五子局1普通の手で勝つ法教えます。」が本局の方針です。工藤九段

第1譜  4手  (通算1-4)
五子 工藤紀夫 九段
    安倍吉輝 八段
特別解説 工藤紀夫九段

黒2・4の一間受けは単なる受けではありません。次に、すきあらば白1や3の石を攻めるぞ、という積極的な意図を持った受けです。


次の一手
白5で阿部八段は、上辺に「ワリ打ち」という手を打ちました。
黒の模様をさけて、ゆっくり打とうという作戦です。
ではワリ打ちといえばどの地点でしょうか。






第2譜    7手     (通算5-11)






次の一手は
白1が正解でした。
白1をワリ打ちといいます。
左右どちらかへ二間にひらけるというのが特徴です。

黒2は白△のカカりっぱなしの石を重くさせて(捨てにくくさせて)大きくハサんで攻める手です。

黒4の位置は全局的に調和がとれています。

黒2、4は名コンビの攻めです。応用範囲が広い好手です。

黒6と真ん中に打ち込んで、白の勢力をバラバラにしてしまう手がおすすめです。
白5に黒が一間トビの受けは白6と構えられて黒不満です。

次の一手
黒8はノータイムで打たれました。感覚の手です。
第3譜  8手  (通算9-14)

白△がある時は白2には黒3とノビるのが定石です。1図の黒1とハネるのは無理です。1図黒1の無理をとがめるには、1図の白2を覚えておくと便利です。
2図はハマリコースで白の位が低くなります。
次の一手
黒9の手を工藤九段はどこへ打ったでしょうか。置碁必勝法の一つとして工藤九段が自信を持ってすすめる手です。
黒1が正解です。
黒▲と広くハサんだ手があるので黒1の方をオサえるのが正解です。
こう打って白△の白石をへだて、大きくにらむのがこの布石の骨格です。黒2の方からオサえると白1とワタられ、黒▲の位置が中途半端になってしまいます。

黒3は定石です。
黒3の手で
1図 黒1無理

2図 ハマリ


第4譜     4手  (通算20-23)
次の一手は黒1のオシツケでした。
黒1、3とオシツケが厚くて素晴らしい感覚です。

白はこう打たれると、あと厚みを消すだけになり、本当に困ってしまうというのが実感だそうです。
アマの級位者の皆さんは白に地を与えるので黒1、3とはなかなか打てないでしょう。
アマの有段者でも強くならないと厚みの良さはなかなか実感しにくいのではないでしょうか。

次の一手
黒3に続いて白は下辺と右辺といっぺんに二手打ちたい心境ですが白4の方を選びました。
それならばと、黒はどう打つ所でしょうか。
三手示してください。

第5譜  13手  (通算24-36)






3図


白4、6は黒7、9で両アタリになるので打てません。これが実戦黒1、3という二段オサエの筋を打つ前提です。



黒1、3の二段オサエが正解です。(3図参照)
黒3で1の左のノビは白石にびっしりせまっていない分余裕を与えてしまいます。

黒1、3がきたので、白は4と上に逃げるしかありません。

黒5はプロの感覚の一手です。

白6は省けません。もし省くと黒から切断されてしまいます。

黒7はこちらからツメるところです。反対に左からツメると右上の黒二子が弱くなるので疑問です。

黒7、9、11は攻めの三手です。常識として、まとめて覚えておくといいでしょう。

白12はこの一団の白をくつごろうとした手ですが、安倍八段は「この手では4の二路右に打つのだった」と悔やんでいました。

黒13は右辺の白を攻める前の好手です。

次の一手
白14はどこへ打ったでしょうか。




第6譜      13手(通算37-49)

  黒8、10はモヤモヤとしている石の形をスッキリ決めるのに便利な手筋です。
互先の碁では、はっきり生かしてしまうのが惜しいので、もう少し保留するところですが、置碁ではどんどん決めて打つのも必勝法のひとつといえます。 
次の一手                                     右辺が一段落しました。
安倍八段に「参った」といわせた次の黒の手をあててください。
白1が辛抱の一手で正解です。上タチは白が苦しくなりそうです。4図参照 

黒2のブッツカリで決めるとこところだそうです。

白3はこの一手で4の方へノビるのは不可です。5図参照

黒4とオサえて白の眼を奪って打ちます。

白5は黒がどう受けるか様子を見た手です。眼に関しても大きい。

黒6は良い形です。5の一路上のオサえは良くありません。6図参照
6図  黒が良くない



4図
5図
4図
黒1、3の筋が強力です。
白はペチャンコにされ眼がなく苦しい姿です。


5図
白1の方向にノビると黒2のオサエが成立します。白は4のところへキルことができません。(キレばシチョウです。)
白の姿はペンチャンです。












第7譜  6手  (通算50-55)
安倍八段が「参った」という手は黒1でした。
白の弱点をとらえた形の急所です。
ピタリと当てた方は、「筋の使い手」です。
大いに自信を持ってよいでしょう。

