白い天使が降りてくる
〜X'mas マジック〜

「会いたかったわ、カイ。」

にっこりと笑ってそう言ったとこまではよかったんだけど...。
「えっと...あの...」
私はそれから何を言ったらいいのか、どうしたらいいのかわからなくなってしまった...。
だって、10年ぶりにカイに会えたと思ったらなんだか緊張してしまって...!!
心臓はドキドキするし、顔もきっと赤いんだろうなぁ...。
そうやってひとりでおたおたしている私にカイはくすっと笑った。
「お散歩しない?」
「え?」
私が頭で理解する前に、カイは私を抱きかかえて飛び立った。

そして、カイは病院の屋上まで来ると、私は縁に座らせた。
普段ならこんなところ、こわくて絶対に座れないと思うけれど、カイといっしょだったせいか全然こわくなかった。
あ、考えてみたら私、寝間着のままじゃない!!(一応、ストールははおっていたけど)
足だって裸足だし...。
ほんとはこの日のために(!!)お気に入りのワンピースを用意してあったのにぃ。
おまけに寒い!!
雪でも降りそうな中こんな格好でいたら寒いに決まってるじゃない!!
私が頭の中でいろいろ考えながらガタガタ震えていると、カイが私の頭をぽんとなでた。
すると...!!
いままでの寒さがウソのように消えてしまった...!!
手も足も何も着けていないのに全然冷たくなくて逆に暖かいくらい。
私は思わず自分の両手をまじまじと見つめてしまった。
隣に座ったカイはそんな私をにこにこと見ていた。
「...何したの?」
「秘密。」
カイはにっこり笑った。

「約束ちゃんと守ってくれたんだね。」
カイの言葉に私は驚いた。
「な、なんでわかったの!? やっぱり天使だから!?」
「あ〜...そのことなんだけど...ひぃにあやまらないといけないんだ...」
「何を?」
私は首を傾げながらカイを見た。
「えっとね...前に"僕が天使だから約束を破ってもわかる"って言ったけどね...あれ、嘘なんだ...」
カイの言葉に私は目を丸くした。
「え〜!! じゃあ、カイって天使じゃないの!?」
「いや、そこじゃなくて後の方なんだけど...でも、"こっちの世界"で言う"天使"とは確かに違うかも...」
私はさらに首を傾げた。
「よくわかんない。」
カイの話しているのは確かに日本語なのに、言いたいことがまったくわからない。 第一、"こっちの世界"ってどこよ?
カイは難しい顔をしている私を見てくすっと笑った。

「つまりね、ひぃの知ってる"天使"って"神様の使い"でしょ? で、僕の住んでいるところにも"神様"はいるんだけど、こっちとはちょっと違ってて...」
「どんな風に?」
「なんて言ったらいいのかなぁ...えっと、こっちで言えば...ダイトーリョー?...じゃなくて、ニッポンはシュショーだっけ?」
「"シュショー"? あ、"首相"のことね。」
「そうそう。 僕らの世界の"神様"はこっちで言う"首相"みたいなもんなんだ。」
カイの言葉に私はさらに「?」となってしまった。
首相が神様? あんなおじさんがどうして神様なの!?
「で、その"神様"の下で働いているのが僕たち"天使"。 ランクはいろいろあるんだけど僕くらいじゃあ"地方公務員"ってところかな。」
"天使"が"地方公務員"? なんだか一気に身近、というか庶民的になっちゃったんだけど...。
"信じられない!!"という顔の私を見てカイはちょっと困ったようにちょっと楽しんでいるように笑った。
「要するに、ひぃが住んでいるこの世界と僕の住んでいる世界では"神様"というものの考え方が違うんだ。 ひぃたちには"神様"ってすごく尊いものなんだろうけれど、僕たちにとっては"神様"とはある意味"単なる会社の上司"なんだよ。」
なんか、家にいたときにパパが夕飯食べながら「上司がどうのこうの」とか言っていたの思い出しちゃったわ...。
「なんだかカルチャーショック...」
「うん、逆に僕もこっちの世界の"神様"のことを知ったときは驚いちゃったけれどね。」
カイはクスクスと笑った。
「それで、ひぃが約束守ってくれたのがわかったのは神様が教えてくれたからなんだ。」
「え!? 神様ってそんなことがわかっちゃうんだ!? じゃあもし私が約束破ってたらどうなってたの?」
「う〜ん...天使総動員でひぃにおしおきしに来たかもね♪」
にっこり笑うカイに私は心の中で「危ない、危ない...」と思っていた...。
でも、実はカイの世界の"神様"ってすごいんじゃないの?
カイもいろいろ不思議なことができるんだし...。

「それで、天使には、大事な任務があってね...」
また考え込んでいた私は途切れ途切れのカイの言葉に顔を上げた。
「...今日、僕が来たのは...」
「私を連れに来たんでしょ?」
言いずらそうに一言一言かみ締めるように話していたカイは私の言葉に驚いた顔をした。
「...知ってたの...?」

