コツコツ。 あたしは玄関のドアをノックする音で目を覚ました。 昨夜みんなと別れた後、結局テーブルに突っ伏したままねむってしまったらしい。 畳の上に直接置かれた目覚まし時計を見たらまだ7時過ぎだった。 ...まさか、もうリョージが来たの!? コツコツ。 あたしがどうしようかと迷っているとまたドアがノックされた。 しのび足でドアに近づき、おそるおそる覗き穴から見てみると...マキさんだった。 あたしは内心ほっとしながらドアを開けた。 「ごめんね、こんな時間に。」 マキさんは申し訳なさそうに首を傾げた。 あたしは笑顔で首を振った。 「あら!! リッちゃん、目、真っ赤じゃない!! ちゃんと寝なきゃだめよ!!」 マキさんは突然あたしの顔に両手で触れるとじっと顔をのぞきこんだ。 あたしは困ったように力なく笑った。"ちゃんと寝ろ"って言われてもね...。 「マキさんは今、仕事帰り?」 「うん、そうなの。あ、それでね...」 そう言うとマキさんは腕に下げていたブランドもののバックに手をやった。 バックからは透明なセロファンでラッピングされた白いバラ一輪が顔を出していた。 「これね、お客さんからもらったんだけど、もしよかったらリュウちゃんに...」 マキさんはおずおずとあたしにバラを差し出した。 その白いバラはとてもきれいだったけれど、マキさんはどちらかと言えば赤やピンクのバラの方がお似合いだった。 "お客さんにもらった"と言っているけれど、ひょっとしたらマキさんが自分で買ってくれたのかもしれない。 あたしはそんなことを考えながら、マキさんからお花を受け取った。 「ありがとう。きっとリュウちゃんもよろこぶよ。 ...あ、でも...」 「なに?」 「どうしよう...うち、花瓶ないかも...」 あたしもリュウちゃんも花を飾る習慣はなかったし(そんなお金があったら別のことにまわすので(笑))、ずっと貧乏暮らしで花瓶なんて気の利いたものあるわけがなかった。 「あ、それならね、茎短くしてコップかなにかに生けてみたら?」 「なるほど〜。さすがマキさん!!」 マキさんはあたしの言葉に照れたようでちょっと赤くなった。そんなマキさんは年上なのになんだかかわいいのだ(笑) 「じゃあ、おやすみ、リッちゃん。」 「おやすみなさ〜い。」 あたしは軽いあくびをしながら自分の部屋へ向かうマキさんを手を振って見送った。 そして、バラを片手に玄関のドアをパタンと閉めた。 「これでよし!!」 あたしはマキさんのアドバイス通りに白いバラをいつもリュウちゃんが使っていたコップに生けて、リュウちゃんの写真の横に並べた。 さて、これからどうしよう。 マキさんの言うようにまだまだ寝不足だけれど、もうねむる気になれないし...。 あ、そうだ。 とあることを思いついたあたしはバスタオルや着替えを準備してバスルームに向かった。 コツコツ。 あたしが"リュウちゃん"の本棚の前で髪の毛をタオルでごしごしと乾かしていると、また玄関のドアがノックされた。 またこっそりドアに近づき覗き穴から見てみると...今度はリョージだった。 あたしが不機嫌な顔でドアを開けるとリョージはにっこり笑った。 「おはようございます。」 「...ずいぶん早いんですね。」 たぶんまだ8時になったかならないかという時刻のはずだ。 「ほかにすることもないし、話し合いにたっぷり時間かかりそうだと思いまして。」 「"話し合い"?」 「まぁ、立ち話もなんですから。おじゃまします。」 リョージはドアを全開にするとあたしの横をするっと通り、勝手に中に入って行った。 あたしはしかたがなくドアを閉めるとリョージの後につづいた。 リョージはあたしたちの"リビング兼食堂兼寝室"の真ん中に立ってあちこちきょろきょろ見回していた。 「昨日はちゃんと見られなかったけれど...竜一、こんなところに住んでいたんだ。」 「"こんなところ"ですみません。」 リョージのひとりごとにカチンときたあたしは憎まれ口で返した。 「え、あの、そういう意味じゃ...」 あたしの発言にひとりあせりまくるリョージを無視し、あたしは手早くインスタントコーヒーを淹れテーブルの上に置いた。 「あ、すみません。」 リョージはテーブルの前に座ると、ちょっと困ったような顔でコーヒーカップをのぞきこんでいた。 「なにか?」 「あの...砂糖とミルクいただけますか?」 おそるおそる訊ねるリョージの前にあたしはシュガーポットとパック入りの牛乳をどんっ!!と置いた。 「ありがとうございます。」 リョージはうれしそうにコーヒーに砂糖と牛乳を入れるとまた止まった。 「すみません、スプーンも...」 台所に立っていたあたしは思わずがくっと脱力しつつも、食器棚の引き出しからスプーンを出しリョージに渡した。 リョージは申し訳なさそうにスプーンを受け取るとコーヒーを何度かかき混ぜて、カップに口をつけた。 あたしはそんなリョージを見ていて思わずため息をついた。 まったく!! リュウちゃんはコーヒーはいつもブラックだったんだから!! この人なんて思いっきり"子供"じゃない!! いつも砂糖にミルク入りじゃないとコーヒーを飲めないあたしにリュウちゃんが同じようなことを言っていたのを思い出してしまった。 最初はそっくりだと思ったけれど、やっぱりリョージはリュウちゃんと違う...全然似ていない...。 「あ!!」 大事なことをすっかり忘れていたあたしはあわてて目覚まし時計に駆け寄った。 やばい!! 遅刻しちゃう!! 髪の毛は半乾きだし化粧もしてないけれどしかたがない...。 あたしは財布や口紅をバックに放り込み、携帯をジーンズのポケットに入れた。 「あれ?律さん?」 玄関へと急ぐあたしの後ろからリョージの声が追いかけてきた。 「あたし、出かけますんで!!」 あたしは玄関口でそれだけ言うとあわてて外へ飛び出した。 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ さて、リッちゃんはどこへ行くのでしょうか?(自分で言うな?) マキさんが書いていて楽しい(^^♪ でも、下手すると"マキさんの日常物語"になってしまうので注意!!(笑) [綾部海 2004.4.6] |