チョキチョキと銀色のハサミが魔法のような動きで髪の毛を切り落としていく。 あたしは目を閉じてその音を、感触を楽しんでいた。 「それにしても、前から思ってたけれど、リッちゃんって"大胆"というか"無鉄砲"というか...」 "魔法使い"・ケンちゃんは魔法のハサミをあやつりながらあたしの後ろでふーっとため息をついた。 「...そんなことないもん...」 あたしは前を向いたまま口をとんがらがせた。 「じゃあ、なんで亮二さんに"あんなこと"言ったの?」 「あれは、その...」 「はいはい。ちゃんと前向いてて。」 反論しようと思わずケンちゃんの方に顔を向けたあたしをケンちゃんは両手できっちり"軌道修正"した。 「もし、リュウちゃんがいたら、同じこと言ったんじゃないかなぁ、と思って...」 「ふ〜ん。」 ケンちゃんの冷たい返答がぐさっとささった。 確かに自分でも無理のある言い訳だとは思うけどね...。 「ほら、リュウちゃん、やさしいから、せっかく来てくれた弟にホテル代払わせるの悪いって...」 「でも、いくらリュウちゃんでもあのせっまい部屋に大の大人3人で寝泊りしようとは思わないと思うけどね。」 うっ...!! なんとか"言い訳を言い訳っぽく"しようと続けた言葉はケンちゃんにあっさり看破された。 あたしははずかしさとくやしさで自分の顔が赤くなるのを感じた。 きっとケンちゃんはおもしろそうに笑ってるんだろうなぁ...今の状態じゃ見れないけど...。 「で、今、亮二さんは?」 「午前中にはホテル、チェックアウトしてくる、って言ってたけど...」 "もしよかったらここにいない?" 昨夜のあたしの"爆弾発言"にリョージもびっくりした顔をしていた。 「え...あ、でも...」 「だって、ホテル代だってバカにならないし、リュウちゃんもいつも"お金は大事にしなきゃ"って...あ」 あたしが思わず口をおさえると、リョージはくすっと笑った。 「それじゃあ...お言葉に甘えちゃおうかな。」 リョージがそう言ってくれたのであたしはほっとした顔になった。 「でも、とりあえず、今夜はホテルに戻るよ。どうせ今日の分はお金取られちゃうし。」 いたずらっぽく笑うリョージにあたしは穴があったら入りたい気分になった。 「それじゃあ、今晩からここで暮らすんだ。」 「う、うん。」 "暮らす"ったっていったいいつまでなんだろう...、とぼんやり考えながらあたしはうなづいた。 「それで、リッちゃん、急に"髪の毛切って"なんて言い出したんだ。」 「は?」 ケンちゃんこそ急に何言い出すのよ、まったく!? 「だって、今日は言わば"初夜"でしょ?」 「"しょ"!?」 「うそうそ。冗談だって。」 あたしがまた後ろを向きそうになったのをケンちゃんは両手で戻した。 じょ、冗談でも言ってもいいことと悪いことがあるでしょ!? 「リッちゃん、いくらリュウちゃんと同じ顔だからって亮二さんのこと襲っちゃだめだよ♪」 「あたりまえでしょ!!」 ケンちゃん、絶対に!!おもしろがってるな、これは...(怒) と、その時。 「...こんにちは。」 あたしたちの目の前には大きなスポーツバッグを肩からかけてリョージが立っていた。 やばっ!!...今の、聞かれた!? ちなみに、今、あたしたちがどこにいるのかというと...ケンちゃんちの前に新聞紙広げてイス置いてやっていたのでした(笑)(ここだと掃除が楽だから) でも、リョージはあたしたちの話については何も言わず、あたしとケンちゃんをまじまじと見て「へぇ〜」と声を上げた。 「上手いもんだねぇ。」 「ケンちゃんは美容師のたまごだから。」 「あ、道理で。」 「いえいえ、まだまだ修行中ですから。」 ケンちゃんは口では謙遜していたが顔はうれしそうな感じだった。 ケンちゃんは駅前の美容師学校に通う学生さんで仕送りもしっかりもらっているくせにこの"格安オンボロアパート"に住んでいるのは、将来お店を出すための資金を今からためているからなんだって(笑) そして、「見学(!?)