白2は働きがないようでも辛抱するより仕方がありません。
なお、白2を省くと黒からどんな手段があるでしょうか。実戦に役立つ手筋です。
6図参照

黒5と地を広げる前の手順として、黒3のノゾキはむだのない利かしです。黒3とノゾイて黒5が石の調子ですが実戦ではなかなか打てません。

白6は本手です。
左辺の地が大きくなりそうなのでアマは乱暴な手を打ってくる場合があります。
8図と9図参照

7図    白8ツグ

黒1、3、5の切断は切断のパターンですからいつ、どこでも使える手筋です。白のひどい姿です。






8図

実戦の白6で8図白1ならば、黒2とボウシして、まず敵のシンを止める。これが中盤戦の主導権をにぎる極意のひとつです。白3なら黒4です。白は上方、左辺、下辺の三方の石が弱くなり、シノギシノギに回っているうちに碁は終わってしまいます。碁は手厚く打つのに限るという良い見本です。
9図

黒▲のボウシに、白1とコスミ出すのは黒2、4のモタレ戦法があります。白△の石がくさってしまってはやはり白いけません。






第8譜     5手  (通算56-60)

白2と一本出たのは、おとなしくツグより少し働いています。


白4は上辺の白三子にも応援を送っています。


黒5は外の攻めも見ているので、中途半端に囲わない方がよいようです。


この辺で黒はどの位勝てそうと見ているか第一回形勢判断をしてみてください。








大雑把な計算で一局に一度は必要な形勢判断



(アは黒、イは白の境界線)
まず黒地からですが、白の権利、黒の権利の予想手順を描くことが先決です。
下方は白1、黒2のツギツギとみておきます。
右辺は白1以下黒8までが白の権利です。
上辺は白の厚い分、白1、3位は白が打てるだろうとみます。
黒地
上辺15目は大きめですが、左上の白が弱いからこの見当です。
中央はやや少なめに31目。
問題は左辺です。白a、bの三々入りの具合ではっきりしませんが、ざっと35目。計81目です。
白地
右下は11目です。右上は10目強で左下の大石は3目見当です。
左上方の白は大きめに10目です。合計34目です。
問題は黒に弱い石がなく、弱いのは白だけという現状により黒側にのみ攻めの+α15目が
加わります。従って黒地合計は96目。差し引き黒62目のリードです。
予定通り60目は勝てそうです。

第9譜   3手  (通算61-63)

左辺の黒地が大きくなりそうなので白1の三々に入るのは当然の手です。

黒2は故宮下秀洋九段が好んで打った手です。
黒Aだと地が心配で(外の攻めが期待薄です)
黒Bだと弱すぎるという場合のちょうど中間の手に当たります。

ただ、この手は愚形であり、白が多少利かしたという感じから白は一応手を抜くことが可能です。

次の一手
黒の次の一手を当ててください。




穴ぼこ出るべからず

10図

こんな穴ぼこの形を見ると(第5譜)黒1と出たくてうずうずしている読者はおられませんか。相手は眠ってでもいない限り白2と受けます。

黒は先手得?
とんでもありません。
自らのダメをつめてしまったばかりか、貴重なコウ材をひとつ損をしてしまっただけです。

11図

上の図と同じ定石の進行中に、黒10と出てから12と押す人が多いようです。オスなら単に12とオスところです。




12図
こんな形だってあり得ます。黒a、白bを打ってなければ黒1とツメる手がbのオキをねらって厳しくなります。だから穴ボコを出るのは必要の時がくるまでがまんしましょう。


第10譜  5手  (通算64-68)
次の一手は黒1でした。
ここは上下の白をにらんでサエギる気合が勝利への道です。

白2以下は定石ですが、
黒は5とここの穴ボコを出る手順です。

10〜12図の穴ぼこ「出るべからず」と違って、ここは穴ぼこを出るところです。

なぜでしょうか。
下図を見る前に考えてください。








穴ぼこ出るべし! 振り変わりを許さぬ重要な手順

この定石の重要な点は、穴ぼこを先に出ておく所にあります。
あとから出ると、例えば

13-1図

単に黒1、3の二段バネの筋を行使すると、白に4、6と振り変わる余地を与えてしまいます。
続いて
13-2図

この図のように振り変わりが可能です。

ですが次図
14-1図

先に黒1、白2と打っておけば、白は6、8とは打てません。なぜならば・・・
14-2図

白の大損てすから。

第11譜  5手  (通算69-73)
白1から白5までは定石です。

途中黒2、黒4の二段バネは右下の黒▲の筋と同じです。

次の一手
次の黒6は普通ならAのツギです。
ところが、工藤九段は「そう打つと白Bと打たれるのが不満だった」ということで、アマにはちょっとマネのできない打ち方をしました。十数手先まで何となく予想してみてください。







