BEFORE DAWN
4

「まゆ!?」
まゆ先生はトイレでうずくまっていた。
「だ...いじょう...ぶ、だから...」
俺が腕を引っ張って立たせようとすると先生はそうつぶやいて意識を失ってしまった。
どうしよう!?
はっきり言ってこんな状況は初めてだ。
俺はしばらくおろおろしていた。
しかし、やっぱりまゆ先生をこのままにしておいてはいけないだろう、と思い、先生を抱き上げて寝室へと運んだ。

まゆ先生をベッドに寝かせ布団を掛けると俺はほっとしたのか力が抜けてベッドの横に座り込んでしまった。
でも、ただ寝かせるだけでいいのだろうか?
先生も風邪をひいたのかもしれないと額に手を当ててみたが俺の方が熱いくらいだった。
熱はないようだ。
顔色はとても悪く真っ青だった。
そういえば、昨夜も顔色が青かったような...。
貧血とかなにか持病でもあるのかな?
「...ちゃ...」
目を覚ましたのかと顔をのぞきこんだが先生の目は閉じたままだった。
「て...ちゃ...」
うわごとのようにつぶやいたまゆ先生の頬を涙がこぼれていった。
悪い夢でも見ているのだろうか?
「先生?」
心配になった俺は何度か声をかけてみた。
「ん...」
俺の声に反応したのか先生は目を開けた。
「あれ...?」
まゆ先生は俺の顔を見てちょっと驚いたような表情をした。
寝起きで俺のことわかってないのかな...?
「大丈夫ですか?」
「あ...そうか、そうだっけ...」
思い出してくれたみたい。 俺はちょっとほっとした。
「...そんなわけないよね...」
「え?」
「あ、なんでもない...。」
先生の謎のつぶやきに俺の頭の中は「?」でいっぱいになったが今はそんなことを考えている場合じゃない。

どうやらまゆ先生はこういう風に倒れることがしょっちゅうあるらしい。
ひとり暮らしでそれはまずいんじゃないか!?
「でもね...寝てれば治っちゃうから大丈夫...」
「寝てるってどこでですか? 下手するとトイレでそのままなんじゃないですか?」
「へへ...」
図星らしい...(汗)
でも、力なく笑っている先生の顔色はさっきよりだいぶよくなってきていた。
さらにほっとしたせいか俺は自分が空腹なことを思いだした。
まゆ先生も昨夜から何も食べていないだろうからなにか軽いものでもとった方がいいだろう。
「先生、俺、なんか食べるもの...」
そう言って立ち上がろうとした俺を何かが引っ張った。
見ると、横になったままのまゆ先生が俺の手をつかんでいた。
「あ...」
無意識にやったのか先生も初めて気づいたという表情になりあわてて俺の手をはなした。
「ご、ごめんね!! なんでもないから!!」
どちらかと言えば青かったまゆ先生の顔色が一気に赤くなった。
俺はそんな先生の様子に笑みがこぼれた。
そして、またベッドの横に座り込んだ。
「え...?」
まゆ先生はきょとんとした顔で俺を見ていた。
「俺、先生が寝るまでここにいますから、先生、休んでください。」
俺が笑顔でそう言うと先生の目から涙あふれ出した。(はっきり言ってあせった!!)
「ごめんね...」
「全然先生があやまることないですよ。しっかり休んでくださいね。」
それでも、まゆ先生は両手で顔をおおって「ごめんね」をくり返していた。
俺は先生に毛布を掛け直してあげて寝息が聞こえるまで頭をなでていた。
小さい頃、母さんが俺にしてくれたように。

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まゆ先生の"謎のつぶやき"に関してはいつか別のお話で書きたいなぁ、と目論見中。
[綾部海 2003.10.24]

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