させてほしい」というリョージに見られながら、ケンちゃんはあたしの髪の毛をチョキチョキと切って行った。 「はい、終わり。」 そう言うと、ケンちゃんはあたしのかけていた大きなケープをはずすとついていた髪の毛を下に落とした。 「ありがとう。」 あたしはケンちゃんに渡された鏡で前髪などをチェックした。 「リッちゃん、長いのも似合うからまた伸ばせばいいのに。」 残念そうに言うケンちゃんにリョージは驚いた顔になった。 「え!? 髪の毛長かったの!?」 「ここに来たばかりの頃は背中のあたりまであったんですよぉ。」 「あ、でも、やっぱ長いとシャンプーの時、水道代とかバカにならないし、ね。」 あたしの言葉にはふたりは噴き出して笑った。 「な、なんかリッちゃんらし〜!!」 ケンちゃんはあたしを指差しながらそう言うし、リョージも隠そうとはしているけれど明らかに笑っている様子。 あたしはぷいっと顔を背けた。 ...ほんとの理由は違うんだけどね...。 その時ちょうど正午の時報が鳴ったので、3人であたしのバイト先である"喫茶アラビカ"にお昼を食べに行くことにした。 アパートを出てちょっと行ったところでマキさんにばったり出会った。 マキさんはリョージを見てびっくり顔になった。 「マキさん、この人、リュウちゃんの弟。」 「はじめまして、勝又亮二です。兄が生前お世話になりました。」 そう言って深々と頭を下げるリョージをマキさんはぽかんとした顔で見ていた。 「あ、そうだったんだ...びっくりした〜。」 ひとり言のようにそう言うマキさんはなんだか疲れているようだった。 あれ、そういえば、マキさんがこんな時間に帰るのめずらしいかも...。 ふと隣にいたケンちゃんと目があった。 たぶんケンちゃんも同じこと考えているみたい。 「マキさん、これからお昼食べに行くんだけどいっしょにどう?」 「あ、でも、ちょっとこれからまた出かなきゃいけないから...また誘ってね。」 ケンちゃんの言葉にマキさんはにっこりと笑ったがやっぱり力ない。 「それじゃあ、亮二さん、リッちゃんのことお願いしますね。」 「あ、はい。」 マキさんがぺこりとするとリョージもつられて頭を下げた。 ...ってなんであたしのこと、"お願い"するの!? そして、マキさんはそそくさとアパートに入って行った。 「"また"だね。」 「うん、絶対そうだね。」 意味不明なケンちゃんとあたしのやりとりにリョージは首を傾げた。 「なにが"また"なの?」 「あのね、マキさんはずっと好きな人がいるんだけど、その人が全然相手にしてくれないんですよ。でも、その人があきらめきれないマキさんはちょっと優しくしてくれる人がいるとついふらふらといっちゃう、と...」 ケンちゃんの説明をリョージはふんふんときいていた。 たぶんマキさんは今日も仕事が終わってからその"彼"のところを経由して帰ってきたのだろう...(ためいき) 「へ〜。あんなキレイな人なのにねぇ。」 「ね〜。」 しみじみそう言うリョージにあたしとケンちゃんは冷や汗まじりにうなづいた。 「ねぇ、亮二さん、絶対に気づいていないよね?」 「うん、でも、まぁ、"そう"思っているなら無理に言わなくても...」 「どうかした?」 「あ、なんでもない!!」 小声でぼそぼそと"密談"していたあたしたちはあわててちょっと先にいるリョージの後を追いかけた。 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ え〜なんと5ヶ月ぶりの「東京」ですm(_ _)m(リッちゃんごめん!!) なんだかいろいろ"謎"な発言が多いですが、その"種明かし"(!?)はまた追々と...。 次回、マキさんの"正体"が明らかに!?(もうバレバレ?^^;) [綾部海 2004.10.25] |