そういうわけか。 でも...。 「俺、考古学者になるのやめたんです。大学に行くのも。」 「どうして!?」 まゆ先生はとてもびっくりした顔で俺を見た。 「去年、母が亡くなって...親父もいろいろ大変だと思うし、あんまり負担かけたくないから...卒業したら就職しようかな、と...。」 担任の先生や親父に何回もくりかえしたことばをぽつりぽつりと話す俺をまゆ先生は真剣な目で見つめていた。 「それに考古学者なんて簡単になれるもんじゃないですか。そんなうまくいくかどうかわかんないもんにむだに時間と金かけてもしょうがないし。」 自分から見てもいかにもつけたしくさいセリフに俺は苦笑いした。 「でも、お父さんは大学に行ってほしいんじゃないの?それでもめてるんでしょう?」 「親父はまだ俺が考古学者になりたがっているって"誤解"してるんですよ。俺はもうそんな気ないって何度も言ってるのに...。でも、なんだかんだ言ってもわかってくれると思いますよ、そのうち。」 「酒井くんは、それでいいの?」 まゆ先生の視線とことばは俺の心を見透かしているようだった。俺は何も言えずにいた。 「夢あきらめてもいいの?」 「...もういいんです...」 さらに問いかけるまゆ先生に笑って言おうとしたがなんだかうまく笑えなかったかもしれない。 もうどうしようもないのだ...。 俺はどんな顔をしたらいいかわからなくなりうつむいてしまった。 「今晩だけだよ。」 「え?」 突然のまゆ先生のことばに俺は顔をあげた。 「明日はちゃんと家帰るんだよ。いい?」 先生はあおむけの体勢で顔だけちょこっと俺の方を向いてそう言った。 「あ、ありがとうございます!!」 にっこり笑うまゆ先生の顔に自然と俺も笑みがこぼれた。 その後。 まゆ先生がもう少しねむりたいというので俺は"念のため"ベッドの横に待機し、『ONE PIECE』の続きを読んでいた。 8巻を読んでいるあたりで先生が目を覚ましたので、リビングで先生のお気に入りのDVDを見せてもらった。 夕食はまゆ先生の手料理をごちそうになった。 先生は「ありあわせだから簡単なものしかできなかったけど...」と言っていたが、俺から見たら作れないものばっかりだったので"簡単"と言ってしまう先生がすごいと思った。 そういえば、まゆ先生が俺の食べる量の多さに驚いていたっけ(笑)(育ち盛りだからね) こんな楽しい時間を過ごしたのはとてもひさしぶりな感じがした。 しかし、楽しいときはあっというまに過ぎてしまうもので...。 翌朝、俺は朝食をごちそうになったらすぐにまゆ先生の家をあとにした。 (あまり長居するとまた帰りたくなってしまうかもしれないから) 「がんばってね。」 まゆ先生は玄関で笑って俺を送り出してくれた。 はたして、俺ががんばらなければいけないことってなんなのだろうか? そう思いながら"くそ親父"が待っているであろう我が家へと向かった。 (2日も連絡しなかったから頭にツノが生えているかもしれない...) そうして、俺は"日常"へ戻った。 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ここまでが「BEFORE DAWN 第1部」で次回からが第2部(というか後半戦)です。 第2部はずっと書きたかったシーンが出てくるのでがんばらなければ!!(>_<) (文章がうまくついてきてくれるか心配です...^^;) [綾部海 2003.11.09] |