気になりませんか?左下隅の定石問題

15-1図

なぜ左下を白は手抜きしているのか?答えは
15-2図です。
黒が打つとすれば黒1ぐらいです。
15-2図

白はなにも打たないで黒1と打たれるより働いているからです。
16-1図

黒▲の石が生きなくてはならない時は黒2と打ちます。
16-2図

16-1図と16-2図は黒▲の石を生きるときの定石です。

第12譜  6手(通算74-79)


次の一手は黒1でした。
工藤九段「この手は普通の手を打つと約束を破ったことになるかな?
でも感じは分るでしょう。黒の断点を攻撃で補ってしまおうとしているわけです。黒▲とサガった以上、攻めでとりかえせるという、自信ですかね」

ここで白A、黒B、白Cと稼いでしまったらどうですか?
工藤九段「黒Dと打って、上下どちらかの白がもたないでしょうね」

白2、4と必死に下方の大石軍団の連絡を図ります。

黒3と冷静にヒキます。じっくり受けておけば、白4にも手強く黒5と戦うことができます。
次の一手
白6に対し黒はアテるところがいっぱいあって迷いますが、プロだと、第一感でこの筋という手が浮かぶそうです。
さて、それはどこでしょうか。

第13譜  6手(通算80-85)
次の一手は黒1のアテでした。

白2はこうアテたいところです。3のところへはツギにくい。

白4はこの一手です。

黒5は冷静な手です。
(17図参考図参照)















17図  参考図
黒1は白の注文です。

打つ余裕のなかった左辺を荒らしてしまいました。

60目が40目の勝負になってしまいます。

















第14譜  5手  (通算86-90)
絶妙な手順で黒1とカケツイで黒の傷を解消してしまいました。
しかも先手です。

第12譜の黒1を打つときここまでを読んでいるのはやはりプロの芸です。

次の一手
黒5に対して白はどう打てばいいでしょうか。

第15譜   5手(通算91-95)

次の一手は白1のツギでした。(18図 参照)


黒2は味の良い本手です。このようにイヤな所をなくし、厚くもどる手に好手が多いのです。

この手で攻めならA、守りならBやCなど眼につきますが、2と出られると味が悪い。


黒4は中地を味よくしながら黒Dのねらいを強調したのですが、少し時期が早すぎました。

黒Bとトリきっておく(約20目の手)方がベターでした。





実戦に詰め碁はつきもの。白の乱暴はこうしてたたきのめす

18図  白死

黒▲のノゾキに、白1と乱暴な手には黒2以下10まで白死です。
19図  コウ

白3の変化

20図  コウ

白5の変化

第16譜  8手  (通算96-103)



黒1、3は普通の手です。
21図 参考図

参考図のように頑張るのは、白2、4を種にして、次にどこから来るのか分りませんが、いずれにしても白の中央荒らし作戦が無気味です。
工藤「白4と先着されたのはちょっと残念でした。黒▲の責任です。」

黒5のアテコミの形は覚えておきましょう。

白8のカケツギも形です。
次の一手
黒9はどう打つところでしょう。
第17譜  4手 (通算104-107)
左下隅は手抜きするとコウになります。

白は4と戻って大石の安定を図りました。(白4がないと黒A、白Bなら黒4という切断のネライがあります。)

つまり、4と備える前に隅にコウの手段を残したわけでかなりの働きです。

そのコウの価値は24図をみてください。
(白4のコウ立ては本譜のC、黒の受けがDとする)。

24図白8のあと黒がコウを勝つためにはあと二手、白が生きるためには一手、計三手かかります
地の出入り計算は21目ですから一手は7目程度の価値です
とすればコウの決行はまだ早いということです。                                                                                                                      




                                             
次の一手は黒1のオサエでした。

アテるべからず        22図  黒7手抜き

黒1とアテてはいけません。白が味良くなって、更にあとで得をされてしまいます。
アテるべし
23図

この図の場合は黒1とアテる一手です。
22図と23図の違いは?
24図  白4コウダテ
第18譜  16手  (通算108-123)




