リョージの歓迎会の翌日。 あたしがバイトから帰ってくるとリョージがアパートの入口で誰かと話しているのが見えた。 背が高くて長めの髪の男の人...ってあれは...。 「若さん!?」 一目散に駆けてくるあたしにリョージはびっくりした顔をしていたが、若さんはへらっと笑いながらひらひらと手を振っていた。 「やぁ、リッちゃん、ひさしぶり〜♪」 「ひ、"ひさしぶり"じゃなくって...」 あたしはゼーゼーと息を切らしながら若さんをぎろっとにらんだ。 「いったいいままでどこに行ってたの!? 何の連絡もしないで!!」 "胸倉をつかみかけない勢い"(!?)のあたしにリョージはおろおろとしていたが若さんはなぜかにっこりと笑った。 「わっ!! うれしいな〜!! 心配しててくれたんだ?」 「ううん、若さんのことは別に。」 あたしの言葉に若さんはがっくりと肩を落とした。 「なんだ〜。冷たいな〜。」 「だって、若さん、どこにいても元気にやっていそうだから。それよりも、"一応"、大家さんなんだからちゃんと仕事してくださいよ!!」 「は〜い。」 どう見ても反省していそうにない若さんの返事にあたしがため息をついていると、横で見ていたリョージがぷっと吹き出した。 「あ、ごめん。」 リョージはそう言って手で口を押さえたがそれでも笑いはおさまりそうになかった。 「だって...なんだかリッちゃんの方がおねえさんみたいで...」 そう言ったらさらに笑いがこみあげてきたのかリョージはお腹をおさえながら顔を背けた。 ...ま、いいけどね...確かに、リュウちゃんにもよく「律は若のお目付け役だな(笑)」とか言われてたし...。 ふとそんなことを思い出したら急に胸がズキンと痛んだ気がして、あたしは胸に手をやった。 「リッちゃん?」 声をかけられて顔をあげると、さっきとはうってかわって真面目な顔をした若さんがいた。 まるであたしの考えていたことがわかっているようだった。 「なんでもない、大丈夫。」 あたしはぎこちなくだけどなんとか笑ってみせた。 一方、やっと笑いがおさまったリョージはあたしたちの様子にまったく気づいていないようだった。 「いや、すみません。」 「いえいえ。」 恥ずかしそうに頭をかくリョージに若さんはまたさっきのようにへろっと笑った。 「それにしても、"うわさの若さん"がこんな楽しい人だなんて思わなかったなぁ。」 「え?"うわさ"って、またみんな、人がいないのをいいことに好き勝手言ってたんでしょ?」 そう言いながら若さんはちろっとあたしの方を見た。 「"好き勝手"なんて言ってませんよ〜!!ほんとのことだけ!!」 「ほんとに〜?」 「ほんとに!!」 しばらくあたしと若さんはそんなやりとりをくり返していたがリョージがくすっと笑う声でふたりともはっと我に返った。 「い、いや〜俺も竜一の弟さんがこんなにそっくりだと思わなかったよ。竜一が化けて出たのかと思った。」 え... 「若さん、リュウちゃんに弟がいたって知ってたの!?」 「うん、学生の頃にちらっと聞いたことがあったから。」 リュウちゃんと若さんはおたがいに大学生だった頃に知り合ったそうで(学校は違ったけれど)、リュウちゃんが家を出て東京に来てから再会した、っていうことはあたしも聞いていたんだけれど...。 ...って大事なのはそっちじゃなくって!! 「若さん...リュウちゃんのこと、知ってたの?」 ためらいがちなあたしの言葉に若さんはまた真面目な顔になってふっとやわらかく笑った。 「マキがメールで知らせてくれた。」 あたしはその答えに思わずかっとなってしまった。 「そ、それなら、どうしてすぐに帰って来てくれなかったの!?」 "ほんとは若さんにもリュウちゃんのお葬式(というには簡素なものだったけれど)に出てほしかったのに..." 思わず出かかったその言葉を飲み込んだあたしは口をぎゅっと結んだ。そうしなければ涙がこぼれそうだったから。 「そんな、リッちゃん、若さんには若さんの都合があったんだから...」 リョージの言葉にあたしははっとなった。 ...そうだよね...ほんとは若さんだってすぐに駆けつけたかったんだよね...。 そう思ったあたしは若さんにぺこりと頭を下げた。 「ごめんなさい...」 「いいよ、気にしてないから。あ、それよりも、リッちゃん...」 そう言って若さんはあたしの肩を抱きながらリョージから離れていくのであたしは「?」となった。 「亮二くん、"どう"だった?」 耳元で小声でそうささやかれ、あたしはさらに「??」と首を傾げた。 「"どう"ってなにが?」 「いや、"夜のこと"とか。」 あたしはしばらく若さんの言うことが理解できなかったが..."その意味"がわかった途端、顔が真っ赤になった。 「なっ!?...あ、あたしたち、そんなじゃないから!!!」 思わず大声を出しそうになったのをなんとかおさえて言ったあたしの答えに今度は若さんが首を傾げた。 「だって、リッちゃん、亮二くんとひとつ部屋で一晩過ごしたんだよね?」 「うん。」 「...なんで"そう"ならないの?」 若さんの言葉にあたしは脱力した...。 ...そうだった...この人は"世の中すべての女性は恋愛対象"と言っていいほどの女好きなんだった...。 (だからこそ、"マキさんの愛"には答えられないんだけれどね/笑) 「ふたりで何、こそこそしてるんですか?」 「あ、なんでもない!! ね、リッちゃん?」 「うん、そう!! なんでもないよ!!」 訝しげなリョージにあたしと若さんは笑ってごまかした。 その夜、"若さんおかえりなさい会"であたしたちはまた田中さんの部屋に集まった。(今回はもちろんマキさんも参加) そして、"リュウちゃんがいた頃となにも変わらないような日々"がまた続いていくとあたしは思っていたのだけれど...。 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 気がつけば間が開きまくってしまった「東京の空の下」、お待たせいたしましたm(_ _)m(...って待っていてくれた方いるのでしょうか?^^;) そして、"必殺おちゃらけ人"(!?)・若さんの登場です(笑)(マキさんはなんでこんな人が好きなんでしょうか?/爆) 次回からは一応"シリアス編"突入、の予定です。 [綾部海 2005.1.30] |