ファーストクリスマスイヴ
Part 2:鈴

クリスマスイヴの夕方、わたしはいつものように近所の堤防へ行った。
そして、やはりいつものように、ビーグル犬の小太郎と遊んだり、コタの飼い主の凛さんとおしゃべりしたりした。
凛さんとわたしは一応、半年ぐらい前から"つきあって"いるんだけど、特別なんにもなくて(あ、キスは2回したけれど…)、ほとんど毎日堤防で会っているだけ。
内心、凛さんとどっか出かけたりしたいなぁ、って思っているけれど、凛さんはいろいろ事情がある人だし、こうやっているだけでもしあわせだから、まぁいいかな、などと自分に言い聞かせたり…。
でもね、ほんとは、このクリスマスはちょこっとでも凛さんとデートできないかな、ということで、凛さんに「クリスマスあいてる?」ってきこうと思っていたんだけれど…
結局、言い出せないままイヴになってしまったのでした(涙)

そうこうしているうちに、堤防のそばのスピーカーから4時半をつげるサイレンが鳴った。
そして、凛さんはいつものようにコタのおもちゃを片づけ始め、わたしも立ち上がると服についた草を払ったりした。
やっぱり今日も凛さんに言えなかったなぁ。
わたしがそう思いながら深々とため息をついていると…
「鈴ちゃん、駅前にできたケーキ屋さん行ったことある?」
予想外の凛さんの質問にわたしは首をかしげた。
「ある、けど…」
「今日、帰りにケーキ買ってくるように言われたんだけど、あのお店はどうかなぁ、って思って。」
「あ、うん、あのお店の、おいしかったからいいと思う。」
「でも、あそこの感じ、かわい過ぎて、俺ひとりで入るのなんか恥ずかしいから…鈴ちゃん、いっしょに行ってくれない?」
一瞬、わたしは凛さんの言葉にきょとんとなってしまったが、すぐに笑みが浮かんできた。
「うんっ!!」
すると、凛さんもにっこり笑って左手を差し出した。
そして、わたしが凛さんの手を取ると、待っていたかのようにコタが凛さんの右手のリード(引き綱)を引っ張って歩き出した。

まぁ、"ちょっと寄り道"って感じだけど、こんなデートも悪くないかな♪



「あ、そうだ、わたしも加奈たちに買っていこうかな。」
ケーキ屋さんのショーウィンドーに並ぶ数々の"誘惑"に負けてしまったわたしは、そう言い訳して、ケーキを選び始めた。
"今日(というか"今夜"だよね、もう)のパーティ"の話をすると凛さんはにっこりと笑った。
「いいなぁ。俺なんか明日しめきりだから、今日は徹夜で仕事しないと…」
「え!? それじゃあ、早く帰らなきゃ!!」
「うん、でも、もうちょっといっしょにいたいなぁ、って…」
そう言うと、凛さんはわたしの指先をちょこっと握った。
わたしはもう顔が真っ赤になって何も言えなくなってしまった。

そして、白い箱を外へ出ると、お店の前で待っていたコタがうれしそうに「ワン!!」と鳴いた。

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