そば粉と言えば、信州産や北海道産が当たり前。最近ではタスマニア産が耳に新しい
ところです。ところが・・・「モンゴル産」とは、なんぞや！？
「うちのそば粉は、モンゴル産でね、まぁいわゆるダッタン種ですよ。」
三角稜（さんかくりょう）の大将が、事も無げに言う。
「ダッタン？」いわゆるシルクロードとか、アジア西方領域って事ですよね。
なんでそんな所からの、そば粉を仕入れているんだろ・・・？？？
それもその筈、本場と思っていた国内産は、実はこのダッタン種が先祖なのである。
そして、その風味、風格、味、そして栄養価は、今まで本場と思っていたそば粉など、
遙か足元にも及ばぬほど優れたモノであると言う！特に高血圧や糖尿病に良いと
激賞される「ルチン」は、なんと、数百倍も含まれているのだと言う！
饒舌な大将が、そばを作りつつ、さらりと言ってのける。
しかし、驚くのはこれからであることを、わたしはその時点で知る由もなかったのです。

さぁ、そばが目の前にやってきた。
何の変哲もないそばである、そう、見た目は。
ここでは「十割そば＝そば粉１００％」を、「ぞっき（方言）」と呼び、普通に出す。まぁ十割そばと言えば、ポロポロである。何故なら二八そばと違って、つなぎ粉である小麦粉が入っていないからだ。うんちくはこれぐらいにして、さぁ食べることにしよう。
と・・・・箸に伝わる感触がおかしい？
ポロポロであるはずのそばに、しっかりとしたコシが・・・！？
しかし、そんな事を考える時間は無かった。なぜなら、口元に来ただけで、そばの香りに包まれてしまったからだ・・・。そして噛みしめる。呼吸に使われた全ての空気が、そばの香りに支配されている。

そばの粋な食べ方とされる「噛まずにのど越しを味わう」と言う常識は、完全に間違っている！！！
まさに「飲み込むのが惜しい」の一言に尽きる！噛んで噛んで噛みまくるのだ。そして、つゆを口に含むのだ。
天野醤油をベースに作ったつゆは、この力強いそばに負けず、しっかりとした別世界を演出する。
のりもネギもわさびも要らぬ！ただひたすら、そばに酔えばよい、そんな声が聞こえてきそうだ。

わたしは、このそばを表現できたであろうか？

否！出来てはいない！かくなる上は、とにかく味わってみるべし！！

三角稜の大将の正体に迫る！
と、芸能記事風に書いてみたが・・・答えは簡単である。つまりは「職人」なのである。ただし！ここで言っておくことがある。
それは「ただの職人ではない」ということだ。大将は、そば粉と格闘を始める前は・・・・・「国際A級ＧＰライダー　秋山恵利香選手」の父親であり、メカニックだったのである！
正直、この店は驚かせられることが多く、心臓に悪い事ばかりだ（笑）
「村上もとか」の漫画に始まり、「バリバリ伝説」、そして、映画「汚れた英雄」を擦り切れるまで見て、曲がりなりにもサーキット走行を体験した事のある者にとっては、誠に驚くばかりの事実である。
なるほど、そうしてみれば、繊細なそば粉をあれほどのモノに仕立て上げる神経は、ＧＰメカニックの研究心、探求心、そして並はずれた集中力の賜物であろう。
現在、各カテゴリで活躍中の日本人世界ＧＰライダーに混じって活躍する父娘鷹を見られなかったのは残念だが、夢の欠けらを練り合わせるようにして打ったそばを、こうして食べられるのは、故郷を遠く離れ、親しみのない土地にやってきた私にとって、何にも変えられない楽しみの一つである。
と、同時に・・・三人の娘を持つ我が身にとっても、なんともほろ苦い味を加味するスパイスなのである。

Ｐ.Ｓ.　いつも暖かい笑顔で迎えて下さる奥様にも、感謝と共に、このページを送ります！