黒1、3、7の線で囲ってしまえば、60目は勝てるとみたもの。
その前の黒5は白の受け方をみたわけですが、白6なら、後に黒A、白B、黒Cの大きなワタリが残りました。

いよいよ大ヨセに入りました。先手で打てる所(自分の権利)は忘れずに決めていかなければいけません。

白8は白の権利です。

白12は後手ですが、もはや地として最大のところです。
(約21目)

白が生きれば黒13、15が黒の権利になります。

これで隅の白地は4目です。黒がコウに勝った場合の黒地増を計算してみると約17目。よって白12と生きた手は4+17で約21目に価することが分ります。
第19譜  7手  (通算124-130)
先手が黒に回ってきたので黒3、5と先手で利かしていきます。

黒3を打ちそこなうと、逆に白が
25図

25図と後手の手を打った場合、その手は逆先手10目ほどの大きさ(後手20目の価値)になります。

黒7は約15目の大きさです。
26図
黒1のワタリが約後手15目の大きさです。







27図  黒2は手抜き
白番なら白1です。黒2は手抜きして白3のサルスベリも白の権利とみます。黒12のあと、白aと打ち、黒▲が先手で取れれば白地5目、黒がaに回れば白地ゼロ。よってその中間をとって、ここは白地が2目半あるとみます。
28図
黒1のあとの黒地(aがふえた黒地)。

27図との比較でaの黒地が13目増えています。

よって、黒1の大きさは
13目+2目半=15目半になります。
29図
黒2と受ければ白の先手打ち得となり、本来の計算(ワタリの手の大きさ)とは別の問題になります。つまり、黒2は後手6目になります。

形勢判断  想定図  アが黒の打つところ  イは白の打つところ
ここに来ての形勢判断は一回目とあまり変わりません。

白1には黒2と受け以下白13までですが、中央の黒地荒らしも含んでいます。

黒地
上辺一帯約25目
中央45目
左辺25目
合計95目

白地
左上2目
左下4目
中央4目
右下11目
右上10目

合計31目

差し引き
64目の黒のリードです。


第20譜  9手  (通算131-139)




黒2を省くと大変なことになります。
30図 参考図

白1、3の手があります。

第20譜の白3は10目く゛らいの手です。
黒4は約11目で(白A、黒B、白4との差が後手11目ほど)
下辺5にツグ(後手7〜8目)よりは優先します。

Cはいずれ白に回るとみます。

白9はこんなものです。
これ以上深くは入れません。
第21譜  15手  (通算140-154)
黒1から黒7まてはこうなるところのようです。

白8は7〜8目の手で最大のところです。あとは4目以内の小ヨセが残るばかりになりました。

白12から黒15まては白の権利の先手ヨセです。

黒15を省くと同点を切られて黒地に穴があきます。












第22譜     14手   (通算155-168)
白1のノゾキに手抜きすると
31図

白1以下のキメコミが決まって、細かい碁だと逆転します。

黒6は手厚い手です。

コウ材が多いので黒10と打ってみました。先手ヨセの権利の所がみなコウ材になります。




第23譜  24手  (通算169-192)  白11コウ取る
白7は後手3目強の手です。

黒8〜黒10は後手3目の手で、ついに一石碁完成です。

白17は後手3目と計算される手です。

黒20は逆先手1目です。
白20と先手で出られるところを後手で封じた手のことです。後手2目の価値があります。

だんだん小さい手が残り、いよいよ終局に近づきました。






第24譜  12手  (通算193-204)
白1 先手1目。白の権利

黒2 先手1目。黒の権利

白5〜白7
誰が打ってもハネツギ2目といわれる手です。

黒8〜12
味良く固めました。1目以上の価値はあるでしょう。

次の一手
最後の問題です。
次の白の手を当ててください。








第25譜   8手(通算205-212)
次の一手は白1でした。
逆先手1目です。黒1の先手ヨセを後手で封じました。普通の後手1目より倍の価値です。

黒2は1目と1/3目の手です。1/3目が加わるのは、半コウを勝つ手が、黒は二手、白は一手、計三手かかるという計算上の原理からきています。

白5は後手1目の手です。

黒8の半コウ取りで終局です。

212手黒67目勝ち
工藤「特に、置碁では、平凡な手の積み重ねが大切なのです。
本局では、私が皆さんにいっていることを、そのまま実行したつもりです。
平均的初段氏がまねのできない手は、おそらく一手か二手でしょう。
安倍さんの協力もあって、ご覧の通りの五子局ができました。
参考になることがいっぱいあるはずだと自負しています。」

安倍「負けすぎたかなァ。もっと少ないはずだったのですが」


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