※このお話は「BEFORE DAWN」を読んでからお読み下さいm(_ _)m
004.マルボロ
Smoke Gets in Your Eyes
1

「銀行寄るけどこうちゃんも行く?」
「いい。車で待ってる。」

学校帰り、まゆの車に拾ってもらい家に帰る途中。
カーステから流れるCHEMISTRYを聴きながらまゆが戻るのを待っていた。
とくにすることもなかったので、助手席側のダッシュボードを開けてみた。
中には、車の説明書みたいのとガソリンスタンドのカードとMDと...マルボロメンソールライト。
ボックスタイプのタバコはパッケージがあいていて中身は何本か残っていた。
「そういえば最近吸ってなかったなぁ」(←おいおい)
俺は車についてる灰皿を開けて、やはり車についてるライターでタバコに火をつけた。
あ、メンソールだとちょっと味違うかも...。
全開にした窓からフーっと煙を吐き出した。

「こら!!」
突然頭上にまゆのげんこがふってきた。
窓の外にいるまゆは...ど〜見ても怒っている...。
「な・に・し・て・る・の・か・な?」
「...タバコ吸ってる...」
「そういうことじゃなくて〜!!」
「はいはい」
俺はタバコを灰皿に捨てた。

「まったく〜」
運転席に乗り込んできたまゆの文句は続く。
「制服でタバコ吸ったりしちゃだめでしょ!!」
なんか怒っている観点が違うような。
「あと、この車は禁煙です!!」
人差し指を"めっ"という感じで俺に向けた。
「んじゃ、なんでこの車の中にタバコがあんの?」
俺はなにげなく言ったのだが、なぜかまゆはかたまっていた。
「...中にあった?」
「ん、ダッシュボードの中に」
「そう...」
それからまゆは何も言わずに車を出した。

家に帰ってからもまゆはなんか暗かった。
話しかけてもうわの空だしなにか考えこんでいるようだ。
あのタバコなんかあるのか?

結局、その夜はまゆはとっととベッドに入って寝てしまった。
俺もその隣に滑り込んだがなぜか眠れない。

考えてみたら、俺はまゆの家で一度もタバコを見たことはない。
灰皿もない。
それに、まゆはノドが弱くてしょっちゅう痛めているのだからタバコを吸わないだろう。
ということは...あれはだれのタバコなんだ...?

友達...にしてはまゆの反応が変だし、やっぱり...元彼?
まぁ、まゆだっていい年なんだからいままでつきあった人なんていっぱいいるだろうし...。
どんなやつだったのかな?
年上? 年下?
年下でも俺ほど離れてないだろうなぁ...。

翌朝もまゆは"心ここにあらず"状態。
俺はゆうべ考えていたことをまた思い出し、その考えが止まらなくなってしまった。
学校に行っても"暴走"は続き、当然授業にまったく集中できなかった。
(ふだんは集中しまくってる、というわけでもないが)
おまけに眠気も襲ってきてうつらうつらし始めた。

「酒井」
先生の声とともに教科書が頭の上に降ってきた。
顔をあげると世界史の教科書を持った杉本先生が俺を見下ろしていた。
この人、身長がめちゃくちゃ高いもんでまさに"見下ろす"って感じ。
「頼むからもうちょっと"まじめに授業を受けてるフリ"をしてくれ」
クラスのみんなが大爆笑する中、先生は教壇へと戻っていく。
と、ちょうど授業終了のチャイムが...。
考えてみたら結局授業まるまるぼーっとしてたってことか。
「酒井〜!お前、課題のレポート集めて、社会科準備室に持ってきて」
「なんで俺が...」
「授業まじめに受けなかった罰だ。 あと、お前、教科係だろう」
そういえばそうだった...。

俺はレポートをなんとかかき集めて社会科準備室へ向かった。
準備室にいるのは杉本先生だけだった。
「お、ごくろうさん」
「先生、めがね汚れてる」
「どうでもいいとこばっかり気がつくな、お前は...」
先生はめがねをはずすとネクタイでふいた...いいのだろうかそれで...?
杉本先生はめがねをかけていても十分"いい男"なのだが、めがねをとるとさらにかっこいい。
女子がきゃーきゃー騒ぐわけだ。
俺は先生の机の上にレポートの束をどさっと置いた。
「酒井、お前なんかあったのか?」
「え?」
「いや、お前、いつもはまじめに授業受けてるのに今日は変だったから」
世界史は俺の好きな教科だし授業もおもしろかったからいつもは杉本先生の話をちゃんとまじめに聞いていたのだ。
「別になにも...」
まさか"彼女の元彼について考え込んでいた"なんて言えないし。
「ならいいけど。俺でも話聞くくらいはできるからよかったらいつでも言えよ。」
そう言われたのがなんかてれくさくて、俺は視線を先生からそらした。
「あ」
机の上にはマルボロメンソールライト。
「先生、タバコ吸うんだ」
「ちゃんとハタチ過ぎてから吸い始めたぞ」
「ほんとに〜?」
わざわざそういうところがあやしい。
「そういえば、先生っていくつ?」
「25歳」
まゆと同じ。
「え〜!! 俺、30くらいだと思った...」
「なに〜!? まぁ、昔から老けて見られるけどな...」
「やっぱり」
俺はにかっと笑った。
(ちなみに学校内は禁煙です。←あれ?)

そうか、まゆと同じ年だと"あんな感じ"なのかな。
社会人で、自立してて、大人で...。
一方、俺はまだ高校生で、親の世話になってて、まだまだ"子ども"で...。
時々、まゆの方が俺よりも子どもっぽく感じるときもあるけど、やはり普段は俺の方が"守られてる"って感じがするし。
俺も25歳くらいには杉本先生みたいになれるかなぁ...。

教室に戻ったらまゆからメールが来ていた。
『夕飯なにがいい? 今日いっしょに帰ろう♪』
どうやら機嫌が直ったらしい。
なんだかうれしくて自然とにやにやとしてしまい、友人の保に気味悪がられてしまった。

放課後、まゆから学校の近くの本屋に着いたというメールが来たので俺は正門に向かった。
学校の目の前の横断歩道で信号待ちをしていたら道路の反対側のコンビニの前にまゆの姿が見えた。
信号が変わると俺は駆け出した。
まゆは笑って手をあげた。
「どうしたの? 本屋の駐車場で待ってると思ったのに。」
「ちょっとコンビニ寄ろうかなと思ったんだけど。 こうちゃんはなんかいるもんある?」
「別に。」
「じゃあ、いいや。行こうか。」
ふたりでまゆが今来た道を戻ろうとしたそのとき...。
「まゆ!?」
コンビニから出てきた人に突然声をかけられた。 杉本先生だ。
え? 先生とまゆって知り合い? ん? 『まゆ』?
「...てっちゃん...」
まゆはとても驚いた表情をしている。

先生の持ったコンビニ袋の中にはマルボロメンソールライト。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

タイトルはThe Plattersの曲から。(日本語タイトルだと『煙が目にしみる』というのです)
ちなみに、Triでおなじみ(!?)の杉本先生と同一人物です。(こちらでは真面目です(笑))
[綾部海 2004.2.1]

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