音源メディアの変遷 


1960年代の録音事情〜録音ソース・記録メディア

アナログ音源再生計画


メディア年表では21世紀である現代の録音事情についての話題を掲載しましたが、ここでは1960年代の録音事情について掲載します。

管理人自身が録音したもの、「オープンのデジタル化サービス」で受け付けたものの録音内容からその時代の背景や録音ソース(録音の元になる音源)、記録メディアなどについての話題です。

録音メディアの主流はオープンリール
管理人が初めて録音機(オープンリール)に触れたのは小学校高学年の頃です。すでにカセットテープというものは開発されてはいたのですが、見た記憶はありませんでした。当時の価格表を見るとカセットは録音機器・テープともオープンに比べると高価で、そのワリには音質がイマイチという評価でした。

60年代のカセットテープの用途は車での再生で、録音済音楽テープとして発売されるものから普及していったようです。

反面オープンは60年代後半には家庭用として電池駆動のポータブル録音機が普及し屋外での録音も可能となったのであえてコストパフォーマンスの悪いカセットを選ぶ必要が無かったからだとも言えるでしょう。

テープサイズは最初7号だったものがテープベースの改良により小サイズで長時間録音が可能になり5号、3号と小型化し速度は9.5cm、2トラックモノラル両面録音というパターンが圧倒的です。

オープンデッキは60年代後半にはオーディオマニア向けの据え置き型も発売されており、録音済みの市販レコーデットテープもかなり市場に出回っていました。価格はLPレコードより高価で音質にばらつきがあり、一般家庭ではマイクとセットになったモノラルのポータブル録音機が主流という状況でした。

また当時は、都市部では○○スタジオという独立系の録音会社もかなりあったようで、音楽発表会の録音テープの一部にプロに依頼したものも見受けられました。
 

 左画像はプロに依頼した録音テープでSINGLE(フルトラック)で記録されています。なお録音機は3種類用意されていてDENONのDN-31Rと記載されていました。





録音ソースと内容
若い方が自分達の親の世代として興味を持つのは60年代にはどんな音源を録音していたんだろうか?という事ではないでしょうか。

内容は現代に比べ様々です。現代では録音=音楽という捉え方が圧倒的だと思いますが当時は、今でいうビデオカメラによる家族の記録と同じ感覚だと思っていただければいいでしょう。

画像まで録画できる機械なんて放送局ですら高価なため重ね録りしていた時代ですから、庶民はせめて音声だけでも録っておきたかったという事です。

※具体的な録音内容は管理人の所有物以外プライバシーの関係上掲載しませんが、内容のほとんどは以下に紹介するようなジャンル分けができると思います。

音楽録音
音楽録音のナンバーワンは圧倒的に学校の音楽系クラブの演奏テープ。特に吹奏楽が多く、ほとんどが高校・大学のクラブです。中には全国大会レベルの高校の録音もあります。合唱部・コーラス部の録音も多い。大学に限ればマンドリンクラブやジャズの演奏も聴かれます。
 現在でも発表会の録音は残していると思いますが、大抵当時の部長が大切に保管している可能性が高い。
 クラブの演奏は学生に偏っており社会人のコーラスや演奏は希です。まだ社会人がそれ程余裕がある時代ではなかったのか、たまたまなのかは私にも良くわかりません。

昭和30年代後半〜40年代にかけて一時ピアノを子供に習わせるのがブームでした。その割りには子供のピアノ独奏というのはあまり聞かれませんでした。
 また、60年代に限っていえばフォークの歌や演奏は部活での演奏に比べると少ないようです。

オープンリール復刻図鑑に掲載しているSONYの用途別テープの箱のデザインどおり当時はピアノレッスンはブームだったのですが。。。(左画像)

後は鼻歌も実に多い(^^;これって音楽とは言わないかも知れませんが当時の流行歌で録音時期がわかり貴重な資料です。

家族の会話、子供の声
復刻を希望されるテープとしては部活の演奏と並んで多いのが家族の会話や子供の声の記録です。
 玄関の開け閉めの音も良く収録されているのですが、どの家庭も「ガラガラ〜バシャン」という引き戸の音が年代を象徴しています。夕食時の会話の向こうからはテレビで坂本九ちゃんの明るい歌声が聞こえてきます♪。こうした家族団らんの録音からは日本が本当に元気だった60年代がリアルに伝わってきて自分もその時代にタイムスリップしたような錯覚におちることもしばしばあります。

子供の声や歌も家族の貴重な録音として非常に多くのテープで聞かれます。しかし子供はマイクの使い方を知らないので極端に大きい声で音が割れてしまっている録音がほとんどでデジタル化に際してもレベル設定が難しい。

さらにやっかいなのは赤ちゃんで、親が必死にマイクを向けても少しも声を発してくれません。「何か言ってごらん」と一生懸命語りかけるお父さんの音声だけがしっかり録音されていていじらしさを感じます(^^;赤ちゃんの記録だけはビデオには逆立ちしてもかないませんね(涙)

