その日の夜、急遽、田中さんの部屋でリョージの歓迎会が行われた。 メンバーはあたしとリョージとケンちゃん、田中さん、おじいちゃん。(マキさんは仕事だった) リョージは田中さんの作ってくれたごはんを「おいしいおいしい」とがつがつ食べていた。 「マキちゃんの今度の相手はあの店に新しく入ったバーテンさんらしいぞ。」 "情報通"のおじいちゃんが仕入れてきた"最新情報"にあたしとケンちゃんは「お〜!!」と声をあげた。 「またバーテン? 前もそうじゃなかったっけ?」 「あれ、前は店のお客でその前がバーテンだったと思うけど...」 「それにしても、あそこ、バーテンさんの入れ替わり、激しくない?」 「マキさんがすぐに手出しちやうからじゃないの。」 「あ、なるほど。」 料理をつつきながらそんな話をしているあたしたちにリョージはちょっと驚いたような顔をしていた。 「なんか、すごいね...」 「まぁ、商店街の"情報網"には最初、あたしもびっくりしたけどね。」 あたしがこのアパートに転がり込んできた翌日に八百屋のおばちゃんに「あんたがリュウちゃんの彼女?」と訊かれた時には何事かと思ったわよ、ほんとに。(どうやらこの情報はおじいちゃんが流していたらしい) 「そういえば、亮二さん、商店街のみんなに"リュウちゃんの幽霊"だと思われてたんだよねぇ。あれには笑っちゃった!!」 そう言ってケンちゃんはまたケタケタと笑った。 昼間、3人で"アラビカ"に行った時、マスターがびっくりするのは予想していたけれど、「君がうわさになってた"幽霊"だったのか。」と言われた時にはこっちが驚いちゃった!! どうやらリョージがうちに来た日からうわさになってたらしいけれど、みんな、あたしの耳には入れないようにしてたらしい。 まぁ、考えてみたら、リョージ、駅前のホテルとアパートを往復する時に商店街を通ってたんだしね。 「それにしても、今度こそマキちゃんを"本気"にしてくれる相手だったらいいんだけどねぇ。」 おじいちゃんはちょうど"ごちそうさま"の意味で両手を合わせていたんだけれど、あたしには"お祈り"のポーズみたいに見えてしまった。 そして、あたしとケンちゃんはおじいちゃんの言葉に"うんうん"とうなづいた。 「マキちゃんもいいかげんに"若"のことあきらめればいいのにねぇ。」 湯飲みのいっぱい乗ったお盆を持った田中さんはあたしの前にそのひとつを置いてくれた。 「う〜ん、でも、やっぱりそれは無理な気がする。」 「右に同じ。」 田中さんの言葉にはあたしとケンちゃんは揃って"反対意見"だった。 「あの〜...」 また黙ったままだったリョージがおずおずと手を挙げた。 「なに?」 「"若"さんって?」 あ、そうか。リョージは"若さん"のこと知らないんだった。 「若さんはねぇ、マキさんがも〜何年間も片想いしている人。」 「一応ここの大家さんなんだけど、ふらっといなくなってしばらく戻らないこと多いんだよねぇ。」 「え、それじゃあ結構年上?」 「ううん。年はマキさんと同じ。元はお祖父さんの持ち物だったんだって。」 「ふ〜ん。」 リョージはあたしとケンちゃんの説明にこくこくうなづくと湯飲みの緑茶をずずっとすすった。 「でも、その人、マキさんに言い寄られてよく断れるなぁ。俺ならあんな美人にせまられたらすぐ落ちちゃうかも。」 リョージの言葉にあたしたち全員噴き出してしまった。 「...なに?」 一生懸命笑いをこらえようとしているあたしたちにリョージは訝しげな顔をした。 「いや、やっぱ、亮二さん、気づいてなかったんだ...」 お腹をおさえながらそう言うケンちゃんにリョージは首を傾げた。 「...ってなにが?」 きょとんとした顔のリョージにさらにあたしたちは大笑い。 「まぁ、亮二くんが"きれいな男"が好きだというなら、別にそれはそれでかまわないがね。」 リョージはちょっとの間、まるでおじいちゃんの言っていることが理解できない、というようにぽかんとしていた。 「...え?え!? え〜〜〜!?」 パニック状態のリョージにあたしとケンちゃんはおなかをかかえて笑いまくり、おじいちゃんと田中さんはあたしたちほどじゃないけれど楽しそうに笑っていた。 「でも...どっからどう見ても女の人ですよね...」 リョージの言葉にあたしは今度は思い出し笑いでくすっとなった。 「ほんとはあたしも初めて会った時そう思ってた♪」 「まぁ、マキちゃんは"ああなる"前からかわいかったからねぇ。」 なんでも、例の"若さん"とマキさんは高校の同級生で、その当時からこのアパートに住んでいた若さんのところへマキさんはよく遊びに来ていたんだって。 (その頃は"純粋に友達関係"だったらしい(笑)) で、若さんよりも先にここに住んでいたおじいちゃんと田中さんは高校生ふたりとよくおしゃべりしたり、食事をごちそうしていたらしい。 そんな思い出話をリョージは興味深げに聞き、あたしとケンちゃんも笑ったり驚いたりしていた。 そして、あたしは昼間ケンちゃんにからかわれたことを意識する間もなく、部屋に戻った途端に爆睡してしまった(笑) ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ というわけで"マキさんの正体判明編"(笑)(でも、マキさん本人はまったく登場せず(爆)) ちなみに、"マキさんの想い人・若さん"は次回登場します ̄m ̄ ふふ そして、"ふたりの過去"についてもまたあらためて...(←別にいらない?) [綾部海 2004.11.18] |