マルボロメンソールライト。 杉本先生の愛用のたばこであり、おそらくまゆの元彼も吸っていたもの。 ということは、杉本先生がまゆの...? 黙ったまま見つめあっている、というよりにらみあっているふたり。 俺もどうしたらいいのかわからずかたまってしまっている。 「先生、どうしたの?」 両手にコンビニ袋を持った女の子がコンビニから出てきた。 「?」 杉本先生にかけよった彼女はさらに何か言おうとしたが俺たちのただならぬ様子に黙ってしまう。 うちの高校の制服姿の彼女は俺の知らない顔だった。 ポニーテールで背はまゆよりだいぶ高い。 俺たちのことをいぶかしげに見ている。 とくにまゆを。 4人の間に沈黙が続いた。 「行こう!!」 沈黙を破ったのはまゆだった。 突然俺の腕を取ると本屋に向かって歩き始めた。 俺がコンビニの方を振り返ると杉本先生と女の子があっけに取られた顔をしていた。 まゆは何も言わずに本屋へと続く坂をどんどん下りていった。 本屋の駐車場にとめてあった車に乗ると、俺はダッシュボードの中のたばこを思い出した。 「まゆ」 「え?」 「...なんでもない...」 俺はあのたばこと杉本先生のことをききたかったがなぜか言えなかった。 まゆも何も言わなかった。 俺たちはスーパーで買い物し家に帰ってもそのことについてひとことも話さなかった。 翌日。 俺とまゆは前日よりもさらに気まずい雰囲気だった。 交わしたことばは、 「おはよう」 「いってきます」 だけ。 俺はブルーブラックな気分で学校に行った。 昼休み。 食欲もなく人ごみの中にいるのがいやだった俺は南校舎の屋上へ行った。 こっちは6階建ての校舎の上にあるせいか、4階建ての北校舎の屋上より人が少ないのだ。(階段をのぼるのがめんどくさいので) 特別やることもないのでまゆにメールでも送ろうと思ったがなにを書いたらいいのかわからない。 携帯を手にしたまま俺はかたまってしまった。 「酒井先輩。」 座り込んだ俺の目の前に立っていたのはポニーテールの女の子。 誰だっけ、この子? 「きのうはどうも。」 俺の「?」がわかったのか彼女はそう続ける。 思い出した。 きのう杉本先生といっしょにいた子だ。 「こちらこそ。」 「座っていいですか?」 「どうぞ」 別に勝手にすれば、と思ったがとりあえずそう言った。 あ、そういえば...。 「なんで俺の名前知ってるの?」 俺の隣に座り込んだ彼女にきいた。 「私、バレー部で敦美先輩といっしょなんです。 2年の筒見沙也(さや)っていいます。」 沙也は女子としては背が高い方なのでバレー部なのもうなづける。 あ、杉本先生ってバレー部の顧問だったな、そういえば。 「敦美の後輩?」 「先輩が敦美先輩とつきあってたころ私たちの間でけっこう話題になったんですよ。」 「あ、そ。」 寺西敦美は俺と同じ学年で中学もいっしょだった。 中学の卒業式に俺が告白してつきあい始めたのだが、去年の母親の事故のときに何もかもがいらないものに感じていた俺は敦美のことまでうっとおしく思うようになってしまい別れたのだった。 敦美サイドの知り合いということは俺って結構ひどいヤツって思われてるんだろうなぁ。 「で、何か用?」 「きのう一緒にいた人、彼女ですか?」 「うん。」 "なんでそんなこと聞くんだ"と思いつつも素直に答えた。 「あの人とつきあうから敦美先輩と別れたんですか?」 「違う。」 どうやら俺と敦美が別れた理由についてはくわしく知らないらしい。まぁ、俺はそのことを周りに言ったことないし敦美もそうだろう。 「あの人、前にここの先生やってたんですってね。」 「! 誰に聞いた!?」 話が思わぬ展開になってきた。 まゆは俺が1年のときしかうちの高校にいなかったから沙也は会っていないはずだ。 「杉本先生から。」 「そうか。」 杉本先生も俺が1年のときにここに来たらしいからおたがい知っていてもおかしくはない。 「先輩、あの人に教わってたんですか?」 「ん、英Tを。」 なんで沙也がこんなことを聞くのか俺はまったくわからなかった。 「ということは、あの人、生徒に手出したってことですよね。」 「"元"生徒だ。」 「それでも、自分の教え子とつきあってることには変わりないじゃないですか。」 「何が言いたいんだ...?」 沙也の真意がつかめず俺はイライラしてきた。 「それって本来許されないことじゃないんですか!? ルール違反ですよ!!」 「ルール違反?」 何のルールか聞きたいくらいだったが沙也はそんな隙も与えずまくしたてていった。 「それなのにどうしてあんな堂々と平気な顔していっしょにいられるんですか!? おかしいですよ!!」 「ちょっ...筒...」 「わたしは先輩たちの関係、間違ってると思います!!」 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ニューキャラ・沙也ちゃん登場です。(しょっぱなから飛ばしてます^^;) 晃平の"元カノ"・敦美ちゃんもいずれ登場します(^^) そして、またもやつづきます...。 [綾部海 2004.2.3] |