テレビ番組
これは歌謡番組、特に紅白歌合戦を録音したテープが多いですね。私も一部録音したテープがあります。60年代の紅白はNHKに映像が残っており今でも衛星放送などで放映されますが貴重なのは、家族の声が入っている事です。(ライン録音でない)「あ、○○(歌手名)だ!」「この○○嫌い」とか勝手に家族が批評しあったり、一緒に口づさんだり「国民的番組」といわれた紅白の最も視聴率が高かった古き佳き時代の雰囲気が伝わってくるようです。

管理人はテレビテーマソング集のテープを何本か録ったのですが復刻依頼という面ではほとんどありませんでした。子供向けの人気テレビ番組のテーマは現在でもCDで復刻されているので希望が無いだけで実際には多いのではと推測しているのですが。。。

ラジオ
英語を中心に外国語の語学講座を録音したものが多い。非常に特徴的なのは復刻依頼者の誰一人『語学講座をデジタル化してくれ』と希望しなかった事です(爆)
 音楽が録音されているテープも多いのですが著作権云々を抜きにして音質の悪い録音の復刻をあえて希望する方はあまりいません。本人や関係者が出演した番組、演奏コンクールの録音依頼は何人かありましたが、ラジオ録音の多くは復刻希望のテープの一部分に重ね録りで記録されていたといった類のものがほとんど。

結婚式・披露宴、その他の宴会
これも60年代〜70年代の特徴的録音です。結婚式から披露宴まで全てを録音してあるもの、披露宴だけを録音してあるものとありますが、多くは披露宴のみです。
 通常披露宴は2時間から長くて3時間。テープの録音可能時間を考えながら、どこをどうカットするか録音する側としては難しい問題で、録った方の苦労が伝わってきます。
 当時は専門の披露宴会場はほとんど無く、公会堂などを使った方の録音には、すぐそばを走る車の音が入っているテープも聞かれました。

結婚披露宴以外の親類縁者を集めての宴会録音も結構あります。こちらは堅苦しい挨拶はありませんので主に手拍子が入る歌が中心です。当然カラオケはありませんから音程やリズムが狂ってもおかまい無しで、若者や中年より高齢のジジババが元気で歌っている様子が聞かれる録音が多いのが60年代らしい(~o~)/

自分の声での朗読
外国語の勉強用に自分で発音したものを録音したテープもよく聞かれます。さすが勉強熱心で現在ではさぞや立派な地位の方ではと推測するのですが、こちらで録音内容を報告すると『語学朗読部分はカットして、歌とギターの演奏が入っている部分だけでお願いします』
という場合が多い(^^;ラジオの語学講座同様、今さら身に付かなかった英語は聞きたくないか(爆)

その他
学校の卒業式を録音したもの、級友の声を録音したものなども結構聞かれます。その他学校関係では先生や教授の講義、関係者の講演など現存するテープが多いようです。

珍しいのはお葬式の一部始終を録音したテープでした。結婚披露宴は非常に多いのに対して今まで1回だけ復刻しました。対してお坊さんの法話や宗教関係の説教の録音は複数聞かれました。

テープの箱へのタイトル記載状況
やはり学校のクラブの演奏会の録音テープでは、きちんとタイトルと演奏曲目・日付・場所を記入してあり中身の演奏と一致しているものが多い。

音楽以外では結婚披露宴テープが大抵箱に内容が記載されていました。これらのテープでは重ね録りされて他の録音内容が混入している事は希で、「記念品」としてしっかり保存されているようです。

それ以外の家族の会話が入っているものや、個人的な歌やギター演奏などは再生してみるまでどこに録音されているかわからないテープが多く、箱の記載内容と異なっていたり何も書いてないものも多数見受けられます。
 したがって箱に記載の無いテープが見つかった場合は「何も録音されていない」か「雑多な録音が重ね録りされている」かいずれかで、記念録音的なものでは無いと推測できます。ただし、それはその当時の事で、今となっては鬼籍に入った親類縁者や懐かしい友人の声も聞かれるかもしれません。

中に「重要」「永久保存」とか書かれた紙片が入っていたテープもあるのですが、そんなに大切なテープなら早い時期に自分でカセットなど他のメディアにダビングしておけば良いのに、と思う事もしばしばです。
 いつかダビングしようと思っていたらいつの間にかオープンリールが廃れて再生機器も修理不能になってしまった程、時代の流れが速くなったのも事実ですが。。。

皆様から送られてきたテープに限っていえば21世紀になって、あえて復刻を希望する内容であること、FMの音楽録音等は著作権の関係上扱っていないという理由のため中心はマイク録音という事になりますがテープのところどころに聞かれるように実際の内容はレコード音楽の録音が60年代でも最も多いであろう事も推測されます。
 それでも未だFMが未熟でエアチェックという言葉が無かった時代のテープには学生時代の演奏や家族の声の記録など得難い内容がぎっしり詰まっているのかも知れませんね。(^o^)

(C)Fukutaro 2003.5



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