10年前のクリスマス。
"誰にも言わない"と約束をしたけれど、昨夜のことが本当かどうかわたしは確かめたくなった。
考えてみたら陽子ちゃんもカイと会ったのだ。
ほかの人だとまずいけど陽子ちゃんにならいいだろう、と思ったわたしは4階のとある病室に向かった。
でも、"集中治療室"と書かれたその病室は確かだれでも簡単に入れるわけではなかったはずだ。
困った私はその病室のそばをうろちょろしていたら看護師さんが声をかけてきた。
「ひぃちゃんどうしたの?」
「あのね、陽子ちゃんに会いたいんだけどだめ?」
すると看護師さんはなんだか困ったような暗いような顔になった。
「...残念だけど...」
わたしは看護師さんの言葉に仕方なく自分の病室に戻った。
部屋に戻るとちょうどママが来ていたのでふたりで1階の売店に行った。
ママとマンガ雑誌を買っていいかどうか交渉(!?)していると、ある人が売店の前を通り過ぎた。
「あ、陽子ちゃんのママ...」
前に陽子ちゃんといっしょに遊んでいたときにお菓子をもらったりしたのだ。
あの時はすごく明るくて美人のお母さんだと思ったけれど、今日はなぜか暗く悲しそうな顔していた。 おまけに泣いた後にように目が真っ赤だった。
そして、隣の陽子ちゃんのパパらしい男の人もそんな様子で、ふたりはとぼとぼと売店の前を通り過ぎていった。
「どうしたのかなぁ...?」
ママとわたしは黙ってふたりの後姿を見つめていた。
わたしが陽子ちゃんが亡くなったことを知ったのはこの日の夕方だった...。

わたしはこの時はまだわかっていなかった。
カイが現れた意味を。 カイが陽子ちゃんといた意味を。

「あの日は陽子ちゃんの"番"って言ってたもんね。」
私がその言葉の意味を理解したのはあれから何年もたってからだった。
そして、そのことを知ってから私は自分の時もカイが来てくれるようにと願った。
神様に仏様に、願いを叶えてくれそうな人(!?)みんなにお願いしまくった。
「でも、ほんとにカイが来てくれるなんて...」
にっこり笑う私にカイも笑った。
「どの天使が迎えに行くかは"神様"が決めるから、ひぃのお願いがかなったってことかもね。」
やっぱりお願いはしてみるものなのね!! "神様"ありがとう!!
私は空の上にいるであろうカイの世界の"神様"に心の中でお礼を言った。 たぶん伝わっているよね。

「そういえば、"ひじり"って"聖"って書くんだね。」
カイの言葉に私はびっくりした。
「なんで知ってるの!?」
10年前に会った時にはそこまで話さなかったはずなのに...。
カイはにっこり笑った。
「なんせ"大切なお客様"なんだからあらゆるデータを知っておかないとね。」
"大切なお客様"...。
その言葉に私はちょっと暗い表情になったがカイは気づいていないようだった。
「いい名前だね。」
「ありがとう。とても気に入ってるの。」
17年前のクリスマスに重い病気を抱えて生まれた私に両親が与えてくれた名前。
パパとママはクリスマスが来るたびに私が無事誕生日を迎えられたことをお祝いしてくれた。
でも、今年は...。

「それで、話を戻すけど。」
カイはまじめな顔で私を見た。
「ひぃを"僕らの世界"に連れて行くのが僕の仕事なんだけど、その前にも大事なことがあってね。」
「"大事なこと"?」
「うん。"ヘブン"に行く前にその人の願いを三つ叶えるのが僕の仕事なんだ。」
そっかぁ、向こうの世界は"ヘブン"って言うんだぁ...ってそっちよりも!!
「三つの願い、ってどんなことでも!?」
「う〜ん、なんでも、ってわけにはいかないけれど...大体のことはできると思うよ、たぶん。」
"たぶん"っていうのがちょっとあやしいなぁ(汗)
でも、突然そんなこと言われても...お願い事、お願い事...。
「あ!!」
「何? 思いついた?」
カイは"待ってました!!"とばかりに私の顔をのぞきこんだ。
「私、ひとつめのお願いはもう叶ってるよ。 だってカイが来てくれたんだもの!!」
「あ、でも...それは僕が叶えたわけじゃないから...」
カイは困ったように笑った。
じゃあ、ひとつめの願いはやっぱり...。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

前回書き忘れましたが、タイトルはRAG FAIRの曲から♪(CD買っちゃった!!←今日だけど^^;) でも、"カップリングの「X'mas マジック」の方が合ってるかも..."と今頃後悔...(ーー;)(こっそりとサブタイトルはこちらで...)
ちなみに、カイは"綾部設定"(!?)の人なのでわりとなんでもありな感じです^_^;(おいおい) "神様設定"わかりにくくてすみませんm(__)m
そして、もう一回だけ続きます...m(__)mm(__)m
[綾部海 2003.12.19]

back / next
text top



Photo by Primore