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仲嶋はゆっくりとバッターボックスに入った。
まだ鳩尾は痛い。だが、その痛みに耐えなくてはならない。
第一打席目では不甲斐ない三振を喫してしまった。
あんな惨めで最悪な三振は、今までしたこともなかった。
仲嶋：「カリを返す！」
それだけを胸に、バッターボックスへ仲嶋は入った。
状況は２死満塁。一打、同点、あるいは逆転もありえる場面である。
そんなピンチを招いた蔵田。連打をされればされるほど、フォームが小さくなっていく。
汗びっしょりのアンダーシャツ。
自分が一番嫌うチームに、序盤の３回というのに打者一巡し、さらにピンチ。
ここまで追い詰められてしまった・・・
蔵田：「くそがっ！！」
苛立ちは収まることを知らない。
奴らが自分の球を選び、フォアボールと宣告されるたびに自分の苛立ちが増していく。
セットポジションから投げたボールは、仲嶋の内角へと向かう。徹底した内角攻め。
蔵田：「（さっきの奴、絶対離れちゃいないぜ！）」
これは空振りする、または退く。蔵田はそう考えた・・・が
単なる安易な考えでは仲嶋の闘志の火は消えない。
仲嶋：「オラァッ！！」
それをコンパクトにたたんだスイングでピッチャー返し。
蔵田の顔面めがけて飛んでいく。
さっとグローブを出すが、わずかにかすっただけ。勢いを失わず、打球はセンター前へと転がった。
修吾が同点のホームを踏む。２塁ランナーの林は、３塁でストップした。
これでキラーズ同点。１−１の振り出しに戻した。
仲嶋：「（初球から思い切っていけた。攻めの姿勢を忘れるところだったぜ！）」
第一打席のキラースライダーの恐怖を忘れ去ったかのように、仲嶋は一塁上で大きく拳を上げた。
ボールを送られた蔵田は、ロージンに手をやった。
バッターボックスには、４番、大西が入る。
大西：「（これで終わりにしてやるよ・・・。テメェの復讐も何もかも！）」
大西も憤りを感じていた。
マウンドにいる男は投手ではない。ただの復讐に燃える獣だ。
蔵田：「こんなはずじゃねぇ！こんなはずじゃねぇ！！」
怒り増し、そして自信をどんどんなくしていく。
蔵田はボールを投げ込む。ど真ん中。これを大西はふっと軽く笑って見逃した。
審判：「ストライク！」
ストライクが宣告されると、
大西：「おい、ピッチャー。オレは骨のないボールを打ちに来たんじゃないんだぜ！」
大西はバットを蔵田に向けて挑発する。
蔵田はさらに怒りだした。ここまでなめられると、腹の虫は収まることを知らない。
蔵田：「なんだとぉ！ませたクソガキが！！」
パン！とグローブにボールを思いっきり収めて、吉崎にサインを送る。
蔵田：「（キラースライダー！！）」
そして、セットポジション。怒りを込めてボールを投げ込む。
蔵田：「死ねや！！」
ボールは大西の鳩尾へと向かっていく。
だが、攻略法ならすでに工藤さんから聞いていた。ブレーキがかかる瞬間を待つ大西。
大西：「来た！（ここで素早く！！）」
わずかに体を外側に流す。そして引っ張りの体勢に入った。
オープンスタンス気味にボールをひっぱたく。キラースライダーは、この瞬間、大西のバットに負けた。
快音残して、白球は高々と舞い上がる。スタンドインを見届けると、大西は自分の右手の人差し指を天に向かって突き刺した。
蔵田：「そ・・・そん・・・な・・・バ・・・か・・・な・・・」
がくんと膝をつく蔵田。
その様子を、大西はダイヤモンドを一周しながら見ていた。
大西：「（テメェの復讐は失敗したんだよ。・・・自分のおろかさを知るんだな）」
百獣の王といわれるライオンでさえも、その牙を失ったら相手の肉を引きちぎることはできない。
切り札を失った蔵田は、ただの投手に他ならなかった。
ホームベースを踏む。そして仲間たちとハイタッチを交わしていく。
珂日：「ナーイスホームラン！」
大西：「サンキュ！」
グランドスラムをたたき出した大西。監督の前へ歩み寄ると、
監督：「よくやった。しっかりとバットが触れていたな。その感触を忘れるな」
大西：「ありがとうございます！」
石原は大西の頭をぽんと叩いた。
そして大西はゆっくりとベンチに腰掛ける。
川崎はバッターボックスへ入ろうとすると、審判が少し待てと川崎に指示した。
ドルフィンズベンチが動く。ピッチャー交代である。
場内アナウンスが響く。
アナウンス：「ピッチャー蔵田に代わりまして・・・」
蔵田はベンチに覇気なく戻ってきた。
そこをドルフィンズの監督が冷たい現実を突きつける。
ドルフィンズ監督：「蔵田。無様だな」
蔵田：「・・・」
ドルフィンズ監督：「明日から２軍だ。二度と戻ってくるなよ」
つまりは、スポーツ精神を忘れた選手は要らない、ということだ。
キラーズ以外では普通の態度でも、これではファンも減るし、球団も悪役として見られるのが落ちだ。
フロントも、今日の事態をやすやす見逃しはしないだろう。解雇は確実的になるはずだ。
蔵田は、何も言わず頭を軽く下げるとロッカールームに戻った。
そして、バンと想いっきり左手の拳を叩きつけた。血が滴り落ちる。
蔵田：「くそがぁぁぁああああぁぁぁぁぁっぁああああ！！！！！！！！！！！！！」
蔵田の怒りの雄たけびは、誰も受け止めてはくれない・・・
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