アンバランス NO.3 テスト錬成と組み手
部屋を出て、エドワードと弟のアルフォンス、それに旅に同行しているの三人は、自分達の泊まっていたホテルの裏手にある林に足を運んだ。
「兄さん。よく、ホテルの近くに林があるなんて知ってたね」
アルフォンスは、感心したかのように、の姿であるエドワードにそう言った。
「まぁな」
ふふんっ。と自慢気にエドワードは、口元だけ笑みをつくってみせる。
しかし、この場所を知っていたのは、エドワードだけではなく。
「・・・ねぇ、私も知っていたよ。此処に林があること」
実は、も知っていたのだ。
「「えっ!?」」
の意外な発言に、アルフォンスとエドワードは、驚いたようで綺麗に声が重なった。
「だって、自分の泊まっていた部屋から見えたもの」
「そうなんだ・・・」
は、手を持ち上げ、自分の部屋であった窓に向けて指をさし示す。
「ちぇっ・・・」
自分だけが知っている場所だと、思っていたエドワードは、面白くないように二人から、ふいっと顔を背ける。
「あっ、エド・・・拗ねないでね」
「そうだよ、兄さん」
控えめにそう言って、エドワードの様子を窺い見る。
の言葉に、アルフォンスも付け足す。
「わーってるよ。うっさいな」
ワザと、言葉を吐き捨てるかのように、エドワードは答える。
別に、それくらいのコトでは、怒ったりしないが、がいつも以上に、自分に気を遣っているような、そんな気がエドワードにはしたのだった。
エドワードとがお互いに、大切に想っている・・・好きなのは、アルフォンスも知っていた。
だから、あまり口を出さない、お節介なことはしないようにしていた・・・そんな矢先の出来事で。
エドワードの方はそんなではないが、これをきっかけに、エドワードとの関係が壊れてしまうのでないかとも思い、アルフォンスは心配で仕方がなかった。
「・・・じゃあ、手始めに、」
ふう。と軽く息を吐き、エドワードはある一本の木に手を掛け、の方を振り向く。
「なっ、何?」
エドワードから、自分の名を呼ばれ、は返事をする。
「この木を何かに・・・そうだな、椅子に錬成させてみろよ」
「えっ!?いっ、椅子に?」
落ち着きのあるエドワードに対して、は少し戸惑い気味に答えた。
果たして、出来るのだろうか・・・?
いくら、エドワードの身体だとしても。
自分には無理なのではないだろうか?という不安が、心の中から生まれてきてしまう。
「。まず、頭の中でイメージを作って・・・そして、錬成する」
「うっ、うん・・・でも・・・」
一応、頷いてはみたものの、やはり、から不安は消えることなく。
ちらっと、自分の姿であるエドワードに目を向ける。
エドワードは、すぐに、の何かに勘付く。
自分の顔でありながら、不安があってしょうがないというの顔が目に映る。
少し、間をおいて、エドワードは口を開いた。
「・・・。お前なら、大丈夫だろ。大丈夫。オレの身体を・・・オレを信じろ、いいな」
その瞬間、一瞬であるが、は自分の姿とシンクロするように、エドワードの強い・・・
真剣な眼差しが見えたのだった。いつもの、あの強気な笑みと共に。
「うん、わかった!」
は前より、力強く、しっかり頷いて木と向き合う。
そのの後ろ姿を、静かにエドワードとアルフォンスは見守る。
すーっと、深く呼吸し、頭の中で物のイメージを作り、両の手の平を胸の前で合わせ、木に両手を付ける。
バシッ!と光が散り、ピカッとその場が明るくなり、木が段々収縮して・・・次の瞬間、三人の目の前にシンプルなデザインの椅子が現われた。
「どっ、どうかな・・・?」
恐る恐る、エドワードとアルフォンスがいる方向を、振り返る。
「うわぁ〜。すごい良いよ。シンプルで」
エドワードが口を開くより先に、アルフォンスが声を上げた。
「兄さんがやると、派手になるからね〜。流石は、だね」
どうやら、アルフォンスは、気に入ってくれたようだ。
「そっ、そんなことないよ。・・・えっと、エド・・・どうかな?」
アルフォンスの言葉に、照れながら、は両手を左右に振って答え、エドワードに声を掛けてみる。
「―――あぁ。いいんじゃないか。こんなものだろ」
ふっと、軽く笑いと視線を合わせる。
「ありがとう!良かった・・・」
エドワードの意見に、はホッとし、胸を撫で下ろす。
「だから、言っただろ?」
「うんっ!」
自然に笑顔になる。そんな二人を見て、アルフォンスは少し安心する。
「さてっと。じゃあ、次は組み手だな!」
「えぇ!?やっぱり、やらきゃ・・・ダメ?」
エドワードの発言に、は焦ってしまう。やはり、やらなきゃダメなのだろうか・・・?
「当然っ!!」
「うぅ・・・」
エドワードに強く、"当然"と言われて、は言葉を詰まらせる。
「平気だよ、」
そんなに、優しく、アルフォンスが声を掛ける。
「うっ、うん」
戸惑いながらも頷く。
「・・・。今さっきも言っただろ?」
"オレの言ったことを思い出せ"
とエドワードは付け加える。
「―――うんっ!わかった!!やってみるよ」
「よしっ!上出来!!」
お互いを理解し、信じ・・・励まし合い、そして、二人はまた一歩近付く。
一言後書き・・・まだまだ、ややこしいですね;すいません;;
今回は、エドに格好良い台詞を言って貰いました。
"オレを信じろ"と云う台詞が個人的に好きなもので(苦笑)
次は、間章ということで、少しギャグ目で書いていきたいな、と思っております。
御感想など、頂ければ嬉しいです。
2004.6.17.ゆうき